日本の伝統野菜ー19.山梨県

1.地域の特性

【地理】

山梨県の形状は概ね円形で、東西及び南北の長さは約90km、総面積は4,465km2です。

総面積の約86%を山地が占めており、中心部の甲府盆地を除いて平地部は極めて少ないのが特徴です。県の北部から東部にかけては甲武信岳をはじめとする関東山地が連なっており、その南には道志山地・御坂山地が連なっています。西には赤石山脈、南部には富士山に代表される高峻な山岳があり、山に囲まれた県です。地質的には、フォッサマグナ(静岡-糸魚川構造線)の南部に位置し、周辺には多くの断層支派線が分布しています。

県内の河川流域は、これらの山地から流下する富士川水系、相模川水系、多摩川水系の3つの一級水系と、本栖湖をはじめとする3つの二級水系に大別されます。

山梨県の人口は80.58万人(2021年10月現在)です。県域は、中西部の甲府盆地を中心とする国中(くになか)と、東部の相模川と多摩川の上流域および富士山北麓からなる郡内(ぐんない)に大別されます。国中地方は東海地方の文化圏であるのに対し、郡内地方は関東地方の文化圏となっており、方言や文化も大きく異なります。

国中地方は、さらに「峡中」「峡北」「峡東」「峡南」「峡西」の5つに分かれます。
・峡北…甲府盆地北部及び八ヶ岳山麓。韮崎市、北杜市
・峡中…甲府とその周辺。甲府市、甲斐市、中央市、昭和町など
・峡西…南アルプス市。旧中巨摩郡の釜無川西岸地域
・峡東…甲府盆地東部。笛吹市、山梨市、甲州市など
・峡南…富士川流域。南巨摩郡、西八代郡

郡内地方は、かつての都留郡(つるぐん)の区域が主で、大きく2つに分かれます。
・東部…西桂以東。都留市、大月市、上野原市
・富士五湖、富士北麓

豊かな自然や美しい水に恵まれた山梨県では、農産業や工業が盛んです。ぶどうの収穫量は年間約35,000tあり、ワイナリー数や日本ワインの生産量も日本一です。県面積の78%を森林が占め、山に囲まれた山梨県は、 “天然の水がめ”と呼ばれるほど豊富な水に恵まれており、ミネラルウォータの出荷額も全国一位です。また、地質的な特性から、古くから水晶の産地です。それに関係して貴金属製装身具製造事業所数は全国の41.1%を占めています。
山梨県ならではの地質や地形からくる豊富な自然を強みに独自の産業を発展させています。

【気候】

山梨県は海の無い山に囲まれた地域で、気候は中央高地式気候が主です。しかし、山地によって隔てられる地域差も大きいことが特徴です。盆地部は夏の暑さが顕著ですが、冬は比較的温暖です。朝晩の冷え込みは厳しいですが、晴天が多く日中の気温は上がりやすいため、一日の気温差が大きいことが特徴です。これは、周囲の標高の高い山脈によって北や西からの寒気を遮ることが多くなることによるもので、寒気の流入が遅れやすくなります。

夏は標高の割に最低気温が高くなり、6 – 8月の最低気温の月平年値は熊谷や東京など標高の低い平野部とほぼ変わりません。最高気温も高くなる傾向にあり、南部町では1月を除いてすべて夏日(25度以上)の記録があります。

山梨県は雨も雪も少ない地域です。年間降水量が少なく、日照時間が長いですが、台風の通過経路でもあるため、しばしば集中豪雨に見舞われます。山麓地域では盆地部より気温が冷涼かつ1日の気温差が大きく、降水量も多くなります。このため、盆地周縁では冷涼な気候に向いたぶどうの栽培が盛んです。冬の季節風(八ヶ岳おろし)は強いですが、降雪は豪雪地帯の南アルプス市(旧:芦安村)と早川町を除くわずかの地域に限られます。

【農業の特徴】

山梨県は四方を山に囲まれ、県全体の77.5%が森林です。農地はわずか5.7%と非常に狭く、しかも農地の3分の2は山沿いの地域にあり、農業を行うには不利な条件です。農家一戸あたりの耕地面積は、全国平均値の約3分の1(0.74ha)と狭いですが、その狭い農地を最大限に使い、ビニールハウスなどの施設栽培が行われるなど、土地生産性(10aあたりの生産農業所得)は常に全国上位となっています。

