食料自給率の向上に寄与 ~コンビニ大手が原材料小麦の国産化を進める~

食料調達にリスクのある世界情勢

ここ数年、異常気象、新型コロナウイルス禍、ウクライナ危機、為替などにより、食料の調達に影響を与えるリスクが増大しています。

異常気象では大規模な不作が頻発したり、新型コロナウイルスの感染拡大によりサプライチェーンが混乱をきたしたり、ウクライナ危機では穀物の輸入だけでなく、農業生産に必要な原油や肥料等の価格が高騰し、農業生産を圧迫しました。

これに伴い、輸出を規制する国も現れるなどしたため、日本の食料調達も不安定な状態に陥りました。国内では、食料自給率に対しても今まで以上に関心が高まっており、今後、国内の農業政策が注目されることとなるものと思われます。

原材料を国産小麦に切り替え

そのような状況下で企業も食料の安定供給に向けた動きを見せています。

なかでも、私たちにとって身近なセブン-イレブン・ジャパン、ローソン、ファミリーマートのコンビニ大手は、原材料の国産化に力を入れています。

セブンイレブンは、今春(2024年4月)からカップうどんや中華麺などのチルドの麺類弁当に使う小麦粉の全量を国産のものに切り替えました。今後はパンに使用する強力粉などでも国産化を進めていくとしています。

ローソンは2022年度から、ラーメンの一部を除く、うどんや冷やし中華などの調理麺の原材料を国産に変更したほか、おにぎりやお弁当用の紅鮭やサラダに使う豚肉などを国産のものに切り替えましたた。ロシアやアラスカ産だった紅サケは、北海道産や三陸産に変更されました。

ファミリーマートは、2020年にJA全農と農林中金からの出資を通じて、国産農畜産物の販売を拡大するとともに、農業生産の拡大、地域の活性化につなげる展開を進めています。

また、Pascoブランドの敷島製パンは、2008年から国産小麦を使ったパン・菓子づくりで食料自給率向上へ貢献する取り組みを行っています。2023年3月には「国産小麦シリーズ」ならびに「窯焼きパスコシリーズ」を統合し、全面リニューアルして「日本の小麦100%」を訴求しています。

 

国産小麦の生産動向

日本における小麦栽培は、江戸時代以前から行われてきており、米の裏作として各地で生産されていました。明治以降は、欧米の食生活が伝播したことで、小麦の需要が増加し生産は飛躍的に拡大していきました。

1878(明治11)年に24万トンであった生産量は、1926(昭和元)年には81万トンに増加しています。1930(昭和5)年の小麦の自給率は67%で、残りは、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどからの輸入でした。その後の増産の結果、自給率は100%を超え、海外への輸出も行っていました。1940(昭和15)年の生産量は過去最高で、179万トンを記録しています。
1945(昭和20)年に終戦を迎えた後は深刻な食糧不足であったため、不足分を輸入で補いながら米と小麦の増産を進めることで、1961(昭和36)年には過去最高の生産量に近い178万トンにまで回復しました。

しかし、小麦は湿気に弱く、収穫前に長雨に当たると品質が低下し収量が減少してしまいます。1963(昭和38)年の梅雨の長雨によって収量は平年の半分になってしまいました。また、1970(昭和45)年でも、平年の4分の3の収量という事態が起きました。この事態は農家の生産意欲の減退につながりました。やがて、1973(昭和48)年には、小麦生産量は20万トン、自給率は4%と過去最低になってしまいました。

ちょうど、その当時、オイルショックやアメリカによる大豆禁輸などが起こったことで、食料自給率を高める必要性が認識された年でもありました。なんとなく、今と似ている気がしますね。行政の主導により、小麦増産のための農地整備、機械化、品種・栽培技術の改良などが進められ、再び増産に転じていくこととなります。

2020(令和2)年には95万トンで自給率は15%まで回復し、2021(令和3)年は約110万トン、2022(令和4)年は90万トンの生産量で推移しています。

農林水産省「小麦の自給率」より 小麦の国内生産量、輸入量、自給率

美味しくなった国産小麦

小麦栽培に適しているのは土壌が肥沃で降水の少ない平原地帯です。小麦の出穂から成熟期までの結実期間は適温が18~20℃程度で、15℃以下の低温や25℃以上の高温や 5日以上の連続的な降雨があったり、 日照時間が少なかったりすると収量や品質が低下してしまいます。

