日本の伝統野菜―11.埼玉
1.地域の特性
【地理】
埼玉県は関東地方の中央部から西部に位置する内陸県です。総面積は3,798km²で全国39位ですが、人口密度は東京都、大阪府、神奈川県に次ぐ第4位で、県の財政力指数も全国第4位です。
埼玉県は、東は茨城県と千葉県、西は長野県と山梨県、南は東京都、北は群馬県と栃木県の1都6県と隣接しています。
地形は、県西部の山地・丘陵地と、県央から県東部にかけての台地や低地からなる平野部に二分されます。東部の平地はさらに県中央部の台地と県東部の低地にわかれます。平地は、総全面積の約61%を占め、全国的にも高い割合を示しています。
県西の山地帯は、関東平野西側に広がる関東山地に属し、秩父山地とも呼ばれます。埼玉県の最高峰である三宝山(さんぽうやま・標高2483m)や甲武信ヶ岳(こうぶしがたけ・標高2475m)、雲取山(くもとりやま・標高2017m)など2000mを超える険しい山々がそびえます。
県西中央付近には山間盆地があり、秩父盆地と呼ばれています。東に向かって徐々に標高を下げ、山麓部に経て、県央の台地・丘陵地に至ります。県央台地および丘陵地は、県南部の武蔵野台地北端部から山麓部の縁に沿って入間台地、岩殿丘陵、比企丘陵、北武蔵台地などがあります。県東部には大宮台地があります。大宮台地は西に荒川低地、東に中川低地、北には妻沼低地・加須低地(利根川中流低地)に囲まれています。妻沼低地は主に砂礫質です。荒川・中川流域では主に泥質の沖積低地です。これらのほぼ中間に位置する加須低地では礫層上部に泥炭質の黒泥を含む沖積層が厚く堆積して低湿地をなしています。
県東部の低地帯は、埼玉平野とも呼ばれていますが、古くは東京湾が入りこんでいた地域で、利根川、荒川の乱流地帯であり、古くから度々大洪水に見舞われ、洪水の防災が重要な課題でした。その一方で、この二大河川が豊富な用水をもたらし、県内には見沼代用水、葛西用水など、多くの農業用水網が残されています。
【気候】
埼玉県の気候は、太平洋側気候に属します。北部をはじめとして大部分は内陸性の気候ですが、南部の平地では沿岸の気象特性が加わり、秩父地方の山地では、盆地型の気候や山岳気候が現れます。冬は北西の季節風が強く、晴天の日が多くて空気が乾燥します。夏は日中かなりの高温になり、雷の発生が多く、雹(ひょう)が降ることも多くみられます。毎年、台風や雷などによる気象災害が起こります。
四季の変化は規則正しく明瞭ですが、春先には晩霜、5月~7月には降雹に注意が必要です。また、6月~7月の梅雨(つゆ)と、9月~10月の初秋の頃には、秋霖(しゅうりん)の時期は、特に曇りや雨の日が多くなります。
【農業の特徴】
埼玉県の経営耕地面積は7万4,500ha(2018年)で全国第16位です(農林水産省「作物統計調査」より)。埼玉県の農業は、江戸時代中期に原野が開発されて以降、恵まれた自然条件と、大消費地である首都圏の中央にある産地という「地の利」を生かし、長期間にわたって江戸や東京の食を支えてきました。現在でも野菜、米、麦、花き、果樹、畜産など多彩な農産物が生産されています。農業産出額は1,980億円で全国第18位(2018年)です。内訳は、野菜が48.9%、米が19.8%、畜産が14.8%で、全国でも有数の野菜の産地です。
さといもは品目別算出額が全国1位。ねぎ、ほうれんそう、ブロッコリー、こまつな、かぶ、カリフラワー、きゅうり、白菜は、いずれも全国2位の産出額です。ほかにも、水菜、チンゲンサイ、やまのいもなど多くの品目が生産されていることが特徴です。なかでも、ねぎは、深谷ねぎ(深谷市)、越谷ねぎ(越谷市)、吉川ねぎ(吉川市)など産地を冠した品種が多数有り、全国的にも名が知られています。
