日本の伝統野菜-42.長崎県

1.地域の特性

【地理】

長崎県は、日本の主要四島の一つである九州の西北部に位置しています。総面積は4,131㎢で全国37位です(総務省統計局令和4年7月1日現在)。長崎県に隣接しているのは佐賀県1県のみです。三方を海に囲まれた細長い地形をしており、北は玄界灘、西は東シナ海、南は天草列島より有明海へ、東は陸続きに佐賀県に接しています。西海上に五島列島、西北海上に壱岐、対馬があります。県域の東西の距離は213 km、南北の距離は370kmです。

長崎県の森林面積は2,420㎢で、県土の約59%を占め森林率は全国33位です。可住面積は1,668㎢で県土の約40.4%を占め全国15位です。人口は1,296,117人(2023年4月時点推計人口)で全国30位です。

長崎県の陸地は平担地に乏しく、山岳丘陵が起伏し、多くの半島、岬、湾、入江が曲折しており、地形は比較的急峻です。主な山岳は、佐賀県境部に多良山(たらさん)系の経ケ岳(標高1,076 m)、五家原岳(標高1,057 m)があり、島原半島には雲仙普賢岳(標高1,483 m)、国見岳(標高1,347 m)などがあります。

水系は短く、一級河川は本明川(ほんみょうがわ)のみで大きな河川はありません。平地が少ないため、ほとんどの河川が、急勾配で延長が短く曲がりくねっており、保水能力に乏しく、洪水や渇水が起こりやすい地形です。

長崎県は、全国第1位の離島県で県土面積の約45%を島嶼(とうしょ)が占めており、離島振興法の適用を受けている市町は8市2町、有人島数は72におよび、その面積は県全体の39.1%、人口で10.4%を占めています。また、本土部分の大半にあたる9市3町が半島振興法の適用を受けている半島地域で、離島と半島を合わせると、面積は県全体の73.2%を占め、人口の33.3%がそこで暮らしています。

【地域区分】

長崎県は律令制の時代には、壱岐・対馬を除いて、佐賀県とともに肥前国(ひぜんのくに)とされていました。五島列島および附属する島嶼(とうしょ)は、876年に肥前国より分立し、現在の長崎県平戸島(ひらどじま)および江島(えのしま)、平島(ひらしま)を除き、値嘉島・値賀島(ちかのしま)と呼ばれていましたが、数年後に再編入されています。

現在の長崎県による地域区分は、7つの地域に分けられ、自治体は13市4郡8町あります。(2023年12月現在)

長崎(ながさき)地域…長崎市(ながさきし)、西彼杵郡(にしそのぎぐん)(時津町⦅とぎつちょう⦆、長与町⦅ながよちょう⦆)

県央(けんおう)地域…諫早市(いさはやし)、大村市(おおむらし)

島原(しまばら)地域…島原市(しまばらし)、雲仙市(うんぜんし)、南島原市(みなみしまばらし)

県北(けんほく)地域…佐世保市(させぼし、させほし)、平戸市(ひらどし)、松浦市(まつうらし)、西海市(さいかいし)、北松浦郡(きたまつうらぐん)(佐々町⦅さざちょう⦆、小値賀町⦅おぢかちょう⦆)、東彼杵郡(ひがしそのぎぐん)(東彼杵町⦅ひがしそのぎちょう⦆、川棚町⦅かわたなちょう⦆、波佐見町⦅はさみちょう⦆)

五島(ごとう)地域…五島市(ごとうし)、南松浦郡(みなみまつうらぐん)⦅新上五島町(しんかみごとうちょう)

壱岐(いき)地域…壱岐市(いきし)

対馬(つしま)地域…対馬市(つしまし)

