オレンジジュースショックで国産みかんの需要が増加するも立ちはだかる高齢化・人手不足の壁

オレンジジュースの販売休止はなぜ?

温度差が激しいこの時期、何か爽やかな飲み物が欲しいと思い、スーパーに行くと、「ん?」なんかオレンジジュースの品数が異様に少ない‼?と思っていたところに飛び込んできたのが「オレンジジュースショック」のニュース。

どうなっているのか?と思って調べてみると、どうやら原料のオレンジ果汁が品薄になっているため、各メーカーのオレンジジュースが次々と店頭から姿を消しているようです。

日本農業新聞によると、森永乳業は2024年4月25日にオレンジジュース商品「サンキスト100%オレンジ」(200ml)の販売を果汁原料がなくなり次第、休止すると発表しました。また、雪印メグミルクは「Doleオレンジ100%」について2023年4月上旬から一部サイズの販売を休止しており、200mlを除く450ml・1000mlを休止しています。アサヒ飲料も「バヤリースオレンジ」(1.5ℓペットボトル)の販売を2023年12月1日出荷分から販売休止し、販売再開の見通しは立っていないとのことです。1)

オレンジ果汁は9割超を輸入に依存

日本はオレンジ果汁の需要量の9割を超える量を輸入に依存しています。農林水産省の資料(2018年)によると、国別の輸入割合はブラジル70%、メキシコ9%、イスラエル9%、スペイン8%となっており、ブラジルが最大の輸入国です。2)

ブラジルは世界最大のオレンジ生産国であり、オレンジ果汁の世界有数の輸出国で、世界で流通するオレンジ果汁の70%近くを占めています。3)

しかし、ここ数年、ブラジルの天候不良による不作や同じくオレンジの産地であるアメリカフロリダ州が2022年、2023年にかけてハリケーンにより不作になったことで、アメリカも輸入量の増加が続いており、ブラジル産オレンジの争奪戦となっています。

異例の品薄により、オレンジ果汁の仕入れ値が高値をつける中、日本は歴史的な円安により競争力が低下しており、他国に買い負ける状態です。ブラジルからの供給量は3分の1まで減少しているとの指摘もあります。

 

国産みかんジュース復活

こうした状況の中、国産果汁の利用が進められています。 JA全農の子会社である協同乳業は「農協果汁」を14年ぶりに復活させ、4月から「和歌山県産みかん100%(うんしゅうみかん)」と、りんご、みかん、白桃の3種の国産果汁を使用した100%ミックスジュース「くだものミックス」の販売を東日本中心に販売を開始しました。価格はオープン価格。

JA全農は、昨年10月にも全国のファミリーマート(約16,500店舗)と協業し、果汁飲料「農協温州みかん」を限定販売しました。価格は190gで166円(税込179円)。

また、セブン-イレブンでは、今年4月に、国産みかん(温州みかん果汁)を使用した新商品7プレミアム「オレンジとみかん果汁100%」を発売しました。これまでの7プレミアム「オレンジ果汁100%」を順次リニューアルし、各店舗で発売されます。

公式サイトによると「オレンジとみかん果汁100%」の価格は、200mlは108円(税込116.64円)、450mlは188円(税込203.04円)、1ℓは268円(税込289.44円)で発売されています。200ml、450mlサイズは、これまでの7プレミアム「オレンジ果汁100%」から10円の値上がりとなっています。

また、供給不足に陥る前から国産みかんジュースを販売してきたメーカーは何社もありますが、いずれも高価格帯での商品ラインナップであり、日常的な飲料としての購入には、やや厳しいものがあります。

みかん農家に立ちはだかる壁

この状況に対し、一般消費者の立場としては、輸入がダメなら、もっと国産みかんを増やせばいいじゃないか、これは国産みかんの需要増加のチャンスでは?と思ってしまうのですが、そう都合良くはいかないのが農産物です。

国内のみかん農家は、高級みかんの栽培にシフトしており、加工用の安価なみかんを生産する農家は減少しています。また、みかん農家の高齢化や人手不足で生産量を増加する体力がないことが大きな壁となっています。

「桃栗三年柿八年(ももくりさんねんかきはちねん)」という言葉があるように、農作物は一朝一夕にできるものではありません。みかんもある程度の量を収穫できるようになるまでには5~6年かかります。 消費するのは一瞬ですが、収穫に至るまでに長い時間がかかるのが食料です。

今回の「オレンジジュースショック」は、気象リスクと為替リスクの両方の影響を受け、供給不足になったことによるものですが、長期にわたり1ドル100円代をベースにした生産体制が出来上がってしまっているため、急には舵を切れないというだけでなく、農家の高齢化や人手不足という社会構造上の根の深い問題が横たわっています。

同様の問題は、他の輸入農産物にも起こり得る話です。最近は、「オレンジジュースショック」だけでなく、「トマトショック」もありました。昨年の記録的な猛暑の影響で世界的にトマトの供給不足となっており、ケチャップやミートソースなどトマト加工品が値上がりしましたが、今年もトマト不足の影響は続いています。その代わり、リンゴは豊作だったとのことで米国からの輸出が増加しているようです。工業製品のようにはいかないのが農作物。今年は、オレンジジュースの代わりにリンゴジュースになりそうです。

これらのことは一農作物の問題としてだけではなく、日本の農作物の自給率や供給確保の問題とも関係しています。世界的にも異常気象が起こりやすくなっており同様のことは今後も起こる可能性があります。そのリスクを念頭におき、価格だけで選ぶのではなく、地域農業を守るために生産者で選ぶなど、消費者の立場からも「食」のサプライチェーンも見直す必要があるのかもしれません。

【参考資料】
1)日本農業新聞「オレンジ果汁不足・高騰 相次ぐ飲料販売休止」2024/4/29
2)農林水産物 品目別参考資料P20-21(2018)
3)公益財団法人 中央果実協会「ブラジルの柑橘類事情(オレンジ、オレンジ果汁)」

協同乳業『農協シリーズ商品』新発売
全農「和歌山県産温州みかん果汁100%を使用 飲料『農協温州みかん』を新発売 ~2023年10月10日(火)より全国のファミリーマートで限定販売~
Jcastニュース「オレンジ高騰の余波、「セブンプレミアム」にも…」
日経ビジネス「カゴメ、地球沸騰「トマトショック」と戦う 
NECとAI活用」
公益財団法人中央果実協会「米国 リンゴの供給が需要を上回り輸出が増加」