2.埼玉の伝統野菜
埼玉県は、首都圏かつては江戸にも距離が近いため、古くから野菜をはじめとする食糧の供給を行ってきました。また、地方から江戸への移動などにより運ばれてきた野菜の種がわたり、埼玉で栽培していたものも多くあります。埼玉県の伝統野菜として特段の定義はなく、認定なども行われていませんが、各地で伝統的に栽培されてきた小麦やクワイ、のらぼう菜、川越いもなどを復興させ、地域の特産物とする取り組みが盛んに行われています。ここでは、文献や地域の取り組みなどで確認できた18品種を紹介したいと思います。
❑ 岩槻ねぎ(いわつきねぎ)
【生産地】さいたま市岩槻区
【特徴】南埼玉郡慈恩寺村大字小溝産の葉ネギ。青身が短く、白身は緑色を帯び、一株が10~15本になる分けつ性。
【食味】青身・白身とも柔らかくて歯触りが良く、噛むと甘みが口の中に広がる。薬味をはじめ、煮物、炒め物、和え物等さまざまな用途で食す。
【来歴】沖積土壌地域の肥沃で水はけのよい元荒川(もとあらかわ)沿いの地域は、ねぎの産地として江戸時代の『成形図説』(1804年)にも登場しており、ねぎ栽培が盛んに行われていた地域で、岩槻を流れる元荒川から古利根川を経て江戸に送られたとされる。岩槻ねぎは古典落語の「たらちね」にも登場する伝統野菜だが、その柔らかさゆえ葉が折れやすく、積載輸送や大量陳列に向かないことから徐々に生産農家が減少し、千住系根深ネギの普及とともに市場から姿を消した。現在は、岩槻ねぎ倶楽部が復活させ岩槻ねぎを利用したレシピとともにPRしている。
【時期】10月~3月
❑ 大滝いんげん(おおたきいんげん)
【生産地】秩父市大滝地区(旧:大滝村)
【特徴】莢(さや)は大型で幅広く、ほとんど筋がないのが特徴。色白の丸豆。
【食味】非常にやわらかくて甘みがある。さやいんげんとしても食す。
【来歴】秩父市旧大滝村地区に伝わるインゲンマメの在来種。「三峰いんげん」とも呼ばれていたが現在は「大滝いんげん」。農業委員会を中心に特産品として定着させようと、栽培方法などを確立してきた。旬の時期には、同地区の直売所で購入できる。
同地区には、他にも「滝ノ沢いんげん」と「ほだか」というウズラ模様の豆の地いんげんがあるそう。
【時期】9月~10月
❑ 落合節成きゅうり(おちあいふしなりきゅうり)
【生産地】与野市中央区落合
【特徴】「節成」とは各節に雌花がつくことで多収にもつながる。強健で低温に強い。節成性の高い春キュウリで、促成~早熟栽培に適する。「針ヶ谷はりがや」×「青節成」の交雑種と伝えられている。
【食味】肉厚でずんぐり。皮をむいて浅漬けの漬物などに適している。
【来歴】与野市落合が発祥地で、戦前全国に流通し、現在のキュウリの原型にもなったといわれ、1935年ころには全国各地で広く栽培されていたという。1943(昭和18)年、埼玉県与野町下落合の農家の息子の関野廣曄(せきのこうよう)という若者が、軍隊入営の間近に控え、同品種が散逸することをおそれ、保管を依頼すべく、農林省園芸試験場種苗育成地に持参した。育成地では、その遺志を継いで、以後この品種を育種素材に、新品種づくりに取り組むことになった。
【時期】初夏~夏
公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会『日本のキュウリの原型、「落合節成」を育てた関野家の人びと』
❑ 木の芽(きのめ)
【生産地】さいたま市緑区、川口市神根地区
【特徴】「木の芽」は、ミカン科の「山椒(さんしょう)」の若芽のこと。山椒の芽は、
