2024年 猛暑の夏 ~野菜の適応力について考える~

名古屋では82年ぶりに猛暑日の連続記録を更新

2024年9月2日に気象庁が発表した今夏(6~8月)の天候まとめによると、2024年の夏の平均気温は、過去最高の暑い夏だった2023年をはるかに上回る結果となりました。

2024年夏の平均気温の平年差は東日本で+1.7℃、西日本で+1.4℃、沖縄・奄美で+0.9℃となり、1946年の統計開始以降、夏として西日本と沖縄・奄美で1位、東日本で1位タイの高温でした。

東海地方(岐阜、静岡、愛知、三重4県)でも気温35度以上の猛暑日となる地点が相次ぎました。名古屋市では7月25日~8月18日に連続猛暑日25日となり、82年ぶりに連続記録を更新し、さらに8月末までの猛暑日日数が39日となりました。

また、岐阜市では7月31日~8月18日に連続猛暑日19日となり、猛暑日日数が35日でした。静岡市駿河区と津市は21日の猛暑日数で、いずれも過去最多を更新しました。

東海地区の2024年夏の平均気温は、平年を1・7度上回り、1946年の統計開始以来、最も高く非常に厳しい夏となりました。

気温が農作物に与える影響は?

このような厳しい暑さにさらされると、当然、人間も熱中症や食欲不振の夏バテになることがありますが、農作物にもさまざまな影響が生じます。

酪農では、早くも6月から乳牛が熱中症になったり、暑さで水ばかり飲んでエサを食べず乳が出なくなったりするなど、例年にはない問題が発生していました。

農業でも、連日35℃以上の気温が続くと、作物の光合成能力が低下し、栄養供給が滞るなど、高温障害を引き起こし、生育に重大な影響を与えます。ハウス栽培の場合は、こまめな温度管理がとても重要になります。

特に、稲やトマト、キュウリなどの農作物は高温障害に非常に敏感です。また、ブドウなどの果物は日焼けしてしまい商品価値が落ちてしまうこともあります。

猛暑の中の伝統野菜の生育は?

では、この猛暑の中、適応力が高いとされる野菜在来種の生育はどうだったのでしょうか。長年、愛知県で伝統野菜の種継ぎをしている「あいち在来種保存会」の代表世話人である高木幹夫氏に、野菜の在来種のこの夏の生育について、お話をおうかがいしました。

― 本日はよろしくお願いします。

高木 よろしくお願いします。

― 今年は大変暑かったですが、野菜の栽培はいかがでしたか?

高木 いや本当に暑かったね。栽培も厳しかったですよ。あまりの暑さに人間も野菜も参ってしまう。

― そうですね。本当に「危険な暑さ」でしたね。

高木 そう。これだけ暑いと、過去の栽培データや経験則が役に立たなくなります。「毎年、これぐらいの時期に蒔いていたから、今年も…」というわけにいかない。

― そうなのですね

高木 そりゃ、気候が平年通りじゃないから。この前、「五寸にんじん」のタネを蒔いたけど、5~10日遅くしました。去年だと8月10~15日頃に蒔いたのだけど、今年は8月20日から蒔きました。2~3回に分けて蒔きます。

― どうやって播種時期を決めたのですか?

高木 もう自分で決めるしかないです。
ただ、今回、ちょっとおもしろいことに気づきました。
7月中旬にニンジンのタネを精選したのですが、その時にこぼれ飛散してしまっていたタネと、8月に蒔いたタネとが、同時期に発芽しているのですよ。こぼしたタネは地面に蒔かれていても猛暑の間は静かにしていて、時期が来たから芽吹いた。そんな風に野菜には、本来ちゃんと時期を知る力があるのですよ。

― 発芽するタイミングはタネが決めているのですね。F1種もそうなのでしょうか。

高木 私はF1種を栽培していないから、詳しくはわからないけど、農家さんからは、この猛暑で栽培はとても厳しかったとは聞いています。
F1種は、種苗会社さんがものすごく努力して新しい品種を育成しています。F1種があるからこれほど多くの種類の野菜が年間を通して食べることができています。こんなに豊富に野菜の品種があるのは日本ぐらいかな。だけど、気候に適応できる幅は広くないかもしれませんね。

伝統野菜について講義をする高木幹夫先生

伝統野菜について講義をする高木幹夫先生

適応力のある在来種

― 伝統野菜の適応の幅は広いですか?