山梨県の気候は、①「昼と夜」の一日の気温差が大きい、②年間の日照時間が日本一長い、③年間の降水量が少ない、という内陸性気候で、おいしい「くだもの」や「野菜」の栽培に適しています。太陽の光がたくさんあたることで、農産物を甘くする素(でんぷん)が作られます。一方、夜の気温が低いと、そのでんぷんは無駄に使われず、「くだもの」などの内部に貯えられ甘み(糖分)に変わります。また、降水量が少ないため病気にかかりにくく元気な農産物が育つのも特徴です。

山梨県の農業は、気候や風土に適した果樹が栽培され、「果樹王国やまなし」として全国に有名です。ぶどう、桃、すももの収穫量は全国一位です。また、富士山のきれいな湧き水を利用した水田転作作物としてクレソンの栽培も盛んで、これも全国一位の収穫量です。

他にも、京浜地域などの大消費地に近い立地条件と標高200mから1,200mまでの標高差のある耕地を活用して特色ある農産物が栽培されています。甲府盆地の平坦地では、盆地特有の昼夜の温度差が大きい気候を活かし、皮が柔らかく美味しいナスが作られています。また、春先の日照時間が多いことからビニールトンネルやビニールハウスで栽培された甘いスイートコーンや瑞々しいトマト、きゅうりも山梨の代表的な野菜です。八ヶ岳南麓や富士北麓の高冷地では、夏の涼しい気象条件を活かしてトマト、きゅうり、キャベツなどの夏秋野菜が作られています。

富士の国やまなし

2.山梨の伝統野菜

山梨県では、山梨県農業試験場(現在の山梨県総合農業技術センター)において過去 2 回、在来種の調査が実施されました。1 回目は 1985~1991 年で、19 種 84 点が収集され、2 回目は 1991 年~2001 年で、7 種45 点が収集されました。しかし、いずれも追跡調査がなされておらず、現在どの程度の品種が保存され、栽培されているかは不明です。

山梨県では、在来種を含め、県内で生産される特徴的な野菜を山梨の特産・伝統野菜として位置付け、現在 32 品種を県ウェブサイトで公開しています。

やまなしの特産・伝統野菜

ここでは、同サイトを参考に山梨県の伝統野菜13品種を紹介します。
2024年4月13日「甲州とうもろこし」を追加しました。

あけぼの大豆(あけぼのだいず)

【生産地】身延町曙地区

【特徴】特徴としては粒が大きいことと、甘みが強く味の良いことがあげられる。

【食味】一般的な品種と比較すると、大粒で食べ応えがあり、甘み・コクが強く風味に優れる。

【来歴】身延町曙地区で栽培されていた大豆で、その起源は明治時代に関西地方から導入されたものと言われている。粒を十粒並べると六寸になるほど粒が大きいことから、「十六寸(とうろくすん)」という名称が使われていた。枝豆として出荷されるようになったのは昭和45年頃からで、以降面積を増やしてきたが、徐々に収穫・出荷に労力がかかることから出荷量が減少した。近年では、希少価値の高さから幻の大豆として人気である。

【時期】10月中旬~11月上旬

【出荷団体】JAふじかわ経済部 0556-22-6311

山梨の特産・伝統野菜(あけぼの大豆)

あけぼの大豆ブランドサイト

農林水産省「うちの郷土料理」あけぼの大豆

浅尾だいこん(あさおだいこん)

【生産地】北杜市明野町浅尾地区

【特徴】恵まれた土壌条件から産出される浅尾だいこんは、生食用、加工用ともに引き合いが強く、「浅尾だいこん」としてブランドが確立されている。

【食味】食味などをはじめ高品質。ソバの薬味。

【来歴】江戸時代からソバと共に栽培されていたと言われている。大根は、明野町浅尾地区の火山灰土に適した作物として栽培されていたが、その後桑園に転換され、近年再びだいこんに転換されたという歴史をもっている。

【時期】11月上旬~12月下旬

やまなしの特産・伝統野菜(浅尾だいこん)

大塚にんじん(おおつかにんじん)

【生産地】市川三郷町大塚地区

【特徴】「のっぷい」と呼ばれる石の無い肥沃な土壌で長年栽培されてきた。品種は国分鮮紅大長(こくぶん せんこう おおなが)で、濃い鮮紅色で独特の風味と甘さがある。太くて長い。収穫時には80㎝~120㎝にもなる。

【食味】味が濃い。通常のにんじんと比べると、カロチンは1.5倍、ビタミンB2は3倍、ビタミンCは2.3倍と栄養豊富である。にんじんシリシリ、けんちん汁、炊き込みご飯など料理の幅は広い。