他と区別して、とくに木の芽(きのめ)と呼ばれることがある。通年出荷の都合上、苗が育ったら、その後の発芽を遅らせるため冷蔵庫で保存する。それを少しずつ出して栽培する。基本は春に芽吹いた新芽。
【食味】独特の香りとほろ苦さがあり日本料理には欠かせない食材。手のひらにのせポンッとたたいて香りを出し、お吸い物に浮かべたり、焼き魚や煮物、酢の物、田楽などのあしらいに添えたり、味噌と混ぜて木の芽和え(このめあえ)などにして食す。
【来歴】山椒は、すでに奈良・平安の時代には薬用に用いられていた。葉や実に特有の香りを持つため、昔はこれを摘み取って使っていたが、明治時代になって栽培が始まった。
【時期】春~夏。
❑ 行田在来枝豆(ぎょうだざいらいえだまめ)
【生産地】行田市、熊谷市、深谷市、羽生市、川越市
【特徴】晩生(おくて)の青大豆。
【食味】香りが高く、甘味が強い。
【来歴】行田市を中心に古くから田んぼの畔などで作られてきた。昭和50年代、埼玉県農業試験場(現 埼玉県農林総合研究センター)が県内農作物の遺伝資源を探索した時に行田市(北河原)の農家宅で代々受け継がれてきた固有種として収集したもの。採種した地名から「行田在来」と名付けられた。収穫適期が短く、生産量が非常に少ない希少種で、市場への出荷が非常に少ない。現在、「いにしえの行田枝豆倶楽部」が設立されている。
【時期】9月下旬~10月中旬
❑ くわい(くわい)
【生産地】さいたま市緑区、岩槻区
【特徴】埼玉の「青くわい」は、関西をはじめする各地で高級食材として扱われている。縁起物としてお正月料理や慶事に欠かせない食材として用いられる。オモダカ科オモダカ属の多年生の水生植物で、地下にできる塊茎(かいけい)という部分を食す。
【食味】ホクホクとした食感が特徴的。加熱することで栗や芋のような食感が生まれる。アク抜きをしていても多少の苦みが残るが、この苦みを好む人も少なくない。
【来歴】江戸中期に綾瀬川流域の湿田地帯で始まったとされる。1786(天明6)年、関東地方で大水害が起こって稲作が壊滅的被害を受けた時、くわいが高値で売れたおかげで農家が救われたと伝えられている。また、江戸後期に記された地誌「遊歴雑記」にも、くわい栽培の記述がある。明治後期には、安行・野田村から種子の導入が行われ、栽培が本格化。戦中、戦後にかけて一時的に生産が途絶えたが、その後回復し、昭和30 ~ 40年には作付面積が最大規模になった。当時は京浜市場に個人出荷がされていたが、昭和40年代後半に農協による共選共販体制がスタート。現在も農協出荷が主流となっている。
【時期】11月下旬から12月
❑ 埼玉青大丸なす(さいたまあおだいまるなす)
【生産地】比企郡ときがわ町
【特徴】「埼玉青なす(さいたまあおなす)」とも呼ばれる。形状は巾着(きんちゃく)型。果重は300~450g位と大きめ。果実の色はアントシアニン色素が無いため黒紫色にならず鮮緑色をしているのが特徴。
【食味】果肉がしまり、しっかりとした食感。煮物や焼きなすなどに合う。洋風の料理にも用いられる。
【来歴】明治時代に埼玉県に導入され、栽培されてきた、昔は奈良漬け用に経済栽培され、味噌汁や煮物用の食材と重宝されてきました。
【時期】7月中旬~10月上旬
彩の国さいたま「伝統野菜「埼玉青大丸なす」の出荷目揃い会開催」
❑ 山東菜(さんとうな・さんとうさい)
【生産地】さいたま市岩槻区大野島、越谷市、八潮市
