幻の在来果樹特集!ー真の食通(グルメ)は香酸柑橘(こうさんかんきつ)を堪能しているー
目次
使いこなせば、いっきに料理通!
唐揚げにレモン、ビールやカクテルにライム、カツオにポン酢など、果汁の一滴や配合で料理の味を劇的に進化させる果実があります。果肉を食べるのではなく、果汁の香りや酸味を味わうための果実で、それらは香酸柑橘(こうさんかんきつ)と呼ばれています。
日本では、柚(ユズ)、酢橘(スダチ)、臭橙・香母酢(カボス)がよく知られており、日本三大香酸柑橘と言われています。
香酸柑橘がメインの食材になることは、ほぼありませんが、この果汁の有る無しでは料理の味わいが格段に変化します。また、味わいだけでなく、酢(クエン酸)として利用されており、変質しやすい動物性たんぱくの食中毒を予防したり、保存性を高めたり、食味を改善したりする役目を果たしたり、含有する機能性成分によって健康に寄与しています。
今回は、伝統野菜ならぬ伝統果樹として、全国に残る在来種の香酸柑橘類をご紹介します。どの品種も独特の香りや味わいを持ち、地元の料理に使われてきましたが、徐々に数を減らしているものも少なくありません。定着しているもの、復活したもの、人気がでてきたもの、消えかけているものなど、さまざまあります。今一度、見直し、料理や加工品に活用して残していきたいものです。
キンカンもブシュカンも香酸柑橘
香酸柑橘類とは、学術分類上のミカン(Rutaceae)科の植物でミカン亜科カンキツ属(Citrus)に属する植物です。
一般的に知られている主な香酸柑橘の品種には、レモン、ライム、柚子(ユズ)、酢橘(スダチ)、香母酢(カボス)、橙(ダイダイ)、シークワーサー等があります。1)
この他に、仏手柑(ブシュカン)、金柑(キンカン)なども香酸柑橘に分類されます。
ここでは、日本各地に残る伝統果樹ともいえる在来の香酸柑橘をご紹介します。古くから栽培され、地域の食材の味を引き立てて独特の風味を醸し出してきた郷土の柑橘類の魅力を発見してみてください。
料理との組み合わせは無限大
香酸柑橘は一般的な柑橘類とは異なり生食にはあまり向いていません。しかし、独特の香りと酸味が強いものが多く、甘味苦味とのバランスによって、それぞれ個性的な味を持ち、料理を引き立てるアクセントとして楽しむことができます。
使い方としては、直接、刺身、焼き魚、肉に搾り汁をかける、皮をすり下ろして薬味にするのが基本です。このほか、薬膳料理、鍋物、酢の物に入れたり、焼酎やビール、カクテルといったお酒やサイダー・炭酸水、牛乳・豆乳などの飲料や果物などに加えたりもします。
輪切りしたスダチを浮かべた「スダチそば」や「スダチうどん」等、麺類に乗せたり、また、酢の代わりに寿司の合わせ酢にしたり、魚の酢締めにも使うこともあります。
醤油などの調味料と相性の良いものもあり、刺身醤油に加えたり、ぽん酢の隠し味にしたり、塩や七味に添加したり、ドレッシングに合わせて使うこともできます。近年は、ジュレ、飴、クッキーなどにも使われます。
食材に合わせる香酸柑橘には、アジ、サンマに合うものや、カツオに合うもの等いろいろあります。好みのものや新しい組み合わせを探してみるのも楽しいでしょう。
DNA解析で日本原産種も明らかに
柑橘類は果樹の中でも主要なもので世界中の多くの国でみることができます。その起源地はインド東北部から中国南西部の地域と考えられていますが詳細は明らかになっていません。
近年のDNA解析技術の進歩によって、香酸柑橘が属するカンキツ属の基本種はシトロン、マンダリン、ブンタンであり、多くの種はこれらの雑種と考えられています。カンキツ属の間では交雑が容易なため、さまざまな交雑によって発生した品種も少なくなく、分類は簡単ではありません。1)
日本の香酸柑橘類の中では、橘(タチバナ)と沖縄のシークワーサーだけが日本の原産種であることが、遺伝子解析によって判明しています。2)
日本在来の香酸柑橘類が数ありますが、そのほとんどは自生種や渡来種をもとに発生した偶発実生が由来です。ここで紹介する品種は各地で古くから栽培されてきたとされる在来種ですが、まだ発見されていない品種もあるかもしれません。ほかにも「こんな品種もあるよー」とか「これは違うよー」などあれば、教えていただけると幸いです。
1)カンキツの起源と分類の再構築-田中長三郎のさく葉標本と研究ノートの解析-
2)橘の機能性成分の調査研究(第1報) – 奈良県
ユズ・スダチの栽培北限は?