【気候】

長崎県は陸地の大部分が半島と島嶼(とうしょ)から形成され、海岸からの距離も近く、全般に暖流と季節風の影響を強く受け、さらに次のように細分されます。北部は、冬期には季節風が強く、日本海型気候に近い気候です。有明海沿岸、内陸部は、昼夜の気温差が大きく、夏は非常に暑く、冬の冷込みは厳しくなります。対馬および壱岐は、冬期には大陸からの季節風の影響を直接受け低温で、西北部と南東部とでは著しい気温差になります。その他の大部分の地域は、比較的多雨で、冬はやや温暖で、夏の暑さも比較的穏やかです。

年平均気温は、16度前後、最高気温は8月の30度~34度程度、最低気温は-2度~-3度程度です。

年間降水量は2,000mm程度で、多雨地域の雲仙、多良岳、国見岳で2,600mm前後、小雨地域の対馬・五島列島北部で1,600mm前後となっています。

【農業の特徴】

農林業においては、平坦地が少ないという厳しい耕地条件ですが、県内各地で、地形や自然条件を活かした農林業が営まれています。諫早湾干拓地でのたまねぎ、レタス等の大規模生産、各地域でのブロッコリー等の露地野菜と合わせた集出荷施設の整備が進んでいます。また、いちご、トマト、花き等の施設園芸も拡大しており単収向上に向けて取り組くんでいます。

2.長崎の伝統野菜

長崎県は、古来から大陸との交易があり、縄文時代には、すでに対馬と朝鮮との間で貿易がおこなわれていたとされます。これに伴って、中国、台湾、朝鮮半島などから野菜の品種が数多く持ち込まれてきました。日本の野菜のほとんどは、元々は海外から上陸したものですが、長崎県の伝統野菜には、海を渡って長崎の地で固定種となったという来歴が明らかな品種も少なくありません。

現在は、長崎県が「ながさきの伝統野菜」として辻田白菜、長崎赤かぶ、長崎白菜(唐人菜)、長崎たかな、長崎紅大根、枝折れなす、長崎長なす、大しょうが、夏ねぎ、わけぎ、雲仙こぶ高菜、木引かぶ、にんにく、からこれんこん、もちとうもろこし、こんにゃく16品種を認定しています(2023年12月現在)。「ながさきの伝統野菜」の定義には明確な基準は示されておらず、「長崎に古くから伝わる野菜」とされています。

「ながさきの伝統野菜」に認定されている野菜品種のほかに、長崎県農林部農政課の梁瀬十三夫氏が、『農業技術大系』野菜編 第11巻に記した「長崎県(地方品種)」には、上記のほかに、▼シロウリ「長崎つけうり」▼マクワウリ「バナナウリ」▼エンドウ「松原」「雲仙大さや」▼ワケギ「長崎大玉」▼ツケナ「長崎たかな」▼ダイコン「赤首女山三月(あかくびおなやまだいこん:佐賀県の伝統野菜)」「諌早四月(いさはやしがつ)」「橘三月(たちばなさんがつ)」「雲仙四月(うんぜんしがつ)」が掲載されています。
※『農業技術大系』野菜編 第11巻 地方品種+168~地方品種+169(ページ数:2)

消えてしまった品種もありますが、今後、新たに伝統野菜に認定されるものも出てくるかもしれません。

壱州早生にんにく(いっしゅうわせにんにく)

【生産地】壱岐市

【特徴】早生で小ぶりな品種。球・葉・茎とすべての栽培が可能。表皮は、白からやや黄色みがかり、球は白色。1球50g前後で、球のしまりや揃いが良い。1球の中で、鱗片が12個前後に分かれるため、鱗片1つ1つはやや小さめ。トウ立ちすると、花茎が40cm~70cmほどになり、茎ニンニク(ニンニクの芽)として十分収穫できる長さとなる。粘質土地帯の栽培に適す暖地向きの品種。

