日本の伝統野菜-12.千葉県

1.地域の特性

【地理】

千葉県は関東地方の東部に位置し、ほぼ房総半島と重なっており、四方を海と川に囲まれています。総面積は5,158km²で全国28位ですが、人口密度は第6位です。(2020年4月現在)

千葉県は、東から南は太平洋、西は東京湾に面しており、北が茨城県、埼玉県、東京都の1都2県と隣接しています。

地形は平野と丘陵が県土の大半を占めています。大きくは県北部の下総台地と県南部の上総丘陵に分かれ、県北部は下総台地とこれを囲む低地からなり平坦な地形となっています。県南部は上総丘陵、安房丘陵などの房総丘陵地帯です。丘陵の大部分が200m以下であり、山地は鹿野山(379m)、清澄山(377m)、最高峰でも愛宕山(408m)と海抜500m以上の山がない日本で唯一の都道府県です。県東部は太平洋に面しており、刑部岬から太東崎までに至る5市4町1村にまたぐ全長66㎞の日本最大級の砂浜海岸「九十久里浜」があります。

河川は、大部分が平野部と低山で構成されているため、急な流れの川や大きな川は少なく、利根川、江戸川など他県から流れてくるものがほとんどです。

 

【気候】

千葉県の気候は、太平洋側気候(海洋性気候)に属します。

三方を海に囲まれ、平野部が多く、山地の標高も低く、地形の起伏が少ないことや、太平洋沖に黒潮(暖流)が流れていることから、全体的に年間を通し温暖な気候に恵まれています。

特に南房総沿岸は、沖合を流れる暖流(黒潮)の影響を受け、冬でもほとんど霜が降りません。内陸性気候特有のフェーン現象や放射冷却の影響を受けにくく、真冬日の豪雪や冷害、真夏日の猛暑も少なく、霜も少ないなど気象災害が少ないのが特徴です。

県北西部から北東部にかけての内陸地域では、内陸性気候の特色が強くなります。同地域は県内で最も寒さが厳しく、筑波颪が吹き付けることがあります。

県北西部は内陸に位置しているため沿岸からの暖気が吹き込みにくく、雪が雨に変わらず積雪を記録することもあります。近年は人口密集によるヒートアイランド現象の影響が増しており、冬の冷え込みが和らぐ一方、夏は熱帯夜になりやすくなっています。

湾岸部は東京湾に隣接する沿岸地域で農地が少なく、県北西部と同様に人口密度が高い地域です。県内では、最もヒートアイランドの影響を強く受けており、夏は熱帯夜、冬は氷点下になることが少ないなど東京都心沿岸部の気候と似ています。

県北東部は九十九里浜に沿って太平洋に面した地域で、海洋性気候です。

県南部は温暖な沿岸部と寒冷な内陸山岳部(房総丘陵)に二分され、さらに外房(太平洋側)と内房(東京湾側)で気候は異なります。

 

【農業の特徴】

千葉県の経営耕地面積は12万4,600haで、内、田が7万3,500ha、畑が5万1,000ha(2019年)で全国第9位です(農林水産省「作物統計調査」より)。

千葉県の農業は、三方を海に囲まれた温暖な気候で土地が平坦であることや、大消費地である東京都や神奈川県に近い地の利によって、近郊農業が盛んです。

現在でも米、いも類、野菜、花きや、生乳、豚、鶏卵といった畜産など多彩な農産物が生産されています。農業産出額は4,259億円で全国第4位(2018年)でした。内訳は、米、野菜、畜産がバランス良く生産されています。

野菜産出額は1546億円と前の年に比べて15.5%減少。暖冬による生育・出荷の前倒しなどで市場の流通量が増加し、千葉県が得意とする秋冬野菜の市況が振るわなかったのが影響したとみられます。