香酸柑橘は各地で栽培されていますが、生育には気温や日照時間がカギとなります。寒さに弱いため主な産地は温暖な地域が中心となり、四国や九州地方での栽培が盛んです。
香酸柑橘類の中でも寒さに最も強いのはユズですが、ユズでも-7℃では3年生以下の幼木が枯死し、-9℃では成木が枯死してしまうそうです。また、-5℃以下では葉は凍傷によって落葉するそうです。1)
現在、日本でのユズ栽培の北限は岩手県陸前高田市となっています。太平洋沿岸部のため気候は温暖で日照時間が長く、200年以上前からユズが生息していたそうです。寒冷地のユズは特に皮が厚く、香りが強いのが特徴です。防寒・防風の管理によっては青森県の下北半島でも育つといわれますが、栽培には基本的に温暖な地域の方が適しています。
また、スダチ栽培の北限は山形県庄内地域となっています。同地区では温暖化による適地の北上を見込み、県が2010年から試験栽培をし、現在は「北限のスダチ」として出荷しており、2024年に4年目を迎えました。
国内の香酸柑橘の産地
品種 | 主な産地 |
柚子(ユズ) | 高知県、徳島県 |
酢橘(スダチ) | 徳島県の特産 |
香母酢(カボス) | 大分県の特産 |
シークワーサー | 沖縄県原産 |
ライム | 愛媛県 |
檸檬(レモン) | 広島県、愛媛県 |
橙(ダイダイ) | 静岡県、和歌山県 |
1)タキイネット通販「ユズを育てよう~庭先で育てるおいしい果樹~」
こんなにもある香酸柑橘の在来種
橘(タチバナ)
産地:奈良県 学名:Citrus tachibana
「タチバナ」は別名は大和橘(ヤマトタチバナ)や日本橘(ニッポンタチバナ)とも呼ばれます。和歌山県以西の海岸の暖地に自生する日本の固有種の原種であり、最古と言われる柑橘で「万葉集」や「古事記」にも登場し、「2000年の昔、垂仁天皇の忠臣・田道間守(たじまもり)が、常世の国から不老長寿の妙薬として持ち帰った」とする不思議な物語も伝わっています。
日本で古くから自生していたことが明らかになっているのは、今のところ「タチバナ」と「シークワーサー」の2品種だけです。1)温暖な気候を好み、静岡県沼津市戸田地区の自生地が北限だそうです。
実の直径は3~4cmほど、甘さ控えめで、酸味と苦みがほどよくあり、生で食べるだけでなく料理にも使用できます。他の柑橘にはない、奥ゆかしい香りと清冽な酸味、苦味が特徴です。
「タチバナ」にはウンシュウミカンの 20 倍以上のノビレチン及びタンゲレチンが含まれていることがわかっています。これらの成分は主に果皮部に含まれており、6月頃の青果の含有量で高い傾向にあります。2)
1)山科植物資料館「ヒラミレモン(シイクワシャー)」
2)橘の機能性成分の調査研究(第1報) – 奈良県
北限のゆず(ホクゲンノユズ)
産地:岩手県陸前高田市 学名:Citrus junos
現在、ユズ栽培の北限地とされるのは岩手県陸前高田市ですが、青森県の下北半島でも育つといわれます。
太平洋側の沿岸部である陸前高田市は気候が比較的温暖で日照時間が長いため柑橘類の栽培が行われています。同地域では200年以上前からユズが生育していたとされ、市内では庭先果樹として当たり前のようにユズが植えられていたそうです。
しかし、東日本大震災前により甚大な津波被害を受けてしまいました。この震災を契機に地域外からの人的交流で、同地域のユズが特産物としてのポテンシャルを持つことへの認識が高まり、「北限のゆず研究会」が設立されました。
「北限のゆず」は、寒冷地での栽培のため、特に皮が厚く香りが強いのが特徴です。現在は陸前高田の復興の象徴として、ブランド化を目指しています。
信夫山のゆず(シノブヤマノユズ)
産地:福島県福島市 学名:Citrus junos
福島市にある信夫山(しのぶやま)では江戸時代の初期からユズの栽培が行われていたそうです。信夫山は山岳信仰の山として知られており、「信夫山のゆず」は地元では「御山(おやま)のゆず」とも呼ばれています。
「信夫山のゆず」の由来は信夫山山頂にある1500年以上の歴史を誇る羽黒神社にあります。羽黒神社は、江戸時代までは「羽黒大権現(はぐろだいごんげん)」と呼ばれ、信夫・伊達地域一帯の総鎮守として人々の厚い信仰を集めてきました。毎年2月に行われる信夫三山暁参り(しのぶさんざんあかつきまいり)の神事では、身体強健などを祈願し、高さ12m、重さ2tの日本一の大わらじが奉納されることでも有名です。2025年は2月15日・16日に開催されます。
ここに鎮座する羽黒大権現が都から渡った時に御守りとして携えたのがユズの実だったそうです。ユズの木には生産者でも難儀するトゲがあることから、信夫山の御山部落では屋敷の周りにユズを植えて、トゲで魔物を追い払う「いぐね」という木の守りにしたのが栽培の始まりだとされます。不思議なことに、同じ信夫山でも御山部落以外ではユズは出来ないそうです。
冬の昼夜の寒暖差が大きい福島盆地の信夫山で栽培された「信夫山のゆず」は、寒冷地のユズにありがちな果皮の厚い無骨な外見ですが香気が高く、かつては都で食料にも薬用にも使われたほか、軒に下げただけでも魔除け・厄除けになるほど効能が高いと伝えられています。「信夫三山暁参り」の時には、境内に「信夫山のゆず」を使ったユズ湯やユズ飴、ユズ味噌、ユズ大根、ユズ饅頭などが並べられ、多くの参拝者が買っていました。
