日本の伝統野菜-44.大分県
目次
1.地域の特性
【地理】
大分県は、日本の主要四島の一つである九州の北東部に位置しています。総面積は6,341㎢(令和2年全国都道府県市区町村別面積調)で全国第22位です。熊本県に隣接しているのは福岡県、熊本県、宮崎県の3県です。北東部は国東半島で、南側を別府湾、東側を伊予灘、瀬戸内海、北側を周防灘に囲まれており、伊予灘を隔てて山口県に、宇和湾を隔て愛媛県に接します。半島の北には姫島があります。
県域の東西の距離は約119㎞、南北の距離は約106㎞です。 大分県の森林面積は4,486㎢で、県土の約71%を占め森林率は全国16位です。可住面積は1,798㎢で県土の約29%を占め全国27位です。人口は1,098,421人(2023年6月時点推計人口)で全国33位です。
大分県は九州を横断するいくつかの大きな構造線が通っているため、地質的に異なった特徴をもつ地域に区分されています。限られた地域の中に複雑な地質が存在するため、地形、地質、気候、植物、動物、温泉、水などすべてにおいて多様で豊かな自然が育まれています。
南北に霧島(きりしま)火山帯が縦走しており、これに添って北西部に標高1,199mの英彦山(ひこさん)山系、南西部に大分県と宮崎県の県境にある標高1,756mの祖母山(そぼさん)山系が連なって、起伏に富む地形を形成しています。 国東半島には、標高721mの両子山(ふたごさん)をはじめとする両子火山群の峰々があり、半島全体が円に近い火山地形になっており、丘陵地と谷が海岸に向かって放射状に伸びています。北部の海岸線は、小さな入り江と岬が連続するリアス式海岸で、日本の秘境100選に選定されています。
平野部は、北部の中津(なかつ)平野、中部の大分(おおいた)平野、南部の佐伯(さいき)平野など限られた地域に分布しています。中津平野は、耶馬渓(やばけい)・八面山(はちめんざん)の麓(ふもと)に位置し広さは大分県下では最大規模です。大分平野は、別府(べっぷ)湾南岸にある平野です。大分平野の各地で湧出した熱水(ねっすい)は「大深度地熱温泉(だいしんどちねつおんせん)」として知られています。佐伯平野は、県南最大の沖積平野で、江戸時代から佐伯藩の城下町として栄えた地域です。2005年に佐伯市と南海部郡5町3村が合併し、九州の市町村の中で最大面積の自治体になりました。
大分県内の一級河川は、日本三大修験山(しゅげんざん)の一つ英彦山(ひこさん)に源を発し、中流域は景勝地の耶馬溪(やばけい)を流れ、下流域で福岡県境となる山国川(やまくにがわ)。由布岳(ゆふだけ)に源を発し、由布院盆地(ゆふいんぼんち)を貫流し、県中部を流れる大分川。宮崎県境の祖母山と阿蘇外輪山(あそがいりんざん)に源を発し、臨海工業地帯に多くの工業用水を供給する大野川。佩楯山(はいだてさん)南の麓(ふもと)にある三国峠(みくにとうげ)に源を発し、県南部を流れる九州屈指の清流である番匠川(ばんじょうがわ)。宮崎県北西部の向坂山(むこうざかやま)に源を発し、佐伯市宇目(うめ)周辺の水を集め日向灘(ひゅうがなだ)に注ぐ五ヶ瀬川(ごかせがわ)。阿蘇外輪山とくじゅう連山に源を発し、水郷である日田(ひた)を流れ、有明海(ありあけかい)に注ぐ九州最大の筑後川(ちくごがわ)の6水系374河川で延長2,077kmがあります。 海岸線は、遠浅の北部海岸、別府湾を囲む中央海岸、リアス式南部海岸の三様で、変化に富む自然環境です。
【参考資料】
大分県HP「おおいたの河川」
【地域区分】