【来歴】以前から栽培されていたが、昭和30年代に野菜から果樹に転換する農家が増えたため、その頃を境に作付面積が減少してきた。しかしながら近年、地域の特産野菜の見直しを行う中で、徐々に栽培面積が増加している。現在、大塚にんじんは地域ブランド化されており、西八代郡農業協同組合(現・山梨みらい農業協同組合)によって地域団体商標(第5579893号)されている。

【時期】11月~12月

やまなしの特産・伝統野菜(大塚にんじん)

JAタウン山梨(大塚にんじん)

大野菜(おおのな)

【生産地】身延町大野地区

【特徴】日蓮宗大野山本遠寺の門前町で、富士川の河岸にある地区で栽培。3月頃に出てくる花芽も味が良く、摘んでも脇芽が出てくるためたくさん収穫できる。

【食味】葉の形は葉ダイコンに似るが、味は独特の辛みと風味がある。

【来歴】大野菜はこの集落で古くから栽培されていた漬け菜の一種であるが、いつから栽培されていたかは不明。町の特産として漬け物に利用された時期もあったが、現在では、各戸が自家採種し、自家消費分を栽培しているのみである。個人栽培で生産量が少ないため、入手困難。

【時期】11月中旬(間引き菜)~3月下旬(花茎・葉)

やまなしの特産・伝統野菜(大野菜)

落合芋(おちあいいも)

【生産地】甲州市(旧:塩山市)

【特徴】希少品種の一つ。煮くずれしにくい

【食味】甘味・コク共に濃く、ジャガ芋とは思えないほど美味

【料理】丹波山村を含む北都留郡の郷土料理である甘辛く煮詰めた煮っ転がし(焼き転がし)

南蛮味噌や葱味噌をつけて食す。芋煮や味噌汁の具としても利用する。

【来歴】詳しい来歴は不詳だが戦国の武田時代に旧塩山市(現甲州市)の落合地区から丹波山村に導入されたという口碑が残っている。収量が少ない為、昭和年代にメークインや男爵にとって代わられ、一時期は消失したと考えられていたが、一軒だけ長らく種を守ってきた農家があり、「落合等」は、命脈を繋ぐことができたとされる。現在では、村内の一般農家に加え、農業法人等が中心となって保存活動が推進されている。

【時期】7月中旬

やまなしの特産・伝統野菜(落合芋)

みんなの農業広場(落合芋)

甲州とうもろこし(こうしゅうとうもろこし)

【生産地】富士北麓地域 鳴沢村、河口湖町、忍野村

【特徴】フリントコーン(硬粒種)で完熟した種子は硬く光沢がある。草丈250㎝前後と高く、円筒型で細長い穂を持つ。雌穂長は、剥き実で約22~24㎝、縦列は12・14列のものが最も多い。外観上は、旗葉が少なく、絹糸は赤いものが多い。種子を完熟させて収穫する。

【食味】通常、乾燥させて臼でひいて粉にし団子等で利用される。茹でて食すことはまれ。

【来歴】いつ頃からこの地域で栽培されていたのかは不明だが、山梨県郷土年表を見ると1861(万延2.文久1年にトウモロコシが栽培され、四斗五升の収穫があったとされている。また、1892(明治25)年の山梨県市郡村誌には小立村(現在の河口湖町)の物産の項に「玉濁泰」の名があるとされる。
日本にトウモロコシが渡来したのは、安土桃山時代の天正年間1573~1591年頃にポルトガル人によって長崎へ伝えられたフリント種(硬粒種)が最初とされており、その後、九州の阿蘇山麓や四国の山中、富士山麓など気候や水利の面で稲作に向かない地域に広がっていった。

【時期】10月上旬

レファレンス協同データベース「甲州もろこしの栽培の歴史について」
日本村塾 環境学講座「第4章 関東山地中部地域の雑穀」P10,14,16

こごみ(こごみ)

【生産地】西八代郡市川三郷町黒沢地区

【特徴】自生種

【食味】自生種を栽培しているため、香りや味が良い。

【来歴】同地区は養蚕経営が主であったが、高齢化により養蚕が衰退し、遊休農地が目立つようになった。そこで新規導入品目として、昭和54年に地元の生産者が自生のこごみを収集し、栽培を始めるようになった。

【時期】4月中旬~5月上旬

やまなしの特産・伝統野菜(こごみ)

