日本の伝統野菜ー32.島根県

1.地域の特性

【地理】

島根県は本州西部の山陰地方の北部に位置しています。総面積は6708.26km2で全国19位です。(国土地理院 面積調 2023年10月1日現在)島根県に隣接しているのは鳥取県、山口県、広島県の3県です。県の東は鳥取県に接して京阪神地方に通じ、西は山口県をはさんで九州地方に、南は中国山地をへだてて広島県に接し、北は日本海に面しています。北方約40~80キロの海上には隠岐諸島(おきしょとう)があります。

島根県域の約90%は山地・丘陵地で占められており平地はわずかです。島根県の山地面積は4,845㎢で総面積の約72%を占めています。可住面積は1,299キロ㎡で全国37位すが、人口は671,126人(令和2年国勢調査)で全国46位です。
島根県の地形の最大の特徴は、日本海と中国山地に挟まれており東西に長いことです。島根県域の東端と西端の距離は約230㎞(国道9号・安来(やすぎ)市〜津和野町(つわのちょう)間)もあります。島根県の東側から南の県境には中国山地が海岸線と平行して連なっているため、地形は細長く、日本海側に急傾斜しています。

山陰地方と山陽地方を分ける中国山地の山々の標高は概ね1,000~1,300m程で、それほど高くありません。東部には大万木山(おおよろぎさん)、烏帽子山(ひばさん・えぼしやま)が連なっています。広島県との県境には冠山(かんむりやま)、県の最高峰で標高1,346mの恐羅漢山(おそらかんざん)、独立峰である標高988mの大佐山(おおさやま)、阿佐山(あさやま)があります。山口県境には、標高907mの火山である青野山(あおのやま)や、平家ヶ岳(へいけがだけ)があります。

島根県の主要な河川は、高津川(たかつがわ)、江の川(ごうのかわ)、斐伊川(ひいかわ)の3本の一級河川です。高津川は、県南西部の冠山付近を源泉として南西に流れたあと北流し益田市から日本海へ流れ出ています。江の川は、中国地方最大河川で、唯一中国山地を貫流します。源流は広島県にあり、広島県内で左に傾いたUの字を描くように流れ、島根県西部の江津市(ごうつし)を経由して日本海へ流れ出ます。斐伊川は県南東部を水源とし、Cの字を描くように曲がりながら県東部から日本海へ流れでます。

斐伊川と神戸川の河口部には出雲市があり、周辺に出雲平野が広がっています。斐伊川の一部には、松江市と出雲市にまたがる全国6位の広さの天然湖である宍道湖(しんじこ)があります。宍道湖の下流側からは大橋川(おおはしがわ)、中海(なかうみ、なかのうみ)付近には松江市の位置する松江平野が広がっています。出雲平野や松江平野に代表される平地は、出雲地域にまとまって広がっています。宍道湖から中海にかけて、東西に約60㎞、最大幅約8㎞の範囲で広がる宍道湖低地帯は、ほとんどが海抜2m以下の低湿地です。

【地域区分】

島根県の県域は、大きく出雲(いづも)地方、石見(いわみ)地方、隠岐(おき)地方の3つの地域に分けられます。
東部の出雲地方は、経済圏・文化圏が鳥取県西部(西伯耆、特に米子市、境港市)に近いため、一緒にして「宍道湖・中海地域」とされることもあります。
西部の石見地方は経済圏・文化圏が山口県、広島県(特に広島市)に近く、古くから交流があります。
隠岐地方は、隠岐諸島(おきしょとう)の人が住んでいる4島が該当します。

島根県は19市町村で市は8市、町は10町、村が1村です。
出雲地方…松江市(まつえし)、出雲市(いづもし)、安来市(やすきし)、雲南市(うんなんし)、奥出雲町(おくいづもちょう)、飯南町(いいなんちょう)。
石見地方…大田市(おおだし)、美郷町(みさとちょう)、川本町(かわもとまち)、江津市(ごうづし)、邑南町(おおなんちょう)、浜田市(はまだし)、益田市(ますだし)、津和野町(つわのちょう)、吉賀町(よしかちょう)。
隠岐地方…隠岐諸島(おきのしましょとう)があり、島後島(どうごとう:隠岐の島町おきのしまちょう)、西ノ島(にしのしま:西ノ島町にしのしまちょう)、中ノ島(なかのしま:海士町あまちょう)、知夫里島(ちぶりじま:知夫村ちぶむら)をいいます。
島後島のことを島後(どうご)と言うのに対し、西ノ島、中ノ島、知夫里島の3つをあわせて、島前(どうぜん)と呼び、大きく2群島に整理することができます。竹島は、現在、大韓民国(韓国)に国際法上の根拠の提示なしに不法占拠されており、島根県庁が実質的に管轄不可能となっています。

