日本の伝統野菜-25.滋賀県
1.地域の特性
【地理】
滋賀県は本州の中央、近畿地方の東部に位置します。面積は約4,017㎢で国土の総面積の約1%を占めており、人口は、141万3611人で全国第26位です。北は福井県、西から南に京都府、南東に三重県、東は岐阜県に囲まれた海のない内陸県8県のうちの一つです。
滋賀県は日本一大きな湖である琵琶湖を擁しています。琵琶湖は滋賀県の面積の1/6を占めているため、内陸県でありながら唯一、漁港を保有しています。漁港の数は山形、福島、富山、鳥取、大阪などの各府県よりも多くあります。
滋賀県は、四方を山に囲まれ、360度のどこを向いても山脈を望むことができ、県の約半分が森林地帯となっています。外周を鈴鹿山脈・伊吹山系・比良山系・野坂山系に囲まれた近江盆地があります。
地域区分は、琵琶湖を中心に、湖南・湖東・湖北・湖西に4区分するのが一般的です。最も商業化・工業化の著しい地域は滋賀県南部に広がる湖南地域で、大津市、草津市など交通の要所とも言うべき地域を含みます。
湖東は湖岸近くの平野部には田園地帯も多く、彦根市や近江八幡市、八日市市など歴史的な都市があります。東へ行くと険しい山間部になります。
湖西は比叡山・比良山系と湖岸に挟まれた細長い平地に田園地帯が連なっています。大津市の北西部、雄琴や堅田も湖西地域とされます。
湖北は概ね山間部で、豪雪地帯でもあるためスキー場が多くあります。
滋賀県は京都に近いこともあり、世界遺産に選ばれた比叡山延暦寺や石山寺、三井寺、近江神宮、多賀大社など多くの歴史ある寺社が存在するのも特徴です。
【気候】
全域が内陸性気候ですが、近江南部は温暖な太平洋側気候です。湖北および近江西部は日本海から吹き込む冬型の北西の季節風の影響により、冬期に雪による降水量が多い日本海側気候となっています。
また、湖東、東近江および甲賀の内陸部は昼夜の気温差が大きく、年間の降水量が比較的少ない内陸気候を示しています。
比良山山ろく(湖西地域)では、「比良おろし」という北西の局地風があります。しかし、琵琶湖があるため他の盆地と比較すると、夏の暑さと冬の寒さは幾分穏やかです。
湖西・湖北は大部分が特別豪雪地帯や豪雪地帯に指定されており、特に旧余呉町は近畿以西唯一にして日本最南端の特別豪雪地帯となっています。
【農業】
県の経営耕地面積は51,200haで、内、田が47,400ha、畑が3,850ha(2020年)で全国第28位です(農林水産省「作物統計調査 令和2年」より)。滋賀県は水田率が高く、米を中心に麦、大豆等を組み合わせた水田農業が主体です。集落営農が広く展開されており、その数は全国第6位です。
担い手の集積状況は集積率62.1%と高く、全国第8位となっています。農畜産物の生産状況は、六条大麦が全国第3位、かぶが第4位、大豆が第5位、なたねが第6位です。
滋賀の⾵⼟と歴史の中で⽣み出されてきた「琵琶湖と共⽣する農林⽔産業」が「琵琶湖システム」として⽇本農業遺産に認定されています。この取り組みは、琵琶湖と共⽣する農⼭漁村の魅⼒と価値の発信や、県産物の⾼付加価値化および観光資源としての活⽤等によって農林⽔産業を健全な姿で次世代に引き継ぐことを目指しています。
2.滋賀の伝統野菜
滋賀県は、日本有数の消費地である京都・大阪を支える農業県でもあり、また、全国各地に足を運んだ近江商人の故郷として有名です。同地は近江商人が全国から持ち帰った野菜を守り育ててきた歴史があり、伝統野菜の宝庫です。滋賀県の伝統野菜は明治以前からこの地で守り育てられてきた歴史があり、各地域になくてはならない野菜として、郷土料理や保存食となり、滋賀の人達の食生活をしっかり支えてきました。
独自の味わい、多彩な色・形など、それぞれに豊かな個性を持つ「近江の伝統野菜」として、以下の定義によって認定され保護されています。
