タネを貸し出す図書館 ~広がる「シードライブラリー」プロジェクト~

貸し出すのは「本」ではなく「タネ」。そんな図書館が各地で増えています。

野菜や花のタネを借り、そのタネで作物を育て、タネを採って、借りたタネを少し増やして返却するという仕組みで、図書館の「貸出・返却」になぞらえて「タネの図書館(シードライブラリー)」と呼ばれており、実際に図書館やブックカフェでの取り組みが本格化しつつあります。

世界に広がる「タネの図書館」

「タネの図書館」はアメリカを中心に25ヶ国・500ヶ所にまで広がっています。

アメリカで最初につくられたとされる「タネの図書館」はバークレー市にあるNPOエコロジーセンターに設置されたBASIL(Bay Area Seed Interchange Library)。

エコロジーセンターは、市からの委託によるゴミのリサイクル回収業務やファーマーズマーケットの運営、若者向けの環境教育研修などを行っており、そこのオフィス兼店舗の1Fのスペースに置かれたキャビネットこそが、その図書館です。

キャビネットには、もともと地元で育てられてきた野菜や草花の種が、封筒に入れられ分類・整理して所蔵されており、タネの貸出を希望する人は利用登録をして、ここから種を2-3粒持って帰り、育って実がなったらタネを返しに来ることになっています。

タネの貸出と返却

日本では実際の図書館やブックカフェなどで展開されつつあります。

愛知教育大学(愛知県)の附属図書館では、エコキャンパス事業の一環として、2014年からESD(持続可能な開発のための教育)推進と環境教育の情報発信を目的に、「図書館『種』プロジェクト」に取り組んでいます。

図書館内で環境に関する特別コーナーを設置しており、そこで、利用者へタネを「貸出」し、学内や自宅で栽培してもらい、収穫後のタネを図書館に「返却」してもらう形をとっています。

貸出しているタネの種類は、花がひまわり、アサガオ、マリーゴールド、コスモス、ハーブなど、野菜はトマト、カボチャ、トウモロコシ、なす、ピーマン、スイカ、ゴーヤ、ネギなど。返却期限が設定されているため期間中での参加となります。

豊岡市立図書館(兵庫県)でも「タネの図書館」の取り組みが行われています。

今年は6月30日(日)までを開館中として、貸出希望者は図書館のカウンターで申込をし、借りたタネを家に持ち帰って栽培します。そして、育てた植物から採れたタネの一部を返却する仕組みです。今年はフウセンカズラ、ヒマワリ、アサガオ、マリーゴールド、日日草、百日草のタネが貸出されました。

地域に受け継がれてきたタネを残す

大学や公共施設だけでなく、民間での取り組みも行われており、地域の農作物のタネを中心に「貸出」が行われています。

島根県津和野町にある明治時代から続く老舗「俵種苗店」では地域特産の野菜の種を集めて販売につなげようと2016年から「タネの図種館」活動に取り組んでいます。

貸し出すタネは、ほとんどが地域で受け継がれてきたもので、近隣の人が持ってきたインゲンマメや家庭で祖母から託されたという赤いソラマメなど数種類のタネが瓶に詰められて店内に並んでいます。タネの交換会も開催されており、隣接する山口県や広島県からも参加者が集まるそうです。

那覇市久茂地のブックカフェ&ホール「ゆかるひ」(沖縄県)も、この10月から伝統野菜など在来作物の種を守り次世代につなごうと取り組みを始めています。

同カフェは2016年10月にオープンしたブックカフェで、県産本を中心に基地問題から文化・芸術まで約千冊の本を貸し出していますが、今年6月に種を守る活動に携わる知人から「タネも貸し出してみれば」と声を掛けられ、シードライブラリーの準備を始めたそうです。

貸出をするタネは自然栽培や無農薬栽培に取り組んでいる県内農家から提供されたタネが中心。島大根や長命草、ゴーヤー、ヘチマなど30種から始めて少しずつ扱うタネを増やす考え。貸出は無料ですが、返却時に借りた量に「プラスアルファ」して返却することが条件です。

シードバンクとしての機能

「タネの図書館」は仕組みがわかれば簡単にでき、どの地域でも実現可能です。

公共的なメリットは図書館が「シードバンク」の機能も持てること。自然災害などの被災リスクを分散し、種子の絶滅を防ぐことに役立ちます。また、万が一、消失するような事態に陥った場合にも栽培再開の機会を増やします。

タネを取り巻く環境には、種子法の廃止やタネの特許問題、「GMO(遺伝子組み換え作物)」など、さまざまな変化の波が押し寄せています。市販されているタネは同じタネを採種できないようにしてあることも多く、自然の循環から離れていっています。かつては、どこの地域でも行われていたタネの交換会も、年々、減りつつあります。

地域の伝統的な農作物のタネを継承し、誰もが自由に撒いて育てていけるタネを次世代に残すためにも、今後、「タネの図書館」は重要な役割を果たしていくことでしょう。

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