日本の伝統野菜-24.三重県
1.地域の特性
【地理】
三重県は、海、山の豊富な自然に恵まれ、農業・漁業が盛んです。面積は5,774㎢で全国第25位。人口は1,770,254人で日本の総人口の1.4%を占め全国第22位です。
三重県は、日本最大の半島である紀伊半島の東側に位置し、南北に長い形をしています。海洋は、東は伊勢湾、南東は熊野灘と太平洋に面しており、約 1,000 km にもおよぶ太平洋の海岸線を擁しています。陸地は、北東は愛知県、北は岐阜県、北西は滋賀県、西は奈良県および岐阜県と奈良県の間の短い区間で京都府、南は和歌山県と県境を有し、6府県と隣接しています。
三重県は、東海地方・中部地方・近畿地方・関西地方など複数の行政区分に振り分けられることがあります。行政区分が複数の地方にまたがる都道府県は三重県と山梨県の2県のみです。地域区分は北勢、伊賀、中勢、南勢、東紀州の5区分です。かつての令制国では、伊勢国・志摩国・伊賀国、紀伊国の一部の計4国より構成されていました。
地形的には、伊勢平野をはじめとする平野部から、鈴鹿山脈などの山脈、青山高原などの高地、盆地、低地など様々な地形を有しています。山脈は特に奈良県境の高度1200~1600m級の山体を含む大起伏の山地帯が険しく、浸食が進んで山の形が険しくなり、V字谷や急斜面の入り組んだ山容をしています。
三重県最高峰は標高1,695mの大台ケ原山です。海岸は、伊勢湾沿岸と熊野灘沿岸に大別されます。伊勢湾沿岸は主に遠浅の砂浜海岸です。伊勢志摩国立公園の中心である英虞湾(あごわん)は、リアス式海岸の特徴をもち、賢島をはじめ大小無数の島が点在し、真珠の養殖で有名です。熊野灘は、伊勢志摩地方から尾鷲市にかけて複雑な海岸線を有し、熊野市以南の20数㎞は砂礫(されき)で構成される直線的な海岸となっています。海岸線の延長は全国8位の約1,083㎞で、49%にあたる約526㎞が海岸保全区域に指定されています。
伊勢志摩国立公園内にある伊勢神宮は、江戸時代から、お伊勢参り(お蔭参り)の名で知られており、今日も多くの人が足を運んでいます。志摩半島に広がる同国立公園には、大注連縄でつながれた夫婦岩もあり、県全体が豊かな自然に恵まれた風光明媚な地域です。
【気候】
三重県は、海岸線に沿った南北に長い地勢と、長い海岸線や山岳地帯、盆地など多彩な地形を持つため多様な気候特性があります。全体としては温暖な気候ですが、年間の平均気温は、東紀州の海岸部(熊野市、御浜町、紀宝町)で最も高く16.5℃、内陸部の伊賀地域(伊賀市)が最も低く12℃で約4℃の開きがあります。海岸線から遠ざかるほど気温が低くなっていくのが特徴です。伊賀の盆地部は、冬は寒く、夏は暑くなるのが特徴です。 夏の暑い日には40℃近くまで気温が上がることもあります。温州みかんの主要産地は海岸線を望む15から16℃、中晩柑は16℃以上の地帯にあります。
年間降水量の平年値は1,630mmです(2019年)。北には山脈が連なり、冬は雪がよく降ります。 東紀州地域の大台山系付近(尾鷲市等)が最も多く、約4,000㎜で全国有数の多雨地帯の1つとして数えられています。最も少ないのが内陸部の伊賀地域で約1,400㎜です。柑橘の主な栽培地域は比較的降水量が多く、年間降水量2,000~3,000㎜の地帯です。日本一の清流といわれている宮川や、海水と淡水の境界がはっきり見える銚子川などは、多雨(約4,000㎜)がもたらした清流といえるでしょう。
【農業の特徴】
三重県の経営耕地面積は58,000haで、内、田が44,200ha、畑が13,800ha(2020年)で全国第24位です(農林水産省「作物統計調査 令和2年」より)。
温暖な気候や中京・阪神の大消費地に隣接した立地など恵まれた条件の下、世界に誇る松阪牛や伊賀牛、全国第3位の生産量を誇る伊勢茶をはじめ、米、トマト、みかん、熊野地鶏、三重サツキなど、多様な農産物が生産されています。野菜では、なばなが有名で、北勢地域を中心に全国生産量の約3割を占めます(収穫量全国1位)。
また、興味深い順位として、農家レストランの年間販売金額が24億9,300万円となっており、全国第1位です。
2.三重の伝統野菜
三重県では、伝統野菜を以下の基準で選定しています。
