宮城県登米市に残る伝統野菜の黒いトウモロコシ ~最大の課題は継承者の確保~

世界三大穀物の一つ

トウモロコシは、米、小麦と並ぶ世界三大穀物の一つです。その中でも特に生産量の多い穀物で、現在、世界の生産量の半分以上をアメリカと中国が占めています。トウモロコシの原産地はアメリカ大陸ですが、栽培起源地域については諸説あります。

栽培の歴史はとても古く「考古学的検証に基づくと、最初にトウモロコシの利用が始まったのは紀元前7000~5000年頃であり、紀元前3400年頃には栽培が始まったと考えられている」1)そうです。すごく歴史の長い作物ですね。

宇宙からやってきた植物⁉

そして、不思議なことにトウモロコシには明確な祖先種の野生植物がなく、国内外での自生も報告されていないのだそうです。1)

また、栽培には大量の水を必要としたり、タネを落とさないので人間の手を借りないと育たないという変わった特徴があったりするため、隕石にくっついて宇宙からやってきた植物では⁉ 2)という都市伝説もあります。

日本には安土桃山時代に伝来

日本には、安土桃山時代の天正年間1573~1591年頃に、ポルトガル人によって長崎へ伝えられたフリント種(硬粒種)が最初とされています。その後、九州の阿蘇山麓や四国の山中、富士山麓など気候や水利の面で稲作に向かない地域に広がっていき、18世紀末には蝦夷地(えぞち)のモロラン(現:北海道室蘭市)に至ったそうです。2)

明治時代になると新たにアメリカから北海道へデント種とフリント種が導入され、全国的に栽培が普及していきました。今でも国内の生産量は北海道が圧倒的に多く4割ほどを占めています。

本当は彩り豊かなトウモロコシ

日本のトウモロコシは一般的には黄色が主流です。最近は白いトウモロコシや黄と白のバイカラーの品種もよく売られています。昨年は日本初の赤いトウモロコシが話題になっていました。

ですが、世界に目を向けると黄色はもとより赤、オレンジ、紫、黒とそれぞれのバイカラーやトライカラーなど色とりどりトウモロコシがあります。 特に驚くのが真っ黒なトウモロコシではないでしょうか。黄色や白色のトウモロコシに慣れていると、なんとなく抵抗を感じるかもしれません。

でも、黒い色は、アントシアニンという色素が豊富に含まれているためです。 ペルーやボリビアでは、黒いトウモロコシを発酵させてチチャというお酒をつくるそうです。チチャは赤ワインに似た色合いで、トウモロコシの味はしないそうです。3

日本に残る在来トウモロコシ

日本にも数種類の在来トウモロコシがあります。北海道の伝統野菜で、八列に実をつける「八列とうもろこし」や長野県の黒味がかった八列の「黒姫とうもろこし」、山梨県の実が硬いフリント種の「甲州とうもろこし」、長崎県諫早市の「もちとうもろこし」などがあります。

それぞれに、とても個性があって、おもしろいトウモロコシですが、今回ご紹介したいのは、宮城県北部に位置する登米市で栽培されていた「もちとみぎ」です。4)

「もちとみぎ」は変わった名前のように感じるかもしれませんが、トウモロコシは地域によって「きび」、「ぎょく」「とうなわ」等さまざまな呼び方があり、『日本方言大辞典』によると267種もあるそうです。

登米市の黒いトウモロコシ「もちとみぎ」

宮城県登米市の伝統野菜である「もちとみぎ」の特徴は、ペルーの黒いトウモロコシのように実の色が黒や紺色、黄色との斑(まだら)であったりし、熟すにつれて実が黒くなっていきます。

「もちとみぎ」はワキシーコーン(糯種:もちしゅ)という品種になります。ワキシーコーンは、フリント種の突然変異によって発生したものだそうで、粒のデンプン質に餅(もち)性があり、若いうちに収穫して蒸して食べるとモチモチした食感があるのが特徴です。

アジアの餅文化に好まれる伝統的なトウモロコシで、日本では「もちとうもろこし」とも呼ばれています。ちなみにワキシーとは、完熟した粒の表面がワックスをかけたようにツルツルになることから付けられたそうです。

登米市の「もちとみぎ」が、いつから栽培されてきたのか定かではありませんが、トウモロコシの栽培が日本で本格的に始まったのは明治初期の頃です。水田が作りにくい山間部などで栽培されてきました。

「もちとみぎ」は1975(昭和50)年代頃までは、登米市だけでなく、宮城県内でも広く栽培されていたそうです。その頃までは、農家の軒先に「もちとみぎ」が干されているのが夏の風物詩であったそうです。

しかし、1965(昭和40)年代に甘味の強いスイートコーン種に切り替わり始めたことで、「もちとみぎ」の作付面積が減っていき、今では在来種での栽培はほとんどなくなってしまいました。

「もちとみぎ」の存続はギリギリの状態

現在、すでに「もちとみぎ」を栽培している農家はないそうです。登米市のホームページには「過去に作られていた伝統野菜」として紹介されています。

登米市ホームページでは、2019(令和元)年まで作付けしていた農家さんがみえたもの「現在は、お休み中」とのことでした。ただ、かろうじて苗はJAみやぎ登米のJAグリーンに出品されており購入することができるそうで、日によって、2~10株売れるというお話です。(2024年4月25日時点)

保存・継承への取り組みとしては、2021(令和3)年度に、登米市内の小学校の1つで、伝統野菜の学習として、種まきを行い、収穫できるようチャレンジしているとのこと。黒くてアントシアニン豊富なモチモチ食感のトウモロコシを食べてみたいですね。

カラーバリエーションの豊かさが「映え」として評価される今の時代、いろいろな色のトウモロコシが有ってもいいじゃないか!ということで、「もちとみぎ」を継承したいという方が出てこられることを期待せずにはいられません。

トウモロコシを栽培する方、JAみやぎ登米のJAグリーンで苗を見かけたら、ぜひ、手に取ってみてください。

【参考資料】
1)農林水産省「トウモロコシの宿主情報」
2)稲垣栄洋『世界史を大きく動かした植物』(2018)PHP研究所
3)湯浅浩史『世界の不思議な野菜』(2014)誠文堂新光社
4)登米市「過去に作られていた伝統野菜」

トウモロコシの世界
熱帯農業生態学研究室「日本でのモチトウモロコシ収集調査の報告」