同じ暖地向きの上海早生(しゃんはいわせ)とよく似ており、見た目、大きさ、味、香りや鱗片数など、ほとんど差がない。長さは上海早生よりは短く、熟期が少し遅い。

【食味】味も香りもマイルドで、強い癖や甘みはないため、どのような料理にもにんにくの風味付けができ、合わせやすい。

【料理】薬味での利用が主。生ですりおろしにしたり、スライスをして薬味としても使ったり、刻んで料理のアクセントにするなど

【来歴】来歴については、1918(大正7)年に福岡県から導入され、その後、1925年(大正14年)頃に朝鮮半島からも伝わり、壱岐島で固定化された品種。

一時期は、生産農家の高齢化の影響で、生産量が激減していましたが、1962(昭和37)年頃の記録では330t輸出されたとの記録があり、人気の高い品種であったとされる。しかし、その後は、海外産のにんにくが市場に出回り価格の低迷が起こったことや、生産地の高齢化と後継者不足などが原因で、消滅の危機に瀕しており、非常に手に入りにくい状態になっている。最近、新しく栽培する農家が増えてきているようである。

【時期】4月~6月

雲仙こぶ高菜(うんぜんこぶたかな)

【生産地】雲仙市吾妻町

【特徴】葉は濃緑で葉柄は巾広く、中肋(ちゅうろく)という葉の中央を縦に通っている太い葉脈の部分に白い大きなコブが突出するのが特徴。こぶが大きくならず寒さで割れてしまわないように、大きくきれいに形成させるのが栽培上の難点である。

【食味】主に漬物用。柔らかくアクが少ないため生食用にも向く。若菜は独特の辛味があり、生育が進んだこぶはほのかな甘みを持つ。シャキシャキとした食感

【料理】秋まき、漬物用。

【来歴】1947(昭和22)年頃、雲仙市吾妻町で種苗店を営んでいた峰眞直氏が、中国より種を持ち帰ったのが始まり。雲仙地方の風土や食文化に適合するように改良・選抜し、独自の地域種、地方品種として育成したものである。1960(昭和35)年頃までは雲仙市などで盛んに栽培され、漬け物や炒め物など地域の食文化を支えていた。しかし、その後は三池高菜(みいけたかな)などに比べ収量が低い、交雑性が高いなどから次第に生産が減少した。峰氏の死去も重なり、人々の記憶から消えかけていた。

原種がなくなったと思われていたが、自家菜園で種を採り続けていた地元農家が居たため、地元で有機農業に取り組む岩崎政利氏が復活を呼びかけ、2003(平成15)年7月、地元生産者、農産加工組合、青年農業者、県の農業改良普及センターなどが集い「雲仙こぶ高菜再生プロジェクトチーム」を立ち上げ、復活への活動を開始した。プロジェクトチームの栽培は有機栽培によるもので、生産履歴の提示を義務付け、抜き打ちで検査をするなど、厳しい栽培規定のもと、原種の維持や環境と調和した生産に取り組んでいる。これによって、2008(平成20)年には、地域の活性化につながる伝統的で希少な食材として、スローフードジャパンの「味の箱舟」に認定。さらに日本で初めてスローフード協会国際本部(※)の最高位「プレシディオ」に認定された。

※伝統的な食文化や食材を守り伝える活動を世界中で広めているNPO。

【時期】12月~3月

農業産業振興機構

 

大生姜(おおしょうが)

【生産地】長崎市戸石、古賀、東長崎、茂木

【特徴】根茎が大きい。

【食味】香り、辛味が強い。

【料理】イワシやサバなどの青魚やクジラ料理の薬味や漬物など

【来歴】明治30年に台湾から導入された

【時期】11月

※出典:タキイ種苗株式会社出版部編;芦澤正和 監修. 都道府県別地方野菜大全. 農山漁村文化協会, 2002.11【RB181-H11】pp.286-288「大ショウガ」の項によると、「大ショウガが長崎で作られるようになったのは、日清戦争直後の明治30年、台湾から長崎市郊外の矢上村戸石に入ったのが始まりとされている」(p.286)とある。

唐比れんこん(からこれんこん)

