日本の伝統野菜-02.青森
目次
1.地域の特性
【地理】
青森県は本州の最北端の県です。県面積は9,644km2で、全国8位で国土の約2.5%を占めます。
陸地は奥羽山脈(おううさんみゃく)によって太平洋側と日本海側に分けられます。日本海側が津軽(つがる)地方で、津軽平野や青森平野があります。太平洋側は青森県の南部に位置し、八戸(はちのへ)平野や三本木原(さんぼんぎはら)台地など低地があります。北には半島が2つ突きでており、東側が下北(しもきた)半島、西側が津軽半島です。南西部の秋田県とのさかいには、白神山地(しらかみさんち)があります。白神山地はブナの原生林として有名で世界遺産に登録されています。
海洋は太平洋と日本海に面しています。下北半島と津軽半島のあいだの湾は陸奥(むつ)湾です。津軽半島と北海道のあいだの海峡は津軽海峡です。また、江戸時代の大地震で沢がせき止められ、その時にできた十二湖(じゅうにこ)をはじめ数々の湖があるのも青森県の特徴です。
県の人口は2023年7月1日の時点で約118.8万人です。
【気候】
青森県の気候は、那須(なす)火山帯の山麓(さんろく)および西側は日本海側気候、それ以外の地域は太平洋側気候です。
下北半島など太平洋側の一部は夏も冷涼のため、定義上では西岸海洋性気候とされることもあります。また、山岳地帯や碇ヶ関(いかりがせき)など南部の内陸部は亜寒帯湿潤気候(あかんたいしつじゅんきこう)です。
南部になるほど内陸性気候のため雪は少なくなるものの寒さが厳しい気候です。北部は海洋性気候のため寒さは南部ほど厳しくありません。
日本有数の豪雪地で、県内全域が豪雪(ごうせつ)地帯に指定されており、そのうち一部地域は特別豪雪地帯に指定されています。青森市は都道府県庁所在地都市では唯一、市域すべてが特別豪雪地帯に指定されています。
日本海側沿岸部は緯度の割には温暖ですが、冬季の日照時間は非常に少ないことが特徴です。太平洋側の内陸部を除き、全般に1日の最高気温と最低気温の差(日較差)は小さく、日中の気温も低く、1月の平均最高気温は−5.5°Cにしかなりません。
【農業の特徴】
青森県は国内でも有数の生産高を誇る農業生産地の一つです。津軽平野や南部平野、山岳に富んだ地形を有しており、地域によって気候が大きく異なるため、地域特性にあった農業が営まれています。北海道や岩手県、秋田県、山形県などと共に、自給率 100% を超える数少ない県です。
主力はりんごの生産で、農業産出額の約27%を占めています。特に県西部の津軽平野でのりんご栽培が盛んです。また、南部ではゴボウ、ニンニク、ナガイモなども多く生産しています。青森県と秋田県にまたがる白神山地はブナ林が多く、自然に成育している山菜が多く、十和田湖八幡周辺にも山菜やキノコが生育しています。これらの地域には山菜やキノコが豊富なため、山菜料理や薬膳料理などが考案されています。
2.青森県の伝統野菜
青森県の伝統野菜は、特に明確な定義はありません。
自然豊かな青森県では、他にも、シードバンクなどで保存されている伝統野菜の種があったり、古くから受け継がれている野菜がありそうですが、とりあえず、ここでは消費者が手に入れることのできる阿房宮、一町田せり、おこっぺいも、がんくみじか、毛豆、小八豆(大鰐温泉もやし)、笊石かぶ、筒井紅かぶ、清水森なんば、南部太ねぎ、糖塚きゅうりの11品種の伝統野菜を紹介します。それと合わせて福地在来にんにく由来の福地ホワイトを紹介します。
阿房宮(あぼうきゅう)
【生産地】八戸を中心に三戸に至る青森県南部
【特徴】食用花。花色が黄色で花肉が厚い。
【食味】香気がよく、甘く、苦味がない。歯ざわりもよい。大きな花びらを野菜として食べる食用菊。生の花は茹でてお浸しや味噌汁の具として利用されることが多い。蒸してから干した「干しギク」は、湯がくだけで冬の食卓を賑わす料理となる。
【来歴】天保年間(1830~1844)に八戸の商人・七崎半兵衛が大阪から取り寄せた鑑賞ギクを改良した栽培品種であるという説と、南部藩主が京都九条家の庭に香り高く咲いていた阿房宮を株分けしてもらい、南部の藩内に植えさせたのが始まりだという説がある。
明治14年(18811)に酢漬け缶詰が開発されており、おそらく、それ以前から食用とされていたと思われる。秦の始皀帝の阿房(内南市)という豪華絢爛の宮殿にちなんで、阿房宮と命名された。
【収穫時期】収穫時期10月下旬~11月上旬
一町田せり(いっちょうだせり)
【生産地】弘前市一町田地区
【特徴】せり。
【食味】独特の強い香りとシャキシャキとした食感が特徴。鍋物のほかおひたしやみそ汁、漬け物などで食べる。おすすめはは「鍋焼きうどん」。