茂倉うり(もぐらうり)

【生産地】南巨摩郡早川町茂倉地区

【特徴】他の地域では、うまく栽培できないため、この地域限定の野菜である。

【食味】見た目はずんぐりしているが、みずみずしく、甘い香りが特徴である。

【来歴】標高800mの南アルプスの麓に位置する同地区で約130年前から栽培されてきた。代々、各農家が自家採種し、自家消費用に栽培してきたが、茂倉地区の女性グループが商品化に向けて取り組みを始めている。

【時期】7月上旬~8月上旬

やまなしの特産・伝統野菜(茂倉うり)

うちの郷土料理 山梨県「茂倉うりの冷や汁」

鳴沢菜(なるさわな)

【生産地】西八代郡市川三郷町大塚地区

【特徴】長野県で栽培されている「野沢菜」と同様のカブナで、主に葉柄を利用するが肥大したカブも利用されている。

【食味】葉柄が柔らかく浅漬けに適している。また、肥大したカブも利用できる。現在では自家用で栽培され、冬期の貯蔵野菜として漬け物加工用に利用されている。漬物で食す。

【来歴】江戸時代から栽培されてきたと言われている。産官学共同研究によって系統選抜された優良系統の種子により、鳴沢菜の地域ブランド化の取り組みが行われている。

【時期】10月下旬~11月上旬

やまなしの特産・伝統野菜(鳴沢菜)

紅花いんげん(べにばないんげん)

【生産地】北杜市須玉町・高根町

【特徴】見た目は、いんげん豆に似ていて、花の色は紅色、豆は紫色に黒い斑点があるのが特徴。紅花いんげんは、栽培適地が高冷地に限られ、適地でも結実率が10%以下と低いことなどから、供給量が非常に少なく、希少的価値が高い品目である。

【食味】煮豆や餡などに使用

【来歴】八ヶ岳や茅ヶ岳南麓の標高の高い地域は、夏期の冷涼な気候が紅花いんげんの栽培に適していることから、昭和40年代前半に栽培が始まったといわれている。その後、転作作物として水田への作付が増加し、昭和55年には須玉町黒森地区に花豆部会が設立され、産地形成が行われてきた。後に、その他の地区でも生産が行われるようになってきた。

【時期】9月中旬~11月下旬

やまなしの特産・伝統野菜(紅花いんげん)

増冨きゅうり(ますとみきゅうり)

【生産地】北杜市須玉町増富地区

【特徴】皮は厚く、黄色。通常のキュウリと比べると外観は別物。とても太く、しっかりとした食感。甘みがあり、生食や漬物などにして食す。

【食味】ぬか漬けや、炒め物、煮物

【来歴】同地区の農家や住民が毎年種を採り、交配されることなく約100年にわたって作られてきた。現在も収穫シーズンに地元の温泉などで販売されている以外は、ほとんどが自家用として栽培されている。

【時期】8月~9月

山梨県北杜市商工・食農課「100年続く増富きゅうりを守れ!」

やはたいも(やはたいも)

【生産地】甲斐市八幡地区

【特徴】肥沃な砂質壌土が堆積した土壌によって、地肌が白く、他の産地にないきめ細かい繊維と粘り気をもったさといもが生産される。

【食味】とろけるような舌ざわりは天下一品で、食味の評価は極めて高い。

【来歴】栽培の歴史は古く、江戸中期から栽培されていたとされている。昭和24年頃から営利栽培が始まり、昭和40年代に入ると、農協にさといも部会が結成され、「マルチ利用による催芽早出し栽培」の導入により、早期出荷による有利販売が可能になった。

【時期】9月上旬~3月中旬(収穫は9月上旬~11月上旬)

やまなしの特産・伝統野菜(やはたいも)

やまといも(やまといも)

【生産地】南都留郡富士河口湖町大石地区

【特徴】手のひら形、扇状形、棒状などさまざまな形がある。

【食味】すりおろしてご飯にかけて食べると消化もよく、滋養強壮に効くと古くから珍重されている。

【来歴】河口湖北岸の南面傾斜では、古くから火山灰土の肥沃な土壌で大和芋が栽培されている。生産者組織である大石野菜出荷協議会では堆肥等による土づくりを長年行っており、品質の高い芋を生産している。

【時期】11月に収穫

やまなしの特産・伝統野菜(やまといも)

 

【参考】

山梨県「山梨の特産・伝統野菜」

JA全農山梨県本部「山梨の伝統野菜」

 

 

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