東日本大震災により2022年まで11年間出荷を停止してしまい、現在は3軒の農家に減ってしまいしたが、2023年の冬から本格的に出荷が再開されました。
一般社団法人福島市観光コンベンション協会(DMO)福島市観光ノート
雨乞の柚子(アマゴノユズ)
産地:宮城県柴田町 学名:Citrus junos
「雨乞の柚子」は、日本国内で自生する最北限のユズと言われています。推定樹齢数百年の古木もあるそうです。現在は柴田町で一番高い愛宕山の中腹にある入間田雨乞(いりまだあまご)地区で4件の農家が生産しており、柴田町の特産品となっています。
由来は600年程前に遡ります。諸国を行脚修行して歩く行者が雨乞地区に住む移った後、風邪をこじらせたため、雨乞地区の人々が手厚く看病したところ、これに感謝して南の地で頂戴したユズの種を渡したのが始まりだそうです。
毎年8月末頃に緑色の実を付け初め、11月中旬から12下旬まで黄色く色づいたユズの収穫が行われます。寒冷地のため皮が厚くなり、香りが強いのが特徴です。ユズ砂糖、柚子こしょう、かけ酢、雨乞のユズだしぽん酢。などの加工品も作られています。
庄川ゆず(ショウカワユズ)
産地:富山県砺波市庄川地区 学名:Citrus junos
「庄川ゆず」が栽培される庄川地区は日本海側最北端のユズの栽培適地で、栽培の中心になっているのは旧:庄川町の最大集落がある金屋地区です。そのため、以前は「金屋(かなや)ゆず」と呼ばれていましたが、現在は庄川地区全域で生産されるユズ全体を「庄川ゆず」と呼んでいます。
同地区での栽培の歴史は古く、ユズの原種は弘法大師から伝えられたとされます。また、井波別院瑞泉寺 いなみべついんずいせんじ)を創建した綽如(しゃくにょ)上人にユズを献上したという逸話が残っています。
庄川地区には「庄川颪(しょうかわおろし)」と呼ばれる風や冬の寒さなど、他のユズ産地とは大きく異なる独特の気候風土があります。そのため、他産地のユズに比べると「庄川ゆず」は、果皮が肉厚で、粗い凸凹が目立ちます。凸凹によって果皮の表面積が多くなるため、香りを強く感じるのも特徴です。果重は120g前後で、果肉は酸味が強めです。
木頭柚子(キトウユズ)
産地:徳島県 学名:Citrus junos
徳島県那賀郡那賀町木頭地区で古くから栽培されていた在来のユズが原樹です。1968年頃、集落のはずれにあった在来のユズの木を母樹として、要 明幸(かなめ あきゆき)氏が10年にわたる試行錯誤の研究を経て、選抜・増殖したのが始まりとされます。
同地区は標高200~500mと高く、一年を通して寒暖差が激しく、降雨量も非常に多い地域で、その気候風土によって、独特の特徴を持つ希少価値の高い「木頭柚子」が栽培されています。
全国で栽培されているユズのほとんどに「木頭柚子」の苗が使われており、1977(昭和52)年には果樹としては初めて朝日農業賞を受賞しています。2017(平成29)年に地理的表示産品に登録され、海外にも輸出される地域ブランドになっています。
果実が大玉で玉揃いがよく、果皮が厚く果皮障害であるコハン症の発生が少ないので色や外観が美しいユズです。香りが高く、酸味の強いのが特徴です。収穫時期は、10月末から12月上旬ですが、この間にも、風味、酸味や甘味のバランスが絶妙に変化していくそうです。木頭地区のユズ農家では古くから、この限られた旬の時期における風味の変化を楽しむ「利き柚子」の文化がありました。
長門ゆずきち(ナガトユズキチ)
産地:山口県萩市田万川地域 学名:Citrus nagato-yuzukichi hort.ex.Y.Tanaka.
山口県萩市(旧:阿武郡田万川町)原産で、同地域で古くから庭先果樹として栽培されてきました。本格的に栽培され始めたのは1965(昭和40)年頃からで、1967(昭和43)年に柑橘類研究の第一人者であった田中論一郎(たなかゆいちろう)博士の鑑定により、同一品種であると考えられていた「柚吉/宇樹橘(ゆずきち/うじゅきつ)」との違いが明らかになり、「長門ゆずきち」と名付けられました。
樹の大きさがあまり高くならず収穫がしやすいことや、寒さや害虫に強いことから産地が拡大され、1998(平成10年)頃には長門市や旧:豊北町(現:下関市)でも栽培されるようになりました。2007(平成19)年には、産地の旧:JA長門大津、旧:JA下関、旧:JAあぶらんど萩(現;いずれも山口県農協)の3農協が共同で「地域団体商標」を登録しています。現在では協議会が設置されるなど産地間の協力体制も整い、北浦地方の特産品として定着しています。
「長門ゆずきち」の大きさは、ゴルフボールよりやや大きめで緑が美しく、まろやかな酸味と果汁が多いのが特徴です。樹勢は強く、結果樹齢に達するのは早く、耐寒性はユズと同等とされています。露地栽培で8月中旬から10月上旬まで生果の出荷が行われます。
大分一号(オオイタイチゴウ)
産地:大分県臼杵市、竹田市 学名:Citrus sphaerocarpa Hort.ex Tanaka
カボスの一種。カボスは「香母酢」と漢字を当てるように香りの強い香酸柑橘です。カボスの原産はヒマラヤ地方とされ、日本には江戸時代に中国から渡来し、当初は薬として利用されていたそうです。香りの強さを活かし、江戸時代に蚊を燻(いぶ)して追いやるために皮を刻んで利用したことからカボスと名付いたそうです。