大分県エリアは、かつての律令制の時代には、豊後国(ぶんごのくに)と称されていました。 現在、大分県の地域区分は、中部、東部、北部、西部、南部、豊肥の6つに区分されています。県庁所在地は大分市、国際観光温泉文化都市として別府市があります。
〈地域〉
-
大分市(おおいたし)、臼杵市(うすきし)、津久見市(つくみし)
-
由布市(ゆふし) 東部地域…別府市(べっぷし)、杵築市(きつきし)
-
国東市(くにさきし)、東国東郡( ひがしくにさきぐん)姫島村(しめしまむら)
-
速見郡(はやみぐん)日出町(ひじまち)
-
中津市(なかつし)
-
豊後高田市(ぶんごたかだし)、宇佐市(うさし) 西部地域…日田市(ひたし)
-
玖珠郡(くすぐん)玖珠町(くすまち)、九重町(ここのえまち)
-
佐伯市(さいきし) 豊肥地域…竹田市(たけだし)、豊後大野市(ぶんごおおのし)
【気候】
大分県の気候は複雑で、予警報細分区域は気象、気候特性、気象災害特性及び社会地理的特性(社会経済活動など)により、北部、中部、西部、南部に分かれています。 北部は瀬戸内海気候区に属しますが、冬は北九州方面や関門海峡からの季節風の影響で天気が悪く、曇りの天気が多くなります。中部は冬の季節風時には県北西部の山地の影響で北部・西部に比べ天気がよくなります。西部は内陸地にあるため夏は雷雨が多くなります。
また秋から初冬に発生する日田の盆地霧は有名です。南部は県内でもっとも温暖多雨の地域で夏の大雨と冬の晴天に特色があります。 大分県の年間降水量は中部や北部の沿岸部で少なく、西部山岳地帯から山沿い及び県南東部で多くなっています。
日降水量が1mm以上の日数は、山沿い地方で多く、沿岸部で少なくなっています。季節毎の主な降水の原因として春は低気圧の通過、梅雨期間は梅雨前線、夏は雷雨、夏から秋は台風と低気圧、冬は季節風と低気圧によるものです。
【参考資料】
引用:気象庁「大分県の気候特性」より
【農業の特徴】
大分県は九州を横断するいくつかの大きな構造線が通っているため、地質的に異なった特徴をもつ地域に分かれます。
耕地は、標高0mから1,000m近くにまで分布し、耕地面積の約70%が中山間地域に位置し、起伏の多い地勢にあります。限られた地域の中に複雑な地質が存在するため、地形、地質、気候、植物、動物、温泉、水などすべてにおいて多様なため、各地域で、特性のある地域条件を活かし、米を中心に野菜、果樹、花きの園芸作物や肉用牛をはじめとした畜産など、多様な農業が営まれています。
主要な農産物は、ねぎ、夏秋ピーマン、カボス、干ししいたけなどがあります。「ねぎ」は、干拓地から高原地域まで、標高差を活かした周年栽培が広く行われており、収穫量全国6位となっています。「かぼす」は、全国の収穫量の99%を占めており、県を代表する品目です。果汁飲料がヒットするなど加工需要も高まっています。「大分かぼす」は平成29年5月にGI登録されました。「乾し椎茸」も豊富なクヌギ資源を活用した原木栽培が盛んです。生産量は全国の40%を占め、全国1位です。
2.大分の伝統野菜
大分県では、特に伝統野菜に関する定義はありませんが、各地で古くから栽培されてきた在来種が多種残っています。しかし、その多くは、限られた地域の中で自家用や家庭栽培として育てられているため、市場には出ず、あまり知られていません。
品種として希少性の高いものが多くあり、地域外からの入手は困難だと思われますが、古くから栽培され、自家採種されてきた品種や原種となるものを伝統野菜としてご紹介します。
青蓼(あおたで)
【生産地】竹田市九重町(ここのえまち)
