日本の伝統野菜-18.福井県

1.地域の特性

【地理】

福井県は、本州日本海沿岸部の中央付近に位置し、面積は4,190平方㎞の面積(全国第34位)を有してます(2016年)。人口は767,433人で全国第43位です(2020年)。山岳面積が広く、県土の約75%が森林となっています。

石川県、岐阜県、滋賀県、京都府の4府県に隣接しています。地理上は北陸地方または中部地方と分類されますが、行政管轄区分において近畿地方とされる場合もあります。
敦賀市の北東にある山中峠から木ノ芽峠を経て、栃ノ木峠に至る稜線で「嶺北」、「嶺南」といわれる二つの地域に分けられています。この二つ地域は、地形、気候などの自然面だけでなく、社会、文化の面でもかなりの違いを見せています。
嶺北地方の海岸線には見事な段丘が発達していて、これらの海岸線が浸食された海食崖と奇岩が造る男性的な隆起性の岩石海岸は、越前加賀海岸国定公園に指定されています。一方、嶺南地方は、典型的なリアス式海岸の景勝の地に恵まれています。

日本海及び若狭湾の福井県海域には周囲0.1km以上の島が58あり、それらは全て無人島です。「白山国立公園」や「奥越高原県立自然公園」に代表される緑豊かな山々、「若狭湾国定公園」や「越前加賀海岸国定公園」の変化に富んだ海岸、湿潤な気候が育む豊富な水資源など、越山若水(えつざんじゃくすい)と称される豊かな自然環境に恵まれています。

 

【気候】

月平均気温の平年値は15.6度、年間降水量の平年値は2,027mmで日本海型気候です。冬期はシベリア寒気団による影響で風雪共に強く、県内全域が豪雪地帯に指定されています。中でも、特別豪雪地帯の大野市・勝山市・池田町・南越前町の旧今庄町は全国屈指の積雪量であり、大野市では年間降雪量500cm、最深積雪100cmを超えます。

内陸と海岸部では、気候が大きく異なり、内陸部ではいわゆる北陸型の気候に属し、冬にはシベリア寒気団の影響で多量の雪が降ります。降水量は年間3,000mm以上にも達し、晴天日数は年間100日にもなりません。
一方、海岸部では対馬暖流の影響を受けて、冬でも比較的暖かく、特に嶺南地方では南に向けて次第に北陸型から山陰型の気候となり雪よりも雨の日が多く、年間の降水日数は170日あり「弁当忘れても傘忘れるな」という天気の格言が存在し全国的にも多雨域に属します。

 

【農業の特徴】

福井県の経営耕地面積は40,000haで、内、田が36,300ha、畑が3,710ha(2020年)で全国第34位です(農林水産省「作物統計調査 令和2年」より)。

農業産出額は470億円で、全国第44位。米の産出額は305億円で20位、県の農業産出額の65%を占めています。基幹的農業従事者数は1万4,165人で、全国第42位。うち65歳以上は79.4%で全国平均より14.8%高いのが特徴です。

高齢化に対応するためにも、九頭竜川下流地区でICTを活用したスマート農業実証プロジェクトを行い、福井県の栽培体系となっている水稲、六条大麦、大豆の 2年3作について、メガファーム構想(100ha規模)の経営体をモデルとし、 労働時間の3割減と収量の1割アップを目指すとしています。

福井県発祥のコシヒカリを中心とした水稲のほか、作付面積、収穫量ともに全国1位の六条大麦をはじめ大豆、そばが本格的に生産されています。コシヒカリの後継として「いちほまれ」が誕生し、平成29年産から作付けが始まりました。

また、メロン、すいか、らっきょう、うめなども作付けられているほか、GI「地理的表示保護制度」の登録も積極的に行われており、平成28年「吉川ナス」、「谷田部ねぎ」、「山内かぶら」、平成29年「上庄さといも」が登録されています。

 

2.福井の伝統野菜

福井では伝統野菜を以下のように定義して保存に努めています。

一、生産者自らが、種をとり栽培している。

二、100年以上前から栽培されている。

三、地域に根ざした作物である。

そして、この三つの条件を満たした伝統野菜を「福井百歳やさい」と名付けています。

名前に年齢が冠されている理由は、福井が生んだ食育の祖、「石塚左玄」の教えにある「身土不二」という教えにもとづきます。身土不二とは、人の身体と土地は切り離せない関係にあるという意味を表し、地元で育てられた食べ物を、旬の時期に食べるのが一番健康に良いという考えです。

 

明里ねぎ(あかりねぎ)

【生産地】福井市明里地区光陽1丁目

【特徴】葉ネギと根深ネギの中間、葉が柔らかく太めで、緑の部分が長いのが特徴。

【食味】甘みが強い.

【料理】薬味、煮物とあらゆる料理に使われる。

【来歴】

【時期】10月~11月

 

穴馬かぶら(あなまかぶら)

【生産地】大野市(旧:和泉村)

【特徴】かぶらの上半分が赤、下半分が白という色合いが特徴的.

【食味】肉質はやわらかで、きめが細かく、甘味があります。

【料理】漬物、サラダ、天ぷら、味噌汁.

