広島のお土産にはコレ!~バリエーション豊かな加工食品で「広島菜」がいつでも味わえる~

広島には「広島菜」あり!

広島県は、瀬戸内海に面し、海、山、谷、川、盆地、平野の地形が全て揃っている地域で、晴天も多く、豊かな自然に恵まれています。 農産物は、収穫量全国一位のレモンやネーブルオレンジをはじめとするハッサク、夏ミカンなどの柑橘類や全国の収穫量の過半数を占め、全国一位のワケギやクワイなどが生産されています。1)2021(令和4)年の農業産出額は1,213億円で全国ランキング26位でした。2)

その広島県には、日本三大漬け菜として、信州の野沢菜漬け、九州の高菜漬けと並ぶ「広島菜漬け」があります。広島菜漬けに使われる「広島菜」は、広島県の伝統野菜です。 今回は、この「広島菜」を特集したいと思います。

鮮やかな緑が特徴の広島菜

「広島菜」は、ホウレン草や小松菜のように葉が広がる非結球性(ひけっきゅうせい)の葉菜類(ようさいるい)です。 アブラナ科アブラナ属の二年草で、広島地方が原産地の在来種です。学名は“Brassica rapa L. subvar. hiroshimana Kitam.”で、ちゃんと“hiroshimana”と地名が入っています。近縁品種として、江戸東京野菜の「三河島菜(みかわしまな)」や「大阪菜(おおさかな)」が挙げられます。

「広島菜」の葉身は濃い緑色で、広く大きく、葉縁に切れ込みがないのが特徴です。一株の重量は1.5〜3kgと重く、キャベツのLサイズ1.3~1.5㎏を超えており、ズッシリとした感じです。9月に種を蒔くと12月には十分に育ちます。霜により身が締まり、ピリッとした風味が増します。また、美味しさだけでなく、栄養素も豊富に含んでおり、機能性の面でも評価されています。

広島菜の畑

広島菜の畑

もとの品種は京都から⁉

平安時代説

広島菜の由来はいくつかの説があります。 古いものでは、平安時代末期の1151(仁平元)年に平清盛(たいらのきよもり)が安藝国に赴任した時に厳島(いつくしま)の食膳で賞味したという伝説です。3)1167(仁安2)年に、武士として初めて太政大臣となった平清盛は、翌年には現在の寝殿造りの海上社殿を造営し、同時に京の文化を厳島に移すなどして繁栄に大きく貢献しました。4)

厳島神社

厳島神社

※厳島神社は現在、工事が行われています。大鳥居の修復は完了しています。5)

江戸時代説

二つ目は、豊臣秀吉が没する頃の1597(慶長2)年、または、その時期がもう少し後の慶長(1596~1615年)の末期に導入されたという説です。今の広島県地域である安芸(あき)・備後(びんご)の両国の藩主となった福島正則(在職期間は1600~1619年)の参勤交代に随行した安芸国(あきのくに)観音村(かんのんむら)(現:広島市西区観音)の住人が、帰路に京都本願寺(ほんがんじ)に参詣(さんけい)した際に壬生菜(みぶな)に近い形状の種子を持ち帰り、帰郷後に栽培を始めたという説があります。6)

明治時代説

もう一説は、明治時代になってから導入されたという説です。現在の広島市安佐南区川内(かわうち)地区かつて存在した佐東町(さとうちょう)の歴史が記されている『佐東町史(さとうしちょうし)』には、「広島菜は,1892(明治25)年頃川内村の青年木原才次が,京都西本願寺にお参りの帰り,多様性の珍菜(観音寺白菜)の種をもらいうけ,帰郷後,白菜と交配し,新品種を作り出した。それが,広島菜の原点である。」と記されているそうです。3)

いずれの説も京都から

原形は、壬生菜(みぶな)なのか、観音寺白菜(かんのんじはくさい)なのか、それらを交配させたものなのかは気になるところですが、いずれも京都から移入した品種だということから、今でも「京菜(きょうな)」と呼ぶ方もいるそうです。

有名にしたのは牡蠣だった⁉

「広島菜」と呼ばれるようになったのは明治以降で、大阪で営業していた広島の牡蠣船(かきぶね:川辺に係留した和船で牡蠣料理を提供する飲食店)7)8)9)で、料理の締めのお茶漬けに広島菜を添えたことから評判になったと言われています。正式な命名は、1933(昭和8)年の産業博覧会(当時:広島産業奨励館、現:原爆ドームで開催)で「広島菜」として発表・展示されました。8)その後、広く知られるようになり、信州の野沢菜、九州の高菜と並ぶ日本三大漬菜の一つとして、高く評価されています。

広島菜は、一株がとても大きく、漬物にすると、歯切れの良い食感と、ワサビに似た成分のピリッとした風味がします。昔からの郷土食として菜巻きむすび,古漬けのお茶漬けなどで親しまれるとともに、牡蠣によく合う食材として、牡蠣飯などにも使われてきました。戦後には贈答品として珍重されるなどし、今でも広島の特産品として重要な位置を占めています。

昭和初期の広島のかき船

昭和初期の広島のかき船

※上記の写真は、昭和初期の広島のかき船の様子です。出典は、広島市デジタルギャラリー8)です。明治や大正時代の写真絵はがきが掲載されており、戦前の広島の様子を見ることができます。

栽培農家の敵はカキ菜?

