都会のド真ん中で野菜を作ってみよう!! ~関心が高まるアーバンファーミングとは何か⁉~

アーバンファーミングとは?

アーバンファーミングとは、都市部における農業のことです。ビルの屋上やベランダ、空き地などを活用して、野菜や果物、ハーブなどを栽培します。近年、食料自給率や環境問題への関心の高まりから、アーバンファーミングが注目されています。

矢野経済研究所が実施したガーデニング・家庭菜園市場に関する調査によると、余暇における庭いじり等の総人口は減少しているものの、特に若い世代はガーデン菜園や、都市部の遊休地や屋上、ベランダで行うアーバンファーミング(Urban Farming、都市農業)に関心を持っているとみられるとしています。

矢野経済研究所「ガーデニング・家庭菜園市場に関する調査」

都会での農業が注目される背景

アーバンファーミングが注目される背景には、食料問題への関心の高まり、環境問題への意識の高まり、都市生活におけるニーズの変化といった要因が考えられます。

近年、かねてからの食の安全性に対する関心や、近年の米や野菜など農作物の価格高騰などを踏まえ、食料問題への関心が高まっています。さらに都会では、都市化の進行による緑地の減少やヒートアイランド現象が深刻化しており、気候変動を含んだ環境問題への意識の高まりもみられます。

また、都市生活におけるニーズの変化も起きています。都市部におけるコミュニティ意識の希薄化が進む中、都市生活者が自然や人との触れ合いや癒しを求める傾向が強まっており、アーバンファーミングは地域住民の交流の場として注目されています。

ほかにも、食育や地域コミュニティの活性化などの要因が複合的に作用し、アーバンファーミングは、持続可能な都市生活の実現に向けた重要な取り組みとして注目を集めています。

アーバンファーミングの種類

アーバンファーミングには、屋上菜園、ベランダ菜園、コミュニティガーデン、垂直農法などいくつかの種類があります。

屋上菜園は、ビルの屋上を利用した菜園です。広いスペースを確保できるため、ある程度の農業が可能です。東京都チャレンジドプラストッパン株式会社の社屋屋上菜園、新宿区立柏木小学校の屋上農園「野菜の森」、ルミネ環境推進プロジェクトなどの事例があります。ただし、一般的な建物の屋上での実施は耐荷重や防水費用の面で難しいため、プランターを利用して小分けにした栽培が中心になっています。

ベランダ菜園は、マンションやアパートのベランダを利用した菜園です。手軽に始められるため、初心者に一番オススメの方法です。これもプランターを利用した栽培が行われています。

コミュニティガーデンは、地域の農地を利用して、地域住民が共同で管理する菜園です。交流の場としても活用されています。市民農園として貸し出す地域もあります。

垂直農法は、建物の壁面や室内空間を利用した農法です。省スペースで効率的に栽培できます。垂直に積み重ねた棚を利用して作物を栽培方法で、水耕栽培なども行われています。

アーバンファーミングがもたらす効果

アーバンファーミングを実践するメリットとしては、食料自給率の向上、環境への貢献、地域コミュニティの活性化、教育効果、心の健康などが考えられます。

ある程度の面積で、都市部で食料を生産するができれば、食料自給率の向上に貢献できます。地域内で栽培できれば輸送距離の短縮や緑地の増加により、環境負荷を低減することができるでしょう。

また、地域住民が共同で作業することで、交流が生まれ、コミュニティが活性化につながります。子供たちが農業に触れることで、食や環境への関心を高めるといった教育効果も得られます。

そして、植物に触れることで心が癒され、ストレスを緩和し、心の健康にも効果があります。

アーバンファーミングのデメリット

もちろん、おいしい話ばかりではなく、デメリットもあります。初期費用の問題、専門知識・維持管理の問題、天候の影響などは、ファームの規模や方法によって、大きく異なります。

初期費用の問題は、土や肥料、栽培キットなどの購入などにかかる費用を検討しなければなりません。もっとも安価なものはベランダ菜園で、次いでコミュニティガーデン、屋上ガーデニングでしょう。栽培面積が大きくなればなるほどコストは上昇します。垂直栽培はベランダ菜園の延長から直物工場のようなものまであり、大掛かりな設備を必要とする場合もあります。

植物の栽培には、ある程度の知識や経験が必要です。栽培品種によって、種まきから育苗、生育までの専門知識や維持管理が必要となります。

また、屋外での栽培は一般の畑と同様に天候に左右されます。雨だけでなく、特に都市部はヒートアイランドの問題もあり、夜間でも高温になりやすいため、農作物をどのように管理するかが課題になります。

海外の事例紹介

アーバンファーミングは、世界中の都市で活発に行われています。以下に、特に注目すべき海外の事例をいくつかご紹介します。

アメリカ合衆国:ニューヨーク – Brooklyn Grange (ブルックリン・グレンジ)