大分県では臼杵市や竹田市で江戸時代頃から栽培されています。臼杵市には樹齢300年と言われたカボスの元祖木とされる古木があり、臼杵市の特別保護樹木に指定されていましたが残念ながら枯死してしまいました。また、他県には見られない樹齢200年前後の古木が今も残っているため、日本におけるカボスの原産地は大分県であるという説もあります。
「大分一号」は、今から50年ほど前の1973(昭和48)年に県下の様々な系統のカボスの中から、果実品質や栽培面で優れた系統を選抜して増殖された品種です。現在、大分県で栽培されているカボスの85%は「大分一号」です。
果皮は濃い緑色で、果実重は約80~140gとスダチよりも大玉です。酸味がまろやかで独特の芳香があります。クエン酸、ビタミンCなどを含み、健康食材としても注目されています。刺身や焼魚等の薬味や鍋料理のポン酢、酢の物の他、果汁を用いた酒類やジュース、菓子類などに利用されています。
田熊酢橘(タクマスダチ)/直七(ナオシチ)
産地:高知県 学名:Citrus aurantium Sour Orange Group/ Citrus sudachi
スダチの一種。「直七」は広島県尾道市田熊(たくま)で発見された香酸柑橘で、正式名称は「田熊すだち」といいます。「直七」の名の由来は、昔、魚屋の直七さんが、魚にかけると美味しいと勧めたことから付いたといわれています。
現在、広島では栽培されておらず、主に高知県の南西に位置する幡多地区で自家用に栽培されてきました。高知では香酸柑橘を「酢みかん」とも呼び、特に宿毛(すくも)地域では、魚料理に欠かせない食酢として古くから人々に食されています。
果汁の味のバランスの良いのが特徴で、ユズやカボスに比べ、甘味と苦味が多く、酸味もまろやかです。
木酢(キズ)
産地:福岡朝倉郡筑前町(旧・夜須町) 学名:Citrus kizu hort. Ex Y. TANAKA
福岡県では「キズ」、佐賀県では「キノス」と呼ばれています。「キズ」は、外観がスダチやカボスに似ており、スダチやハナユと同様のユズの近縁種または偶発実生の好酸柑橘と考えられていますが、その由来は明らかになっていません。
栽培の歴史は古く、最も古い記録は、少なくとも鎌倉時代、場合によっては平安時代にまで遡る可能性もあるという説もあります。1)貝原篤信(益軒)の大和本草(1708年)にも記録が残っています。福岡県の甘木市や筑前町では今でも「キズ」が栽培されており、2)筑前町にある森部氏宅にある2代目の古木は、樹齢が200年以上と推定されています。3)
ほんとが自家消費用に栽培されてきており、現在、福岡県内の「キズ」は、福岡県筑前地方の筑前町にある夜須高原に自生していた品種を栽培農家の鈴木友文氏が原木から接ぎ木用の枝を譲り受けて栽培しブランド化したものです。4)
「キズ」は、果汁が豊富で、強い酸味とフルーティーな香りが特徴です。
1)貞松光男著「キズ(Citrus kizu hort. Ex Y. TANAKA)の発生年代に手掛かりを与える古記録について」(1996)
2)筑前町「木酢」
3)福岡県特産「木酢(キズ)」の調査・研究報告について
4)もっと福岡
シークワーサー/平実檸檬(ヒラミレモン)
産地:沖縄県 学名:Citrus depressa HAYATA
「シークワーサー」は、和名では「平実檸檬」の名がついていますがレモンではありません。起源は、琉球諸島とその周辺の島々に生息する野生の柑橘類であるタニブター(C. ryukyuensis)と、アジア大陸のマンダリンオレンジ(C. reticulata)との交配種であると考えられています。1)奄美大島以南から台湾にかけての山麓に自生していました。日本で古くから自生していたことが明らかになっているのは、今のところ橘(たちばな)と、シークワーサーの二品種だけです。2)
名前の由来は、沖縄の方言で「シー(酸っぱい)」、「クヮーサー(食べさせる)」で「酢に浸す」という意味があります。昔は、沖縄を代表する織物である芭蕉布(ばしょうふ)の染み抜きや繊維を柔らかくするのにも使われていました。果実の大きさはカボスと同じぐらいで直径約3~4cmですが、果形は「平実檸檬」の名にもあるように扁平型です。
沖縄県内では、特に大宜味村、名護市、本部町などの北部地域で栽培が盛んで、県内の生産量の約50%を大宜味村が占めています。収穫時期が長く、時期によって色や風味が変わります。夏から秋にかけて収穫されるものは「青切りシークヮーサー」と呼ばれ、濃い緑色をしており、レモンのような爽やかな酸味と微かな甘み、独特の香りがします。冬場はオレンジ色になった完熟シークヮーサー「黄金(クガニー)」が生食用として出回ります。完熟すると酸味が和らぎ、甘みが増し、糖度が上がります。
果汁に含まれているフラボノイドの一種ノビレチンという成分に血圧、血糖値を下げる効果があることがわかり一躍有名になりました。
1)沖縄科学技術大学院大学「沖縄の「シークヮーサー」、出自の謎が明らかに」
2)山科植物資料館「ヒラミレモン(シイクワシャー)」
丸仏手柑(マルブシュカン)
産地:九州南部の海岸地帯 学名:Citrus medica L.
