伝説の在来種「高松メロン」を未来に残したい―愛知・渥美半島の石井農園が栽培の継承に挑む!
F1品種が主体の農業市場
農業はあまりにも奥が深い。
野菜一つとってもどの果菜類を栽培するのか、どの品種を手がけるのかが細かく分かれる。農法もさまざまで、一般的に行われている慣行農法から有機栽培、自然農法まで幅広い。
一般の消費者は、なかなか知ることはないが美味しい野菜をつくるための要件はとても複雑だ。
風土、日照時間・降水量といった気象条件をはじめ、土壌の状態や水・肥料等の配合やタイミング、病害虫への対応、果ては畑の畝の高さ、水の一滴までもが作物の出来不出来に影響する。
そして、シーズンを通して取り組んだ成果を見る機会は年に一度ずつしかないのだ。
このような複雑な条件下で栽培するには、種苗メーカーが切磋琢磨して開発するF1品種が欠かせない。F1品種は在来種・固定種に比べ、はるかに栽培しやすく品質も安定的で収量も見込める。そのおかげで農家の負担も軽減され、消費者は飢えることなく手頃な価格で野菜を手に入れることができている。
現状、野菜市場の9割5分(99.5%かもしれない)が、このF1品種である。
在来種・固定種といった伝統野菜は、その片隅で細々と栽培されているにすぎない。栽培の負担が大きく、規格が揃いにくい在来種・固定種は、市場や農家から敬遠され、その数を減らすばかりなのだ。
伝説の在来メロンを探せ
そのような中、渥美半島で在来メロンの栽培に挑む農家が現れた。
田原市向井山町・石井農園の石井芳典さん(36)だ。
渥美半島は全国有数のメロン産地で、主に露地系メロンのプリンスメロン、タカミメロン、イエローキング、施設系マスクメロンなどが栽培されている。「あいちの伝統野菜」に選定されている渥美アールスメロンは、渥美地方の農家が昭和初期から保存していた系統だが、現在は、ほとんどがF1品種だ。
その渥美半島に、かつて名品と称される在来メロンがあった。
地元の人たちが「高松メロン」と呼ぶその品種の噂は筆者も何度か耳にしたことがある。
高松メロンは、1971年頃、サーフィンで知られるロングビーチに面する赤羽根町高松の農家が、クラウンメロンで有名な静岡県から品種を導入して作ったのが始まりとされる青皮系の品種だ。1973年に「高松メロン」と命名され栽培されていたが、F1種の台頭とともにいつしか姿を消した。
石井さんの父・忠秀さんも1985年から数年間、高松メロンを栽培した経験があり、以来、夏になる度に「美味かった」とつぶやいた。それを聞いていた石井さんは興味を持ち、すでに失われたとされる種を探し始めた。そして一年後、知人を通して渡辺いと子さんに辿り着く。
在来メロンの栽培継承に挑む
渡辺さんは、祖父にもらった高松メロンの種で1980年頃から40年にわたって栽培を続けている。毎年、自身で採種を行う純系メロン農家だ。
石井さんは、その技術と技法を学び種を継承していくために、今年、栽培に挑む決心をした。
父・忠秀さんを説得し、渡辺さん等8人の栽培チームを組んだ。播種から収穫までの全てが初体験であり、学びの日々である。渡辺さんの教えを忠実に守りながらやっても、山も谷もハプニングもある。さらに今年は天候が不順だった。それでも4月初旬に撒いた種は、スクスクと育ち、なんとか予定通り7月19日から収穫を開始できた。師匠の渡辺さんも「雨が続いた悪条件で初作として良く育てた」と評価する。
収穫した高松メロンは、師匠の渡辺さんの在住地区である古田町(こだちょう)から名前をとって商品名「codamelody渥美半島(こだめろでぃあつみはんとう)」として販売。地元の人々の応援もあって、初年度にも関わらず、洋菓子店、スーパー、個人から注文が相次ぎ、予約の段階で完売した。
覚悟の二年目に向けて始動
収穫終了後は、選抜した母本から採種を行い、来季の栽培準備をする。
農産物の栽培は二年目が難しい。
ベテラン農家は言う。
「初年は土壌に地力があるため、ある程度は育つ。本当の勝負は二年目からだ」と。
どの品種をどのような方法で栽培するかは農家の方針によるし、スタイルは農家の数だけあるといっても過言ではないだろう。そのスタイルの正解・不正解は簡単には出ない。また、在来種・固定種だからといって味が良いものばかりとも限らない。栽培は難しく、営利的に不利なことも多い。
だが、渡辺さんや石井さんのように在来種を栽培する人達がいるおかげで多様な品種を後世に残すことができるのは確かだ。
「農産物は地域の文化だと思う。その文化を未来へ残していきたい」
そう語る石井さんの挑戦は、まだ始まったばかりだ。
ぜひ、名品を未来へつないでいって欲しい。
「codamelody渥美半島」の問い合せは、石井農園・石井芳典さんへ
e-mail:ishifarm@gmail.com
電話:090(7869)6787
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