自然農法センターに行って、自然農法について聞いてきました!

消費者は知らない作物の農法

農林水産省の「みどりの食料システム」の方針では、2050年までに、有機農業の取組面積を、耕地面積の25%(100万ha)にすることを目標としています。現状の取り組み面積は、2022年度のデータによると3万300haで、全耕地面積の約0.7%です1)

これに伴い、有機農業に対する補助金や交付金などの事業が実施されています。しかし、なかなか進まない現状があります。その理由は、コストや人材確保、栽培技術などいくつもあります。

その中に、消費者ニーズが、まだ、そこまで大きくないという理由があります。しかし、そもそも、消費者は有機農業がどのようなものなのか把握できているのでしょうか?農法について知らないからニーズが生じないのかもしれません。

そこで、今回は、公益財団法人自然農法国際研究開発センター(略称「自然農法センター」)を訪問させて頂き、慣行農法、有機農業、自然農法の違いや、その取り組みの意義などについて教えて頂きました。

自然農法センターってどんなとこ?

公益財団法人自然農法センターは、1985年設立から39年にわたって、自然農法・有機栽培技術の研究開発と普及を行っています。主な事業活動は、品種育成、種子生産・販売、栽培技術研究開発・指導、有機JAS認証、農業研修です。

長野県松本市に本部事務所および農業試験場があり、愛知県阿久比町に知多草木農場(普及部技術普及課)、静岡県に熱海事務所(有機JAS認証部)を置いています。

今回、おうかがいしたのは、自然農法センターの知多草木農場です。こちらの農場では、この地域(阿久比町)の重粘土質の土壌における自然農法の実証に向けた取り組みを行っています。

同センターの黒田理事長と鈴木農場長から、自然農法に対する理念から農法やタネについてまで、さまざまなお話をお聞きしました。

写真:左から鈴木農場長、筆者、黒田理事長

栽培方法別の特徴

- 本日は、よろしくお願いいたします。まず、有機農業や自然農法について、それぞれ、どのようなものか教えてください。

黒田理事長:栽培方法にはいろいろなものがあり、一般的に行われているのは慣行農法と呼ばれています。これは、農薬、化学肥料を一定量使用した農法です。

その慣行農法よりも農薬や化学肥料を節減して、農薬の使用50%以下、化学肥料の窒素成分量50%以下に減らした方法が減農薬/特別栽培です。

さらに、化学肥料や農薬、遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減したのが有機農業です。有機農業では化学的に合成された肥料や農薬の使用は禁止されていますが、有機肥料(動物性堆肥)や天然由来の農薬や有機JASで認められている農薬を使うことは認められています。

自然農法は、生態系を乱す化学肥料・農薬(合成・天然を問わず)を使わない方法です。有機農業との大きな違いは、有機肥料(動物性堆肥)や農薬を使うかどうかです。

当センターの自然農法では動物性堆肥は一切使用していません。作物が健康に育つことを大切にして、それを人が手助けするのが「農」だという考え方です。

- そのような違いがあるのですね。これは、一般の私たち消費者にはなかなかわかりづらいですね。

黒田理事長:さらに、自然農法・有機農法にはいろいろな流派があります。無肥料栽培、無農薬栽培、畑を耕さない不耕起栽培、草取りをしない不除草栽培などがあります。

黒田理事長からの講義

自然農法の意義

- いろいろな農法があるのですね。いずれも作物や環境に配慮して考え出された農法だと思うのですが、自然農法を行うことの意義についてお聞かせください。

黒田理事長:自然農法の意義は、大きくは、1.環境保全2.健康への貢献です。

まず、1.環境保全についてですが、自然農法は、化学肥料や農薬を使用せず、土壌や生態系に配慮した農業です。そのため、➀土壌の健全化、②水質の改善、③生物多様性の保護、④資源の循環利用、⑤食料の安定供給などの効果が得られます。

➀土壌の健全化:自然農法では、微生物や有機物が豊富な土壌を育てるため、長期的に土壌の品質が向上します。

②水質の改善:化学肥料や農薬を使用しないため、河川や地下水の汚染を防ぐことができます。水質保全は人々の生活や生態系に大きく寄与します。

③生物多様性の保護:自然な生態系を重視し、多様な植物や動物の共生が促進されるため、農地周辺の生物多様性が維持されます。

④資源の循環利用:自然農法は、自然のサイクルを最大限に活用し、資源を循環させる仕組みです。

⑤食料の安定供給:化学薬品に依存しないため、外部の供給に影響されにくく、地域での自立した食料生産が可能です。

 