【来歴】村が合併する前に使われていた「穴馬」という地名が名前の由来。

【時期】11月~12月

 

嵐かぶら(あらしかぶら)

【生産地】大野市上打波嵐地区

【特徴】焼畑農法、小ぶりで、外側の色は上部が赤紫色、下部が白色で、内部は白色。

【食味】肉質はしまっているが、柔らかく甘味がある。

【料理】漬物、サラダ

【来歴】大野市上打波の嵐集落で作られていた。

【時期】11月

 

板垣だいこん(いたがきだいこん)

【生産地】福井市木田地区

【特徴】宮重系の細根で小ぶり。細根の中央がやや太めで、首部から尻にかけ、すんなりとした形。小指ほど細いものでも首部の色が鮮やかな緑色をしているのが特徴。

【食味】辛みが強い、緻密な肉質

【料理】蕎麦の薬味、するめ大根

【来歴】江戸中期の諸国産物町に記載があるが、本格的な栽培は明治初期で麻との輪作として始まったとされる。明治時代に選抜・育成され、代々受け継がれてきた。

【時期】10月

 

越前白茎ごぼう(えちぜんしらくきごぼう)

【生産地】坂井市春江町(旧:春江町木部西方寺)

【特徴】根っこや茎、葉も全て食べることのできる珍しいタイプのごぼうで、根は短く茎は白くて長いのが特徴。

【食味】しゃりしゃりとした食感でクセのない味わい。

【料理】天ぷら、おひたし、きんぴら

【来歴】平安時代以前にシベリアから渡来し根付いたといわれている。

【時期】3月上旬~5月下旬と11月上旬~12月下旬

 

奥越さといも(おくえつさといも)

【生産地】大野市上庄地区・大野・勝山管内

【特徴】大野在来品種。肉質のしまりが良いため煮崩れしにくく、モチモチした食感が特徴。

【食味】引き締まった肉質でモチモチとした食感。

【料理】煮物、焼物、コロッケ

【来歴】何百年も前から越冬用の貯蔵作物として自給的に栽培されてきた。「上庄さといも」については地理的表示(GI)保護制度に登録。

【時期】11月~12月

 

堅瓜(かたうり)

【生産地】福井県全域

【特徴】果肉が固く歯ごたえが特徴。

【食味】色白で厚く、硬く「カリッ」という歯切れが抜群。

【料理】奈良漬けやみそ漬け

【来歴】漬物にした時の「カリッ」という歯切れから自然と名付けられました。

【時期】6月~7月

 

勝山水菜(かつやまみずな)

【生産地】勝山市高島地区

【特徴】菜種に近い品種であり、その太い茎(とう)が特徴的。

【食味】独特の甘み、そしてほろ苦さがある。

【料理】おひたし、磯部巻き、お茶漬け、味噌汁、鍋物

【来歴】地域名と他の菜類に比べてアクがなく、みずみずしいことから、明治以前から受け継がれています。

【時期】2月~3月

 

蛙瓜(かわずうり)

【生産地】福井市(旧:東安居・高屋町)

【特徴】シロウリの一種。表面が淡緑色の肌にカエルの背中のような濃緑色の模様がある。

【食味】肉質はきめがこまかく、歯切れが良くしっとりした食感。

【料理】漬物

【来歴】朝鮮半島から中国華北由来で、福井在来の「カタウリ」と交雑、嶺北地域を中心に昭和の時代から作られてきた瓜。昭和20年頃から市場に出回っている。

【時期】6月~7月

 

木田ちそ(きだちそ)・木田ちりめんじそ(きだちりめんじそ)

【生産地】福井市木田地区

【特徴】紫蘇(しそ)の一種。香りの強さ、葉の縮れが強く肉厚、美しい赤紫色。

【食味】濃厚な香りとまろやかな甘さ。

【料理】梅干し、ジュース

【来歴】地名の「木田」と「しそ」がなまって「ちそ」となった。木田ちりめんが出荷されるようになったのは、明治末期~大正初期であろうと推定されるが、2009年6月の福井新聞で「140年の伝統「木田ちそ」収穫 福井で農家10軒が汗」という見出しの記事があるため、栽培はさらに古くから行われていたと思われる。

【時期】6月~7月

レファレンス共同データベース

 

くぼ丸なす(くぼまるなす)

【生産地】美浜町久保地区

【特徴】テニスボールくらいのサイズ、肉質はち密で皮が薄く、しかも荷崩れしにくいのが特徴。

【食味】独特のフルーティーな香りと甘み。

【料理】麹漬け

【来歴】地域に受け継がれてきたナスを「くぼ丸なす」と名付け福井県の伝統野菜の認定。

【時期】7月~9月

 

黒河マナ(くろかわまな)

【生産地】敦賀市

【特徴】甘味とほろ苦さが特徴。

【食味】ほろ苦い独特の風味。

【料理】おひたし、漬物、天ぷら

【来歴】高菜となたね類との自然交雑によりできたのではないかと言われている、100年以上栽培。

【時期】3月

 

河内赤かぶら(こうちあかかぶら)