【特徴】アブラナ科の野菜。実が結球しないのが特徴。主に県南で特産的に栽培されている。上の葉が開いたままの半結球の白菜に似た大型野菜で一株6~7kgと黄芯白菜よりも大きい。白菜と異なり、葉先が開いた「半結球」状態で大きくなり、完全には結球(けっきゅう)しないため、上から見ると葉ボタンのように見える。山東菜は2種類にわかれ、「半結球山東」と「花芯山東(かしんさんとう)」がるが。花芯山東はF1種。半結球山東が伝統野菜。
【食味】結球する白菜などに比べ、肉質がやわらかいため、漬物に適している。主に漬物用に栽培されている。
【来歴】1875年(明治8年)に日本に渡来した山東菜(さんとうさい)から選抜して育成。しかし、埃立つ土地を嫌うなど、栽培の条件が厳しく、収穫量の少なさから幻の野菜といわれてきた。埼玉県では、栽培条件の合う越谷、岩槻(現:さいたま市岩槻区)を中心に栽培されてきたが生産量が減少していった。漬物用の山東菜は市場には、めったに出回らず、加工前の状態で手に入れるのは難しい。山東漬けは取り寄せ可能。
【時期】12月10日前後の10日間のみ
杉本晃章(2010)「あなたは本当においしい野菜を食べていますか?」竹書房P136
❑ 潮止晩生ねぎ(しおどめおくねぎ)
【生産地】八潮市
【特徴】「千寿ネギ」の一変種で、1本の根から5本の茎が伸びる。品質を高く評価されながら姿を消した“幻のネギ”。
【食味】柔らかく甘みが強いのが特徴。
【来歴】天保年間(1830~44年)に、旧葛飾郡砂村(現・東京都江東区)から原種を入手して試作したのが始まりとされ、1872(明治4)年に「夏季用種と冬季用種の2種に品種改良した」と「埼玉農報」(1914年12月1日発行号)に記載された記録がある。明治以来、1965(昭和40)年頃まで、旧:潮止村を中心に盛んに生産されてきたが、柔らかいため輸送中に折れたり、日持ちがしないという弱点があったため、丈夫な「千寿ネギ」に移行。市場から姿を消した。現在、「潮止晩生ねぎ研究会」(会員5人)が復活を目指し栽培している。
【時期】4月~5月
❑ しゃくし菜(しゃくしな)
【生産地】埼玉県秩父郡皆野町全域、小鹿野町、両神村、長瀞町
【特徴】葉は大葉で淡緑色、茎は純白で長く、しゃくし状となる。寒さに強い漬け菜。しゃくし菜は、タネ播きが適期より早いと病害虫が多くなり、おそいと株が小さくなるため、同じ秩父地方でも、標高の高いところは9月1~7日、低いところは9月8~15日と決めて播く地域・作季限定の野菜。
【食味】白菜にはないシャキシャキした食感で、漬物にすると歯切れがよく、きれいな艶が出る。炒めても良く、まんじゅうやお焼きの餡にも合う。しゃくし菜漬(秩父菜漬け)は、10月末から11月初旬の晩秋に霜にあってしんなり味が乗ってから収穫して、木樽に漬け込む。
【来歴】日本に最初にやってきた青梗菜(ちんげんさい)の仲間。明治初期に中国から伝来した長梗白菜(ちょうこうはくさい)や体菜(たいさい・たいな)とも呼ばれる品種の一つ。学術的には「雪白体菜」というが、秩父地方では、葉の形が「杓子(しゃくし)」に似ていることから「しゃくし菜」と呼ばれている。秩父地方では古くから栽培している伝統野菜。標高が高い秩父地方で、白菜のかわりにつくられてきた。
【時期】10月末~11月
❑ 秩父路ネギ(ちちぶじねぎ)
【生産地】秩父地方
【特徴】土壌が硬い場所での栽培に適している。そのため、根が浅く、白身の部分が短く、緑の葉が長い。
【食味】柔らかく、甘い。煮物、焼き物などさまざまな用途に合う。
【来歴】来歴ははっきりしない。秩父で古くから栽培されているネギ。
【時期】
❑ ちちぶ太白(ちちぶたいはく)
【生産地】秩父市大野原
【特徴】長紡錘型で、皮色は紅色、肉色が白色。
【食味】蒸すと粘質でねっとりしていて甘みが強いのが特徴。
