日本の伝統野菜-43.熊本県

1.地域の特性

【地理】

熊本県は、日本の主要四島の一つである九州の中央部に位置しています。総面積は約7,409㎢(令和2年全国都道府県市区町村別面積調)で全国第15位です。熊本県に隣接しているのは福岡県、大分県、宮崎県、鹿児島県の4県です。

県西部は有明海に面しており、海を隔て長崎県に接します。南西部には熊本県に属する天草諸島があります。県域の東西の距離は143㎞、南北の距離は127㎞です。

熊本県の森林面積は4,630㎢で、県土の約62%を占め森林率は全国34位です。可住面積は2,746㎢で県土の約37.1%を占め全国16位です。人口は1,707,499 人(2023年11月時点推計人口)で全国23位です。

熊本県の地形は、北部と南部でかなり異なります。県北部は、比較的ゆるやかな山地からなっています。これに対し、県南部は標高1,000m級の九州山地の山々が連なる山岳地帯を形成しています。

熊本県最高峰は、宮崎県との県境にある国見岳(標高1,739m)です。 南部地域は激しい構造運動を受けた後、いったん平らになったものの、再び急上昇し山脈化したもので、これに伴い、随所(ずいしょ)に探い谷をつくり、見事な渓谷美(けいこくび)を見せています。この上昇運動に取り残されて盆地化したのが人吉盆地です。南東部は山地に囲まれたこの人吉盆地があり、九州山地を隔てて宮崎県と接しています。

南北の両山地の間には世界一の規模を誇る阿蘇カルデラがあります。中央火口群(標高1,500m前後)を中心に、その周囲を居住地区として北に阿蘇谷(標高500m)、南に南郷谷(標高500m)があり、さらにその周囲を外輪山(がいりんざん:標高800~1,000m)が円形に取り囲んでいます。

阿蘇は、大型のカルデラ地形にもかかわらず、盆地に水が溜まっていない珍しい土地で、古くから人が生活してきました。地中からは土器が出土し、古墳などの遺跡も多数残っています。今日に至るまで、この地には多くの市民が生活しています。カルデラ盆地の中に3万人近くの人々が暮らし、国道や鉄道が走っている例は世界でも阿蘇だけです。

阿蘇山麓から西部に向かって平野部が広がり、北は菊池平野に、北西部は熊本平野が有明海に、南西部は八代平野が八代海にそれぞれ面しています。その間から宇土半島が突き出し、天草五橋により天草諸島へと続いています。

八代平野は、球磨(くま)川、氷川(ひかわ)の河口に発達した複合三角州(さんかくす)と干拓地からなります。天草灘(あまくさなだ)、島原湾、不知火海(しらぬいかい)とも呼ばれる八代海(やつしろかい)に囲まれた島々・天草は、全島が低山性の山地で平地に乏(とぼ)しい地形をつくっています。

熊本の大きな特徴として豊かな地下水があり、熊本市はその恩恵を100%受けています。 地下水の流れは、阿蘇外輪山西側斜面や大地から地下に浸透した雨水が、大津(おおづ)~菊陽(きくよう)~高遊原(たかゆうばる)台地の地下に存在する地下水プールにいったん貯えられた後、水を通しやすい砥川溶岩(とがわようがん)を通って南西へ流下しています。それらが地表に表れ出るところが、浮島(うきしま)の井寺湧水群(いでらゆうすいぐん)や江津湖(えづこ)、水前寺(すいぜんじ)などの水の名所です。 熊本市動植物園横では勢いよく噴き上げる自噴井戸を見ることができます。一の宮町の阿蘇神社周辺も「わき水の里」です。

中央火口丘群の斜面や山麓には表流水がほとんど見られず、降水の大部分が地下に浸透しており、地下水は扇状地(せんじょうち)末端部の旧:一の宮町(いちのみやまち)付近で自噴しています。

【地域区分】

熊本県エリアは、かつての律令制の時代には、肥後国(ひごのくに)でした。それ以前の肥後国は、現在の佐賀県と長崎県(壱岐・対馬を除く)にあたる肥前国(ひぜんのくに)と合わせて、火国・肥国(ひのくに)とされていました。

肥後国として初めて文献に現れるのは、696(持統天皇10)年の頃で、7世紀中に肥国を分割して、肥前国(ひぜんのくに)と肥後国になったと考えられています。 肥後国の名称の名残は、現在も残っており、伝統野菜においても、「ひご野菜」と呼ぶものがあります。 現在の熊本県の県域は、県北・県央・県南の3つに大きく分けられ、さらに11の地域に区分されます。 また、県内には14市9郡23町8村(計45市町村)があります。(2023年12月現在)

<県北>

  • 玉名(たまな)地域:2市1郡4町…荒尾市(あらおし)、玉名市(たまなし)

  • 玉名郡(たまなぐん)、玉東町(ぎょくとうまち)、南関町(なんかんまち)

  • 長洲町(ながすまち)、和水町(なごみまち) 、鹿本(しかもと)

  • 山鹿市(やまがし)(旧:鹿本郡であった熊本市植木町域が含まれることもある)

  • 菊池(きくち)地域:2市1郡2町…菊池市(きくちし)

  • 合志市(こうしし)(県央に含まれることもある)

  • 菊池郡(きくちぐん)(県央に含まれることもある)

  • 大津町(おおづまち)・菊陽町(きくようまち)

  • 阿蘇(あそ)地域:1市1郡3町3村…阿蘇市(あそし)、阿蘇郡(あそぐん)

  • 南小国町(みなみおぐにまち)、小国町(おぐにまち)、産山村(うぶやまむら)

  • 高森町(たかもりまち)、西原村(にしはらむら)、南阿蘇村(みなみあそむら)

<県央>

  • 熊本市(くまもとし):1市…熊本市(県庁所在地、政令指定都市)

  • 中央区(ちゅうおうく)、東区(ひがしく)、西区(にしく)、南区(みなみく)、北区(きたく)

  • 宇城(うき)地域:2市1郡1町…宇土市(うとし)、宇城市(うきし)、下益城郡(しもましきぐん)