千葉県というと落花生(殻つき)が有名ですが、そのほかにも品目別算出額全国1位(農林水産省「平成29年農業産出額」)の農産物には、ねぎ、日本なし、だいこん、ほうれんそう、落花生(殻つき)、枝豆(未成熟)、さやいんげん(未成熟)、かぶ、マッシュルーム、春菊、にんじん、みつばなどがあります。

また、地域の特性を生かして栽培したブランド野菜の生産も積極的に行っており、再び農業産出額全国二位を復活させるべくさまざまな角度から熱心に取り組まれています。

地域名を冠したブランド野菜には、「九十九里海っ子ねぎ」、「白子たまねぎ」、「船橋にんじん」などがあります。

 

2.千葉の伝統野菜

千葉県は、農業産出額全国4位、野菜では全国3位の大規模農業県です。首都圏の食料供給基地となっており、一般的な市場に出荷される農作物も多いですが、地域名を冠したブランド野菜の育成や伝統野菜の保存なども行われています。その動きは、市町村や地域ごとの取り組みが中心となっており、県が統括して伝統野菜の認定などは行っていません。

農業が盛んな地域ほど、さまざまな野菜の栽培が行われてきたため、在来種や固定種の消失が早く進む傾向が見られます。そのため、現在、名前が確認された野菜が10種ありましたが、内、1種は詳細が把握できませんでした。種だけでも保存されていることを期待します。

現在、残っている伝統野菜は、地域の生産者団体に大切に守り受け継がれている品種が多く商標登録などによる法的保護が行われているものもいくつかあります。

 

❑ あじさいねぎ(あじさいねぎ)

【生産地】松戸市北部(小金地区)

【特徴】葉色濃く、彩りが鮮やかな葉ねぎ。

【食味】食感はやわらかく、ねぎの香りがしつこくない。深い香りと辛味が特徴。葉の部分は薬味などに、白い部分は長ネギとして利用できる。

【来歴】江戸時代後期に柴又周辺から伝わり、昭和50年代に本格的に生産されるようになった。生産地にある紫陽花(あじさい)で有名な本土寺周辺で続けられてきたねぎ栽培術をもとに非休眠性葉ネギの品種改良を重ね、品質の良いものを選抜した「わけねぎ」。

名称は、生産地のあじさい寺に由来するという説と、味がよく、彩りが鮮やかなことから「味彩(あじさい)ねぎ」と呼ぶといいう説がある。平成16年には「あじさいねぎ」で商標登録した。

【時期】12月~4月

松戸市「あじさいねぎをご存じですか」

食の安全・安心財団

 

❑ 大浦ごぼう(おおうらごぼう)

【生産地】匝瑳市(そうさし)大浦地区

【特徴】大きいもので長さは1m、太い場所は外周30㎝を超える巨大ごぼう。

【食味】市場には流通していない。奉納後は一晩中水につけてあく抜きされ、砂糖とみりんなどで甘く煮付けられ、願い事の成就を祈願する「御護摩祈祷(きとう)」に訪れた人に振る舞われる。

【来歴】平安時代中期の939年に平将門の乱が勃発し、戦勝祈願に同寺を訪れた藤原秀郷が大浦ごぼうを食して乱を鎮圧。これが元となって「勝ちごぼう」と呼ばれ、精進料理で振る舞われてきたという。収穫後は成田山新勝寺(成田市)にすべて奉納され、精進料理として提供される。一般には流通せず、「門外不出」の種を6軒の農家が守り続けて生産している。成田山新勝寺との契約栽培であり基本、市中には出回らない。市場に出回っているものは他地域産。

【時期】12月上旬

匝瑳市「大浦ごぼう」

産経デジタル

 

❑ 大多喜の筍(おおたきのたけのこ)