①生産量…生産量が確保でき、市場等に出荷されている。
②歴史性…地域で50年以上前に栽培されている事実があり、現在も栽培されている。
③地域性…地域の祭事等での活用や地域に伝わる郷土食のレシピがある等地域において欠かせないものとなっている。
④商品価値…三重の農産物のイメージアップを醸成できるもので、県外等生産地域外の消費者にも評価されることが期待できる。
⑤品種・品質…品種の純粋性が確保されている。あるいは、現在も伝統野菜・伝統果実としての特徴や一定以上の品質が確保されている。
以上の全てを満たすものを美し国「みえの伝統野菜」「みえの伝統果実」として選定しています。この条件は他の都道府県と比べ、やや厳しい選定基準のように感じられます。そこには、選定基準としての意図が以下のように示されています。
1)三重の農産物の持つ伝統文化的価値を県民や消費者に明らかにするとともに消費を通じて実感していただく象徴的な品目
2)県内の伝統的野菜・果実の持つ多様な価値を再検証し、産地再生や地域活性化に活かしていく際の目標となるべき品目
3)伝統野菜に関係する人、機関がネットワークを広げ、協働により情報発信や課題解決に取り組んでいく品目
そのため、「みえの伝統野菜」は、6品目しか選定されていません。ここでは、伝統野菜として選定されたこの6品目をご紹介します。また、伝統果実は、「みえの伝統果実」として、市木オレンジ(いちぎおれんじ)、五ヶ所小梅(ごかしょこうめ)、蓮台寺柿(れんだいじがき)、前川次郎柿(まえがわじろうがき)の4品目が選定されています。
美し国「みえの伝統野菜」 美し国「みえの伝統果実」 選定基準
伊勢いも(いせいも)
【生産地】多気町
【特徴】形状は塊形(ボール状)で、凸凹が多く、表皮は白い、中は美しい純白色。
【食味】餅のような粘り気とクリーミーでコクのある味、豊富な栄養価から、「畑のウナギ」と呼ばれている。
【料理】すりおろし、和菓子の材料。変色しにくいため、料理人から大変重宝されている。
【来歴】やまのいもの一種で、やまといもまたはつくねいもとも呼ばれ、300年前から栽培され、古くは「やまのいも」、主産地の名前から「津田芋」、明治17年に「松阪芋」、明治33年に現在の『伊勢いも』と命名されました。
【時期】11月~12月
きんこ(きんこ)
【生産地】志摩市
【特徴】さつま芋。干し芋でカロテンを豊富に含み、淡いオレンジ色の果肉。
【食味】素朴であっさりとした甘味と、もっちりとやわらかい食感。
【料理】スイートポテトやプリン等のスイーツ。
【来歴】その姿や形がきんこ(ナマコの乾燥品)に似ていることから昭和59年に「きんこ」に命名。
【時期】10月~11月
芸濃ずいき(げいのうずいき)
【生産地】津市芸濃町
【特徴】里芋の茎の部分で食物繊維が多く、美しいあずき色、無農薬栽培。
【食味】みずみずしくシャキシャキした食感
【料理】見た目の美しさにこだわる京料理の食材として人気がある。
【来歴】戦前に尾張地方の縁者を通じて、芸濃町の富農が導入したと言われている。
【時期】6月~8月
たかな(たかな)
【生産地】熊野市
【特徴】赤紫色の「赤大葉たかな」と緑色の「青大葉たかな」とがある。
【食味】ぴりっとした辛さ
【料理】東紀州地域の郷土料理「めはりずし」(たかなを包んだおにぎり)
【来歴】古代、朝廷が九州から大和へと移ったのに伴い、この地域にもたらされたと言われています。
【時期】11月~4月
松阪赤菜(まつさかあかな)
【生産地】松阪市
【特徴】根の全体と葉の軸が美しい紅色
【食味】シャキシャキとした歯ごたえ
【料理】漬物、サラダ
【来歴】400年ほど前に蒲生氏郷が近江(現在の滋賀県)から持ち込んだとされています。
【時期】11月~3月
三重なばな(みえなばな)
【生産地】桑名市長島町、木曽岬町、松阪市
【特徴】アブラナの茎葉を摘み取ったもので、ほのかな苦味がある。
【食味】みずみずしくてやわらかい。
【料理】お浸し、炒め物、汁物
【来歴】菜種油の副産物だったが、美味しく好評だったため商品化。
【時期】11月~3月
【参考資料】
美し国「みえの伝統野菜」選定品目6品目
美し国「みえの伝統果実」選定品目4品目
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