  • 美里町(みさとまち)(旧:下益城郡であった熊本市富合町(とみあいまち)・城南町(じょうなんまち)域が含まれることもある)

  • 上益城(かみましき)地域:1郡5町…上益城郡(かみましきぐん)

  • 御船町(みふねまち)、嘉島町(かしままち)、益城町(ましきまち)、甲佐町(こうさまち)、山都町(やまとちょう)

<県南>

  • 八代(やつしろ)地域:1市1郡1町…八代市(やつしろし)

  • 八代郡(やつしろぐん)、氷川町(ひかわちょう)

  • 芦北(あしきた)地域:1市1郡2町…水俣市(みなまたし)

  • 葦北郡(あしきたぐん)、芦北町(あしきたまち)、津奈木町(つなぎまち)

  • 球磨(くま)地域:1市1郡4町5村…人吉市(ひとよしし)

  • 球磨郡(くまぐん)錦町(にしきまち)、多良木町(たらぎまち)

  • 湯前町(ゆのまえまち)、水上村(みずかみむら)、相良村(さがらむら)、五木村(いつきむら)、山江村(やまえむら)、球磨村(くまむら)

  • あさぎり町 、天草(あまくさ)地域:2市1郡1町…上天草市(かみあまくさし)

  • 天草市(あまくさし)、天草郡(あまくさぐん)、苓北町(れいほくまち)

【気候】

熊本県の気候は、内陸、西海、山地と三つの型に大別されますが、その特性として寒暖の差が大きいことがあげられます。特に三方を山で囲まれた熊本平野は典型的な内陸性気候を示し、熊本市の日較差24℃という記録もあるほどです。夏の暑さ、冬の寒さともに厳しく、8月の最高気温月平均32.6℃は、全国第三位。また雨量も多く、6月末から7月の梅雨期後半の大雨は九州一となっています。

内陸型の熊本・八代平野は、年平均気温15~16℃、年降水鼠はやや少なく1,800㎜前後です。同じく内海型の天草・芦北地方は、寒暖の差が小さく、年平均気温16~17℃、冬場も6~8℃以上と暖かく、年降水量は1,800~2,000㎜程度です。

山地型の阿蘇・球磨にかけては年平均気温15℃以下と低く、1月の平均気温は5℃以下。年降水量は2,000㎜以上と多く、阿蘇山では3,000㎜を越えることもあります。

【農業の特徴】

熊本県の農業の特徴は、高冷地から平坦地、海岸島嶼などの多様な地形や気候を活かし、米、野菜、果樹、しいたけなどの特用林産物、工芸作物などの農産物が生産されています。特にいぐさ、トマト、すいか、不知火(デコポン)、うんしゅうみかん、宿根カスミソウ、葉たばこなどは、全国でも有数の生産量を誇ります。中でも国産い草は90%以上が熊本県で生産されています。

2.熊本の伝統野菜

熊本県は「くまもとふるさと野菜」として、熊本の人や風土とのかかわりが強い野菜の中から伝統野菜・特産野菜を選定しています。 「くまもとふるさと伝統野菜」の定義は、以下の通りです。

(定義)「熊本の人や風土とかかわりが強く昭和20年以前から熊本県内で栽培されてきた野菜や伝統料理と結びつき伝統的に栽培されてきた野菜。」

(品目)水前寺もやし、熊本ねぎ、熊本京菜、ひともじ、阿蘇高菜、あかどいも、鶴の子いも、地きゅうり、黒菜、熊本赤なす、水前寺菜、赤崎からいも、佐土原なす、はなやさい天草1号(平成17)年度選定)、赤大根(平成18年度選定)。

また、「くまもとふるさと特産野菜」は、定義を「伝統野菜以外の熊本県内の限定された地域の人や風土とのかかわりが強い野菜で、栽培が地域に定着している野菜。」とし、次の10品目を選定しています。

水前寺せり、ばってんなす、まこもたけ、大長なす、水田ごぼう、ヒゴムラサキ、塩トマト、サラダたまねぎ(平成17年度選定)。茎ブロッコリー、上津深江すいか(平成18年度選定)

現在、これらの伝統野菜15品目、特産野菜10品目を合わせて25品目を「くまもとふるさと野菜」として選定しています。 加えて、熊本市では、2006(平成18)年度に「ひご野菜」として以下の4つのコンセプトに該当する野菜を選定し、現在15品目の野菜を指定しています。

(1)熊本で古くから栽培されてきたもの
(2)熊本の風土に合っているもの
(3)熊本の食文化にかかわるもの
(4)熊本の地名・歴史にちなむもの

現在、「ひご野菜」に選定されている品目は、1.熊本京菜、2.水前寺もやし、3.熊本長にんじん、4.ひともじ、5.ずいき、6.れんこん、7.水前寺菜、8.春日ぼうぶら、9.芋の芽、10.熊本赤なす、11.熊本ねぎ、12.水前寺せり、13.熊本いんげん、14.熊本黒皮かぼちゃ、15.水前寺のり の15品目です。「ひご野菜」の名称は、2007(平成19)年度(平成20年1月25日)に商標登録されました。

ここでは、伝統野菜に絞って「くまもとふるさと伝統野菜」15品目および「ひご野菜」15品目をご紹介します。熊本の伝統野菜は、この両方に含まれている品目があるため、合計24品目となります。その他、原木の味に近い椎茸1品種をご紹介します。

熊本県の伝統野菜 ※K=くまもとふるさと伝統野菜、H=ひご野菜

伝統野菜名

読み方

赤崎からいも

あかざきからいも

赤大根

あかだいこん

あかどいも

あかどいも

阿蘇高菜

あそたかな

芋の芽

いものめ

春日ぼうぶら

かすがぼうぶら

熊本赤なす

くまもとあかなす

熊本いんげん

くまもといんげん

熊本京菜

くまもときょうな

熊本黒皮かぼちゃ

くまもとくろかわかぼちゃ

熊本長にんじん

くまもとながにんじん

熊本ねぎ

くまもとねぎ

黒菜

くろな

砂土原なす

さどはらなす

地きゅうり

じきゅうり

ずいき

ずいき

水前寺せり

すいぜんじせり

水前寺菜

すいぜんじな

水前寺のり

すいぜんじのり

水前寺もやし

すいぜんじもやし

鶴の子いも

つるのこいも

はなやさい天草1号

はなやさいあまくさいちごう

ひともじ

ひともじ

れんこん

れんこん

赤崎唐芋(あかざきからいも)