【気候】

県域の北側が日本海に面する島根県の気候は、県内全域が日本海側気候です。日本海側気候の特徴は、冬は雪が多く、夏は太平洋側より雨が少ないこと、春にフェーン現象がみられるなどありますが、日本海側気候の地域としては最西南端にあるため、比較的温和な気候で沿岸部に豪雪地帯はありません。ただし、年間を通じて湿度が高く、降雨回数も多く、晴れの日よりも曇り・雨の日が多い傾向があります。年間の降水量は1,600mm〜2,300mmで、平地より山間部が多く降ります。特に梅雨末期の前線の移動に伴い、しばしば集中豪雨を受けることがあります。風は、一般に山陽側よりも強く、冬に出雲平野に吹く季節風が強いのが特徴です。

出雲地方である県東部の沿岸部や宍道湖周辺の気温は、西部に比べると冬期の平均気温が低いものの松江市の1月平均気温は4.3℃で比較的温暖です。また、最低気温が比較的高いこともあり積雪があっても根雪となった年はほぼありません。ただし、大陸に近いために数年に一度の猛烈な寒気団に覆われると、沿岸部でも日中の気温が氷点下の真冬日になることがあります。夏は熱帯夜も数日ありますが、山陽地方の沿岸部と比べると暑さは穏やかです。

岩見地方である県西部の沿岸部では、冬期の気温は比較的高めで1月の平均気温は約5.0~ 6.0℃と温暖です。この地域は、日本海側気候から九州型太平洋側気候への遷移地帯に属し、冬期の降水は雨が多く、積雪しても数cm程度にとどまり、大雪となることはほとんどありません。梅雨末期には、梅雨前線の影響で大雨となることがあります。夏は熱帯夜も数日ありますが、山陽地方の沿岸部と比べると暑さは穏やかです。

内陸部は1月平均気温が0.0~3.0℃程と寒さが厳しく、西部の津和野町と吉賀町を除いて全域が豪雪地帯に指定されています。標高の高い地域では1m程度の積雪に達する年もあります。夏の夜は涼しく、熱帯夜となることはほとんどありません。

【農業の特徴】

島根県の経営耕地面積は36,000 haで、内、田が29,100ha、畑が6,920ha(国土地理院「全国都道府県市区町村別面積調(令和5年4月1日時点)」、農林水産省「作物統計調査(2023年2月28日公表)」です。

島根県の農業の特徴は、全国の中でも農地に占める水田の割合が高く、気象や土壌の条件も稲作に適していることから長年米づくりが主体でしたが、米の消費減少や価格低迷の影響により米の産出額は減少傾向にあります。現在、農業の活性化を目指して他県農産物との差別化を図っています。その一例として、環境負荷の軽減や生物多様性の確保を目的として、除草剤を使わずにコメの生産を行なう「除草剤を一切使わない水稲栽培」の開発を行うなどの取組みをしています。県主導による有機農業の振興を図っており、生産される農産物の品質においては定評があります。また、近年では、トマト、パプリカ、メロン、 ぶどう等の特産園芸作物栽培も盛んになっています。

島根県の第一次産業は、県域が広く日本海に面しているため水産業が盛んです。中でも冬の味覚として人気の高いベニズワイガニとブリ類の漁獲量はともに全国トップです。また、アジ類に関しては全国第2位の漁獲量となっています。

2.島根の伝統野菜

島根県における伝統野菜は明確な定義がありません。JAしまねのくにびき地区本部が、歴史ある在来種を積極的に情報発信しており、今回、掲載している伝統野菜は出雲地方の野菜が中心です。石見地方や隠岐地方の情報は得られませんでした。