高木 広いと思います。放っておいても気候に順応していきます。この夏は暑かったから、私もそんなに畑で作業できなかった。だけど、ちゃんと育ちました。実の出来の良しあしはありますが、どんな天候でもタネが採れなかったことはありません。カボチャなどでは雄花が少なかったり、雌花が少なかったりして苦労した年もありましたが、それでもタネができなかったことはありません。

― 必ずタネが採れるのですか?

高木 そうでなければ、江戸時代からとか、平安時代からとか続いてこないでしょう。在来種は、その長い年月の間でもずっとタネを循環しています。人間が栽培をやめない限りタネは採れます。そして、気候にも適応していく。だから、毎年、オンファームでタネ採りをすることが大事なのです。

― どうして異常気象の時でもタネが採れるのですか?

高木 それは在来種が持つ遺伝的多様性によるでしょう。それがあるから他の土地の気候風土にも適応してきたわけだし、気候の面だけで考えるとF1種よりも在来種の方が、だいぶ適応力は高いでしょうね。

― 異常気象が続くと、適応力のあるタネの方が安心ですね

高木 そうですね。種苗会社も猛暑に適応する品種を育成していると思いますが、育成には時間がかかります。慌てて開発して実際の畑に蒔いたら、うまく生育しなかったとか、病気が出たとかになってしまっては元も子もないしね。だけど、このところの気候をみていると、新しい品種の育成が気温の上昇スピードに追いつくのだろうかと思います。イタチごっこになってしまうのではないかなと。

―栽培機会は1年に1回ですしね。

高木 そう。私が40年栽培していると言っても、40回しかやっていないことになる。育種や品種開発には時間がかかります。その間に地球温暖化が進んでしまうかもしれません。在来種のすごいところは、その手間をかけなくても自分で勝手に適応していきます。タネ自体にそういう力がある。だから、もっと在来種を見直してみても良いのではないでしょうか。

八事五寸にんじんのタネ

八事五寸にんじんのタネ

「種から国産」で自給率を高める

― それはタネの自給率向上につながりますか?

高木 そもそも野菜のタネの9割ちかくは海外で生産されていると聞いています。農家は毎年タネを買っています。手元にタネはありません。異常気象以前にそのこと自体が危険です。タネの自給率は8%しかありません。まずは、国内各地でタネ採りしないといけません。

― 8%は、あまりにも低いですね

高木 そうです。コロナの時に体験したように輸出が止まることもあります。有事の際には、どこの国も自国民の食料を優先しますから、もし、戦争が起きたら、日本は兵器を使わなくても兵糧攻めで降伏することになります。

― これほど豊富に食品があるのに

高木 有るように見えても実際には無いに等しい。タネから肥料まで、ほぼ9割を輸入しています。酪農や食肉のエサも輸入です。私は、孫の代にはもしかしたら食料危機が来るかもしれないなぁなんて思っていましたが、最近は、ひょっとしたら私が生きてるうちに来てしまうかもしれないと思うことがあります。

― 高木先生がいつも言われている「種から国産」が大事ということですね。

高木 そうです。「種から国産」です。異常気象への適応力が高い在来種を守っていくこと。それを増やしていくこと。このことの大切さを多くの方に理解してもらえればと思います。

― もっと広く取り組んでいかなければいけませんね。今日は、お忙しい中、ありがとうございました。

(了)

プロフィール:高木幹夫氏 あいち在来種保存会代表世話人、元JA職員、調理師

「種から国産」の伝統野菜栽培を理念に、「あいちの伝統野菜」に認定された37品目を絶やすことなく、地元で原種の採種作業を続ける「あいち在来種保存会」の代表世話人。自身の畑でも数十種類の伝統野菜の栽培、採種を行っている。長年、伝統野菜の伝承と支援に尽力し続けておられ、その活躍は新聞、雑誌などで数々紹介されている。

高木幹夫先生への取材・講演のご依頼は以下に直接ご連絡ください。mikiotaka319729@yahoo.co.jp

【参考資料】
気象庁「2024年夏(6月〜8月)の天候」
(公財)自然農法センター「第6回 2023年夏の猛暑を乗り越えた野菜たち」
現代農業WEB「【激夏で見えた品種の底力】自家採種した野菜は猛暑もへっちゃら」2023年12月

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