【生産地】夷隅郡大多喜町

【特徴】粘土質の土壌で育った筍。黄色味を帯びておらず、白いことから地元では「白たけのこ」とも呼ばれる。

【食味】肉質が繊細で根元まで柔らかく、苦み・えぐみはほとんどない。ほんのりした甘みと旨みがあり、あく抜きせずにそのまま生で食べることもできる。

【来歴】養老渓谷を抱える大多喜町は、300haにおよぶ孟宗竹林が広がる「竹の里」。

たけのこの生産量が首都圏1位の千葉県にあって、千葉県でも有数のたけのこの産地。

【時期】4月上旬~中旬(たけのこがあれば下旬)

大多喜町「たけのこ狩り」

養老渓谷大多喜町の白たけのこ

 

❑ 黒川寒咲花菜(くろかわかんざきはなな)

【生産地】館山市洲宮(すのみや)地区

【特徴】千葉県で生産されるなばな。葉は濃緑の主茎タイプで側枝の発達は遅い。姿・形は「縮緬ハクサイ 」に似る。開花前の花蕾(茎葉とも12cm)を束ねて出荷する。伏見寒咲花菜に比べ、葉色の色が濃く、ちぢみ葉。茎が太く1本立(分枝少)、抽台早い。

【食味】緑色があざやかで、少々苦みあり、早春の感強くありおひたし、漬物用、つま用

【来歴】もともとは冬場の切り花用に栽培されていたものを食用にした。近年は食用としての栽培は少ない。黒川春治氏による育成品種。

【時期】11月~3月

食の安心・安全財団「野菜の地方品種」

 

❑ 小糸在来大豆(こいとざいらいだいず)

【生産地】君津市小糸川流域

【特徴】千葉県君津市の小糸川流域を中心に栽培が分布していた高品質大豆。当地では7月播種の晩生系。

【食味】甘味が強く、丹波黒並みの最高水準。 えぐ味の無い素直な味とほのかな香りも特徴

【来歴】君津市小糸川流域に栽培が分布して古くからの在来大豆。現在は「小糸在来愛好クラブ」が商標登録し、種子の維持統一を行い、品質を守れる会員だけでの生産等の管理をしている。「小糸在来®」の「種子と商標」は「小糸在来愛好クラブ」のメンバーしか使うことができない。

【時期】枝豆としては10月中旬から11月上旬頃までが収穫期。ちなみに枝豆は野菜。乾豆(大豆)は豆類に分類されます。

小糸在来愛好クラブ事務局(JAきみつ営農課)

 

❑ だるまえんどう(だるまえんどう)

【生産地】詳細不明

【特徴】

【食味】

【来歴】

【時期】

全国青果物商業協同組合「伝統野菜」

 

❑ 土気からし菜(とけからしな)

【生産地】千葉市緑区

【特徴】土気地区は温暖な下総台地の中でも標高が高く、比較的寒暖の差が激しい風土が、独特の辛味、風味を醸し出す。

【食味】晩秋に種を播き、早春に収穫した新芽を漬物にして食す。特有のピリッとした辛みとシャキッとした食感。

【来歴】戦国時代に土気地区(千葉市緑区)とその周辺に勢力を有していた土気酒井氏の土気城址を中心とした集落一帯で、300年以上前から、各農家が代々自家採種で種を守り、栽培を続けてきたとされる伝統野菜。土気地区在来の種及び千葉市農政センターが保存した「土気からし菜」の種のみを使用し、生産地は「土気地区(旧土気町周辺)」に限定している。

【時期】2月~3月彼岸頃

千葉市ホームページ

千葉日報

❑ はぐらうり(はぐらうり)

【生産地】成田市周辺

【特徴】白うりの仲間で果皮が濃い緑色の青系と、淡い緑の白系がある。青系のはぐらうりは長さ20~30cmくらいで、果皮に細い縞が入るのが特徴。

【食味】ほかのうりと比べて肉質がやわらかく、浅漬けや酢の物に最適。

【来歴】マクワウリとの自然交配したものとされる。大正時代から加工業者に納入していたとされる。かつては確かに白皮の在来種があり、印旛郡富里町周辺でつくられていたが高温着果性であったため、低温期でも着果性のよい青皮系の品種が出回るようになり、白皮の品種は、いつしか消滅してしまった。青系はぐらうりのほとんどが「鉄砲漬け」に加工され、成田山新勝寺の参詣客向けの店でお茶漬けやお土産になっている。肉質が柔らかく、歯がぐらぐらした人でも食べられることからこの名が付けられたとされる。