「丸仏手柑」は、「仏手柑(ブシュカン)」の日本の在来種で、九州南部の海岸地帯で栽培されています。「仏手柑」と異なり、果実が丸いのが特徴です。「シトロン」の変種で、英名では「シトロン」、和名は漢名から「枸櫞(クエン)」と呼ばれることもあります。レモンと類縁関係にあり、果実は黄色く、紡錘形をしており、レモンと似ていますが、葉や果実がレモンよりも大きく、香りも強いのが特徴です。
平安時代末期に成立した古辞書の「色葉字類抄(いろはじるいしょう)」(1144~1181年)に記載されていることから12世紀初頭以前には日本に渡来していたものと推測されています。1)
果実は鮮やかな黄色で、形は幅広の楕円形で長さ8㎝前後です。果皮が硬く、縦に大きなヒダがあります。果肉は乳白黄色で、味はレモンやユズに似ていますが、苦味がなく、柑橘類に多く含まれるクエン酸の爽やかな酸味があります。香りが強く、砂糖漬にして食用にされるほかに、料理の香り付けやジュースや食品添加物や洗剤などの香料として使用されたり、クエン酸の原料になったりします。
ちなみに「仏手柑」は、インド東北部原産の香酸柑橘で、色は黄色で、形状は途中からバナナのように分かれ、人の手指のように見えることから仏陀(ぶっだ)の手とする名が付いています。仏手柑は果肉や果汁の詰まった袋が無く、果皮の内側には白い綿状の部分しかありません。生食はできず果皮を利用します。果皮は、刻んで薬味として刺身や焼き魚、冷奴、酢飯、マリネなどや、砂糖漬け、ジャム、マーマレード、漢方薬などに利用します。正月飾りや祝い事の縁起物としても利用されます。
邪祓(ジャバラ)
産地:和歌山県東牟婁郡北山村 学名:Citrus jabara
和歌山県紀南地方の北山村原産で、古くから自生していた自然雑種の香酸柑橘です。柚子や九年母(クネンボ)、紀州ミカンなどの自然交配種と言われています。名前の由来は、その味わいから「邪(気)を祓う」という意味があります。
強烈な酸っぱさと苦味、まろやかな風味が特徴で、「にがうま」感と独特の香りとが人気です。「ジャバラ」は、他の柑橘に比べて、フラボノイドの一種である「ナリルチン」という成分が多く含まれており、花粉症への緩和にこの成分が注目されています。 2008年には、岐阜大学医学部より、「ジャバラ」で花粉症の諸症状(くしゃみ、鼻づまりなど)が改善されたとの学会発表が行われました。
元寇(ゲンコウ)
産地: 佐賀県唐津市 学名:Citrus jabara hort. ex Y. Tanaka
玄界灘に浮かぶ馬渡島の山中に自生していたのが発見されたものです。佐賀県唐津市鎮西町馬渡島(まだらじま)、唐津市浜玉町にしかない珍しい柑橘です。馬渡島でもカトリック集落の「新村(しんむら)」でしか確認されておらず、その由来は解明されていません。馬渡島は、日本で初めて馬がやってきた島だとされ、鎌倉時代の蒙古襲来(元寇)の伝説も残っています。柑橘の「ゲンコウ」は、かつて、この島に渡ってきたスペインの宣教師が持ち込んだのではないかと推測されています。サイズは小さいミカンほどで、色はレモン色、レモンのまろやかな酸味とミカンの甘味を併せ持っています。酸味や甘味は、その時期その時期で変化します。
2021年に産直サイトを運営する「未来ギフト唐津」という活動に参加した県立唐津西高写真部の高校生が、元寇と出会い「自生している元寇の成木が馬渡島に2本しかない」ことや「浜玉町の富田農園が元寇を守るために栽培している」ことを知り、復活プロジェクトを立ち上げています。
※「新村」は佐賀県西松浦郡に存在した村。有田村に改称。町制施行して東有田町に改称。現有田町。
佐賀を編集するWebマガジン「釣りだけじゃない!知られざる馬渡島の魅力。幻の果実ゲンコウって?」
辺塚だいだい(ヘツカダイダイ)
産地:鹿児島県辺塚集落 学名:Citrus aurantium
「辺塚だいだい」は、橙の一種で、鹿児島県肝付町内之浦と南大隅町佐多の町境周辺の辺塚集落に古くから自生・栽培していた柑橘です。内之浦では「辺塚デデス」と呼ばれています。
一般的なダイダイと比べると、直径は8cm前後と小ささめです。果皮は鮮やかな緑色をし、薄く滑らかで、ライムに似た爽やかな香りがあります。果実は薄い黄色です。果汁は豊富で、酸味が少なく柔らかな味が特徴です。
8月から10月頃の果汁は酸味が強めで、地元では古くから酢の代用品として利用されてきたました。カボスのように、魚の刺身を食べるときに醤油に果汁をひと搾りしたり、輪切りにして焼酎に浮かべたりするなど、さまざまな使い方をします。
2017年12月に地理的表示(GI)保護制度に登録されています。
新姫(ニイヒメ)
産地:三重県熊野市 学名:Citrus L.