【生産地】芦北郡津奈木町赤崎地区

【特徴】赤崎地区の土壌は唐芋(からいも)に合い、美味しい芋がとれるとされる。芦北地域では「赤崎唐芋」として有名。

【食味】水分を含んだ粘り気のある食感。

【料理】いきなり団子、いもづるのキンピラ、がねあげ、からいものぼた餅など

【来歴】昔から津奈木町赤崎地区では良品質のサツマイモが生産される地区であり、甘夏が盛んになる前は、大面積に作付けされていた。現在は、数戸の農家が小面積作付けする程度。くまもとふるさと伝統野菜。

【時期】周年。入手可能時期及び場所青果、加工品が地域直売所で入手可能であるが、栽培少なく、事前の問い合わせが必要。

赤大根(あかだいこん)

【生産地】五木村とその周辺市町村、八代市泉町

【特徴】「糸巻き大根」系の赤大根も多くの系統が存在するが、寒さに強く、抽苔が遅い、冬場の貴重な野菜。赤大根を縦に切ると、中身は白く、真ん中に鮮やかな赤い筋が入っている。 【食味】味は通常の白い大根と大きく変わらないが、少し固めの食感。肉質がかたく、煮ると柔らかいが、煮くずれしにくいのが特徴。糖度も高い。

【料理】酢漬け。生の大根を、皮をむかずに酢に漬けると赤大根の鮮やかな色が楽しめる。大根おろしにすると、ピンク色になる。

【来歴】五木村を中心として九州山地の集落には、在来の「糸巻き大根」系の大根など、多くの品種や系統の“赤い大根”が栽培されてきたが、そのほとんどは伝統野菜である。多くの系統の赤大根があるが、戦後導入されたことがはっきりした系統を除いて「赤大根」として「くまもとふるさと野菜」に選定。

【時期】秋から冬に入手可能。産地五木村とその周辺市町村、八代市泉町※入手可能時期及び場所地域内直売所等で販売。

あかどいも(あかどいも)

【生産地】阿蘇地域

【特徴】いもの根はほとんど大きくならないが,赤紫のいもの葉柄は人の背丈くらいまで大きく育つ。葉柄はアクが少なく、漬物にするときれいな赤色になり、これを食す。

【食味】塩漬けした物を「あかど漬け」と呼ぶ。独特の酸味と歯ごたえのある食感は他に類を見ない。

【料理】主に漬物。塩漬けし「あかど漬け」として販売されている。赤い色や、しょうが醤油で食べることなどから「阿蘇の馬刺し」「畑の馬刺し」とも呼ばれる。

【来歴】「あかどいも」は、阿蘇地域独自の呼び名。この地域で戦前から栽培していると言われている赤いもの一種だが、由来は定かではない。 阿蘇町農産物加工部会が「あかど漬け」として商品化。あかど漬けは、阿蘇の秋の風物詩となっている。きれいな赤色を出すことを目的に低塩分で漬けられるため、あまり長期保存ができなかった。霜が降りる頃に漬物にし、この期間にのみ食べられてきた。現在は冷凍保存され一年中食べることが可能になった。平成17年には熊本県が「くまもとふるさと伝統野菜」に選定。

【時期】9月中旬~10月中旬。阿蘇市内物産館等

阿蘇高菜(あそたかな)

【生産地】阿蘇地域

【特徴】3月中旬頃まではカラシナに似た草姿であるが、3月下旬になると葉柄が立ち、急に心葉が伸びて苔立する。苔が20cm位に伸びた時、根元で軟いところより折り、細葉で軟い本葉を5~6枚付けたまま苔心を漬物にする。耐寒性が強い。

【食味】塩加減により保存期間が異なる。塩分が少ない新漬けは、ピリッとした辛さと風味がある。

【料理】収穫したてを、菜焼きや白和えなど。高菜漬けは、漬けて日が浅く緑色の時期を「新漬け」、貯蔵期間が長く黄色(あめ色)に変化したものを「古漬け」と呼ぶ。新新漬けは、鰹節やマヨネーズで、古漬けは、普通のお新香、油炒めや高菜飯にも合う。

【来歴】阿蘇高菜の栽培が始まったのは、とても古いとさ」れるが、その由来は明らかでない。カラシナの一種で、現在阿蘇地方を中心に150ha程栽培されており、高菜漬け用として、自家用、販売用に利用されている。阿蘇地方に春の訪れを告げる食材となっている。高菜漬けとして周年入手可能、阿蘇管内直売所、お土産品店等。「くまもとふるさと野菜」に選定。

【時期】3月~4月

芋の芽(いものめ)

【生産地】熊本市飽田地区、菊池郡菊陽町ほか

【特徴】さといも。昔から伝わるサトイモ「赤芽ミヤコイモ」の芽のことで、日光が当たらぬように柔らかく栽培したものを指す。栽培方法は独特で、赤芽ミヤコイモを、4月に種いもとして植え付け、10月に掘り上げたものが親芋になる。薄く土をかけて、もみ殻で埋め尽くすと、日光に当たることのない親芋から淡いピンク色の柔らかい芽が伸びる。50~60日で30㎝以上になった頃が収穫時期。11月初旬から翌年5月までに3回収穫できる。果肉は、ほんのりピンク色の肌を持つ。「ひご野菜」に選定。

【食味】スルッとした口触りのよさが特徴。

【料理】胡麻和え、おひたし、味噌汁、とろとろ汁など

【来歴】紀元前2世紀に渡来(原産地:インドから中国南部)したとされる。熊本市飽田地区など西南部や菊池郡菊陽町は、昔から芋の芽の産地として知られており、現在は数軒の農家が芋の芽を栽培している。絶滅寸前だったがブランド化された。あまり流通せず、料亭などで使われる高級食材としての希少価値を持つ。