しかし、出雲大社をはじめ数多くの古社を有する出雲に8世紀に書かれた出雲風土記に記された野菜(津田カブ)が今も残っていることを考えると、石見地方にも万葉の歌人柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)が国司として赴任したり、中国・韓国との貿易船が行き来したりしていたので、大陸から流入した種が風土に合わせて固定種となっているかもしれません。

また、隠岐地方には、後鳥羽上皇や後醍醐天皇など都びとが流刑され、離島ならではの独特の文化があり、他地域との交流が少なかった中で、まだ知られていない品種が数多く潜んでいる可能性があります。今後、その土地ならではの固定種・在来種が見つかるのもしれません。

秋鹿ごぼう(あいかごぼう)

【生産地】松江市秋鹿地区・大野地区

【特徴】香り豊か

【食味】柔らかな食感

【料理】きんぴらごぼう、ごぼう飯等

【来歴】江戸期を通じて、代々の松江藩主の食膳に欠かせない食材として愛された、伝統作物。秋鹿、岡本、大垣、上大野町など、この地域の粘土質のかたい土壌で栽培され、豊かな香りとやわらかな食感が特徴です。大正時代には、地域を代表する特産品として皇室へ献上されたとされる。

【時期】11月~5月

JAしまね くにびき地区本部 あいかごぼう

出雲おろち大根(いづもおろちだいこん)

【生産地】出雲市

【特徴】辛味だいこん。おろち大根の葉は地面に貼りつくように広がり、根の部分もすべて土中に埋まる。

【食味】皮ごとすりおろすと鼻に抜けるような辛味

【料理】薬味、ひげ根は天ぷら

【来歴】宍道湖岸や島根半島沿岸に自生するハマダイコンから選抜育成された辛味だいこん。島根大学の小林伸雄教授によって選抜育成され、2011年に「スサノオ」の名称で登録された。名前の由来は、太めのひげ根が広がる外観が「ヤマタノオロチ」を連想させることや、「オロシ(チ)」て食べると強烈な刺激があることから名付けられた。

【時期】11月下旬から3月上旬

雲州人参(うんしゅうにんじん)

【生産地】松江市八束町入江地区

【特徴】サポニンの含有率も高く世界最高級品の評価を得て、海外市場へ出荷されている。

【食味】粉末にして飲む。抹茶のように茶筅で立てて飲用すると妙味。

【料理】健康食品

【来歴】江戸中期(約200~250年)8代将軍徳川吉宗の時代に幕府の財政建直しの一つとして江戸城内で密かに人工栽培の研究がなされ、「お種人蔘」としてその種子と技術を全国に配布し人蔘の栽培を奨励したが、明治に入り殆どが消滅し日本の三大産地と言われる島根県と福島県と長野県に残るのみとなった。鳥取県との県境に位置する大根島で、江戸時代から栽培されている薬用高麗人参。出荷できるようになるまで6年もかかる。

【時期】

JAしまねくにびき地区本部 雲州にんじん

おおち鍋ねぎ(おおちなべねぎ)

【生産地】邑智郡邑南町(おおちぐんおおなんちょう)

【特徴】中国山脈の山間地で作られている白ねぎ。生産地の気候は朝晩の気温の寒暖差が大きく、土壌は粘度の高い黒ぼく土壌。霜の降る季節だけ収穫できる。

【食味】甘くて柔らかい食感

【料理】名前の通り鍋料理に適す。焼き物など

【来歴】島根県では女性や高齢者でも取り組みやすい白ねぎの面積が拡大している。主産地は、中国山地に位置する邑智郡(おおちぐん)で、「おおち鍋ねぎ」は、2008年に消費者の声によって誕生したとされており、伝統野菜といえるかはわからないが、独特の風土で生産される「おおち鍋ねぎ」は島根の特産品である。

【時期】12月~1月の冬季限定品

食えん芋(くえんいも)

【生産地】松江市大野町

【特徴】耐寒性は強い

【食味】食べられないほど硬くなく、えぐみもないが、一般的な里芋のような、ねっとり感やしっとり感はないとのこと。

【料理】煮物など

【来歴】島根県松江市大野町の芋谷と呼ばれる谷に小さな井戸と石地蔵があり、その井戸に自生していたサトイモ。サトイモの原種ではないかと考えられている。欲深い老婆が旅の僧(弘法大師)にこの芋を無心され、「かたくて食えない」と断ったところ、芋が石のようにかたくなった、という言い伝えが残されている。