・原産地が滋賀県内で概ね明治以前の導入の歴史を有している。
・外観、形状、味等に特徴がある特産的な野菜。
・種子の保存が確実に行われている。
ここでは、滋賀県が「近江の伝統野菜」として認定している野菜をあいうえお順で紹介します。
鮎河菜(あいがな)
【生産地】甲賀市
【特徴】茎、葉、蕾全部食せる。越冬で甘味凝縮、食べごろは「とう立ちの頃」。
【食味】蕾部分は多少苦みがあるが、茎葉は甘く生食できる。
【料理】お浸し、揚物、漬物、サラダ。
【来歴】地元の人が「あいが」と呼ぶ地区だから。栽培は平安時代まで遡る。
【時期】3月、4月
赤丸かぶ(あかまるかぶ)
【生産地】米原市
【特徴】根部の直径は9~10cmの円~やや楕円で、表面は濃紅色で、茎の根元、かぶの中身ともに赤い。
【食味】肉質はよくしまり、漬物にすると甘い。
【料理】漬物、サラダ、炒め物
【来歴】米原市で古くから栽培。
【時期】11月~3月
伊吹大根(いぶきだいこん)
【生産地】米原市
【特徴】15~20cmの小型の寸胴型。尻は丸くて根は太短く末端は細い。首の部分と葉身ともに紫赤色。
【食味】特有の刺激的な辛みがあるが、辛すぎず、甘みがある。
【料理】生、薬味、煮物、漬物
【来歴】伊吹山麓で栽培、1967年の「農業全書」に既に記載がある。
【時期】11月~2月
近江かぶら(おうみかぶら)
【生産地】大津市
【特徴】白色の小~大かぶで、扁平な形状と。
【食味】緻密な肉質
【料理】漬物
【来歴】京の伝統野菜、聖護院鏑のルーツと言われている。
【時期】11月~2月
大藪かぶら(おおやぶかぶら)
【生産地】彦根市
【特徴】葉は緑色、根部は、地表に出ている部分がまだらな紫赤色、地中部は白色。
【食味】一般的な白かぶより風味がある。
【料理】煮物、漬物、サラダ。
【来歴】
【時期】11月、12月
北乃庄菜(きたのしょうな)
【生産地】近江八幡市
【特徴】形は下部にふくらみがあり、色は首の部分が紫紅色、下部が白色である。茎は薄紫紅色である。
【食味】肉質は緻密で辛味と酸味のバランスがよい。
【料理】漬物、煮物、炒め物等
【来歴】近江八幡市北之庄地区で江戸時代から栽培されてきた。
【時期】11月~2月
小泉紅かぶら(こいずみべにかぶら)
【生産地】彦根市
【特徴】根部、茎は濃い紅色で中は白い。長さ10㎝余りのしもぶくれ型が特徴。
【食味】硬く歯応えがあり粘りもある。
【料理】漬物
【来歴】江戸時代から親しまれ、彦根藩主に献上した記録もある。
【時期】11月、12月
坂本菊(さかもときく)
【生産地】大津市
【特徴】径は3センチで、鮮やかな黄色と香りの強さ、花びらが丸く筒状。
【食味】シャキシャキとした食感
【料理】茹でてお浸し、酢の物、サラダ、添え物。
【来歴】平安時代から栽培。
【時期】11月
下田なす(しもだなす)
【生産地】湖南市
【特徴】皮は薄く、実は柔らかい。アクが少なく、ほんのり甘みがある。小ぶり(6~7cm程度)で色は薄紫色。
【食味】きめ細かく甘みのある味
【料理】漬物、煮物、炒め物、焼物等
【来歴】明治時代から栽培されている。
【時期】8月~10月
杉谷なすび(すぎたになすび)
【生産地】甲賀市
【特徴】丸く直径10cm程度、300g~400gと大きく重さもある。色は黒に近い。
【食味】皮が柔らかく、皮ごと食べられ甘みがあり、生で食べると梨の食感がする。煮くずれせず、油によく合う。
【料理】漬物、生、サラダ、煮物、焼物、炒め物等
【来歴】江戸時代から栽培されこの地域しか育たないとされる。
【時期】9月
杉谷とうがらし(すぎたにとうがらし)
【生産地】甲賀市
【特徴】辛くなく甘みがある。小ぶりで「く」の字形をし色は緑。皮が薄く生でも食べられる。
【食味】みずみずしい食感。
【料理】サラダ、焼物、煮物。
【来歴】江戸時代からこの地で栽培。
