25年ぶりの食料・農業・農村基本法の改正と伝統野菜のタネの行方
先般の当会記事「伝統野菜・在来野菜約600種類のタネの廃棄を検討中 ~山形庄内・山澤氏が高齢になったため今後の方向性を模索~」(3月18日掲載)に対し、想像以上に大きな反響が有り、大変、驚いております。
当会は、伝統野菜や在来種に関心のある人たちで細々とPRを続けてきた団体でして、今回の皆さまのタネへの関心の高さを知って、大変、心強く感じています。
本記事では、タネに注目が集まっているこの機会に、日本の農業に関する法律とタネの今後の方向性について整理しておきたいと思います。
25年ぶりの食料・農業・農村基本法の改正
農業に関する法律には、いろいろものがあります。そのおおもとになるのが、農政の憲法ともいわれる「農業基本法」ですが、1999年に、これに代わり「食料・農業・農村基本法」制定されました。 1961(昭和36)年「農業基本法」制定 1999(平成11)年「食料・農業・農村基本法」制定 そして、今年、25年ぶりに「食料・農業・農村基本法」が改正されようとしています。
2024(令和6)年「食料・農業・農村基本法」改正(審議中) 改正案は2024年2月27日に閣議決定し、内閣総理大臣からその法律案が国会(衆議院又は参議院)に提出され、2024年度予算成立後の4月以降に審議が本格化し、政府は今の通常国会での成立を目指す方針です。改正案の主眼は、「平時からすべての国民の食料安全保障を確保するため」とのことです。
改正案には、タネに関する記述なし
しかし、2024年4月4日に行われた「日本の種子(たね)を守る会」が主催した院内集会をオンライン視聴したところ、「昨年募集されたパブリックコメントに寄せられた1179件の意見のうち、半数近く(540件)が種子に関するものでしたが、法案には種子に関する記述はない」という報告がありました。
なぜ、種子に関する記述がないのか、その集会では理由まではわかりませんでしたが、食料安全保障を確保するためには、当然、種子を保護する必要はあるし、以前の「種子法」を復活させた方が良いではないかと思いました。
種子法廃止のその後
以前は種子法によって種子の生産責任を公的機関に義務付けていました。種子法は戦後の食糧難を踏まえ1952年に制定された法律です。米、麦、大豆の種子生産や普及を都道府県に義務づけ、都道府県の農業試験場などが携わってきました。これによって、日本の食を支える主要農作物である米、麦類、大豆の種子の安定生産・供給が守られていました。(種子法の対象は米や麦、大豆などの穀物だけです)
やがて、その役割は終えたとし、民間企業に品種開発や種子ビジネスへの参入を促すため、2018(平成30)年4月に廃止されました。これで、民間企業は参入しやすくなりましたが、同時に海外企業の参入ハードルも低くなりました。 これに対し、各都道府県は「主要農作物種子条例」として34道県が条例を定めています(2024年1月13日時点)。主要農作物のほか特産作物などを対象にしている自治体もあります。
野菜のタネの保全は?
国による野菜のタネを保護する内容のものは特にありませんでしたが、自治体の「主要農作物種子条例」では主要作物以外にも特産品のソバ(長野県)や小豆、エンドウ、インゲン(北海道)などを含んでいる自治体もあります。岩手県や長野県では伝統野菜も対象にしています。
また、国は「野菜種子安定供給対策事業」を公募していました。(公募受付期間は令和6年2月20日で終了しています)事業趣旨は、野菜種子の安定供給の推進で、日本の種苗会社が国内外で新たな採種地等を確保し、野菜種子の国内安定供給をより盤石にすることを目的としています。
対象となる野菜の品種は、指定野菜:国民消費生活上重要な野菜(キャベツ、ダイコン、ニンジン等14品目)および特定野菜:指定野菜に準ずる重要な野菜(カブ、ゴボウ、ニラ等35品目)です。
在来種は自家採種できる
タネに関連する法律には「種子法」以外に「種苗法(しゅびょうほう)」があります。
種苗法は1947(昭和22)年に制定された農産種苗法を全部改正したもので、1998(平成10)年に制定されました。 目的は、新品種の保護のための品種登録に関する制度、指定種苗の表示に関する規制等について定めることで、品種の育成の振興と種苗の流通の適正化を図ることにあります。
その後、さらに一部が改正され、2021(令和3)年4月と2022(令和4)年3月に施行されています。 種苗法改正で変わるのは、登録された品種の増殖や海外流出防止などに関する内容です。家庭菜園で育てる野菜には、ほとんど関係ありません。(たまに袋に海外に持ち出してはダメですよ。という内容が記載されているものもありますが)
伝統野菜や在来種のように昔からある品種は誰も育成権を占有していないので、自家採種しても法に触れることはありません。これまで通り自家採種や譲渡が可能です。また、それらの固定種を販売している種苗会社もあるので必要なら購入することもできます。
伝統野菜のタネの保全は地域にかかっている
伝統野菜のタネを保全するには、法的には自治体が種子条例の対象にするかどうかにかかっているという結果でしたが、伝統野菜を条例に含んでいる自治体はわずかでした。また、超党派によるローカルフードを活かす活動もあるようです。当協会は、どこかの党派に与しているわけではありませんが、もし、タネを守ってくれる法律ができるのであれば良いと思います。
しかし、結局は「地域の農業は、地域で守る」という一人ひとりの意識が必要なのだと思います。 伝統野菜などの在来種は、その土地ならではの土壌や気候に応じた栽培のコツともいうべき栽培技術が必要であったりします。いくら農業試験場やシードバンクにタネが保管されていると言っても、毎年、毎年、作物を育て、そこから採種するタネにはかなわないですし、年に一回しかない栽培の経験値を積むのは簡単なことではありません。消えてしまう前に栽培技術ごと継承をしていくことが大事です。
「三里四方の食によれば病知らず」という諺があるように、健康面においても、また、食糧安全保障においても、地域の農業を守るということを生活の基盤におかなければいけないように思います。 ぜひ、伝統野菜や地域野菜を栽培したり、買ったり、食べたり、人に話したりして応援し、地域の農業を地域で守りましょう!
【参考資料】
日本農業新聞2024/2/28 食料・農業・農村基本法の改正案全文
日本農業新聞2024/2/28 [農政の憲法]基本法改正案閣議決定 基本理念に食糧安保
日本の種子(たね)を守る会主催緊急院内集会 2024年4月4日開催(動画)
農文協「本気で「国民皆農」をめざす時代なのかもしれない」2023年1月号
農水産省 令和6年度野菜種子安定供給対策事業に係る公募について
農林水産省 令和6年度野菜種子安定供給対策事業に係る公募について
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