【時期】

黒田せり(くろだせり)

【生産地】松江市黒田町

【特徴】シャキシャキとした歯ざわりと優れた香りが特徴

【食味】煮過ぎずサッと湯を潜らせると食感が良い。

【料理】和え物、椀物、鍋物、おでん、雑煮

【来歴】江戸時代から伝わる島根県松江市の郷土野菜。黒田町一帯は沼地で、野生のせりが自生していたという。5代松江藩主である松平宜維は、このせりの品種改良を奨励。以来、本格的な栽培がはじまったとされる。現在は、生産量が減っているため、ほとんどが県内で消費されている。松江市では伝統野菜を守るため、新規栽培者を掘り起こす取組みを進めている。

【時期】11月~3月

JAしまね くにびき地区本部 黒田せり

JAしまね 黒田せり

出西しょうが(しゅつさいしょうが)

【生産地】出雲市斐川町出西(いずもしひかわちょうしゅっさい)地区

【特徴】指大の根茎は株別れして繋がっている小ショウガ。青果は葉つきで流通している。

【食味】ショウガ特有の繊維質が少なく、爽やかな香りとピリリと鋭い辛味が特徴。

【料理】薬味やショウガ飯、醤油漬け、酢漬けなど。加工品はショウガ糖、ジンジャーエール、ジンジャーティー、ショウガ味噌など。

【来歴】出雲市の出西地区で古くから栽培されてきた。733年に編纂された出雲風土記にもその記載がある。江戸時代から昭和初期まで盛んに生産が行われたが、昭和の中頃になると、身が大きく安価な大ショウガに押され、生産は大幅に縮小したが、種茎を守り続けてきた生産者と出雲市の努力によって復活を遂げ、美味しさと歴史の古さから特産化が進められている。

【時期】8月~10月

出雲市出西しょうが

津田かぶ(つだかぶ)

【生産地】松江市福富地区、朝酌地区、川津地区ほか

【特徴】形は勾玉(まがたま)のように曲がっている。表皮は明るい紅紫色で中は白く、切り口の赤と白の鮮やかさは津田かぶ独特。

【食味】甘さとシャキシャキした食感が特徴。

【料理】漬物

【来歴】江戸時代後期から作られている島根の伝統野菜。松江藩松平直政公の時代(1600年中頃)から栽培されている。元々は「日野菜かぶ」という滋賀県日野町で江戸時代から栽培されていた尻細の長カブが原種で、参勤交代の際、松江に持ち込まれた。大橋川の沿岸にある津田地区は宍道湖からの有機質を豊富に含んだ肥沃な土壌である。現在も松江市周辺で主に漬け物用として契約栽培されている津田かぶは、「勾玉」のような形に、鮮やかな赤紫色をしているのが特徴。松江の代表的な冬の味覚として贈答品にも用いられる。

【時期】11月中旬頃収穫、11月下旬~12月中下旬頃に「ほで干し」を行う。

JAしまね くにびき地区本部 津田かぶ

はまぼうふう(はまぼうふう)

【生産地】松江市八束市

【特徴】香り高い風味

【食味】シャキシャキとした食感で、ほんのりとした苦味がある。

【料理】小さくて若い芽は高級食材として刺身のツマ、吸い物の口取り、太くて大きいものは胡麻和え、天ぷらなど

【来歴】全国の海岸に面した砂地に自生する多年草で、かつては日本全国で見られたが、砂地の減少や食用・薬用として乱獲されたことにより、自生している場所が極めて少なくなった。現在、市場に流通しているものは、ほとんどが栽培されたもので、埼玉、茨城、愛知などで、中国地方では、八束町がまとまった数を出荷している。砂地の畑が栽培に適している。野生種がもつ滋味深い味わいはそのままに、食感がよく、手軽に味わうことができるよう、品種を選抜している。

【時期】通年。1~2年かけて根を成長させ、ハウスで定植する

JAしまねびより 2019年4月号 はまぼうふう

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