次に、2. 健康への貢献については、➀無農薬・無化学肥料の食材、②栄養価の向上、③食育の推進があげられます。

自然農法で生産された食材は、化学肥料や農薬の残留がなく、消費者の健康に寄与します。また、栄養価が高いとされる食品が生産されるため、健康的な食生活を促進します。

➀無農薬・無化学肥料の食材:健康に悪影響を及ぼす可能性のある化学物質を含まないため、安全な食材の供給が可能です。

②栄養価の向上:健康な土壌で育つ作物は、栄養価が高いとされており、消費者の健康にプラスの影響を与えます。

③食育の推進:自然農法による食材を通じて、食に対する関心や理解が深まり、健康的で持続可能な食生活を促進します。

自然農法の普及は環境保護、持続可能な農業、健康の促進など幅広い社会的意義を持っています。

特に、現代の気候変動や環境問題、農薬による健康問題に対して有効な解決策の一つと考えております。

- ありとうございます。環境にも私たちの健康にも大きな効果があるということですね。

自然農法センターの具体的な取組み

- 環境や私たちの健康を目的に、自然農法に関する研究開発や普及に関する事業に取り組んでおられるわけですが、具体的にはどのような事業でしょうか?

黒田理事長:はい、一つは、「農」を基にした持続可能な地域社会づくりです。①安全安心な農産物の安定供給、②食料自給率の向上、 ③学校給食、④農福連携に取り組んでいます。

二つ目は、有機栽培・自然農法を実践したいという人への技術支援を行っています。直接の技術指導をはじめ、出張講習会、オンライン講座 、見学受入なども積極的に行っています。

農林水産省では、みどりの食料システム戦略を踏まえ、各市町村では、オーガニックビレッジ2)という有機農業の拡大に地域ぐるみで取り組んでおり、現在129の自治体が宣言しています。この辺りだと、長野県辰野市、松川町、愛知県だと岡崎市、東郷町などと協働しています。

三つ目は、有機栽培に適したタネの開発・販売です。①在来種、固定種の保存、②有機栽培に適した品種開発、③有機栽培に適した種苗の供給、④自家採種の推進の事業に取り組んでいます。

自然農法のタネの良さについて

たくましい自然農法の種苗

- オーガニックビレッジにも協力されているのですね。また、農法だけでなく、タネについても事業をされているということで、大変、興味があるのですが、自然農法のタネや苗の特徴についてお聞かせください。

黒田理事長:当センターのタネは、単純に農薬や化学肥料を使わないで育成した品種だけではありません。自然農法の考えにもありますが、タネに対しても「本来、持っている力を引き出す(土の偉力)」ことを主眼に品種の育成を行っています。

市販の品種のなかには、有機栽培の環境でも栽培できる品種がありますが、もともとは農薬や化学肥料の使用を前提に育成された品種がほとんどのため、有機栽培のような、たくさんの生き物に囲まれて生活する術を長らく忘れてしまっています。

そのため、緑肥を活用した栽培環境のなかで生育旺盛で味も良く、タネを残すものを選抜し、採種を繰り返してタネを育てています。

家庭菜園での自然農法

- 有機栽培の環境に適したタネなのですね。なんだか、力強さを感じます。そのようなタネであれば、家庭菜園やベランダ菜園でも自然農法ができるのでしょうか?

黒田理事長:はい、可能です、ただ、ベランダ菜園では栽培しにくい品種も一部あります。当センターの育成品種は、露地栽培向きの品種です。中でもキュウリはツルを多く出す品種が多いのでプランター栽培だと狭く、実の付きが悪くなることがあります。

果菜類をプランターで栽培する場合は、容器が深いプランターを使用して根を張りやすい環境にしてください。

- はい、そうしてみます。

自然農法のための環境づくり

土壌や種苗の研究

- では、次に鈴木農場長におうかがいします。先ほど、水稲の田を見せて頂き、ありがとうございました。間もなく稲刈りということで、秋の陽射しを浴び、まさに黄金の稲穂が美しい田でしたが、自然農法だと雑草の対処が大変ではないでしょうか?

