日本の伝統野菜ー08.茨城県
目次
1.地域の特性
【地理】
茨城県は関東地方の北東に位置し、総面積は6,097km2(霞ヶ浦・北浦・牛久沼・涸沼などの湖を含む)で、全国24位です。北部から北西部の山岳地帯と南東部の霞ヶ浦や北浦などの湖沼地帯を除けば、平坦な土地が広がっているため、可住地面積は3,982 km2と総面積の65%を占め、全国第4位の広さを有しています。県南の取手市は首都東京の中心から40km、県庁所在地の水戸市は100kmの圏内にあります。
茨城県の北部は福島県に隣接し、北部から北西部にかけて阿武隈山地(あぶくまさんち)の南端部となる久慈山地(くじさんち)・多賀山地(たがさんち)の山々と八溝山地(やみぞさんち)の山々が連なり、この間に山田川(やまだがわ)、里川(さとかわ)、久慈川(くじがわ)、那珂川(なががわ)が流れ、その流域に平地が広がっています。
西部は栃木県に隣接しています。北西県境には、県内の最高峰の八溝山(1,022メートル)から加波山(かばさん)、筑波山(つくばさん)が南に走っています。南西部から中央部にかけては関東平野の一部である常総平野(じょうそうへいや)が広がっています。その平野を小貝川(こかいがわ)と鬼怒川(きぬがわ)がほぼ平行して南部に向かって流れており、千葉県、埼玉県の県境に西から東の太平洋に流れる流域面積全国1位の利根川(とねがわ)に合流しています。
南部は県の最南端を流れるこの利根川がほぼ千葉県、埼玉県との県境になっています。東部は太平洋に面しており、延長190キロメートルにおよぶ海岸線がのびています。南東部には、琵琶湖に次ぐ全国2位の湖霞ケ浦や北浦といった水郷地帯があります。
【気候】
茨城県の気候は太平洋側気候で夏季は多雨多湿、冬季は少雨乾燥です。
沿岸部は気温の日較差が小さいなど海洋性気候の特徴があります。内陸部は内陸性気候の特徴を持ち、夏季は、埼玉県に近接する一部地域を除き、北東気流の影響を受けやすく、比較的冷涼です。冬季は、朝晩は放射冷却により気温が下がります。
豪雪地帯に指定されている地域はありませんが、南東部を除く地域、特に北西部山間部は南岸低気圧や北東気流の影響で局地的に大雪となることもあります。
南東部の海洋や霞ヶ浦等の湖沼があることによって、栃木県や群馬県などの内陸の県と比べ湿度が高くなりがちで、霧が発生しやすい傾向があります。また、雷も多く、県北部の山沿いや栃木県境での激しい雷の様子は有名で、方言の中に雷そのものを「らいさま(雷様)」「らいさん(雷さん)」と呼ぶ地域があります。
【農業の特徴】
茨城県は、関東平野の一部である常総平野が広がり、耕地面積は約17万haで全国第3位です。農業産出額は4,967億円で全国3位(平成29年)の農業県です。
農地は河川流域の水田地帯、台地の畑作地帯、県北の中山間地帯といった環境に恵まれており、様々な動植物の南限北限の境となっています。このような気象条件等を生かし、数多くの農産物が生産されています。
茨城県の主要農産物は甘藷(かんしょ)、レンコン、ピーマン、メロン、ほしいも、みず菜、チンゲンサイ、切り枝、芝、クリ、セリがいずれも全国1位の農業産出額を誇っています。
ほかにも白菜、小松菜、レタス、なし、落花生(らっかせい)、ねぎ、にら、スイートコーン、ごぼう、かぼちゃ、春菊(しゅんぎく)、しそ、らっきょう、みつば、そらまめ、マッシュルーム、こんにゃくいも等さまざまな野菜を産出しています。
茨城県守谷市、取手市からは東京都心まで40kmであり、長い距離でも160kmに位置しており、大消費地に近いことから重要な食料供給基地となっています。
2.茨城の伝統野菜
首都圏の食料供給基地となっている茨城県は一大農業県であり、生産する野菜の種類も豊富です。そのため、「儲かる農業」を指向しており、県オリジナルの品種やブランド野菜の開発、GAP(農業生産工程管理)による品質管理、「環境に優しい農業の実践者」の証であるエコファーマーの取得、安全な生産体制の確立などを積極的に推めています。まさに、時代に合った農作物の栽培に取り組んでおり、消費者ニーズに応えているといえます。
そのせいか、伝統野菜についての取り組みは特に明確には行われておらず、基準もはっきりしていません。また、地域ブランドの取り組みも活発に行われているため、地名が冠された野菜も多く、来歴を調べなければ在来種・固定種かどうかはわかりにくいのが実情です。
茨城県三大伝統野菜として、よく名前が上がるのは、レッドポアロー(赤ねぎ)、浮島だいこん、貝地高菜の三品目ですが、ほかにも地域伝統野菜として栽培されてきた野菜もあり、各地に在来作物の種がまだまだ埋もれている可能性があります。