【時期】12月~1月 販売期間は11月~4月頃

春日ぼうぶら(かすがぼうぶら)

【生産地】熊本市春日、中島

【特徴】日本の和かぼちゃ。長さ30cmを超え、ヘチマやヒョウタンのような形をしている。長さ50㎝ほどまで成長するものもある。表面はくすんだ橙色で、中身は鮮やかな橙色。農薬を使わず完全な自然栽培でも元気に育つほど強い。

【食味】あっさりとした味が特徴。甘みがあり、きれいなだいだい色をしている。 【料理】素焼き、煮物(出し・そぼろ煮など)、サラダ、冷製スープやポタージュスープなどのスープ類やムースなどスイーツに向く。

【来歴】原産地は中国。来歴は不明。昭和30年ごろまで農家の庭先によく植えられていた。熊本民謡「おてもやん」に名前が出てくる。「ひご野菜」に選定。

【時期】8~11月

熊本赤なす(くまもとあかなす)

【生産地】熊本市益城町、御船町

【特徴】長さ30cm前後の長く太いなすが収穫できる。果皮の色がやや赤紫である。生育後期に果色が白くなる。整枝・葉かき技術が要求される。

【食味】果肉が柔らかい。アクが少なく甘味がある。加熱するととろけるような食感が楽しめる。鮮度持ちが悪い。

【料理】焼きナス、グラタンなど

【来歴】宮崎県在来の佐土原ナスが起源とされ、戦前から栽培されている。「熊本長なす」とも呼ばれる。熊本市やその周辺で戦前から栽培されてきた、1938(昭和13)年には約8割が「熊本長なす」だったとの記録がある。また、「熊本赤なす」は、農家毎に自家採取が行われ、果形などの変異が大きくなったため、県では、系統を整理し、その中の優良系統をかけ合わせ「ヒゴムラサキ」を育成した。「くまもとふるさと野菜」に選定。「ひご野菜」に選定。

【時期】2月~6月と9月~11月の年2回。2月~6月熊本大同青果(096-323-2511)では「熊本赤なす」としてブランド化しているほか、東部青果でも取り扱われている。県内スーパー等で入手可能

熊本いんげん(くまもといんげん)

【生産地】熊本市西区池上町

【特徴】平莢(ひらさや)のいんげん。長さは25㎝になる少し幅広ないんげん。春と秋の年2回栽培できる。秋は一瞬、春はぼちぼちと言い、秋には一気に大きくなり、春は少しずつ成長する。最盛期には大量にできる。

【食味】スジが少なく莢も柔らかで、ほんのり甘みもある。

【料理】胡麻和えなど和え物、炒め物、サラダ、スープ、てんぷら、混ぜご飯、彩野菜など

【来歴】江戸時代に渡来(原産地:中南米(メキシコ南部)。自家採種の平ざやものの「熊本いんげん」は、現在、貴重な種を親子代々受け継いできた数軒の農家でしか生産されていない希少価値を持つ野菜。熊本弁で「あくしゃうつごつ取れる」(途方にくれるほど取れる)ので「あくしゃまめ」とも呼ばれる。「ひご野菜」に認定されている。

【時期】春は5月中旬~6月。秋は10月上旬。

熊本京菜(くまもときょうな)

【生産地】熊本市城山上代付近

【特徴】葉は丸葉系の楕円型、葉色は濃い。小松菜の一種とされる。葉は小松菜よりも柔らかく、葉が内側に湾曲するのが特徴。寒さに強く、寒くなるほど味がよくなる。

【食味】特にくせもなくあっさりしている。ややほろ苦さがあり、シャキシャキとした食感、色は鮮やかな緑で、和食にも洋食にも合う。

【料理】正月の雑煮には欠かせない。

【来歴】古くは「肥後京菜」と呼ばれていた。約370年前、細川家二代の忠興公が、京都から種を貰い受け熊本に持ってきたものが熊本で栽培されるようになったのが始まりだと言われている。正月の雑煮に入れる習慣がある。昔は漬物やあえ物、汁の青菜として用いられていたが、現在は主に正月用に栽培されている。

【時期】10月上旬~3月下旬。正月の雑煮用として出回る期間は12月末~年始。インショップ、地元スーパー等で入手可能。「くまもとふるさと野菜」と「ひご野菜」に選定。

熊本黒皮かぼちゃ(くまもとくろかわかぼちゃ)

【生産地】熊本市富合町

【特徴】日本かぼちゃ。かつて熊本、宮崎が主産地で早出し栽培をしていた「黒皮かぼちゃ」を、熊本農業試験場が改良、普及させたもの。熊本の風土に良く合い、和食との相性が良い。

【食味】水分が多く甘味みは少ないが、果肉がきめ細かで軟く、粘り気があり、煮崩れしにくい。

【料理】煮付け、味噌汁など

【来歴】原産地はアメリカ大陸。16世紀の江戸時代に渡来した。ポルトガル船によって大分(おおいた)に運ばれ、カンボジアから来たと伝えられたことで、「カンボジア」がなまって「かぼちゃ」と呼ぶようになったといわれている。熊本ではポルトガル語の「アボブラ」から「ボウブラ」とも呼ぶ。高級食材として料亭などで使われている。「ひご野菜」に選定。

【時期】5月下旬~11月上旬 販売期間は、ほぼ通年。

熊本長にんじん(くまもとながにんじん)

【生産地】熊本市西区城山地区

【特徴】東洋系のにんじん。すらりと細長く、ごぼうのような形状。太さは1.5~2.5cm、長いものは1.2m ほどになる。色は濃い赤色。

【食味】香りも甘みも強く、調理の際に煮崩れしない。

【料理】熊本の正月の御節料理、雑煮

【来歴】江戸時代初期に渡来(原産地:アフガニスタン) 丸くて細長いため、縦に切る必要がないので、「丸く長く生きるように」と縁起をかつぐ正月に重宝される。個性的な外観が全国でも珍しい縁起物の正月野菜。「ひご野菜」に選定。