自然農法センター知多草木農場の刈り入れ直前の田

鈴木農場長:当センター本部農業試験場の研究成果や提携農家から得られた技術、地域土壌の特徴を組み合わせ、地域にあった栽培を模索しています。

水稲栽培ではイネが育ちやすい育土(土づくり)を主とし、耕耘法(代かき)による抑草技術やポット苗を植え適期除草を行うことで初期対応しています。また、栽培期間中は水を張っている期間も長く、水中生物の働きによっても抑草効果があったり、土づくりになったり、イネの生育に大きく関与しています。

野菜栽培では、農地生態環境を重視した草生栽培や透排水を高める土壌改良などに重点を置いています。草にも役割があり、共生する分岐点を見出すことが重要であると考えています。

草生栽培というのは、作物以外の有用な草を生やすことで(時には雑草利用もある)、土を育てたり、雑草の侵入を防いだり、天敵のすみかとなり害虫の繁殖を抑えたり、防風や防寒防暑などの多様なシステムを備えた栽培法です。

また、肥料を使わないようにすると野菜や雑草が根っこを優先して生育するので、地上部もゆっくり育ち、植物同士の競争が穏やかになります。

鈴木農場長からの講義

    

※みのる式ポット育苗箱に種籾を2~3粒まきして苗を育て、3.5葉以上の中苗~成苗は田植え後の根の活着が早く、雑草生育を抑制すると共に除草機や除草具の表土撹拌に耐える苗となる。

 

自然の力を引き出す

- それは、自然の営みをうまく使っているということですね。

鈴木農場長:はい、そうすることで、除草や草刈りに追われることを低減することが可能となります。

稲作では、当センターと農機メーカーで共同開発した機械式の除草機もあります。これを使って除草する場合は、田植えした後、約6~10日したら1回行って、後は、雑草の具合を見ながら除草具や手でトール(手除草)などの除草を田植えから1ヶ月間に終わらせることを目標にしています。

- 機械で除草できるのですね。自然農法は草取りが大変という話をよく聞くのですが、水田用の除草機も開発されているのですね。

当センターが農機メーカーと共同開発した揺動型歩行型除草機

当センターが農機メーカーと共同開発した揺動型歩行型除草機

※針金状のツースが左右に振動し、土壌の表面を揺らすことで初期発芽の雑草を水面に浮かせる仕組みです。

 

鈴木農場長:特に自然農法や有機農業では、3.5葉以上の健苗を育てることが重要となります。

昔から「苗半作(なえはんさく)」と言われるように、苗の出来は農作物の生育や収穫に影響します。その観点から、当農場では一般の生産者が行っている箱苗ではなくポット苗を育てています。

作物は、遺伝的なことを含めタネの頃から環境を認識して、芽吹くタイミングを決めたり、根や葉で環境を知って、生育の方向を決めたりしています。なので、養分や水分を多く欲しがるメタボな体質の作物になるか、自ら根を伸ばし光合成を活発に行う代謝の良い体質になるかは生育の早い段階で決まります。

- まるで人間の子どもの話を聞いているようですが、農作物も子どもの頃と言える育苗の時期が大切なのですね。

鈴木農場長:自然農法や有機農業の育苗では、作物の充実を促すために光合成を活発にさせ、活着・根張りの良い苗を目指します。

家庭菜園用のポット苗で自然農法を身近に

- 育苗が作物の生育にとって、とても大事な時期なのがわかりました。それだと、初心者が家庭菜園で行うのが難しくありませんか?

鈴木農場長:そういうお声が多く聞こえてきますので、当センターでは、昨年から家庭菜園に向けた有機苗の発売を開始しました。

中玉トマト、ミニトマト、キュウリ、ナス、ピーマン、マクワウリの6品種×4本を1セットにした「実生(みしょう=実根)ポット苗アソート」と、中玉トマト、ミニトマト、キュウリ、ナス、ピーマンの5品種×10本を1セットにした、過湿や粘土質で病気にかかりやすい菜園にも適した「接木(つぎき)プラグ苗アソート」を用意しています。3)

- 苗からだと、自然農法による家庭菜園も取り組みやすいですね。

鈴木農場長:はい、当センターでは、自然農法に関するさまざまな取り組みを行い、タネや苗を提供したり、栽培指導をしていますので、皆様にも、ぜひ、チャレンジして頂きたいと思います。

- はい。本日は、お忙しい中、ありがとうございました。

8月下旬に苗を定植した自然農法のタネの抑制栽培キュウリ

なんと!日本みつばちの巣箱

5月中旬定植の接木ポット苗 品種 黒小町

少々収穫遅れの自然農法のキュウリ  

取材後記:自然農法センター知多草木農場で、黒田理事長と鈴木農場長からお話をおうかがいしました。同センターの田畑は、なんとも清々しい空気で、作物のパワーが立ち上がってきているような不思議な雰囲気でした。また、行きたくなる場所です。センターの皆様、お忙しい中、ありがとうございました。

 

【参考資料】

公益財団法人自然農法国際研究開発センター

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