日本の伝統野菜-27.大阪府
1.地域の特性
【地理】
大阪府は近畿地方の中部に位置し、北西に兵庫県、北東に京都府、東に奈良県、南に和歌山県と接し、南西に大阪湾と面する府です。面積は約1,905 平方㎞で、人口883万7,685人で全国第3位です。南北に長く、かつて日本で一番小さな都道府県でしたが、現47位の香川県の面積算定方法や関西国際空港などの埋め立て地の増加にて、現在は46番目に大きな(2番目に小さな)都道府県となっています。
大阪府は北を北摂山地、東を生駒山地・金剛山地、南を和泉山脈に囲まれています。地形の特徴は、山地が少なく高低差の小さい丘陵地・台地と広大な低地が多いことです。
府全域に占める森林の割合(森林率)は約30%。京都府74%、兵庫県67%と比べるとその差は明らかです。森林率の低さは平地の多さを表しています。府の面積の大部分を占めているのが大阪平野です。府内の最高地点は金剛山の中腹1056mの場所になります。
【気候】
大阪府は、大阪湾と周辺山系に囲まれ、全域が瀬戸内海気候に属し、月平均気温の平年値は17.6度、年間降水量の平年値は1,219mmで、年間を通して温暖な気候地域です。
しかし、ここ数年は地球温暖化やヒートアイランド現象などにより、夏季においては35℃を超えるような厳しい暑さに見舞われることもしばしばあり、エアコン無しで過ごすことが困難となっています。これは、四国・紀伊半島・中国山地などに囲まれた大阪は、盆地状の地形で、外洋からの風の通りが悪いため、熱気のこもり易い地域ということが言えるでしょう。
降水量は梅雨時期と9月頃(秋台風の頃)に多くなりますが,平気的な降水量は少なめであるという特徴があります。
【農業の特徴】
大阪府の経営耕地面積は1万2,500haで、内、田が70%の8,750ha、畑が3,780ha(2020年)で全国46第位です(農林水産省「作物統計調査 令和2年」より)。農業産出額は320億円で、全国第46位です。
内訳は、野菜が136億円、米が72億円、果実が67億円。農畜産物の生産状況は、しゅんぎくが全国第1位、ふき、イチジクが3位、みつば、みずなが7位です。
大阪の農業は、農地の約30%が市街化区域内にあり、個々の経営面積が小さく多様な品目を集約的に生産する施設園芸などの農業経営が営まれ、消費者に新鮮な農産物を安定的に供給しています。
特にしゅんぎく、こまつななどの軟弱野菜やぶどうなどの果樹の栽培が盛んです。そのためにも、スマート農業に取り組むための指針を令和2年12月に策定されました。これにより、ロボット技術やAI技術による超省力化、民間等が開発した最先端技術を活用した生産者と消費者のコミュニケーション強化を図っていくとのことです。
2.大阪の伝統野菜
大阪は 江戸時代「天下の台所」と呼ばれたように、古くから食文化が栄え、その食文化を支える大阪独特の野菜が多数ありました。しかし、戦後、農産物の生産性を上げるための品種改良や農地の宅地化、食生活の洋風化が進み、地域独特の歴史や伝統を有する品種が次々に店頭から消えていきました。
近年、こうした伝統ある野菜を見直そうという機運が高まり昔ながらの野菜を再び味わってもらえるよう、大阪府では関係機関と協力し、各地域の農業者が守ってきた「なにわの伝統野菜」の発掘と復活に取り組んできました。尚、令和3年7月から、なにわの伝統野菜の19品目として、新たに「堺鷹の爪」が仲間入りしました。
<「なにわの伝統野菜」の基準>
(1) 概ね100年前から大阪府内で栽培されてきた野菜
(2) 苗、種子等の来歴が明らかで、大阪独自の品目、品種であり、栽培に供する苗、種子等の確保が可能な野菜
(3) 府内で生産されている野菜(407)
碓井豌豆(うすいえんどう)
【生産地】羽曳野市碓井地区
【特徴】小型でさやと豆の色合いが淡い