三重県熊野市新鹿(あたしか)町の民家に自生しており、偶然に発見された香酸柑橘類です。1970(昭和45)年に橘(たちばな)の変種として熊野市の天然記念物に追加指定されています。熊野市の天然記念物に指定されている野生の「大泊のニッポンタチバナ」と、日本在来マンダリンの交雑実生とされ、1997(平成9)年に種苗登録されました。
実の直径は3㎝ほどで、重さは約30gほどです。果皮の香りが強く、ユズとは異なる独特の香りが特徴です。1)5月上旬に開花し、11月上旬から着色が始まり、1月上旬に完全着色し、鮮やかな橙色になります。12月下旬には糖度11.6%、クエン酸濃度4.5%になるそうです。2)
生果汁における総フラボノイド含量が、近縁種に比べて高いことが県研究機関で確認されており、果汁を利用した加工食品が多数販売されています。
ぶしゅかん/餅柚(モチユ)
産地:高知県 学名:Citrus inflata hort. ex Tanaka
高知県四万十川流域で栽培されている香酸柑橘の一種。四万十地域では、民家の庭に必ずと言ってもよいほど植えられています。来歴は定かではありませんが、現在残っているもので樹齢およそ130年と言われている古木があります。
高知県では「餅柚」は「ぶしゅかん」と呼ばれており、その呼び名でしか通じないようですが、人間の手のような形をした黄色い柑橘類である「仏手柑(ぶっしゅかん)学名: Citrus medica var. sarcodactylus」とは別物です。
「仏手柑」と区別するため、平仮名表記で「ぶしゅかん」としているそうです。高知での「ぶしゅかん」の名の由来は、仏像の御手に乗っている「宝珠」に似ていることから「仏手柑(ぶしゅかん)」とついたとされる説があります。
「ぶしゅかん/餅柚」は、カボスと同じ濃い緑色の果皮で、果実は直径4㎝ほどの球状です。種がたくさんあり、少しほんのり苦みばしった爽やかな香りと、フルーティーでまろやかな酸味が特徴です。酸味はユズより柔らかく、果皮はスダチより香りがあります。果皮を刻んで薬味使うなどもします。高知では「酢の王様」として親しまれています。
生命力が強く、病気や虫害に強いため、あまり手をかけなくても毎年たわわに実をつけるそうです。9月頃が収穫時期です。
四万十ぶしゅかん公式
四万十観光協会
農業生物資源ジーンバンク「もちゆ」
高知県産香酸柑橘‘ぶしゅかん’のフラボノイドおよびモノテルペンの評価
平兵衛酢(ヘベス)
産地:宮崎県日向市 学名:Citrus heibei hort. ex. hatano
宮崎県日向地方(旧:東郷町を含む日向市および門川町)特産の香酸柑橘で、日向ライムとも呼ばれます。来歴は、江戸時代末期に宮崎県日向市(富高村西川内)の長曾我部 平兵衛(ちょうそかべ へいべえ)が、山中に自生する果実を偶然発見し、持ち帰って自宅の庭先で栽培を始めたのが起源とされます。
名前の由来は「平兵衛さんの酢みかん」が転じ、「平兵衛酢(へべす)」となったと言われています。現在は2018年から宮崎県全域へ栽培が広げられています。
果実は、スダチより大きく、カボスより小さく直径約3~5cmほどで、重さは45~55gほどです。果皮の色は緑色で、成熟すると淡橙黄色に変化します。果皮が薄いため冷蔵保存ができず長期保存には向きません。皮が薄く種が少ないのが特徴で、その分、果実が多く、果汁が多く絞れ、果肉も皮も食べることができます。
さわやかな香りとまろやかな酸味が特徴です。必須アミノ酸9種のうち8種が含まれており、発がん抑制効果があると言われるフラボノイド成分「ナツダイダイン」も多く含まれています。冷奴や刺身、焼き魚、うどんやそうめんなどの薬味として、またお菓子づくりやお酒との相性も抜群です。
「ヘベス」は、カボス、ユズ、スダチと比較すると生産量が10分の1にも満たず、宮崎県外に流通する数は少量です。
ゆうこう(ユウコウ)
産地:長崎県長崎市外海地区、土井首地区 学名:Citrus yuko
「ゆうこう」は、農研機構によるとユズとザボンの自然交配で偶発したものと推測されていますが、その来歴は明らかになっていません。徳島県で栽培されているユズの近縁種であるユコウとの関係が連想されますが、別種であることが明らかになっています。
長崎市外海地区や土井首地区などの限られた地域に100本ほどの自生樹が確認されるとともに、この一部地域だけに実生している独自の在来種であることが明らかになっています。外海町から人が移住したという佐賀県の馬渡島を除き、国内の他の地域に同一のものがあるという情報はありません。
また、人の交流のあった地域にのみ古木が存在しており、樹齢100年を超える実生樹が複数本現存していることから1)、江戸後期から明治初期にはすでにあったのではないかと考えられています。キリシタンと深く関わりのある地域に多く自生していることから、キリシタンから伝わったのではないかという説があります。