【特徴】タデの一種。青タデとは地方名で、正式にはヤナギタデ。他の地域のヤナギタデより赤みが少ない。湿地を好む。
【食味】葉や実がピリリと辛い。
【料理】香辛料として使われている。川魚を調理する際の臭み消しとして鍋底に敷いて炊くなど。
【来歴】九重町の飯田高原に残る“朝日長者伝説”に、長者様が好んで食したという言い伝えが残されている。また、ラムサール条約湿地であるタデ原湿原の名の由来にもなっている。
【時期】6月頃
【参考資料】
ふるさと自然学校
青長地這胡瓜(あおながじばいきゅうり)
【生産地】別府市
【特徴】果重1㎏前後にもなる大型のきゅうり。表皮の緑色と内部の白色のコントラストがはっきりしている。
【食味】肉厚で、パリっとした歯切れとさっぱりした味。
【料理】色のコントラストが良いことから刺身のツマに使われる。採れたての新鮮な味と風味はサラダにも最適。浅漬、ヌカ漬けなど。
【来歴】大正時代から受け継がれている固定種の胡瓜。別府市内竈の旧家で代々篤農家の右田政幸氏が、門外不出の青首胡瓜を自家採種して栽培を続けてきた。
【時期】6月~10月。別府市内でのみ流通。
臼杵の大生姜(うすきのおおしょうが)
【生産地】臼杵市
【特徴】お多福生姜(おたふくしょうが)ともいう。1つの根茎が、大きいため、調理がしやすい。 【食味】爽やかな芳香と柔らかな辛みがある。
【料理】臼杵の郷土料理きらすまめし、臼杵煎餅、煮物、薬味、香りづけなど
【来歴】国宝の「臼杵石仏(うすきせきぶつ)」で知られる臼杵市では、江戸時代から生姜の栽培が行われており一大産地にもなった歴史がある。「臼杵の大生姜」は、明治40年頃に、四国から臼杵市内門前(もんぜ)に種生姜が導入され、栽培されたのが始まり。しかし、大正時代以降は栽培農家が減少し、自家用程度の栽培にまで減少した。
現在は、地元の後藤製菓が、名物の「臼杵煎餅(うすきせんべい)」に臼杵産の有機生姜を使用して製造している。「臼杵煎餅」は、江戸時代に参勤交代の携行食として作られたのが始まりで、小麦粉を原料とする薄めの煎餅生地に生姜と砂糖でつくった蜜を表面に塗ったもの。臼杵市はユネスコの食文化創造都市に認定されている。
【時期】11月下旬
【参考資料】
臼杵市ホームページ
久住高菜(くじゅうたかな)
【生産地】竹田市久住町
【特徴】阿蘇くじゅう国立公園の一角に位置する久住高原(標高600m)で栽培されている。秋に播種し、春に収穫するが、この地の-10℃を超える厳しい冬を越すことで、独特の風味が出る。他の土地で栽培しても同じものはできない。茎が柔らかく、葉の形がギザギザしているのが特徴。1本ずつ手折って収穫する。
【食味】阿蘇高菜と比べて、やや辛みが強い。
【料理】高菜漬け。漬物用として使われるのは春先のとう立ちした部分。
【来歴】ほとんどが自家用、自家採種。
【時期】3月下旬
【参考資料】
東海漬物「全国漬物探訪 第34回」
椎茸(しいたけ)
【生産地】国東半島宇佐地域(豊後高田市、杵築市、宇佐市、国東市、姫島村、日出町)
【特徴】大分県では現在も原木椎茸の栽培が盛んに行われている。干し椎茸は国内生産の48%を大分県が占めている。
【食味】肉厚で濃厚な香りが特徴。
【料理】焼き物、煮物、炒め物。揚げ物など幅広い料理に利用。
【来歴】椎茸の日本での人工栽培が始まったのは、1600年代中頃(17世紀)頃、現在の大分県津久見市である豊後国の千恕(ちぬ)の浦の炭焼き源兵衛(げんべえ)が、切り捨てた楢(なら)の朽ちた木に、多数の椎茸が発生しているのを発見したのが最初だという説がある。現在、原木椎茸を栽培している国東半島宇佐地域は、豊かな農林産物と生態系をもたらすクヌギ林とため池による循環型農林業が認められ、世界農業遺産に認定された。