【来歴】湧き水が豊かな弘前市の一町田地区は、江戸時代からせりの栽培で有名。津軽ではせりの収穫時期に当たる11月下旬以前から気温がグンと下がるので、せりの耐寒性が強まり、独特の強い香りとシャキシャキした食感が生まれる。鍋物や雑煮などに利用される。
【収穫時期】11月下旬
おこっぺいも
【生産地】大間町奥戸(おこっぺ)地区
【特徴】じゃがいも。皮は黄色で、扁卵形の大きめ。
【食味】粉質で白く、芯までホクホクして粉を吹くが、サラサラした食感。淡白でいてコクがある。
【来歴】男爵いもより3年早い明治38年にアメリカから導入された「バーモント・ゴールド・コイン」という品種で和名である「三円薯(さんえんいも)」を栽培し、「オコッペいもっこ」の商品名(ブランド名)で販売。「三円薯」は、当時、白米が1俵で5円30銭だったのに対し、この種いもが6個で3円という大変高価であったことから、その名前がつけられたといわれている。県の奨励品種にもなった「三円薯」だが、一時は消滅の危機を迎えた。しかし、食味や収量性に優れていたことから、奥戸地域では自家用として作り続けてきた。近年では、品種の純粋性を保ち、より優れた種いもの供給に取り組むために、種いも圃場を設置、大間町から委託を受けたJA十和田おいらせが種いもを管理・供給している。
【収穫時期】
がんく短(がんくみじか)
【生産地】東北町、五戸町、十和田市を中心に栽培されている。
【特徴】ながいも。首が短く肉づきが良い。色白で粘りが強くアクが少ないのが特徴。
【食味】サクサクとした歯ごたえをもつ。秋に収穫したものは完熟したてのみずみずしさがあり、春収穫のものは熟成したうま昧がある。千切りやとろろなどの生食のほか、地元では煮物、炒め物、揚げ物などで食べる。
【来歴】長芋の一種。青森県で栽培されている長芋はほとんどが本種である。水分が多く、粘りは少ない。
【収穫時期】収穫時期は晩秋と春の2回
毛豆(けまめ)
【生産地】津軽地方
【特徴】枝豆。黒目青大豆の一種。茎、葉、さやなどが金茶色の細かな毛に覆われており、毛豆の本来の姿をしている。毛豆の毛は、外部との水分調節や、内側から分泌される香りや旨味を閉じ込める働きがある。また、害虫を防御する。
【食味】大粒で甘くコクがあり、栗のような食味が特徴
【来歴】主に雪深い津軽地方を中心に、農家の自家用として栽培されてきた。かつては、各農家の田の畦や苗代などに植えられ、自家消費されたり、近郊でのみ出回っていた。毛豆の種を取り、育てるのは、嫁の役目とされ、家族のために美味しい豆を育てようと、栽培方法などを工夫し、試行錯誤を繰り返して食味が向上したとされる。収穫時期は一般的な枝豆と比べて一ヶ月ほど遅い。
【収穫時期】9月中旬から10月上旬
小八豆(こはちまめ/こはつまめ)大鰐温泉もやし
【生産地】大鰐町
【特徴】もやし。長さ40cmほどに育つ。一般的には「大鰐温泉もやし」と呼ばれており、温泉の熱を使って土耕栽培する。
【食味】大豆もやしとそばもやしの2種類がある。歯ごたえと独特の香りが特徴的で、加熱してもこのシャキシャキとした食感が失われない。
【来歴】津軽藩御用達で冬の間だけ栽培されてきた津軽の伝統野菜。江戸時代の弘前藩3代目藩主 津軽信義公(1619~1655年)が栽培を推奨したという記録が残っており、350年以上の歴史がある。栽培者が極めて少なく、種は門外不出で、栽培法も秘伝という貴重なもの。温泉熱を利用した土耕栽培で、水道水ではなく温泉水をかけて育てられている。
「大鰐温泉もやし」は、栽培方法が独特で、一般的なもやしが暗い部屋の中で緑豆に水をかけて水耕栽培するところを、温泉の熱を利用した土耕栽培を行っている。江戸時代からの栽培方法のままで、土の畑に「沢」と呼ばれる穴を掘って種を蒔き、ワラで光をさえぎること1週間。温泉の熱で、土の温度は常に30°C程度に保たれるこの環境で発芽したもやしは、40センチほどにまで成長する。収穫後のもやしから土を落とす作業にも温泉水を使う。現在の大鰐温泉もやしの生産者は6軒。
【収穫時期】通年
笊石かぶ(ざるいしかぶ)
【生産地】筒井地区、南津軽郡田舎館村の豊蒔地区
【特徴】かぶ。果皮は淡い紅色で、果実はピンク色の洋種系の赤かぶ。
【食味】酢漬け、塩漬け、糠漬けなどの漬物に利用されている。
【来歴】平家の落人が青森県久栗坂(くぐりざか)地域にもち込んだことから栽培が広がったといわれている。ほかの在来種の「筒井かぶ」は青森県筒井地区で栽培されてきた。漬けると紅くなる赤カブ系の「豊蒔(とよまき)紅かぶ」は南津軽郡田舎館村の豊蒔地区で栽培されてきたが、最近は栽培量が減少している。現在は生産者も高齢化し、自家用分または身内に配る程度しか栽培していない。