【生産地】諫早市森山町唐比

【特徴】特有の泥炭層で育つ。形は四角で平たく、節間が長い。色は肌色。

【食味】シャキシャキではなく ホクホクとした食感と独特の粘りで、新鮮なものほど糸を引く

【料理】煮物、天ぷらなどさまざまな調理に向く。

【来歴】713年に編纂されたとされる『肥前国風土記(びぜんのくにふどき)』に記述があり、1300年以上前から栽培されているとされる。

【時期】9月~3月

木引かぶ(こひきかぶ)

【生産地】平戸市大野

【特徴】表皮は赤紫と下部が白く着色する。果肉は白色。長崎赤かぶに比べ紫色に偏る。根は尻端がしまらず、短角で牛の角のように折れ曲がった形状である。

【食味】果肉は柔らかく、クセがない。

【料理】生食、三杯酢、浅漬けなど漬物に向いている。酢で和えると美しい紅色に染まる。

【来歴】諸説あり。「平戸の殿様が旅の途中にこのかぶ料理を食べ、あまりのおいしさに平戸に持ち帰ってきた」という説や、「オランダ商館でオランダ人が栽培していた」という説がある。滋賀県の「日野菜かぶ」が島根県に渡り固定した「津田かぶ」とよく似る。根の曲がり具合は「津田かぶ」が太めで勾玉状であるとすると「木引かぶ」はやや細く牛の角状と言える。

【時期】10月~11月

こんにゃく(こんにゃく)

【生産地】諫早市高来町(善住寺、萩原、黒新田、坂元)

【特徴】円形で茶色~灰色。

【食味】歯ざわりがあり、あっさりしている

【料理】田楽、煮物など

【来歴】100年以上、高来地区で自生してきたこんにゃく芋。高来町では自生しているこんにゃく芋を使って各家庭で自家用として加工してきたが、地域活性を図るために2012(平成24)年に「高来名水コンニャク研究会」が設立された。2013(平成25)年には、同じ高来町の「善住寺コンニャク生産組合」も研究会に参加し、諫早市のブランド化推進事業で本格的に取り組んでいる。製品は「黒新田(くろにた・くろんた)こんにゃく」と「善住寺(ぜんじゅうじ)こんにゃく」があり、少し製法が違うので味わいを比べてみるのも楽しい。

【時期】10月~11月

諫早市
長崎県市町村振興会

西海枝折れなす(さいかいえだおれなす)

【生産地】西海市西海町、大瀬戸町

【特徴】米ナスに似た形状で、果肉の締りが良く、形くずれしにくい。葉、茎、ヘタ部分は緑色。種子は少ない。「生で良し」「焼いて良し」「煮て良し」「漬けて良し(味噌漬け)」と四拍子揃ったなすとされる。

【食味】塩もみしても変色しにくく、生食等への利用も可能。

【料理】煮物、焼きなす、みそ漬け等

【来歴】西海市西海町(旧:瀬川地区)に昔から伝わる品種。約450年前から地区内で自家栽培されてきたとされる。名称は「多くのなすの実が鈴なり状につき、枝が折れるのではないか」と思われるほどに沢山の実がつくことに由来する。

農業改良普及員の資格を有する村瀬勝吉(むらせかつよし)氏が20年に及ぶハウスでの隔離栽培により採種・育苗を続けた結果、2004(平成16)年に普及センター、地元短大と連携して栽培・調理・食味調査を行い、品種が固定化していることを確認した。2005(平成17)年には種の固定化が成功したため商標登録を行った。2006(平成18)年からは、地元JA野菜部会で生産が開始され、直売所・朝市へ出荷も始まり普及を進めている。

種子・苗は農業高校や農家などに提供され、村瀬氏は生産者への栽培技術指導などを引き受け技術の伝承に力を注いでいる。

【時期】7月~11月

西海枝折れなす

辻田白菜(つじたはくさい)

