スーパーフード蓬(ヨモギ)の浄化力 ~ひな祭りには草餅を食べて邪気を払おう!~
三月三日は身の穢れを払い清める日
三月三日は「上巳(じょうし)の節句(せっく)」。 今では「桃の節句」や「ひな祭り」の呼び方が一般的で、女児の健やかな成長や幸せを祈ってお祝いをする日本ならではのお祭りの日となっています。
もともとの上巳の節句は、古代中国で旧暦3月の最初の巳(み)の日である上巳(じょうし)の日に行われていたものが由来とされます。 巳(へび)は脱皮をして生まれ変わることから、穢れを祓い清める行事として川で心身の穢れを流し厄を払うというものだったそうです。
やがて、邪気(じゃき)を人形に移して川に流すようになり、さらに、この人形がひな人形の原型となっていきました。
古くから儀礼食だった草餅
この上巳の節句には「草餅」を食べる習慣があります。草餅を儀礼食として食べるという記録は、879(元慶3年)の『日本文徳天皇実録(にほんもんとくてんのうじつろく)』にありますが、それよりも前の804年(延暦23)に成立した伊勢神宮の『皇大神宮儀式帳(こうたいじんぐうぎしきちょう)』、『止由氣宮儀式帳(とゆけぐうぎしきちょう)』の2冊の儀式帳にも、すでに「草餅」という表記があります。
当時の草餅は、春の七草の一つである「ゴギョウ(御形/五行)」とも呼ばれるハハコグサを使用したものでした。今でもハハコグサを草餅に使う地域もありますが、鎌倉時代の頃から東国(関東方面)では、ヨモギに代わりつつあったようです。
江戸時代の大植物学者・小野蘭山(おのらんざん:1729- 1810年)は、『本草綱目啓蒙(ほんぞうこうもくけいもう)』(1803年)の中で、「三月三日の草餅はこの草(母子草(ハハコグサ))で作ったものであったが、近ごろは蓬(ヨモギ)で作った方が、緑が濃くて喜ばれるようになった」と記しています。ハハコグサに比べ、ヨモギは色合いや香りが強く、大量に採取できるため用いられるようになったようです。
『本草綱目啓蒙(ほんぞうこうもくけいもう)』(1803年)より
本草綱目啓蒙 巻之十二 草之五 湿草類下 鼠麹草 ハハコグサ 此草原野二多アリ。秋月、苗ヲ生ズ。菓ハ馬歯莧(スベリヒユ)葉ニ似テ、薄ク長クシテ白毛アリ。三四月苗高サ六七寸、或一尺ニ至ル。葉互生シ、梢ニ蔟リテ黄花ヲ開ク。此花ヲ取、烟草ニ代テ吸。又此花ヲ以テ完花二偽リ、又蜜蒙花ニモ偽ル。古ハ上巳(「桃の節句」)二此葉ヲ用テ餐(モチ)トス。即竜舌●(米+半)ナリ。後其色ノ濃カランコトヲ欲シテ、艾葉ヲ以テ代。朝鮮賦二謂ユル艾糕ナリ。 今ハ皺葉芥(オオハガラシ)葉ヲ加テ其色ヲタスク。益其真ヲ失ス。〔集解〕●(米+巴)果ハ、果子ノコトナリ。禁烟ハ寒食ノ一名也。冬至ヨリ育五日ヲ云。 |
ヨモギの強い生命力と薬効
ヨモギが日本に渡来したのは、仏教や中国の医学書の伝来と同じ6世紀頃だと考えられています。
701年の「大宝律令(たいほうりつりょう)」の中の医薬全般の諸規定を記した「医疾令(いしちりょう)」では、ヨモギを原料とする艾(もぐさ)を使うお灸と鍼の学習が定められています。また、平安時代に編纂された「医心方(いしんぽう)」には、ヨモギの薬効と灸療法の解説がされています。
ヨモギの品種の中には、優れた薬効成分を持つものもあり、現在でも生薬や漢方薬をはじめ抗マラリア薬の原料に使われていたりします。ヨモギは、その強い生命力によって各地で自生するようになり、今では日本中に分布しています。1300年以上の歴史を持つ、まさに伝統野菜の中の伝統野菜とも言えます。
ヨモギの栄養価
現在、国内でよく見かけるのは、カズザキヨモギ・オオヨモギ・ニシヨモギという品種です。餅草(もちくさ)として使われるのは、主にカズザキヨモギとニシヨモギで、オオヨモギは主にお灸の材料のモグサに使われています。
ヨモギは栄養価が高く、ビタミンKを豊富に含んでいます。ビタミンKは血液の凝固と凝固の抑制の両面で上手くバランスをとりながら作用します。外用では止血作用が強く、古くから外傷にもんでつけるなどして利用されてきました。内服では、鼻血、吐血、下血、痔出血などの出血にも効果があるとされます。食用では、強壮、健胃、利尿、止瀉、通経、目の疲労の回復など幅広い効能があります。
また、不溶性の食物繊維が豊富で、体内の老廃物を排出するデトックス効果があります。ただし、摂りすぎると腹痛や下痢を引き起こすことがあるので注意しましょう。 他にも多くの栄養成分が含んでおり、お茶や入浴剤、ヨモギ蒸し等さまざまな用途に使われています。
ヨモギ餅は全国各地の郷土料理
体に良いとされる成分が多く含まれているヨモギは、餅草として定着し、全国各地で郷土料理として使われています。一部ですが、郷土料理として位置づけている地区と品名をご紹介します。
岩手県花巻市「よもぎまんじゅう」、栃木県「草餅」、富山県南砺市「よもぎののしだご」射水市「よもぎ餅」、愛知県「よもぎ餅」、岡山県津山市「よもぎ団子」、鹿児島県「かしゃもち」、熊本県「ふつもち」など東から西まで広範囲で郷土料理として食されています。
現在は、草餅として全国的に常に手に入るようになりました。皆さんも三月三日だけでなく、日頃から栄養たっぷりのヨモギを使った草餅を食べませんか?
※家庭で草餅を作るなどの際には、ヨモギは適切なところから入手しましょう。ヨモギはトリカブトやブタクサと間違えやすいですし、路傍に自生するものは動物の糞等で汚染されている可能性があるので、よく知っている人と採りに行くか、ヨモギ屋さんから購入するか、和菓子屋さん等での購入をお勧めします。
※ヨモギには、「ツヨン」という成分が含まれており、これには子宮を収縮させる作用があります。そのため妊娠中の方は食べる量を控えましょう。ヨモギ餅1つぐらいを口にする程度なら問題ありませんが、過剰摂取すると流産や早産につながる危険性があるといわれているので気をつけましょう。
【参考資料】
岡山県庁 岡山県津山市「津山地方の郷土料理」津山市「よもぎ団子」
陳 翰希「草餅と『三月三日』に関する研究―日中比較民俗学の視点から」生活学論叢33号 2018
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