浮島地区の里山かぼちゃを追加しました。
五霞町の「八つ頭」を追加しました。
赤ねぎ(レッドポワロー)
【生産地】東茨城郡城里町(旧:桂村)
【特徴】一度も品種改良されていない伝統野菜。那珂川の度重なる洪水によって出来た肥沃な沖積土が広がるところで出きる赤ねぎ。ネギ本来の緑と白色に加えて、根本が赤く染まっている。真っ赤で甘く育つよう、栽培は、ほとんどを手作業で行われている。
【食味】白ネギと比べて甘味や風味が強く、葉身部も柔らかいのが特徴。味噌汁。赤ねぎを刻んで味噌と混ぜて熱湯をかけたネギ汁。
【来歴】水戸黄門が種を撒いたとされる。明治時代にはすでに栽培されていた。伝統的な食文化を守るNPO法人スローフードジャパンの「味の箱舟」に県内で初認定され、茨城が誇る名産野菜の一つ。「レッドポワロー」という名で道の駅かつらで購入できる。
【時期】11月〜3月
浮島だいこん(うきしまだいこん)
【生産地】稲敷市浮島地区(旧:桜川村)
【特徴】葉は青首だいこんの葉に比べて黄味が強い。根の上部はすらりと細く、下部の方に向かうにつれが太く丸い下膨れの形になる。
【食味】辛味が少なく独特の甘みがある。柔らかく歯切れの良い肉質。たくあん漬けに最適。煮物にはあまり向かない。
【来歴】明治時代から栽培されている。下ぶくれの形のため収穫しにくく、生産する農家が減っっていった。2009年の時点で30軒ほどで作られていたが、ほとんどが自家消費用で流通にのることはない。
【時期】12月頃
貝地高菜(かいじたかな/かえじたかな)
【生産地】石岡市貝地地区
【特徴】葉かしら菜の一種。
【食味】からし菜よりも繊維が少なく軟らかで風味がある。高菜漬け、古漬け、しょうゆ漬けなど。
【来歴】貝地地区で古くから栽培されており、江戸時代には「高菜漬け」に利用されていたとされる。地名は貝地(かいじ)だが、「かえじ」とも読んでいたため、「かえじたかな」ともいう。別称「石岡たかな」。都市化の影響や栽培者の高齢化によって現在は自家消費程度になっている。種子の購入が可能。
【時期】3月頃
里川かぼちゃ(さとがわかぼちゃ)
【生産地】常陸太田市美里地区
【特徴】表皮が鮮やかなピンク色をしているのが特徴。果肉はオレンジ色で、キメの細かい粉質。
【食味】糖度は12度前後でやさしい甘み。加熱すると最初はホクホクとした食感だが、口溶けは絹のようになめらか。
【来歴】昭和30年頃から栽培されてきた地域伝統野菜。長年にわたり自家採種を繰り返したことにより交雑し、原種が失われつつある時期もあったが、2007年に独自性を見直そうと研究会が発足し、苗の一括生産を行い品種の固定化を図っている。
【時期】9月~12月下旬
八つ頭(やつがしら)
【生産地】猿島郡五霞町
【特徴】里芋の一種。茎は赤く色づく。親イモが大きくならないうちに、子イモが育ち始め、子イモが分球しないのが特徴。その外観は頭が八つついているように見えることから「八つ頭」と呼ばれるようになった。
【食味】自然な甘味。一般的な里芋に比べてヌメリが少なく、ホクホクとした食感。
【料理】主にお節料理に使われる高級な食材だった。煮物、けんちん汁、コロッケなど。乾燥したイモガラは保存食としても食べられる。「八つ子」と呼ばれる子イモは、正月料理に使う習わしがなく、地元で消費される。
【来歴】里芋から分化した「八つ頭」は、500年代に中国で記された世界的に最も古い農業技術の百科全書「斉民要術(せいみんようじゅつ)」に記載があることから、日本へは中国を経由して平安時代には伝来していたのではないかと考えられている。
親芋から8つの子芋が出て九面ある形状から「九面芋」と字を当て「やつがしら」と読ませることもある。親イモと子イモが一つの塊となって成長していくことから子孫繁栄の象徴とされたり、組織の頭に出世できるように祈る縁起物の食材とされてきた。末広がりの「八」は、縁起が良く、江戸時代から続く商売繁盛を祈願する酉の市でも販売されている。
生産は、千葉県や茨城県など関東地方が中心である。五霞町は、利根川、江戸川、中川、権現堂川の4つの河川に囲まれており、関東ローム層の火山灰からなる良質な赤土の上に、度重なる河川の氾濫によって上流から肥沃な土が運ばれてきた土壌で、八つ頭の生育に適しているとされ、代々、栽培されている。
【時期】10月下旬~12月
【参考資料】
茨城を食べよう(レッドポアロー)
茨城を食べよう(里川かぼちゃ)
五霞町伝統野菜 八つ頭(やつがしら)
【協会関連記事】
日本の伝統野菜―07.福島
日本の伝統野菜―09.栃木