【食味】豆の皮は薄く、実は甘みが強い
【料理】豆ごはん、たまごとじ、かき揚げ
【来歴】治時代に羽曳野市碓井地区にアメリカ合衆国から導入され、改良されたむき実用えんどう。
【時期】4月~5月
大阪しろな(おおさかしろな)
【生産地】大阪市天満橋付近
【特徴】早生種、中生種、晩生種があるが、いずれも葉柄(ようへい)が鮮明な白色で平軸である。
【食味】クセのない優しい味
【料理】おひたし、煮物、からし和え、味噌汁
【来歴】江戸時代から栽培が始まり、大阪市の天満橋付近で栽培が盛んだった。
【時期】通年
金時人参(きんときにんじん)
【生産地】大阪市浪速区付近
【特徴】根の長さは約30センチメートルで深紅色
【食味】肉質は柔らかく甘味と香気が強い。
【料理】煮物、サラダ、なます、きんぴら、関西ではおせち料理や雑煮。
【来歴】江戸時代から昭和初期にかけて大阪市浪速区付近の特産であり、「大阪人参」と呼ばれていた。
【時期】12月~2月
毛馬胡瓜(けまきゅうり)
【生産地】大阪市都島区毛馬町
【特徴】果実は長さが約30センチメートル 、太さ約3センチメートル で、果実の先端部よりの3 分の2 は淡緑白色からやや黄色気味となり、末端部には独特の苦みがある。
【食味】歯切れがよくパリパリとした食感があり、独特の苦みがある。
【料理】ざくざく、酢の物、漬物、糟漬、鰻ざく、寒天よせ
【来歴】大阪市都島区毛馬町が起源、文久3年(1863年)の「大阪産物名物大略」に記載がある。
【時期】7月
勝間南瓜(こつまなんきん)
【生産地】大阪府南河内地域
【特徴】1キログラム程度の小型で縦溝とコブのある粘質の日本かぼちゃ。果皮は濃緑色だが、熟すと赤茶色になり甘みが増す。栽培に手間がかかる。
【食味】甘みはさっぱりとしており、果皮も柔らかく、味付けがしやすい。
【料理】煮もの、煎り煮、スープ、カレー、シチュー、天ぷら
【来歴】大阪市西成区玉出町(旧勝間村)で生まれた伝統品種。
【時期】7月~8月
堺鷹の爪(さかいたかのつめ)
【生産地】堺市中区福田
【特徴】果実は約3cmと小型で、房成りではなく、天を向いて1節ごとに1つずつ着果する特徴(習性)がある。辛味が通常の3倍強く、香りがよい。
【食味】「天鷹」などの品種より約3倍辛く、果実のような上品な香りをともなう。
【料理】薬味、香辛料
【来歴】古く江戸時代から鷹の爪が栽培され、明治時代には東京ドーム18個分の畑が広がる一大生産地。
【時期】8月~10月
吹田慈姑(すいたくわい)
【生産地】大阪府吹田市
【特徴】水生植物で、沼地や田んぼなどで育ち、成長すると20cmの大きさになります。現在流通している大型の中国クワイとは異なる小型のクワイ。
【食味】味がほっくりとして濃く、 独特のほろ苦さの中にうまみ、甘みがあり、やわらかい。
【料理】煮しめ、田楽、空揚げ
【来歴】江戸時代以前から自生していた。300年前の貝原益軒の「大和本草」などにも取り上げられています。
【時期】12月
泉州黄玉葱(せんしゅうきたまねぎ)
【生産地】大阪府泉南郡田尻町
【特徴】球形は扁平で水分を多く含むため日持ちはしません。
【食味】みずみずしく柔らかく、甘味が強い。
【料理】揚げ物、サラダ
【来歴】明治期から盛んに栽培されていました。
【時期】4月~5月
高山牛蒡(たかやまごぼう)
【生産地】大阪府豊能郡豊能町
【特徴】太いものは中が空洞になり、色が黒く、香が強く繊維が少ない。
【食味】柔らかく早く煮えて食べやすい。
【料理】煮もの、きんぴら、酢ごぼう、天ぷら、豚汁、粕汁、かやくご飯
【来歴】江戸時代から栽培されている。大阪では長年、正月料理の食材として親しまれてきた。
【時期】12月
高山真菜(たかやままな)
【生産地】大阪府豊能町高山地区