現在、「笊石かぶ」と「筒井紅かぶ」の種子は青森県産業技術センター野菜研究所が選抜・採種したものを、青森市農業振興センターで増殖している。生産基盤強化の試験の一環として栽培者に種子を無償配布している。
【収穫時期】播種8月 収穫11月 自家用分程度の生産しかない
清水森なんば(しみずもりなんば)
【生産地】清水森地区
【特徴】とうがらし。
【食味】マイルドな辛みでししとうに近く、口に入れた瞬間は甘みを感じるほど。糖分を多く含み、ビタミンBやCも豊富な野菜。
【来歴】津軽の在来とうがらしで、江戸時代後期に弘前藩の初代藩主・津軽為信(1550~1608)が京都からもち帰り、清水森地区で栽培させたのが始まりだといわれている。400年以上の歴史のある食材であるものの忘れられていたが、最近、地元の人々によって復活された。
【収穫時期】8月中は青なんば、秋になると赤なんばと呼ばれ10月まで収穫が続く。
南部太ねぎ(なんぶふとねぎ)
【生産地】南部町
【特徴】ねぎ。太いものでは白根の部分が直径3センチを超え、長さも1メートル前後まで育つ。
【食味】太さと甘味が最大の特徴。緑の葉の部分も柔らかくまるごと1本食べられる。
【来歴】南部町の生産者によって品種研究され、昭和39年に農林水産省に種苗登録された南部町の伝統野菜。絶滅しかけていたが、町内にただ一人残っていた栽培者から青森県立名久井農業高校の生徒たちが種を譲り受け、学校のほ場で栽培し、種を取り、今につなげてきた。その思いは、当時30代の若手農家に引き継がれ、今や少しずつ生産面積を増やし、復活の道筋をたどっている。
【収穫時期】10月下旬から収穫、11月いっぱい流通
筒井紅かぶ(つついあかかぶ)
【生産地】青森市筒井
【特徴】カブの一種。腰高の丸カブで皮は濃い紅色。葉は立ち、葉柄、葉脈も濃い紅色になる。根の肥大は比較的遅い。
【食味】生で食べると硬く、やや辛味がある。加熱すると甘みが出る。
【料理】漬物、焼き物、汁物、スープ
【来歴】100年以上前から栽培されている。平家の落ち武者伝説がある。2014年9月の時点で栽培農家は1軒まで減少した。2020年度からは青森市が「笊石かぶ」と「筒井紅かぶ」の試験栽培と販売促進に本腰を入れ、6人が栽培することになった。さらに2021年度からは7人になる予定。「伝統野菜復活ゴーサイン筒井赤かぶ、笊石かぶ」(東奥日報、2020年5月13日記事)。種子は青森県産業技術センター野菜研究所が選抜・採種したものを、青森市農業振興センターで増殖している。生産基盤強化の試験の一環として栽培者に種子を無償配布している。
【収穫時期】10月下旬から11月上旬
糖塚きゅうり(ぬかづかきゅうり)
【生産地】八戸市、新郷村、七戸町などの県南地方
【特徴】きゅうり。ずんぐりとし、短くて太く、半白に近い黄緑色の果皮に黒いイボがあるシベリア系在来きゅうり。
【食味】肉厚でやや苦味がある。果肉がかたく、メロンのような香りがある。皮をむいて味噌をつけて生食するほか、酢の物、味噌漬けなどで食べられている。
【来歴】糠塚きゅうりの来歴は明らかでない。シベリア系のキュウリで藩政時代に、現在の青森県八戸市糠塚地域にもち込まれて栽培されたのが始まりとの説がある。地元でも「幻のきゅうり」といわれ、自家用や朝市のために栽培されている程度。
【収穫時期】収穫7~8月 地元だけで流通
おまけ・福地ホワイト(ふくちほわいと)
【生産地】太平洋沿岸の県南地域の十和田市、天間林村、東北町、田子町、倉石村、新郷村などに集中。
【特徴】にんにく。寒冷地系で、ほかの品種に比べて鱗茎は重く、色は白い。鱗片数は5~6個で、各鱗片は重く、外皮は白い。
【食味】健康食品、香味野菜として利用。西洋料理の香味付けには欠かせない。
【来歴】昭和30年代後半、青森県農業試験場が、青森県の風土・気候に適した品種として改良栽培したものである。福地村から収集した「福地在来種」に由来する品種である。産地が拡大しているため、収穫時の根切りや掘り取り、収穫後の乾燥や調製作業は機械で行われるようになっている。ニンニクの貯蔵は、一年中出荷できるようにCA(controlled atmosphere)貯蔵を行っている。出荷先は関東・関西が中心。
【時期】出回り時期通年
【参考資料】
成瀬宇平・堀知佐子(2009)『47都道府県・地野菜/伝統野菜百科』丸善出版株式会社
青森産品情報サイト「青森のうまいものたち」
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