食文化を彩る魅惑の辛味!日本全国の在来唐辛子を巡ろう!
激辛市場が日常に定着
唐辛子は、うどんや蕎麦の薬味として利用はもとより、きんぴら牛蒡やきんぴら蓮根、魚や肉の煮付け、南蛮漬けなど和食や麻婆豆腐、担々麺、ペペロンチーノなど世界中の料理に使われているとても用途の広い野菜です。(唐辛子は、ナス科トウガラシ属に分類される「果菜(かさい)類」で野菜の仲間なのです)
第4次激辛ブームと言われる現在は、2017年頃から流行した唐辛子の「辣(ラー)」だけでなく、花椒(ホアジャオ)の「麻(マー)」による痺れを重視した「シビ辛」が流行し、現在、「麻辣湯(マーラータン)」が大ブレイクしています。
SNSや動画サイトの広がりとともに激辛チャレンジ動画の流行やコロナ禍の宅飲みに伴う「自宅での刺激追求」を経て、今や激辛市場は日常に定着し、唐辛子マニアも確実に増加しています。そして、単なる「辛さ」だけでなく、香り、甘み、旨味、料理との相性にこだわる人も増えています。
そこで、今回は、そんな唐辛子マニアの皆様に向けて、日本の在来唐辛子をご紹介します。食べ比べするのも良し!コレクションするのも良し!ブレンドして自分だけの味わいを作り出すのも良し!貴重な品種、希少な品種、珍しい辛味を持つものなど当協会が調査し、把握した日本の在来唐辛子をお楽しみください。

生トウガラシ
日本における唐辛子の歴史
唐辛子の原産地は南米です。日本に渡来した経緯には複数の説があります。有力視されている説には、16世紀半ば(戦国時代〜安土桃山時代)にポルトガル人の宣教師によって持ち込まれたという説や、文禄・慶長の役(朝鮮出兵)の際に渡来したという説があります。
また、品種によっては、近代にフィリピンから持ち込まれ、日本に定着したものもあります。
16世紀半ばの導入当初は、食用ではなく、観賞用や解毒剤、さらには足の指先の防寒具として利用されていたとされますが、江戸時代に入ると本格的に栽培され、料理の薬味や保存食の調味料として利用されるようになり、急速に全国へ広まりました。

観賞用トウガラシ
江戸の「内藤新宿(現在の新宿)」周辺で栽培された「内藤とうがらし」や、京都の「伏見とうがらし」など、各地域の気候風土によって育まれた唐辛子は、その土地々々の食習慣に合わせて選抜が行われ、全国各地で、その土地ならではの在来種として栽培されていきました。
以下は江戸時代に唐辛子の大きな模型を担いで七味唐辛子を売る(宣伝する?)売り子の姿を描いたものです。おもしろいPR方法ですね。