【時期】12月中旬に収穫して、24日・25日には正月用に出荷する。販売期間は12月下旬から3月上旬まで

熊本ねぎ(くまもとねぎ)

【生産地】熊本市南区御幸木部町、今町、西部新港線沿い

【特徴】九条ネギの系統。1本ネギではなく分けつするタイプで、葉の緑部分も茎も共に食す葉ねぎ。

【食味】茎葉共軟らかく、ぬめり、甘味があり美味。

【料理】鍋物、味噌汁、すき焼きなど

【来歴】8世紀に渡来(原産地:中国)。昔から栽培されてきた熊本在来の品種だが、戦時中に種子が統制品となり、色々な系統の種子が配給され、熊本在来の系統が乱れた。そのため選抜が行われ、熊本独特の系統が確立した。農家が自家採取をしている固定種である。「くまもとふるさと野菜」に選定。「ひご野菜」に選定。

【時期】12月~3月。販売期間は通年。入手可能時期及び場所青果はJA熊本市の直売所、インショップ等で12~2月にかけて出荷されている。

黒菜(くろな)

【生産地】小国町岳の湯地区

【特徴】台菜(タイツァイ)型、小松菜に似た外観。株は大きくて太く、葉は黒みを帯びた濃い緑色で分厚い。耐寒性が高い。

【食味】霜にあたると柔らかくなり、甘みが出る。

【料理】浅漬け、おひたし、炒め物など。収穫した黒菜は敷地内に吹き出す蒸気で蒸すと、緑が一層鮮やかになるそう。

【来歴】小国町岳の湯地区で100年以上前から地熱を利用して栽培されてきたが、来歴は不明。小国町岳の湯地区の温泉熱で冬場でも地温が高い、ごく限られたほ場で栽培されている。地域のあちこちで蒸気が噴き出している様な土地柄に定着。「くまもとふるさと野菜」に選定。

【時期】家庭内消費用

【参考資料】
阿蘇の食卓「黒菜」

砂土原なす(さどはらなす)

【生産地】人吉市蓑野地区、球磨地域

【特徴】人吉盆地の夏秋作型で栽培され、樹勢が比較的弱い。「佐土原なす」と呼ばれているが、宮崎の「佐土原なす」や「熊本赤なす」と特性は大きく異なり、開張性で果実の長さは15~20㎝、最大でも25㎝程度と小さい。皮が薄く、小ナスで浅漬けに向く品種。

【食味】果皮が軟らかく、良食味

【料理】小なすの浅漬け

【来歴】60数年前の戦時中、人吉市の蓑野地区の篤農家が熊本から持ち込み、特性が良いので同地区の3戸を中心に集落内で大事にしてきた。この集落から人吉市内に広がっていったのではないかと考えられる。「くまもとふるさと野菜」に選定。

【時期】6月~11月 地元スーパーで入手可能。

地きゅうり(じきゅうり)

【生産地】阿蘇地域

【特徴】阿蘇地域を中心に昔から栽培されている在来のきゅうり。多くの系統があり、色・形が様々。一般的なきゅうりよりも長くて太く、長さ20~25㎝程、直径5㎝程の大きさ。果皮色はやや白っぽく、熟すると黄色くなる。

【食味】果肉は柔らかく瓜に近い食感。きゅうりよりもクセがなく食べやすいのが特徴。

【料理】塩もみ、浅漬け

【来歴】戦前には阿蘇地方に入っていたとされるが詳細は不明。「くまもとふるさと野菜」に選定されている。

【時期】7月~8月 地域内の直売所で7~9月に入手可能。

ずいき(ずいき)

【生産地】健軍、御幸、飽田

【特徴】「ずいき」はハス芋の葉柄の部分のこと。地域によっては「トイモ」とも呼ばれている。乾燥させたものは「いもがら」と呼ばれる。葉柄の色は薄い緑色で、高さ2mほどになる。

【食味】歯ごたえがよく、シャキシャキとした食感。香りも甘みも強く、えぐみは少ない。調理の際に煮崩れしにくい。特に8月~9月の一番暑い時季が美味しいと言われている。

【料理】煮物、煮しめ、酢の物、漬物、干しズイキ

【来歴】室町時代以前に渡来(原産地:インド東部からインドシナ半島) したとされ、熊本では古くから食べられている。加藤清正公が籠城する時の保存食として備えたという話や細川家の幻のレシピとされる『料理方秘』にも白ずいきが素材として登場したり、将軍家に献上したりしたという話が残っており、熊本とのゆかりは深い。「ひご野菜」に選定されている。

【時期】7~11月(旬は8月~9月)販売期間は8月~11月(霜の降りる)まで スーパーや直販所で販売されている。

水前寺せり(すいぜんじせり)

【生産地】熊本市画図地区

【特徴】春の七草の筆頭に挙げられる芹(せり)。豊かな湧水をたたえる江津湖の南西に広がる熊本市画図地区のせり田で栽培されている。正月料理に欠かせない香物。

【食味】鮮やかな緑色。香りと色合いがよく

【料理】雑煮、春の七草雑炊、胡麻和え、鍋物、吸い物、天ぷらなど

【来歴】芹は、日本の数少ない太古からの自生品種の一つ。清水がわき出るところに競り合うように生えることから、その名が付けられたともいわれている。「水前寺せり」は、江津湖周辺に自生しており、江津湖流域の清らかな湧水を利用して栽培が始まった。水前寺周辺の湧水で栽培するため「水前寺せり」と呼ばれる。「ひご野菜」と「くまもと特産野菜」に選定。

【時期】12~2月(旬)販売期間は、11月中旬~4月まで 冬に鮮やかな緑の絨毯が広がる。

水前寺菜(すいぜんじな)