【時期】10月中旬頃~4月
【参考資料】
農林水産省
大分県HP「源兵衛塾」
大分県HP「国東半島宇佐地域世界農業遺産」
須藤胡瓜(すどうきゅうり)
【生産地】家庭菜園
【特徴】果実は短太で茶イボ。大葉、茎太で草勢強い。雌花は主枝に殆ど着果せず、側枝も遠成りの晩生種。
【食味】肉質極上。味、香りがはっきりしている。
【料理】生食、サラダ、ピクルスなど
【来歴】大分県久住町の須藤家で代々自然農法により自家採種してきた品種。遺伝資源を保存する目的として、自然農法国際研究センターで収集した在来種。栽培農家はほとんどなく、家庭菜園などで栽培。
【時期】7月頃
【参考資料】
(公財)自然農法国際研究センター
宗麟南瓜(そうりんかぼちゃ)
【生産地】臼杵市
【特徴】日本最古の南瓜。日本かぼちゃの一種。
【食味】ねっとりして甘みが少ない。
【料理】煮物、炒め物、揚げ物、蒸し物、スープ、お菓子など
【来歴】「わが国への渡来は天文10年(1541)頃といわれる。江戸時代後期の農政学者佐藤信淵の著した『草木六部耕種法』によると、天文10年ポルトガル船が豊後(大分県)に漂着し、同17年(1548)藩主大友宗麟の許可を得て貿易を始めたが、この際カボチャを献じたのがわが国のカボチャの最初としている。そしてこれはシャム (タイ)の東のカンボチャ国で産したものであったのでカボチャと呼んだ。」『日本の野菜 青葉高著作選Ⅰ』より。
キリシタン大名として知られ、宗麟(そうりん)の法号で有名な大友義鎮(おおともよししげ)の時代に大分県はポルトガルとの交流が深く南蛮貿易が栄えていた。ポルトガル船が漂着したのを機に貿易を始め、その際に献上された南瓜が日本で最初の南瓜となったとされる。カンポチャ国はカンボジアのことで、ポルトガル人が「Camboja」(カンボージャ)と言ったものが訛(なま)って「かぼちゃ」となったとされる。
この南瓜は、大分県では栽培されなくなっていたが、この種を元に福岡県豊前市で作られていた「三毛門(みけかど)かぼちゃ」を里帰りさせ、2007年から「宗麟南瓜」として栽培を復活させた。
【時期】6月~9月
ちょろぎ(ちょろぎ)
【生産地】竹田市
【特徴】シソ科の多年草。大きさが3㎝程度の巻貝に似た地下茎を食用にする。
【食味】シャキシャキした独特な歯ごたえと食感がある。
【料理】竹田では梅酢に漬けるのが一般的である。黒豆と合わせた縁起物として正月のお節料理を彩る。
【来歴】竹田市ではでは300年前から栽培が続いている。
【時期】11月下旬~12月。県内の道の駅やデパートなどの店頭に並ぶ。
【参考資料】
JAおおいた
マタグロ(またぐろ)
【生産地】玖珠郡九重町飯田地区
【特徴】阿蘇くじゅう国立公園の一角に位置する飯田高原(はんだこうげん)で栽培される里芋の一種。他の里芋に比べ寒さに強く、農業資材がない時代から飯田高原の気候に適応して育ってきた。茎の股の部分が黒いことから、この名がついたという説がある。芋の外観が悪いため商品としては売れにくいため自家用として栽培。
【食味】ホクホクして粘りがあり、身が締まっているので煮崩れしにくい。
【料理】煮物、揚げ物など
【来歴】明治期にはすでに飯田地区で栽培されていたとされる。飯田高原での栽培農家は10軒ほど。
【時期】10月(霜の降りる前)
【参考資料】
飯田がつなぐ食
飯田地区まちづくり協議会公民館だより