ユズやカボスに似た見た目で果肉は柔らかく甘みのあるまろやかな酸味が特徴です。2)2008(平成20)年10月には伝統的な食文化を守る活動を行っているスローフード協会国際本部(イタリア)から食の世界遺産「味の箱舟」に認定されました。3)
長崎市内の日本料理店が独自に開発した「ゆうこう」を使ったポン酢が、国際味覚審査機構 (iTQi)による優秀味覚賞を2013年-2017年に連続受賞しています。2014年には、長崎県ブランド農産加工品認証制度「長崎四季畑」にも認証されています。
1)「長崎県対馬地域および長崎市周辺地域におけるカンキツ遺伝資源の調査」P66
2)徳嶋知則、林田誠剛、小川一紀、根角博久「香酸カンキツ‘ゆうこう’の果皮および果汁中のフラボノイド」『園芸学会雑誌』第73巻別冊2、p.397(2004)
3)味の箱舟「「ゆうこう」
柚柑(ユコウ)
産地:徳島県 学名:Citrus yuko hort.ex Tanaka
徳島県の山間部のみで栽培されている香酸柑橘です。「ユコウ」はユズとダイダイとの自然交配と推定されています。長崎県の香酸柑橘「ゆうこう」と名前が似ているので関係が連想されますが別種であることが明らかになっています。
江戸時代からあったとされ、昔はどの家にも庭先果樹として植えられていたそうです。国内の生産は徳島県産が100%で、その中でも主要な生産地は徳島県の山間部にある「葉っぱビジネス」で知られる徳島県上勝町です。1)
「ユコウ」は、香りが強いことが特徴で「柚香」と書くこともあります。果実は扁球形で果頂部がくぼみ、果面はユズより滑らかです。果実中央から果頂部にかけて大きなしわが多数あり、果実によってはユズに近い外観となります。機能性も高く、大腸菌、ブドウ球菌、カビに対する抗菌作用が見られます。2)
徳島県では10月下旬から色づき始め、11月下旬には濃橙色へと完全着色しますが、香りや酸味などユコウ特有の風味を残すため、7~8分着色した頃が収穫適期だそうです。生産量が少なく、「幻の果実」とも言われています。3)
※栃木県那須烏山市小木須には「国見大久保のユコウ」と呼ばれる「ユコウ」の木があり、那須烏山市の天然記念物に指定されています。4)このユコウの樹齢は推定250年とされ、現当主の8代前の当主が四国の金比羅・八十八ヶ所参りの際に持ち帰った「ユコウ」だそうです。
1)株式会社いろどり
2)幻の果実柚香(ユコウ)の機能性とその応用展開
3)ライトライフ
4)那須烏山デジタル博物館「国見大久保のユコウ」
徳嶋知則、林田誠剛、小川一紀、根角博久「香酸カンキツ‘ゆうこう’の果皮および果汁中のフラボノイド」『園芸学会雑誌』第73巻別冊2、p.397(2004)
中央果実協会「ユコウ」
シャンス
産地:大分県竹田市 学名:不明
雑柑※の一種。竹田市の祖母山(そぼさん)山麓地帯に古くからある庭先果樹で、200~250年以上前からあるとされますが来歴は不明です。集団栽培は行われておらず、自家用の酢ミカンとして利用されており、完全な地域在来種で、生産量は極少量の希少種です。
形はデコポンみたいに果こう部がやや飛び出しており果頂部は豊円です。大きさは縦径6~7㎝、横径5~6㎝です。果皮は表面が粗くザラつきがあり、11月下旬頃から黄色になり始め、熟してくると黄色が濃くなっていきます。果皮の色が青く未熟なうちは香りと酸味が強く「酢みかん」として使います。黄色に熟すとレモンに近い上品な香りと果実は柔らかな甘酸味になり、皮をむいて食べることもできます。サッパリとした甘さで夏みかんやスイーティーのような味わいです。
※雑柑とは、柑橘類のうち、系統的にみて類縁関係が明確でなく、その品種や系統のみが存在するような小グループの呼称。
NPO法人おおいた有機農業研究会「食と農おおいた」№120号p11-12
かぼすTV「誰も知らない希少種の柑橘「シャンス」を試食してみる!」
花良治(ケラジ)
産地:鹿児島県喜界島 学名:Citrus keraji
「ケラジ」は、鹿児島県喜界島の「花良治(けらじ)」という集落で18世紀末に発見された香酸柑橘です。喜界島では気候風土が柑橘栽培に適しており、子どもが生まれると新しいミカンの木を植える風習があったそうです。
果実にタネが無く、果皮が緑色の頃でも生食できます。独特な爽やかな香りが特徴で、果皮や果汁を料理に使うことができます。
花良治は、DNA鑑定の結果、「クネンボ」が種子親で、「喜界ミカン」が花粉親であることが有力とされています。
現在は喜界島だけでなく、高知県安芸地区で栽培する農家もあります。
山本雅史他著「喜界島(鹿児島県)の在来力ンキツであるケラジミカン (Citr附 keraji) の来歴の検討」(2010)
JA高知「鹿児島県喜界島発祥の「花良治」をご存知ですか?」
JAタウン「喜界島加工品詰合せ」
ジャボン
産地:広島県 学名:Citrus maxima??