【生産地】御船町、芦北町、南阿蘇村 中島、河内、飽田

【特徴】キク科の多年草。葉は表が緑色、裏が紫色をしている。葉腋から盛んに分枝する。別名、「金時草(きんときそう)」、「ハルタマ」とも呼ばれる。葉を摘取ってもすぐわき芽が出てくるので、1年中収穫できる。

【食味】少し苦みがある独特の風味。茹でると紅い色が出て美しく、独特のぬめりとシャキシャキした食感になる。

【料理】サラダ、和え物、お浸し、炒め物、天ぷら、汁物

【来歴】18世紀に渡来(原産地:熱帯アジア)。1759年(宝暦9年)に京都から伝えられたといわれる。名前の由来には、葉を熱湯に入れるとヌメリが出て「水前寺のり」に似ることからや、水前寺の豊富な湧水を利用して栽培され、茶席で茶花として利用されていたことからなど諸説ある。「水前寺のり」「水前寺モヤシ」と並び水前寺の三大名物と伝えられており、水前寺の茶席で茶花としてよく用いられていた高級感と高い栄養価を持つ。大きな産地として経済栽培が行われた記録はなく、20年程前には、家庭菜園で細々と栽培されるだけとなり次第に姿を消していき、”幻の野菜”と呼ばれた時期もあった。近年、苗を熊本県農業試験場から譲り受け芦北地域で産地化の取組みが始まった。また、上益城地域に生産組織ができ、熊本市近郊にも栽培農家が存在する。「くまもとふるさと野菜」と「ひご野菜」に選定。

【時期】7月~8月(旬)販売期間はハウス栽培が可能なため周年。 地域の直売所、県内スーパー、道の駅等で入手可能。

水前寺のり(すいぜんじのり)

【生産地】益城町・嘉島町

【特徴】藍藻(らんそう)類の淡水藻。清流にのみ生育する緑色の藻類。長さ約6μの棒状の単細胞藻で、寒天質に包まれて径5~10㎝の不定形の団塊をなす。これをすりつぶして乾燥し紙状にしたものを水で戻して用いる。いわゆる淡水の海苔。日本固有の希少種。

【食味】あまり強くないが、藻類独特の香がある。食感はほどよく、特に乾燥品で強い。

【料理】吸い物、三杯酢、酢の物、刺身のツマ等

【来歴】熊本市の水前寺の池で発見された。発生地の水前寺上江津湖(かみえづこ)は天然記念物に指定されている。

江戸時代には細川家から幕府への献上品とされていた高級品で、学術的に世に紹介される前から、細川藩(熊本)、秋月藩(福岡)で高級郷土料理の素材として大切に保護・育成されてきた。

1689年(江戸時代前期)に刊行された絵入り地誌「一目玉鉾(ひとめたまぼこ)」には、「熊本の城主 細川越中守殿 名物うねもめん すいせんしのり」と記載があるとされる。

1924(大正13)年には、上江津湖の一部である熊本市出水神社の境内が発生地として天然記念物に指定された。

しかし、1953(昭和28)年の熊本・白川大水害により、天然記念物の指定地を含めた発生地は、大量のヨナ(火山灰)に覆われてしまい、絶滅したと考えられた。

1966(昭和41)年の熊本市教育委員会の調査により、絶滅したと考えられていた「水前寺のり」が確認でき、多くのボランティア団体の活動により、増殖させてきた。

現在は、益城町・嘉島町・熊本市動植物園等にて養殖によりその命脈は保たれている。 全国的にも珍しい「水前寺のり」は、九州の一部でしか生息できない稀少な種であり、レッドデータでも絶滅危惧寸前の絶滅危惧Ⅰ類に指定されている。熊本と福岡の両県で養殖されているが、自生しているのは福岡県の朝倉市甘木地区の黄金川のみ。

「寿泉苔(じゅせんたい)」「水前寺(すいぜんじ)」「かつのり」「川茸(かわたけ)」とも呼ばれる。「ひご野菜」に選定。

【時期】夏(旬) 販売期間は、養殖物で通年。高級食材で高級料理店などだけで利用され、ほとんど流通していない。

【参考資料】
水前寺のりくまもとの会

水前寺もやし(すいぜんじもやし)

【生産地】熊本市中央区出水(いずみ)

【特徴】大豆は栽培農家に受け継がれた緑色小粒種。江津湖の冬場でも暖かい湧水を利用して、大豆を普通のもやしの4~5倍の長さ35~40㎝ほどに成長させる。

【食味】

【料理】長寿と健康を願う縁起物として正月の雑煮用

【来歴】江戸時代から盛んに栽培されてきた。江戸時代の1772(明和9)年に書かれた地誌「肥後国誌」に記載されており、藩政時代からの名産品として知られる。 1980(昭和55)年頃まで、出水地区の農家と長溝(ながみぞ)地区の一部の農家で計20軒ほどが、江津湖で栽培をしてきたが、減少の一途をたどり、現在は、出水地区の2軒の農家のみが、水温が年中18℃前後の水が湧く、江津湖最上流の芭蕉園内の湧水地(約1,200㎡)で伝統農法により無農薬・無消毒で栽培している希少な野菜。

【時期】12月末 収穫は12月25日から28日にかけて一斉に行われ、長さ35㎝のもやし100本ほどを一つに束ね約1万束が正月用として店頭に並ぶ。熊本市内のスーパー、百貨店等で入手可能だが、正月の雑煮用であり販売期間は短く12月26日頃~大晦日まで。 「くまもとふるさと野菜」に選定。「ひご野菜」に選定。

鶴の子いも(つるのこいも)

【生産地】高森町色見地区

【特徴】子芋を利用する里芋。肉質は、粘りが強く、硬くて煮くずれしにくい。

【食味】

【料理】郷土料理の田楽の串に刺して焼く「高森田楽」用

【来歴】石川早生長の系統の在来種。「地方野菜大全」(タキイ種苗出版部)著者:元熊本県農業試験場長の河野清氏の記述によると、「数百年前、肥後国地方領主、阿蘇大宮司候が諸処巡察の折、鍋の平を宿場としていた。この時、地元住民が手作りの芋の串焼きを献じ、大変喜ばれたのが栽培の始まりとされる」と記されている。 10月に霜に合ってから収穫し、圃場の中に掘った穴に埋め、3月に掘り出して使う。 現在は掘り出したものを契約してある田楽屋に出荷、残ったものを自家用として利用。 「くまもとふるさと野菜」に選定。