【生産地】福井市美山地区

【特徴】山奥の斜面の山で焼畑栽培。形は豊円から扁円球で全体に鮮紅色を呈し、果肉まで紅色の色素が入ります。

【食味】しっかりとした歯ごたえと独特なほろ苦さ。

【料理】漬物、味噌汁、生食

【来歴】850年以上の歴史、栽培の歴史は古く、平家の落人と結びついた言い伝えがあります。焼き畑栽培で継承されてきましたが、現在では平地での栽培。

【時期】10月~3月

 

古田苅かぶら(こだかりかぶら)

【生産地】敦賀市古田刈地区

【特徴】腰高偏円の中型カブで、色は純白で光沢がある。

【食味】肉質は軟らかく、甘みがある。

【料理】漬物、サラダ

【来歴】敦賀市古田苅集落で昔から伝わる。三百年ほど前に僧により関西方面から伝えられたとの説。

【時期】11月~12月

 

三年子らっきょ(さんねんごらっきょ)

【生産地】板井市(旧:三国町三里浜砂丘)・福井市

【特徴】小粒で繊維細かく植付から収穫まで足かけ3年。

【食味】シャキシャキとした歯応え。

【料理】甘酢漬け、天ぷら、タルタルソース

【来歴】明治の始め、大正時代には土付きらっきょうとして関西に販売する。

【時期】6月~7月

 

新保ナス(しんぽなす)

【生産地】福井市新保地区

【特徴】実は柔らかく、皮は薄く、アクと種が少ないのが特徴。丸型と卵型の2種類。

【食味】甘さと歯応え。

【料理】煮物、田楽

【来歴】明治時代には生産が盛んで、最盛期には、新保町の6割以上の家で生産される特産品。

【時期】7月~10月

 

杉箸アカカンバ(すぎはしあかかんば)

【生産地】敦賀市杉箸

【特徴】ほどよい辛み、苦みが特徴。

【食味】シャキッとした歯応え。

【料理】漬物

【来歴】福井県と滋賀県の県境近くの小さな集落に、100年以上前から引き継がれてきた。

【時期】10月~11月

 

立石ナス(たていしなす)

【生産地】高浜町

【特徴】皮や肉質の柔らかさ。

【食味】皮がうすく、独特の渋みも少なく食べやすい味。

【料理】漬物

【来歴】千両ナスの先祖。

【時期】8月~9月

 

菜おけ(なおけ)

【生産地】福井市岡保地区

【特徴】葉は小ぶりで色はやや淡い。

【食味】シャキシャキした食感でほろ苦い。

【料理】漬物、サラダ、スパゲッティ―

【来歴】塩漬けしたものを桶に入れて売り歩いたのが「菜おけ」の名前の由来。

【時期】3月~4月

 

妙金なす(みょうきんなす)

【生産地】勝山市

【特徴】やや小ぶり玉子と同じ大きさ、肉質が締まって煮崩れしにくい。

【食味】歯ごたえのある。

【料理】煮物、焼き物、漬物

【来歴】勝山市妙金島地区で明治の中頃から、現在農家5戸程度で栽培。

【時期】7月~9月

 

谷田部ねぎ(やたべねぎ)

【生産地】小浜市谷田部地区

【特徴】伏せて植え替える伝統的な栽培法、白根の部分が釣り針状に大きく曲がった姿が特徴。「地理的表示保護制度(GI)」2016年に登録。

【食味】ネギ特有の臭みが少なく甘みが強く、独特のねばりを有し味わい深い。

【料理】すき焼き、鍋物、天ぷら、薬味

【来歴】若狭地方は古くから京都とのつなが

りが強く、京都の九条から来た。

【時期】11月~3月

 

山内かぶら(やまうちかぶら)

【生産地】若狭町(旧:上中町山内)

【特徴】腰高で、肩張りのよい円錐形をし白く、やや緑色を帯び、ひげ根がありゴツゴツし野性的、肉質は緻密で硬め。「地理的表示保護制度(GI)」2016年に登録。

【食味】噛むほどに辛みが感じられるが、火を通すとまろやかな甘みがある。

【料理】煮崩れしない煮物、干しかぶら、サラダ

【来歴】100年以上前、明治年代より栽培されていた、青首の欧州系に和種系の白カブが交雑して生まれた。

【時期】10月~11月

 

吉川ナス(よしかわなす)

【生産地】鯖江市

【特徴】ソフトボール程度の大きさがあり、黒紫色で光沢が良いのが特徴。黒ダイヤの輝きを持つ。

【食味】味が濃く、火を通すととろみのある食感。種が小さくて煮崩れしない。

【料理】煮物、田楽、焼物、揚げ物、油との相性が良い。

【来歴】1942~1943年頃から旧吉川村一帯を中心に生産が盛ん、現在まで品種改良されずに継承。H27地理的表示(GI)認定。

【時期】7月~8月

 

【参考資料】
福井県HP「福井百歳やさいを食べよ
農林水産省北陸農政局
福井県福井市
嶺北地方
嶺南地方
わがふるさとの自慢の野菜
福井押しの一品

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