みとり豆(みとりまめ)
【生産地】宇佐市長洲(ながす)地区
【特徴】ささげの一種。色は黒紫色と赤色の2種類があり、「黒みとり」や「赤みとり」とも呼ばれている。小豆よりも皮が硬く、風味も異なる。小豆は炊くときに煮崩れて同割れしやすく切腹をイメージさせるため、縁起を担いで皮が破れにくい「みとり豆」が重宝された。
【食味】ささげの独特の風味と歯応え。
【料理】みとりおこわ(赤飯)。炊いても煮くずれることがなくふっくらと仕上がり、ご飯にきれいな色がつく。「黒みとり」は紫色や「赤みとり」は少しピンクがかった色になる。慶事や仏事で色合いを調節する。
【来歴】大分県で古くから受け継がれてきた、自家用のつるなしささげ。莢(さや)は食べずに実だけをとることから「みとり豆」と呼ばれる。宇佐地方を中心とした県北地域では、お盆に小豆の代わりにみとり豆を使った赤飯を作る風習がある。
【時期】7月末~8月上旬頃
【参考資料】
全国学校栄養士協議会「大分県伝えたい行事食」
むたとうきび
【生産地】球磨郡九重町
【特徴】デーントコーンの一種。実が熟し始めるとすぐに硬くなる。実が若く柔らかいうちは人が食べ、完熟して硬くなったら牛の餌にしたり、乾燥させて保存食にしていた。
【食味】モチっとした弾力感のある歯ごたえ。
【料理】焼くと香ばしい。乾燥させた実を一晩水に浸して柔らかくしたものを米と炊いたどうきび飯や粉にして餅に混ぜたとうきび餅にして食す。
【来歴】食用および家畜用餌として昔ながらのとうきびが栽培されてきた。
【時期】スーパーには出回らず、当地でなければ食べられない
【参考資料】
飯田がつなぐ食
九重ふるさと自然学校
屋形島いも(やかたしまいも)
【生産地】佐伯市蒲江(かまえ)屋形島
【特徴】屋形島で栽培されていた紅白のさつまいも。
【食味】
【料理】
【来歴】屋形島は、かつて農民が百姓一揆の島流しにあい流れてきた島とのこと。昔は農業も盛んで、島の中心部には芋や蜜柑の畑だった場所があり、ブタを飼育していた小屋も残っている。人口14人の限界集落(2023年9月現在)。2013年から農林水産研究指導センター農業研究部と地元高校で選抜、保存に取り組んでいる在来種。現在、栽培者はわずか1名。
【時期】
耶蘇芹(やそぜり)
【生産地】由布市湯布院町、竹田市久住
【特徴】湯布院・久住などの山間地に自生する西洋芹(クレソン)。アブラナ科オランダガラシ属。草丈は30㎝から120㎝ほど。繁殖力が強く、野生のものは湧水や小川などの水辺に群生する。
【食味】爽やかな香りと特有の辛味。シャキシャキとした食感
【料理】肉料理の付け合わせ、サラダなど。
【来歴】原産地は中部ヨーロッパとされ、明治初期に外国人宣教師によって日本へ伝来した。湯布院町など大分県内各地の隠れキリシタンの里と称される山深い渓流には、今も耶蘇芹(ヤソゼリ)と名付けられたクレソンが自生しています。
【時期】3月~6月
【参考資料】
坐来大分「由布市クレソン」
3.大分の伝統果樹
大分県では、古くからの果樹の品種も残っています。ここでは、全国的にも珍しくなってしまった梨の一品種や、圧倒的なシェアを誇る「かぼす」の元木、珍しい雑柑(ざっかん)の一種を伝統果樹としてご紹介します。
晩三吉(おくさんきち)
【生産地】日田市
【特徴】日本梨、冬梨。晩秋から翌年春にかけて出回る珍しい梨で、冬に味わえる梨として珍重されている。
【食味】肉質は柔らかく多汁で瑞々しい。甘味と酸味がある。他の梨に比べ、強い酸味があるが、その分、貯蔵性や保存性が高い。長期保存が可能で、貯蔵している間に酸味が徐々に抜けて甘みが増して美味しくなる。