【時期】3月 高森田楽を出す飲食店との契約栽培のため、一般には出回らず青果としての入手は困難。高森町内の田楽を出す飲食店で田楽として食べることは周年可能。

はなやさい天草1号(はなやさいあまくさいちごう)

【生産地】天草市

【特徴】カリフラワーの一種。天草で選抜された「はなやさい」の固定種であり、天草の風土に合う。花らいは、かたく締まらず開き気味で、色は真っ白でなくクリーム色。

【食味】甘みがあり美味しい。

【料理】サラダ、マリネ、炒め物、煮物など多様な料理に使える。

【来歴】1934(昭和9)年、シンガポールから帰ってきた人が持ち帰った種子から、光延(みつのぶ)農園の先々代の社長が選抜した。天草市の家庭菜園で主に栽培種子は天草市の光延農園(0969-22-5184)で購入できる。「くまもとふるさと野菜」に選定。

【時期】冬どり。家庭菜園が主であるが、最近は地域の直売所や物産館、県内スーパー等で販売されている。

一文字(ひともじ)

【生産地】熊本市内一円

【特徴】分葱(わけぎ)の一種。小ねぎと似ているが分類学上はネギとは別種。小ぶりで根元からたくさん株が分かれ、球根で増えるところが異なる。ネギより葉が細かい。寒くなるほど美味しくなり、霜にあたると甘みが増す。

【食味】小ねぎとはひと味違う。香りがよく、上品な風味がある。柔らかく甘みがある。

【料理】「ひともじ」をサッと茹でて青い葉の部分をりん茎付近にグルグルと巻き付けたものを酢みそで食べる「ひともじのぐるぐる」用、薬味。

【来歴】来歴は不詳。原産地は中国西部。日本書記に記述が残されている。熊本の郷土料理である「ひともじのぐるぐる」用として昔から家庭菜園で栽培されている。名前の由来は、小さいねぎを葱(き)と一文字で表していたことから「ひともじ」と呼ばれるようになった。県内に多くの系統があり、県農業研究センターでは系統を整理・保存している。主に熊本市西部の水田や畑で、ビニールハウス等で栽培している。「くまもとふるさと野菜」と「ひご野菜」に選定。

【時期】旬は3月と11月の春と秋の2回。販売期間は、1月~5月、10月~12月。直売所、地元市場、インショップ、地元スーパー等で購入可能。

蓮根(れんこん)

【生産地】熊本市沖新町、旧:天明町、城南町、中島(高砂)

【特徴】レンコンは、ハス(蓮)の地下茎が肥大した部分を指し、明治以降に中国から導入された中国種と、それ以前に渡来したもの及び日本在来のものである在来種に大別される。在来種は、地下茎が深く伸び、節間が長くややほっそりとしている。掘り取りにくく、収量も少ない。早生(わせ)で低温に強いため、一部の地域で早堀り用として栽培されている。主な品種に、「天王(てんのう)」や「上総(かずさ)」等がある。

【食味】在来品種の肉質は粘質で食味も良好。

【料理】辛子蓮根、ひこずり、てんぷら、はさみ揚げなど

【来歴】10世紀の縄文時代以前から自生していたとされる。1600年頃、肥後藩の初代藩主細川忠利(ほそかわただとし)公にまつわる野菜で、切り口が細川家の九曜の紋に似ており「先が見通せる」ということで縁起物とされている。熊本の郷土料理「辛子蓮根(からしれんこん)」は、蓮根の穴に辛子味噌を入れて揚げたもので、病弱だった忠利公のために、禅僧の玄沢和尚(げんたくおしょう)が考案したといわれている。熊本の冠婚葬祭には欠かせない料理。「ひご野菜」に選定。

【時期】収穫は6月中旬から翌年3月末までが一般的。

【参考資料】
JAグループ熊本 熊本県の農産物「れんこん」

幻の椎茸204

【生産地】菊池市

【特徴】普通の椎茸に比べ傘の色が黒い。農薬等を使用しない安全な原木栽培の椎茸。

【食味】椎茸本来の味と豊かな香り、歯ごたえの良さが大きな特徴。

【料理】焼椎茸、出汁、煮物、炒め物等の料理の具材

【来歴】最も原種に近い椎茸と言われている。この品種は日本産椎茸の発祥的品種で、昔は全国的に栽培されていたが、生産性の低さから生産者から敬遠され、一時は姿を消した。

しかし、消費者の「昔食べたあの香り高い、歯ごたえのある美味しい椎茸を食べたい」との声を受け、菊池市の生産者7戸が栽培を復活させた。

全国で当地域でしか栽培されていないことから「幻の椎茸204(商品名)」と命名した。現在は5組の夫婦のみが栽培している。生産農家が手間ひまをかけて乾燥させた乾椎茸は「黒香」という商品名で販売されている。

【時期】春のみ収穫可能。乾燥椎茸は周年。

【参考資料】
地方特産食材図鑑「幻の椎茸204」

3.熊本の伝統果樹

河内晩柑(かわちばんかん)

【生産地】熊本市

【特徴】外観や大きさが似ているところから、“和製グレープフルーツ”と呼ばれることがある。果実は250g~450gほど。

【食味】グレープフルーツのような苦味は少なく、さっぱりとした甘みがある。

【料理】生食、ドライフルーツ(ピール)、ジュース、ポン酢、果実酒、ジャム、味噌ディップ、ドレッシング、カルパッチョソース、ソフトクリーム、カキ氷用シロップ、スムージー、ゼリーなど

【来歴】1905年頃に熊本の河内村(現在の熊本市西区河内町付近)で見つかった文旦(ぶんたん)の偶発実生(ぐうはつみしょう)。偶発実生は、自然に落ちた種や捨てられた種から種子親を超える特性(糖度が高い、種が無いなど)を持つ偶然発見された品種のことをいう。発見された場所の地名「河内」と、収穫時期が春先以降であること晩生の柑橘であることから「河内晩柑」という品種名がつけられた。