【来歴】明治時代に九州地方から埼玉県に入ってきた在来品種の中から、大正7年(1918年)に埼玉県農事試験場(現在埼玉県農林総合研究センター)で選抜育成し、品種登録により「太白埼1号」と命名。戦前から戦後にかけて関東地方で多く栽培された。今ではほとんど見ることが出来なくなったが、秩父市内の農家によって栽培が続けられている。2006(平成18)年に、太白を秩父の特産にするために組合を設立して作付けを拡大した。現在、ちちぶ太白は市場に出荷しておらず、全量、注文を受けての販売となっている。
【時期】11月中旬~12月中旬
❑ 富の川越いも(とめのかわごえいも)
【生産地】入間郡三芳町上富(かみとめ)
【特徴】土作りに特徴があり、赤土を客土し、林から落ち葉を集めて堆肥にして散布。さらに、麦を播いてその麦わらを耕耘し土作りを行っている。
【食味】「九里四里(栗より)うまい十三里」という言葉は、川越いもの代名詞。熱の通りがよいため、ホクホクとした食感で甘い。天ぷらなど色々な料理や大学いも、芋けんぴ、シュークリーム、ようかんなど様々な菓子にも用いられる。
【来歴】194(元禄7)年、川越藩の領地であることが認められ、当時の藩主である柳沢吉保が新田開発を推進し、その命を受けた筆頭家老曽根権太夫ら家臣によって「三富開拓(さんとめかいたく)という開発が行われた。「三富」は、上富・中富・下富の三地域を指し、上富91屋敷、中富40屋敷、下富49屋敷の合計180屋敷の新しい村々をつくった。上富が現在の埼玉県入間郡三芳町上富、中富・下富は、現在の所沢市に位置する。「富の川越いも」は、この旧・川越藩上富村の一字をとって名づけられ、商標登録されている。栽培は、江戸時代より受け継がれる「落ち葉堆肥農法」で行われており、2017(平成29)年3月、日本農業遺産に認定された。直売のほか、宅配便による販売も行っている。
【時期】9月
農林水産省「第54回農林水産祭・むらづくり部門 天皇杯 ・ 農林水産大臣賞受賞」
❑ 中津川いも(なかつがわいも)
【生産地】秩父市大滝地区(旧:大滝村)
【特徴】皮色は淡いピンクで薄い。芽は赤く、形は細長い。大きさは5cm程度だが、標高の低い地域で栽培すると大きくなる。栽培適地は、標高400~500メートル以上の準高冷地とされ、山あいの集落で、無肥料、無農薬の自然農法によって栽培が続けられている。
【食味】ねばりがあり、身はしまっているが味がない。煮ても蒸しても崩れず、串にさしても割れないのが特徴。地元産のみそ、えごま、調味料等を使用して、いも田楽として食す。
【来歴】来歴は定かではなく、奥秩父連山を県境にした山梨県から雁坂峠(2,083m)を越えて武田信玄の落人がもってきたとする説と、明治末期に、大滝村出身の兵士が日露戦争で捕虜になった際に背のうの下に隠して持ち込み中津川で栽培したのが始まりとする説がある。
現在も中津川渓谷を中心に、農家が種いもの自家採取を行いながら栽培を続けている。
【時期】7月頃
❑ 比企のらぼう菜(ひきのらぼうな)
【生産地】埼玉県比企郡西部地域 ときがわ町、嵐山町、小川町、滑川町、東秩父村
【特徴】古くから比企地域で栽培されてきたアブラナ科の野菜。病害虫や寒さに強く、江戸時代、天明・天保の飢饉(ききん)から住民の命を救ったと古文書にも記されている。名前の由来は野良に生えていた「野良生え」が変化したという説、野良にボーッと生えていて役に立たないという説がある。近年、再び注目されてきており、地元の栽培会を中心に、栽培拡大が進められている。