ニューヨーク市の屋上にある大規模な農園です。野菜やハーブの栽培、養蜂などを行っており、収穫物は地元のレストランやファーマーズマーケットで販売されています。都市のヒートアイランド現象の緩和や、地域住民への食料供給に貢献しています。

https://www.brooklyngrangefarm.com/

シンガポール:Sky Greens (スカイグリーンズ)

垂直農法を採用した、高層ビル型の農場です。限られたスペースで効率的に野菜を栽培することができ、シンガポールの食料自給率向上に貢献しています。水耕栽培システムにより、水の使用量を大幅に削減しています。

https://www.skygreens.com/

ドイツ:ベルリン – Prinzessinnengärten (プリンツェッシネンガルテン)

都市の空き地を活用したコミュニティガーデンです。地域住民が共同で野菜やハーブを栽培し、交流の場としても機能しています。持続可能な都市生活のモデルとして、国内外から注目を集めています。

https://www.visitberlin.de/de/prinzessinnengaerten

ベルギー:ブリュッセル- Good Food (グッドフード)

ブリュッセル市が主体となり、市民が主体的に都市農業に取り組むことを推進しています。webサイト「グッドフード」を立ち上げ、市民に対し情報提供や指導を行っています。2035年までに野菜と果物の自給自足を30%増やすことを目標としています。

https://www.goodfoodfarmsco.com/

これらの事例は、アーバンファーミングが多様な形で都市に根付き、それぞれの都市の課題解決に貢献していることを示しています。

国内の事例紹介

Tokyo Urban Farming(トーキョーアーバンファーミング)

「Tokyoを食べられる森にしよう」を掲げ、都市における持続可能な食と農のあり方を提案している団体です。

都市の遊休地や屋上を活用したコミュニティファームの創出、イベント開催、情報発信など、多岐にわたる活動を展開しています。

JR東日本は、山手線の駅で苗を無料配布する「駅からFARMing」や、新宿駅前に「Shinjuku Farm」を開設するなど、ユニークな取り組みも行っています。

https://tokyourbanfarming.jp/

アーバンファーマーズクラブ

渋谷区内にある複数の畑を拠点に、野菜や米、ハーブなどを栽培しています。

養蜂も行っており、都市における生物多様性の保全にも貢献しています。

神奈川県相模原市にはリトリートセンターも所有しており、都市生活者が自然に触れる機会を提供しています。

https://urbanfarmers.club/

その他

都市部の商業施設やオフィスビルでは、屋上や壁面を利用した菜園が増えています。例えば、ルミネ環境推進プロジェクトではルミネ立川店、北千住店、横浜店、荻窪店、エスト新宿店の5店舗の屋上に庭園や菜園を設けています。

地方自治体も、遊休地を活用したコミュニティガーデンを推進しています。例えば、神戸市では、「食都神戸」を掲げ、アーバンファーミングを推進しており、地域住民や料理人が連携し、コミュニティの活性化や地産地消の推進に貢献しています。中心地の公園では、畑作りや、ビルの屋上を利用した農園など、様々な取り組みが行われ、空き地や空き家の有効活用、新規就農者の育成など、都市が抱える課題解決にも繋がっています。

これらの事例から、日本でもアーバンファーミングが都市生活に根付きつつあることがわかります。ベランダや室内で手軽に野菜やハーブを栽培する家庭菜園も、都市部を中心に広がっています。

アーバンファーミングの始め方

アーバンファーミングは、小さな規模であれば初心者でも手軽に始められます。最初はベランダ菜園をおススメします。育てやすい野菜やハーブから始めましょう。

環境は、日当たりの良い場所が良いですが、日当たりの悪いベランダでも、工夫次第でさまざまな野菜を育てることができます。日陰に強い野菜を選んだり、育成ライトを活用したりすることで栽培が可能です。日陰に強い野菜は、葉物野菜が中心になります。レタスやサラダ菜、小松菜、ホウレン草、ミツバ、ニラ、シソ、パセリ、ミョウガなどがあります。

これらの野菜は、比較的少ない日光でも育ちやすいですが、全く日光が当たらない場所では生育が難しくなります。1日に2~3時間程度、日の光が当たる場所で栽培するのがおすすめです。

まとめ

アーバンファーミングは、都市部で食料を生産し、環境に貢献できる持続可能な農業です。今後、日本でも広がっていく可能性は十分にあります。農作物の栽培は、都会でも簡単に始めることができます。まずは一度、体験してみることをお勧めします。初心者でも手軽に始められるベランダ菜園から、ぜひ挑戦してみてください。

 

【参考資料】
東京都チャレンジドプラストッパン株式会社の社屋屋上菜園
新宿区立柏木小学校の屋上農園「野菜の森」
ルミネ環境推進プロジェクト
神戸市
新宿駅東口駅前広場で「Shinjuku Farm Project」始動!~地域の皆さまとともに、江戸時代に新宿地域で育てられた「内藤とうがらし」を栽培します~

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