【時期】8月~10月
豊浦ねぎ(といらねぎ)
【生産地】近江八幡市
【特徴】九条系の葉ねぎで、根元の少し曲がった青ねぎである。柔らかく細身であるが、根元の白い部分がやや多いのが特徴。
【食味】糖度が高く、シャキシャキして歯ごたえがよく、炊いても煮くずれしない。
【料理】生、煮物、焼物、炒め物等
【来歴】安土町下豊浦地区で織田信長も好んで食し、江戸時代から本格的に栽培開始。
【時期】12月~3月
秦荘のやまいも(はたしょうのやまいも)
【生産地】愛荘町
【特徴】色は全体的に黒く、表面には凸凹があり、様々な形状のものがある。
【食味】粘りが強くまろやか。甘くて味が濃くおいしい。
【料理】おろし、蒸し、揚物
【来歴】伊勢参りのお土産として持ち帰り、300年前に栽培開始。
【時期】11月、12月
日野菜(ひのな)
【生産地】日野町
【特徴】太さは100円玉程度、長さ30cm程度で細長く、鮮やかな、紫紅色と白色がくっきりと色分けされている。葉も濃い紅紫色である。
【食味】味は独特な苦味、辛味を含んだ風味が特徴でくせになる。
【料理】漬物、揚物、サラダ
【来歴】約500年前、時の領主蒲生貞秀が日野町鎌掛(かいがけ)で発見した、と伝わっています。滋賀県発祥の野菜の中では全国に広まった最も有名な野菜。現在では九州~信越の幅広い地域で栽培されている。
【時期】10月~12月
水口かんぴょう(みなくちかんぴょう)
【生産地】甲賀市
【特徴】ふんわりと柔らかく、煮えやすいこと、煮物のだしをよく含むことが一番の特徴。大丸型種で表皮は淡緑色、果肉は純白である。天日干し。
【食味】独特の柔らかさがあり、味がしみやすい。出汁をよく含む食感と味わいがある。
【料理】煮物
【来歴】江戸時代からこの地で栽培。東海道五十三次水口町の風景画に描かれ、松尾芭蕉の句「夕顔にかんぴょうむいて遊びけり」がある。水口かんぴょうは、かんぴょうの発祥地とも言われている。2024年3月27日に農林水産省の地理的表示(GI)保護制度の登録を受けた。
【時期】通年
守山矢島かぶら(もりやまやじまかぶら)
【生産地】守山市
【特徴】紫色と白色のツートーンカラーが特徴
【食味】ほんのり甘味がある。
【料理】漬物、サラダ、煮物
【来歴】永禄年間(1560年頃)に織田信長が寺院を焼き討ちした後、カブをまいたところ彩の良いカブができたという説。
【時期】11月~1月
弥平とうがらし(やへいとうがらし)
【生産地】湖南市
【特徴】光沢のある鮮やかなオレンジ色の実で、強い辛みがある。タバスコの3倍、鷹の爪の2倍もの強烈な辛さ。
【食味】辛さの中にひろがる甘みと、鼻をすっとぬけるような芳醇な香りがある。
【料理】カレー、ピリ辛スープ
【来歴】100年以上前、朝鮮半島から持ち帰ったという説。
【時期】8月~10月
山田ねずみ大根(やまだねずみだいこん)
【生産地】草津市
【特徴】肉質が柔らかく、きめが細かい。白首で根の長さが20~25cm程度と短く、尻の部分が少し膨らんでいる。
【食味】皮が薄く、特に漬物にした際に歯ごたえがよい。辛みが少なくサラダにも合う。
【料理】漬物、煮物、サラダ
【来歴】根の先がねずみのしっぽのように細くなっていることに加え、尻が膨れた胴の部分がねずみのように見えることから「山田ねずみ大根」と呼ばれている。
【時期】12月
万木かぶ(ゆるぎかぶ)
【生産地】高島市
【特徴】根部は9~10cmの球形で全体はうすい鮮やかな紅色で艶がある。根を切ると中は白い。
【食味】肉質は柔らかすぎず堅すぎず、適度な歯ごたえがある。
【料理】漬物、煮物
【来歴】明治初期に地元の農家が開発、中期に栽培。主な産地名で呼ばれるようになった。
【時期】11月~3月
【参考資料】
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