江戸時代の七色唐からし売の挿絵
文章は「七色唐がらし売 とんとんとん たうからし(唐辛子)ひりりとからいはさんしよの粉(山椒の粉)すわすわからいはこしようの粉(胡椒の粉)けしの粉(芥子の粉)こまのこ(胡麻の粉)ちんひの粉(陳皮の粉)とんとんとんたうからし」と書かれています。
引用:著作堂 [著]『近世流行商人狂哥絵図』天保6年(1835)、国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/11038510 (参照 2026-9-9)
地域によって異なる唐辛子の呼び名
在来唐辛子の名前には、「とうがらし」以外の呼び名が多く使われています。これは地域特有の方言や言葉遣いが定着したものです。代表的な呼び名には、ナンバン、コショウがあります。
唐辛子の地域別呼称
| 呼び名 | 地域 | 由来 |
| ナンバン(南蛮) | 北海道、東北、北陸地域など | かつて外来の珍しいものを「南蛮」と呼んでいた名残(例:なんば、なんばん) |
| コショウ(胡椒) | 九州地方、岐阜、長野など | 唐辛子が渡来する前、辛み調味料として知られていた「胡椒」の名をそのまま唐辛子に当てはめたため。
柚子胡椒(ゆずこしょう)の「胡椒」が青唐辛子を指すのもこのため |
| ゴショウ(辛こしょう) | 信州(長野県)周辺 | 長野県などの一部地域では、ぼたごしょうやからごしょうのように「〜ごしょう」と呼ぶ文化が深く根付いています。 |
唐辛子の辛さの単位
唐辛子の辛さを表す単位として、世界的に最も広く使われているのがスコヴィル値という単位です。元々は「唐辛子の抽出液を砂糖水で薄め、何倍に薄めたら辛味を感じなくなるか」を人間の舌でテストした数値ですが、現在は、人間の舌ではなく、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)という分析機器を用いて辛味成分(カプサイシンなど)の濃度を科学的に測定し、それをスコヴィル値に換算しています。
唐辛子の辛さを測る標準尺度としては、この「スコヴィル値(SHU)」が基準となることが多く、数値が大きくなるほどカプサイシン濃度が高く、辛味が強いことを意味します。
身近な唐辛子の品種や調味料で、このスコヴィル値を見てみると以下のようになります。
スコヴィル値(SHU)の目安
| 種類 / 調味料 | スコヴィル値(SHU) | 特徴・目安 |
| パプリカ・ピーマン | 0 | 辛味がほとんどない |
| タバスコ (ペッパーソース) |
約 2,500 – 5,000 | 一般的に馴染みのある辛さ |
| 鷹の爪 (日本の代表的唐辛子) |
約 40,000 – 50,000 | しっかりとした強い辛味 |
| ハバネロ | 約 100,000 – 350,000 | 激辛フレーバーの代名詞 |
| キャロライナ・リーパー | 約 1,500,000 – 2,200,000 | 世界トップクラスの超激辛種 |
| 純粋なカプサイシン | 16,000,000 | 辛味成分そのものの理論上の最大値 |
しかし、唐辛子の味わいは、スコヴィル値で表される辛さのみでは語れません。糖度や風味、旨味などの要素が統合されて、その唐辛子の味わいになるのです。在来唐辛子の中には、スコヴィル値も高く、糖度も高いという品種や、辛味は少なく、旨味が濃いものもあります。いろいろな在来唐辛子を試して好みのものを見つけるもの楽しいのではないでしょうか。
唐辛子の主な用途・加工法
唐辛子は、品種ごとの辛みの強さや風味、肉厚さなどの特性に応じて、さまざまなかたちで加工・調理されて親しまれています。
① 一味唐辛子・七味唐辛子の原料(加工・調味料)
完熟した唐辛子を乾燥・粉末化し、単一品種の風味や強い辛みをそのまま味わう「一味唐辛子」や、他の薬味とブレンドする「七味唐辛子」の原料として使用されます。在来品種を使った一味・七味は、その土地ならではの豊かな風味が味わえること請け合いです。
② 生食・加熱調理(甘味種・微辛種)
「伏見とうがらし」や「ひもとうがらし」のように辛みが少ない品種は、そのまま焼き物、天ぷら、煮物、炒め物など、野菜(食料)としてそのまま加熱調理して食されます。
③ 加工品・伝統的な和調味料(青唐辛子・味噌和え・漬物)
「神楽南蛮」や「ぼたんごしょう」などの肉厚な品種は、青唐辛子の段階で収穫し、刻んで味噌と炒めた「唐辛子味噌」や醤油漬け、漬物のアクセントとして活用されてきました。
| 【コラム】実はこんな使い方も!「刺身の薬味」としての加工・利用
一般的な刺身の薬味といえば「わさび」や「生姜」ですが、地域や魚種によっては、その土地の在来唐辛子を活かした独自の食べ方が定着しています。 <伊豆諸島(東京都)の「島とうがらし」> 生の島とうがらしを刻んで醤油に入れたり、唐辛子醤油に刺身を漬け込んだ「べっこう漬け」として味わう郷土料理があります。 <白身魚に添える「紅葉おろし」> フグやヒラメなどをポン酢でいただく際、大根に唐辛子を挟んでおろした「紅葉おろし」が薬味として添えられます。 <かつおのタタキやカツオの刺身> 高知県や和歌山県など一部の地域では、脂の乗ったカツオに一味唐辛子や生唐辛子を添えて食べる文化が知られています。 |
在来唐辛子北から南の51品種
日本の在来唐辛子を一覧にしてみました。山深い中山間部などでは、まだまだ表に出てきていない唐辛子もあるかもしれませんが、とりあえず協会で把握することができた50品種をご紹介します。詳細はリンク先でみることができます。辛さや甘味、旨味はぜひ、ご自身でお確かめください!
全国在来唐辛子一覧
いかがでしたでしょうか?辛味だけではなく、糖度や旨味のある在来唐辛子を味比べをしてみるのも一興ではないでしょうか?
加工品など通販で購入できるものもいくつかあります。全国各地に残る趣きある伝統野菜の唐辛子を、ぜひ、味わってみてください。
【参考資料】
松島憲一「長野県中山間地におけるトウガラシ産地形成」(2015)日本特産農作物種苗協会 第20号
松島 憲一 トウガラシの世界とその多様性
松島憲一「RAPD 分析を用いた日本のトウガラシ」(2022)園学研.(Hort. Res. (Japan)) 21 (4):391–399. doi: 10.2503/hrj.21.391