【特徴】標高400mほどの山里で完全無農薬で生産。全長が20から30センチメートル で、茎の部分が柔らかく甘みがあり、なばなとしても利用できる。
【食味】軟らかくほんのり甘い、くせがなく、いろいろな料理に使える。
【料理】漬物、和え物、炒め物等。
【来歴】江戸時代から栽培されている。
【時期】12月~3月
田辺大根(たなべだいこん)
【生産地】大阪市東住吉区田辺地区
【特徴】長さ20cm、太さ9cmほど。根の形は白色の円筒形で、末端が少し膨大して丸みを帯び、葉には毛(もう)じと呼ばれるトゲがない。肉質は緻密。
【食味】柔軟で甘い
【料理】ふろふき、漬物、なます
【来歴】天保7年の「名物名産略記」に記載があります。
【時期】11月~1月
玉造黒門越瓜(たまつくりくろもんしろうり)
【生産地】大阪市中央区玉造1丁目
【特徴】果実は長さ約30センチメートル 、太さ約10センチメートルの長円筒型。色は濃緑色で、8から9条の白色の鮮明な縦縞がある。
【食味】あっさりとした味で歯ごたえの良さは抜群。
【料理】漬物
【来歴】江戸時代、大坂城の玉造門(黒門)付近が発祥地。
【時期】7月~8月
天王寺蕪(てんのうじかぶら)
【生産地】大阪市天王寺
【特徴】葉の切れ込みが深い切葉と葉の切れ込みが浅く葉の形が丸い丸葉の2系統がある。
【食味】甘味が強く、肉質は緻密で軟化しにくい。
【料理】煮物、汁物、漬物、サラダ
【来歴】大阪市天王寺付近発祥、「名物や蕪の中の天王寺」と蕪村に詠まれている。
【時期】11月~1月
鳥飼茄子(とりかいなす)
【生産地】大阪府摂津市鳥飼地区
【特徴】京都の賀茂なすによく似たソフトボール大の丸なすの一種。他のなすに比べて栽培に多くの水を必要。
【食味】皮が柔らかく、肉質は甘味があり緻密で、煮くずれしにくい。
【料理】煮物、田楽、揚げだし
【来歴】天保7年(1836年)の「新改正摂津国名所奮跡細見大絵図」の「名物名産略記」に「鳥養茄子」の記載がある。
【時期】8月
難波葱(なんばねぎ)
【生産地】大阪市難波周辺
【特徴】繊維がやわらかく、強いぬめりがある。
【食味】糖度10度を超えることもある濃厚な甘み。
【料理】鍋、すき焼き
【来歴】大阪市難波周辺で江戸時代からさかんに栽培。九条ねぎの原種ともいわれる。
【時期】12月~2月
服部越瓜(はっとりしろうり)
【生産地】大阪府高槻市塚脇地区
【特徴】果実が薄緑色で淡い白縞があり、大きなものは長さ約40㎝、重さ800g程度、頂部が細くくびれている。
【食味】爽やかな歯ごたえがあり、シャキシャキとした食感。
【料理】浅漬、糟漬
【来歴】高槻市の塚脇地区で江戸時代から栽培されている。
【時期】7月~8月
三島独活(みしまうど)
【生産地】大阪府茨木市太田および千堤寺地区
【特徴】300年以上つづいた伝統農法で、わらと干し草を重ね、発酵熱を利用し、温度を保ち育てる。
【食味】アクが少なく、柔らかく、みずみずしくて甘い。
【料理】ぬた、きんぴら、煮もの、サラダ、つま物
【来歴】江戸・天保年間から栽培
【時期】2月~3月
芽紫蘇(めじそ)
【生産地】大阪市北区源八付近
【特徴】発芽したばかりのしその芽。
【食味】独特の香気と色合い。
【料理】刺身のあしらいや料理の彩り、薬味。
【来歴】明治時代初期から栽培。
【時期】通年
守口大根(もりぐちだいこん)
【生産地】大阪府守口市
【特徴】太さ数センチに対し、長さ約1.3メートルと細長い。都市化の影響で大阪市では栽培がなく、愛知県扶桑町、岐阜各務原で栽培されている。
【食味】その風味は格別と太閤が賞賛。
【料理】漬物
【来歴】安土桃山時代に大阪天満宮周辺発祥。豊臣秀吉が「守口漬」と名付け「守口大根」と呼ばれるようになった。
【時期】12月
【参考資料】
大阪府「なにわの伝統野菜」
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