【時期】5月~9月

全国青果物商業協同組合「伝統野菜」

地方野菜大全

 

❑ 房州中生カリフラワー(ぼうしゅうなかてかりふらわー)

【生産地】館山市

【特徴】花蕾(からい)は、硬くしまっており、玉の色と品質が良い。耐寒性が強い。

【食味】茹でたサラダ、天ぷらなどに適す

【来歴】アメリカのサットン商会から導入した品種を金木厚生氏が選抜・育成したものとされる。自家選抜系のため、収穫期に幅がある。

【時期】1月中旬~2月下旬

食の安心・安全財団「地方特産食材図鑑」

 

❑ 房州早生一寸そらまめ(ぼうしゅうわせいっすんそらまめ)

【生産地】南房総市

【特徴】一寸(3センチ)ほどの大きさで、一般のそらまめに比べて収穫時期が1~2週間ほど早い。

【食味】粘りと甘味が特徴。塩ゆで、皮をむいて甘く煮付けるといった料理が一般的。ポタージュにも良い。

【来歴】南房総市は、日本で唯一料理の祖神を祀る高家神社がある。

【時期】4月~5月

千葉県ホームページ「ソラマメ共同栽培にチャレンジ」

 

❑ 坊主不知ねぎ(ぼうずしらずねぎ)

【生産地】東葛飾地域、柏市

【特徴】名前のとおり、春になってもねぎ坊主がほとんど出ず、冬ねぎと夏ねぎの端境期に食べることが出来る。地元の農家からは「無坊(むぼ)」とも呼ばれている。分けつをするので栄養繁殖で栽培する。秋に1本で植えたねぎは、5月頃には7、8本に分かれ、それを出荷する。

【食味】白身の部分がやわらかいのが特徴。坊主不知ねぎをはじめとした分けつねぎは白身がやや曲がっていてグニャグニャしているため見た目はあまり良くないが味が良い。

【来歴】昭和初期に埼玉県から入ったというのが定説。その後、各農家や集落・出荷組合で系統選抜が行われ、現在は、「向小金」、「小金」、「手賀黒」、「風早黒」系が中心となっている。平成19年からは千葉県育成系統の新品種「足長美人」の出荷も開始された。坊主不知ねぎの出荷形態は市場出荷、東葛飾地域の各農協,直売所、地域内の農産物直売所。

【時期】5月上旬~6月上旬

坊主不知ネギ「足長美人」の産地化を目指して

千葉県ホームページ

坊主不知ネギ新品種「足長美人」の育成

 

❑ 矢切ねぎ(やぎりねぎ)

【生産地】松戸市矢切

【特徴】身が太く、葉身の濃緑色と葉鞘の乳白色のコントラストが艶やか。

【食味】肉厚で歯ごたえがよい。甘みが強く芳潤な風味が特徴。煮ても焼いても噛みごたえがあり、焼き物にも鍋物にも合う。

【来歴】明治12、13年頃から市場に出荷されている。同地区では明治3、4年頃から積極的にネギの栽培が行われてきた。矢切ねぎは、かつての東京府下砂村(現:東京都江東区)から「千住ねぎ」の種子をもらい受けて栽培したものとされる。同地区の水気の多い砂と枯土が程良く入り合わさった土質が矢切ねぎの栽培に適していたことから栽培が拡大した。「全国農産物品評会」で農林水産大臣賞を3度受賞。2007(平成19)年には松戸市農業協同組合が地域団体商標を取得している。贈答品や料亭で用いられる高級品。

【時期】11月~3月

日本テレビ「出張DASH村」

 

【参考資料】

JA千葉中央会

 

 

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