広島県の瀬戸内海沿岸に位置する東広島市安芸津町周辺で100年前から栽培されているオリジナルの香酸柑橘と言われていますが、詳しい来歴はわかっていません。ザボンからの枝変わりや偶発実生の可能性があります。
「ジャボン」は、他の香酸柑橘と比べ、200gほどの大玉が多く、独特の香りがします。果汁の量が多く、風味がまろやかで、12月には糖度が11度を超え、クエン酸は5%程になるそうです。
また、病気や害虫に強く、鳥獣被害、寒害にも遭いにくく、特別な手入れをしなくても育ち、貯蔵性も高いため、自家消費用として、庭先や畑の隅に1、2本植えられ、果汁が市販酢の代用として使われてきたそうです。
朝日新聞「杜氏がタネを持ち込んだのか… 謎多き「幻の果実」じゃぼん」
みんなの農業広場「じゃぼん」
九年母(クネンボ)
産地:鹿児島県、沖縄県 学名:Citrus nobilis Lour. var. kunep Tanaka
九年母は日本の柑橘類の原種の一つとされます。インドネシア半島が原産で、日本には室町時代後半に中国南部を経由して琉球王国(現:沖縄)に伝わり、その後、鹿児島を経て西日本に広がっていったとされます。江戸時代までは関東以南では一般的な柑橘でした。
沖縄では「トークニブ」1)「クニブ」「クニブ―」、熊本では「くねぶ」とも呼ばれます。「九年母」という名の由来は、苗木を植えてから初めて実をつけるまでに3~4年、収穫量が安定するまでに9年かかることから付いたそうです。
果皮はやや厚く、濃い緑色が熟すと橙色に近くなります。果実は扁平な球形で、縦径が約7~8㎝、横径が約9㎝です。果肉は柔らかく、果汁が多く、甘み・酸味とも強く濃厚な味です。
経済栽培はほとんど行われておらず、鹿児島県喜界島や沖縄のごく一部でのみ栽培される希少柑橘となってしましましたが、近年、静岡県南伊豆町2)や熊本県五木村3)、山口県の山口大学4)で復活が進められています。
南伊豆町では、半世紀以上にわたり栽培が絶たれていたそうですが、地域有志が生産を復活させました。熊本県でも復活させて加工品の開発なども進められています。
1)沖縄の伝統的な食文化データベース
2)伊豆下田経済新聞「幻のかんきつ「クネンボ」を使ったリキュール 南伊豆の直売所で限定販売」
3)西日本新聞「復活した幻のミカン 熊本・五木村のくねぶ」
4)山口大学「『幻の柑橘』クネンボの植栽式が行われました」
タルガヨー
産地:沖縄県大宜見村 学名:Citrus tarogayo
「タルガヨー」は、沖縄県やんばる地方で栽培されている沖縄原産の伝統的な香酸柑橘です。沖縄特産のカーブチーと中国産のオートーの交配種とされています。
名前の由来は、沖縄方言の「タル」には「誰」の意味があり「誰が作ったの?こんな美味しいみかん」からとか、同じ在来柑橘のカーブチーでもない、オートーでもない「あなたは誰?」からとかの説があります。また、沖縄の方言で美味しいミカンの意味の「マーサクニブ―」と呼ばれることもあります。1)
果実はシークワーサーより大きく、果重は90g前後でタネを多く含んでいます。果皮は硬くて剥きにくく、緑色で完熟するとオレンジ色になります。果肉は多汁で、オレンジに近い、ほのかな酸味と爽やかな甘さがありますが、甘味が強いわけではなく、バランスの取れた独特の甘酸っぱさです。
生食でき、果皮の緑色が黄色に色づき始めたら食べ頃です。果肉を切ってサラダに乗せたり、ジャム、ドレッシングにしたりフレッシュジュースなどに利用されます。11月上旬に収穫されます。
寧波金柑(ニンポウキンカン/ネイハキンカン)
産地:和歌山県、高知県、福岡県 学名:Citrus japonica Thunb. ‘Crassifolia’
金柑の代表的な品種で、別名で寧波金柑(ねいはきんかん)、明和金柑(めいわきんかん)とも呼ばれます。
「寧波金柑」は中国原産の常緑低木で、日本には江戸時代の1826(文政9)年に渡来したとされます。当時、中国浙江省寧波の商船が遠州灘沖で難破し、清水港に寄港して船体修理をした際に、お礼として船員から砂糖漬けの金柑の実が贈られました。その種を植えたのが日本での栽培の始まりだとされます。
名前の由来は、黄金色に輝く蜜柑ということで金柑という中国名が生まれ、日本では音読みで「きんかん」と呼ばれました。別名、姫橘(ヒメタチバナ)、金橘(キンキツ)とも呼ばれています。
姫橘には、お菓子の神様である菓祖神・田道間守(たじまもり)が、常世国(済州島とも)からはるばる持ち帰ったという不老長寿の実という説もありますが、渡来したのは江戸時代とされているのでどうでしょう。また、『日本書紀』垂仁天皇紀によると天皇の命により「非時香菓(ときじくのかくのみ)」すなわち橘(タチバナ)を求めて常世の国に派遣されたとありますが、タチバナはDNA解析で日本が原産であることがわかっています。もしかしたら橘や金柑ではなく、本物の「非時香菓」があるのかもしれませんね。
※田道間守(たじまもり)は、『日本書紀』では「田道間守」、『古事記』では「多遅摩毛理」「多遅麻毛理」と表記されます。
果実は短卵円形で3~3.7㎝と大きく、果重は10~13g程です。果皮は滑らかで、橙黄色をしています。果皮の厚さは4mm内外で、皮を剥くのは難しく、果皮ごとあるいは果皮だけ生食します。皮の中果皮に苦味と甘味があり、果肉は酸味があります。
生食にも向いており、ビタミンAやCが豊富に含まれ、皮に含まれる「ヘスペリジン」という成分には、喉や扁桃腺の炎症を抑え、腫れや痛みを軽減する作用があるとされますが、生で食べる場合は、皮に含まれるテレピンという成分で舌が痺れたりするので5個までにしましょう。果皮ごと甘く煮て、砂糖漬け、蜂蜜漬け、甘露煮、マーマレード、砂糖に漬け、ドライフルーツにします。
伝統果樹・在来種を未来に残そう!
在来の香酸柑橘には、一般的なユズやスダチよりも機能性が高いものもあります。組み合わせる料理によっては栄養価を補い合うこともできます。野菜も果物も在来種の価値を知ったり、見直したりして、食べて守っていきたいものです。
もし、出会うことがあったら、買って応援!使って応援!食べて応援!してください。
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