世界で小麦の生産量が多いのは、中国北部、インド北部、ロシア西部、アメリカ中西部、カナダ南部、フランス、パキスタン、ウクライナ、ドイツ、トルコ、オーストラリア南部、そしてアルゼンチンのパンパ草原など、降水量が少なく乾燥した気候で、広大な平原地帯がある地域です。

日本でも古くから栽培されてきている小麦ですが、日本は高温多湿の気候で栽培にはあまり適していません。そのため、日本で育つ小麦は品質が劣ると言われてきました。しかし、現在は品種改良が進んだことで、品質の高い小麦ができるようになり、品種によっては海外産よりも高い値がつくものもでてきています。

国内の主要産地は、北海道、九州、関東・東山1)で、この3地域の作付面積は、国内の小麦作付面積の83%を占めています。北海道では梅雨のない気候を活用して畑作を中心に小麦の増産が図られ、九州・関東・東海地区などでは水田の転作・裏作作物として栽培されています。外国産と比較して引けをとらない品質の品種が育成されたことにより、国産小麦100%の商品化が可能となりつつあります。

もちろん、GM(遺伝子組み換え)品種ではありません。(日本では食用の遺伝子組み換え作物の栽培は規制されています。輸入品では使用されています)ただし、ゲノム編集品種は国内で試験栽培が行われているので、今後、栽培される可能性があります。GM品種は「遺伝子組み換え表示制度」による表示義務がありますが、ゲノム編集食品には義務付けられていません。国内で栽培していれば国産作物です。このあたりについては、消費者はどのような方法で何を選択するかにということも問題にもなってくるでしょう。

※1)農業経営体に関する項目について「関東・東山地域」(茨城県、栃木県、群馬県、 埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県及び長野県の9都県)を集計単位としているため、この表記となっています。

 

 

食料自給率の向上に寄与

小麦粉は、輸送コストの上昇や為替の問題などからも海外調達との価格差が小さくなりつつあります。国産化は食料調達のリスクヘッジにもなる上、消費者には国産の農作物に対する信頼があるため商品力を高める効果もあるでしょう。食料自給率向上においても意味があります。小麦やソバなどの穀類の内需を拡大することで農家の離農を防ぎ、食料自給率の向上にも寄与します。小麦の価格は、「政府売渡価格」や「畑作物の直接交付支払い金」などが関係し、ややこしいので割愛します。

コンビニ大手は穀類だけでなく、野菜の供給や地産地消にも取り組んでいます。今後、安定供給のために国産化を進める動きは他の食品製造業でも取り組まれる可能性が高いと思われます。このような動きが拡大すれば、現状、高齢化や人手不足の農業分野の構造も、新たな仕組みによって再構築されるのではないでしょうか。今後の国内農産物の需要の増加を期待したいです。

以下は、食パンや麺などの小麦材料の表示の見方です。購入の時に参考にしてみてください。

①「小麦粉(国内製造)」の表示 → 小麦の産地は国産の場合も外国産の場合もあります。
②「国産小麦使用」の表示 → 国産小麦と輸入小麦を配合している可能性があります。
③「小麦粉(小麦(国産))」の表示 → 小麦の産地が国産であることを示しています。
④「国産100%」などの表示 → 国産小麦を製粉した小麦粉を使用しています。

皆さんも、店頭などで国産小麦の製品を見かけたら、手に取ってみてください。

 

【参考資料】

日本農業新聞2024年4月10日
セブンイレブン
ローソン「ローソンファーム」
JA.com「ファミマに出資 国産販売拡大へ-全農・中金」2020年7月9日
敷島パン Pascoの「国産小麦シリーズ」が全面リニューアル

農林水産省「小麦の自給率」
農林水産省「国産小麦の安定供給に向けた流通モデルづくり」
東洋経済オンライン なぜ人気か?「国産の小麦」が大躍進を遂げたワケ
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