広島菜の生産地は、広島市の市街地からほど近い安佐南区川内地区です。県内で最も多く出荷するこの地域は、古川と太田川に挟まれた場所で、土壌はザラザラとした砂の質感とツルツルとした粘土の質感が少しあるやや乾きやすい砂壌土(さじょうど)です。砂壌土は水ハケがよく、昔から野菜作りに適した土地として有名な地域です。10) 

現在、広島菜の生産農家は、「広島菜の発祥の地」といわれ主産地の川内地区で約50名の生産者が10㏊で年間約900tを生産しています。生産緑地制度や若者の就農などで、今後30年は広島菜の生産が見込めるそうです。11) 

広島菜の各農家は、今でも自家採種を続けてていますが、問題は交雑です。アブラナ科であるため、交雑してしまうと良い広島菜ができなくなってしまいます。それを防ぐためには、同じアブラナ科の他品種を除去する必要があり、同地区では、毎年春になると外来種の「からし菜」が自生する太田川で除去作業を行っています。12)

豊富な加工食品

こうして大切に育てられた「広島菜」は、鮮やかな緑の葉野菜として、「広島菜漬け」の原料をはじめ市場や食品加工会社に出荷されます。13) 伝統野菜は一般的な野菜とは違い、全国でリレー生産を行っていないので、旬の時期にその地域でしか食べられないことが特徴でもあります。伝統野菜を一年中、楽しんでもらったり、需要を増加させたりするためには、どうしても加工品を提供する必要がでてきます。「広島菜」から学びたいのは、加工商品のバリエーションが豊富にある点です。 広島菜の代表的な加工品は「広島菜漬け」で、その「本漬け」と、広島菜の鮮やかな緑を残した「広島菜漬け」が基本的な加工品です。14)

広島市農業協同組合広島菜漬センター「広島菜漬セット」

広島市農業協同組合広島菜漬センター「広島菜漬セット」

このほかに、県内の加工食品会社が作る広島菜入りの加工品のバリエーションがとても豊かです。 刻んだ広島菜に青しそを加え、醤油味で仕立てた「青しそ広島菜」、「赤しそ風味」、「レモン風味」バージョンなどや、定番の「ふりかけシリーズ」、瀬戸内海のちりめんと合わせた「広島菜ご飯」、広島菜を風味豊かに炊き上げた「広島菜のしぐれ」などがあります。

海苔の佃煮の中に広島菜ときゅうりの漬物が入った「広島菜入り青しばのり」は筆者も欠かしたことがありません。ほかにも鮭節や子持ち昆布と合わせた「鮭節広島菜」、「こもち昆布広島菜」、「広島菜キムチ」、「広島菜の信田巻き」などもあります。そして、広島菜を使用したジャム「広島菜塩ジャム」、「広島菜&りんご」、「広島菜&バナナ」など調味料や洋菓子、もちろん「青汁」もあり、幅広い商品ラインナップです。 15)

レトルト食品でも「広島菜入りレトルトカレー」、「広島菜パスタソース」など広島菜への愛があふれる加工品の数々が発売されています。ちなみに「広島菜パスタソースさらっとトマト」は、漬物グランプリ2023金賞を受賞しています。16)

自治体も「広島近郊7大葉物野菜」でPR

2022(令和4)年には、広島市がPRしている「広島近郊6大葉物野菜」に、新たに伝統野菜の「広島菜」を加え、消費の拡大を図っています。17)

伝統野菜を存続していくには、広島菜のような地域ぐるみの積極的な取り組みが必要です。さまざまな加工食品の商品開発や地域物産としての販売など、農家と消費者を結びつける産業部門(市場、加工会社、小売店、飲食店など)の参加が不可欠であると思います。 「広島菜」は地元の食品加工会社が、とても積極的に商品開発を行い、消費者への認知度を高めたことは拡販に大きく貢献しています。また、自治体が地域特産農作物の一つとしてPRすることで、持続的な生産の維持に貢献しようとしています。

伝統野菜は地域の味なので、そのままを味わって欲しいところですが、存続のためには時代の流れに合わせて消費者が手に取りやすい形に加工する必要もあるのでしょう。 このような商品があるおかげで、いつでも「広島に行ったら、お土産は広島菜漬け買ってきてね!」と頼めます! 皆さまも広島に行ったら「ぶちうまいけぇ!」ぜひ、広島菜漬け食べてみてくださいね。

【参考資料】
1)広島県令和5(2023)年5月「広島県の農林水産業」
2)農林水産省「広島県の農林水産業の概況」
3)兵庫県教育大学大学院 關浩和研究室
4)広島県公式HP「武士の成長とひろしま ~厳島神社と平清盛~」
5)厳島神社
6)広島県「広島菜」
7)広島県漬物製造業協同組合「広島菜漬の歴史」
8)広島市デジタルギャラリー 21-1 本川 70378_001 (広島名勝) 本川の河畔 (昭和戦前) 
9)ウィキペディア「かき船」
10)NPOふぞろいプロジェクト「広島菜を知ろう」
11)中国四国農政局広島県拠点「知っとる?広島の伝統野菜②」2021年11月号
12)NHK広島NEWS WEB広島菜を守れ!からし菜を除去
13)JA広島市 伝統野菜の味「広島菜漬」
14)広島市農業協同組合広島菜漬センター
15)フードフェスティバル
16)食料新聞オンライン情報サービス
17)広島市報道資料「伝統野菜の広島菜が仲間入り!広島近郊7大葉物野菜について」