【料理】生食、コンポートなど
【来歴】明治時代から食されていた歴史ある品種。江戸末期~明治初期頃に新潟県中蒲原郡両川村において発見されたとされる。
「三吉(さんきち)」という品種の梨から「偶発実生(ぐうはつみしょう)」で生まれた。その梨が、既存の「三吉」と異なり熟すのが遅かったため、晩生の「三吉」として、「晩三吉」となったとされる。
かつては全国で盛んに栽培されていたが、現在では梨全体の1%未満程度しか栽培されておらず、そのほとんどが大分県で収穫されたもの。
※「偶発実生(ぐうはつみしょう)」とは、人為的に交配されたものではなく、自然に落ちたり、捨てられたり、鳥類等に運ばれた種から親種より優れた形質を持つ品種が偶然に生まれた個体をいう。いわゆる突然変異。今日栽培されている果樹品種のうち相当多数が偶発実生に由来する。
【時期】11月~2月頃
【参考資料】
農研機構
豊洲市場「大玉『晩三吉(おくさんきち)』大分県産」
大分一号(おおいたいちごう)
【生産地】臼杵市、竹田市、豊後大野市、国東市、豊後高田市など
【特徴】かぼす。調味料として使われる他の柑橘類と比べ、果汁が多いのが特徴。
【食味】糖度は平均8~9度。外皮が青いうちはクエン酸もやや強く、甘みの中にまろやかな酸味を出す。日が経つにつれてクエン酸の値は減り、甘みが増す。
【料理】調味用
【来歴】古くから竹田や臼杵地方の民家の庭先に薬用として植栽されてきた。 臼杵市乙見地区に残る言い伝えによると、江戸時代中期の1695(元禄8)年に、宗玄という医師が、京都から苗木を持ち帰り植えたのが始まり。臼杵市内は6本の苗木が植えられ、そのうちの1本が「かぼす」の元祖木になったと伝えられている。
「かぼす」の記述が文献等に初めて登場するのは戦後しばらくたってからの、昭和中期だが、臼杵市内には樹齢300年といわれる古木が存在し、現在も樹齢200年前後の古木が数本点在している。他県にはこのような古い「かぼす」の樹は見られない。
元祖木は1988(昭和63)年に枯れてしまったが、枯れる前に元祖木の穂から育成した樹を二世として育て、さらに2年前に二世も樹勢が弱まったので、同様の処置をし、現在は三世が実をつけている。元祖木からは多くの穂が取られ、その兄弟や子孫は「大分一号」という品種名で呼ばれている。大分県は、国産「かぼす」の生産量の98.5%を占めており、その約70~80%がこの品種である。
【時期】8月中旬から10月下旬
【参考資料】
大分県カボス振興協議会
全農「みのりみのるプロジェクト」
シャンス
【生産地】竹田市
【特徴】雑柑※の一種。地域在来種。生産量は極少量で希少種。
【食味】果皮の色が青く未熟なうちは香りと酸味が強く「酢みかん」として使う。黄色に熟すと上品な香りと柔らかな甘み酸味になる。皮をむいて食べることもできる。サッパリとした甘さで夏みかんやスイーティーのような味わい。
【料理】調味用
【来歴】不詳。200年以上前からあるとされる。竹田市の祖母山山麓地帯に分布する。
【時期】庭先果樹で栽培される家庭用の酢みかん(調味料柑橘)。集団栽培はされていない。
※雑柑とは、柑橘類のうち、系統的にみて類縁関係が明確でなく、その品種や系統のみが存在するような小グループの呼称。日本にはこの仲間が多く、夏橙(なつだいだい)、八朔(はっさく)、伊予柑(いよかん)、三宝蜜(さんぽうかん)、日向夏(ひゅうがなつ)他がある。
【参考資料】
かぼすTV「誰も知らない希少種の柑橘「シャンス」を試食してみる!」
【協会関連記事】