【食味】甘みが強く、茎葉のシャキシャキした食感とクセのない味が特徴。茹でてもアクが出ない。かつては「塩ゆで」や「お浸し」が一般的であったが、油との相性も良く、和食から油炒めまで洋食まで幅広く使える。マヨネーズ、ごま、芥子、酢みそなどの和え物、炒め物や鍋物の具材など。
【来歴】江戸中期の飢饉を救った野菜として古文書にも記されている、埼玉県比企地域で再発見された伝統野菜。名前の由来としては、野良に生えていた「野良生え」が変化した。年貢を逃れようとした農民が「野良にボーッと生えていて役にも立たない」と役人にごまかした。
などという説があります。
【時期】2月中下旬~4月
伝統野菜「比企のらぼう菜」の復活 ~地域を代表する特産化に向けて~
❑ 紅赤(べにあか)
【生産地】さいたま市浦和区
【特徴】皮色が鮮やかな赤紫色のさつまいも。長紡錘形の形状。「金時いも」ともいう。また、外観の美しさ、味わい深さから「さつまいもの女王」と称される。紅赤は植え付けに適した時期が短く、肥料や土質への適応力、病害虫に対する抵抗力が低いのが難点。貯蔵性も良くないため、生産者にとっては「栽培しにくい品種」とされる。
【食味】肉質は黄色で粉質、味や口当たりが良い。「きんとん」や「いもあん」の材料にも使われる。
【来歴】1898(明治31)年、木崎村針ケ谷(現在のさいたま市浦和区)の農家が、当時栽培していたさつまいも「八房」の中に、皮色が美しくて甘い、おいしいいもがあることに気づき、甥が「紅赤」と名付けて増殖し、紅赤の栽培を広めていったという。市場でも高値で取引され、関東地方を代表する品種になり、大正から昭和のはじめには、埼玉県のさつまいもの栽培面積の約9割を占めるほどになった。しかし、第二次世界大戦の戦中、戦後の食糧難の時代には、栽培が難しく収穫量の低い「紅赤」は激減。人々の生活が安定するにつれて「紅赤」の栽培も復興したが、1984(昭和59)年に「ベニアズマ」が開発されると、「紅赤」の生産量は急激に減少。ついには『幻のいも』となった。現在、「さいたま市紅赤研究会」の会員を中心に、伝統産地の復活を目指して「紅赤」の栽培に取り組み復活が進んでいる。
【時期】年9月下旬~11月初旬
❑ べか菜(べかな)
【生産地】さいたま市岩槻区 埼玉県南部
【特徴】葉は淡い黄緑色、縁は波打っている。肉厚だが柔らかい。根元の部分は白色。結球が始まる前の小さいうちに収穫するので栽培期間が短く(タネまき後、約1ヵ月~1ヵ月半で収穫できる)、周年栽培できる。
【食味】味にクセがなく、苦みもない。おひたし、ごまあえ、みそ汁、サラダなど
【来歴】埼玉県の南東部や東京都を原産地とする地方伝統野菜。もともとは、山東菜の間引き菜で、山東菜の小さい物を集めて品種固定して作ったもの。「べか」は「小さい」という意味で、明治時代に「べか舟」という小さな和船で一年中東京の市場に出荷された小型の菜っぱであることから「べか菜」と俗称されたとされる。
【時期】9月頃下旬(現在は3月が中心)
❑ ぼうふう(ぼうふう)
【生産地】川口市神根地区
【特徴】「ぼうふう」はセリ科の植物。同地区での栽培が盛んで全国の生産量の8割を占める特産品。海岸はないが、質の良い物がハウスで栽培されている。
【食味】セリに似た独特の香りと苦味がある。高級料亭などで刺し身のツマとして使われる。
【来歴】元々は、江戸時代中期に茨城県鹿島地方の海岸に自生していたものの種子を持ち帰り、栽培を始めたといわれている。
【時期】3月~5月頃
【参考】
タキイ種苗株式会社出版部編 芦澤正和監修(2002)『地方野菜大全 都道府県別』農山漁村文化協会
成瀬宇平 他(2009)『47都道府県・地野菜/伝統野菜百科』丸善