現在は、生産者によってさまざま名前がつけられており、愛媛では、「愛南ゴールド」「美生柑(みしょうかん)」「宇和ゴールド」「ジューシーフルーツ」「灘オレンジ」、高知では「夏文旦」、熊本では「ハーブ柑」「天草晩柑」「ジューシーオレンジ」、鹿児島では「サウスオレンジ」などとも呼ばれている。

いずれも品種は「河内晩柑」である。「河内晩柑」は、文旦(ぶんたん)の系統と考えられていたが、近年のゲノム解析により弓削瓢柑(ゆげひょうかん)の変種である説が最有力となった。

また、他の柑橘類と比較して、オーラプテンという脳の認知機能の維持が期待できる成分が大量に含まれていることが判明している。

【時期】4月~7月

【参考資料】
奥山 聡 他「高血糖および全脳虚血モデルマウスにおける河内晩柑果皮とオーラプテンの神経保護作用」日本薬理学雑誌 155 (4), 214-219, 2020 公益社団法人 日本薬理学会
愛媛大学医学部附属病院「河内晩柑果汁飲料の摂取による認知機能の維持・改善効果についての報告会を実施」

川野夏橙(かわのなつだいだい)

【生産地】八代市

【特徴】ミカン科ミカン属の柑橘類の一種。甘夏橙、甘夏蜜柑、甘夏柑、略して甘夏などとも呼ばれる。温州蜜柑とは自然交配が起こり温州蜜柑に種子が混ざるため、川野夏橙の産地は温州蜜柑の産地を兼ねていないことが多い。外皮は硬くむきにくく、内袋もむく必要があり、種もたくさん入っている。

【食味】果実は夏橙に比べて減酸が早いため酸味が少なく、糖度が高い。歯ごたえのあるみずみずしい果肉が特徴で、ほのかな苦味とスッキリした甘み、酸味のある昔ながらの味わいを楽しめる。

【料理】生食や加工品、ポン酢、サラダなど。

【来歴】1935年(昭和10年)に、大分県津久見市(当時は北海部郡津久見町)上青江の果樹園で川野豊氏によって選抜・育成された夏橙の枝変わり種である。熊本県の芦北地方では、戦後の1949年(昭和24年)から栽培が始まった。1950年(昭和25年)に品種登録された後に、1955年(昭和30年)ごろより増殖が進められ、1965年(昭和40年)ごろからは夏橙からの更新が進んだ[4]。しかし、1971年(昭和46年)のグレープフルーツ輸入自由化以降、生産量は減少傾向にある。2014年(平成26年)現在、出荷量は鹿児島県(阿久根市など)が首位で、熊本県(八代市など)、愛媛県(愛南町など)、和歌山県(日高川町など)と続く。

【時期】3月上旬から食べ頃になる。

銀寄 (ぎんよせ)

【生産地】山鹿市

【特徴】和栗の王様とも称される。やや横に長い形で、光沢があり美しい。で、豊かな甘みや風味が特徴。

【食味】甘みに加えて香りがよく、きめが細かくほっくりした食感で非常に食味が良い。

【料理】栗きんとんに最適な品種。和菓子、京料理に使われる。ゆで栗、栗ご飯、焼き栗など。

【来歴】大阪府の豊能郡が原産で、1750年頃にできたとされる。江戸時代中期1753(宝暦3)年、広島から持ち帰った栗を大阪の歌垣村(現能勢町)に植えたのが始まりとされる。 歌垣村倉垣の人が、この栗をまいたところ、そのうちの1本がとても良い実をつけたので、この樹を近隣に増殖させました。その後、江戸後期の、天明から寛政にわたる大飢饉の時にこの栗を売り歩いたら高値で飛ぶように売れ、多くの「銀札」を集めたことから、その品種は「銀を寄せる」という意味で「銀寄」と呼ばれるようになったといわれている。 明治になると、池田市を通じて日本中に出荷販売されるようになった。現在は、愛媛県、熊本県、大阪府、岐阜県などでも栽培されている。愛媛県と熊本県で50%を占める。

【時期】9月中旬~10月上旬

葉隠柿 (はがくし)

【生産地】宇城市

【特徴】渋柿。丸い果実で高さがある。小ぶり。色はオレンジから熟すにつれ赤くなる。

【食味】完全渋柿

【料理】干し柿用

【来歴】福岡県の原産といわれており、九州中北部で栽培されている。主産地は熊8割近くを占める。「葉隠柿」の名は、葉が隠れるほど、たわわに実がなることから付けられた。「高瀬(たかせ)」とも呼ばれる。

【時期】11月中旬~下旬

晩白柚 (ばんぺいゆ)

【生産地】八代市

【特徴】柑橘。非常に大きく、これまで最大の果実は、一番重い果実(ポメロ・みかん科)として、ギネス認定されている。外観は光沢があり、美しいレモン色。

【食味】さわやかな食味。果実は非常に香りが良い。日持ちも良いので、1ヶ月くらいは部屋において香りを楽しめる。

【料理】皮は砂糖漬けに利用される。

【来歴】1933(昭和7)年に熊本県果樹試験場に導入され、1952(昭和27)年から八代地方で栽培が始まった。

【時期】12月~2月

利平栗 (りへいぐり)

【生産地】人吉市

【特徴】丸くコロッとした形で、黒く光沢のある美しい栗。毛が生えており他の栗と区別しやすい。

【食味】皮を剥くと果肉が美しく、とても甘くホクホクとした食感。

【料理】甘栗、焼き栗、栗きんとんなど

【来歴】1940(昭和15)年に、岐阜県で発見された。日本栗と中国栗の雑種。

【時期】9月中旬~10月上旬

【参考資料】
熊本の自然
熊本県ホーム「2 地域の概況 (1) 地勢・地理」
くまもとふるさと野菜
ひご野菜
熊本特産品辞典
地域食材図鑑

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