【生産地】長崎市西山木場

【特徴】育成当時の白菜としては大きく、丸く結球し、葉肉が厚いのが特徴。

【食味】葉肉が厚く、歯ざわりがある

【料理】漬物、中華料理、煮物 等

【来歴】名前は創始者である辻田長次郎氏に由来する。

白菜類は、1904(明治37)年頃から中国の品種が長崎県内で栽培されてきたが、大正初期までは、中国の品種にしか葉が巻く「結球白菜」類はなかった。大正8年に、長与町の篤農家・辻田長次郎氏が、中国の一品種「芝罘(チーフー)」から採種した中から、やや早生で、品質に優れ、結球率の高い系統を選抜し、育成したのが「辻田白菜」で、中華料理店「四海楼」の主人の協力のもと育成した日本の結球白菜の草分けである。当時の白菜としては、大型で丸く結球し葉肉が厚く、漬物用や中華料理として珍重され、戦前戦後にかけて全国を風靡した。しかし、耐病性・生産性の高い品種改良された白菜に押され、消費・生産が減少した。以降、代々の辻田氏が採種程度の規模でしか栽培していなかったが、県内業者等の協力を得て、西山木場町でその復活をめざした取り組みが行なわれている。

【時期】11月~12月

長崎白菜(ながさきはくさい)

【生産地】長崎市

【特徴】中国伝来の白菜の原種とされ、別名「唐人菜」と呼ばれる。半結球性で、葉は立ち、外開きになる。黄葉の早生種と黒葉の晩生種がある。早生種は、葉色は淡緑色で縮みが多く、中心の数葉が黄白色。晩生種は、光沢のある濃緑色で縮緬状のしわが顕著である。葉の中央を縦に通っている太い葉脈である中肋(ちゅうろく)が広く、独特の白味がある。葉質は柔らかい。一般の葉物野菜は霜に弱いが、長崎白菜は霜に強く、夜間に冷え込み、昼間は暖かいという気象条件のなかで緑色に色づき美味となる。秋蒔きが一般的だが春蒔きもできる。間引菜として周年栽培も可能で、間引き菜は浅漬けにする。生長して冬場に収穫されたものは、漬物や鍋物、正月の雑煮に利用される。

【食味】柔らかく、漬物、煮物の他に炒めても美味。鉄分がほうれん草の3倍含まれている。漬物、煮食用として珍重されてきた。

【料理】雑煮、浅漬け、おひたし等

【来歴】長崎県へは中国山東省から伝来したとされる。中国の瓢菜(ひさごな)である江戸唐菜(えどとうさい)の土着種であることが農林水産省試験場で判明している。江戸時代の1800(寛政12)年に刊行された広川獬(ひろかわかい)の「長崎見聞録(ながさきけんぶんろく)」によると1797(寛政9)年に半結球タイプの「唐菜」の記事が記載されているが、その記載図は長崎白菜とは似ていないともされている。1905(明治38)年度の農事試験成績報告第8号には、1877(明治10)年頃に長崎市の橋本泰吉氏が栽培を始め、その後、1898(明治31)年に長崎市中川町に開設された農事試験場で早生・晩生の2系統を選抜していることが記載されている。また、大正期にかけて長崎市内で栽培の広がりをみせ、現在でも、西山木場地区、茂木地区等で生産されている。以来、漬物や長崎雑煮(ながさきぞうに)に欠かせない食材として親しまれてきた。ローフードジャパン「味の箱舟」に認定されている。

【時期】12月~2月

長崎市「長崎白菜を使ったお雑煮」

長崎高菜(ながさきたかな)

【生産地】長崎市西山木場、東長崎、茂木、小浜等

【特徴】葉は、細葉で長く、緑色でちりめん状に縮み、葉脈や葉縁は紫色を帯びる。葉数は少ないが1株1kgを超えるが、葉質は柔らかい。茎は丸く細く、半月形に近い。草丈は60~70cm前後になる。トウ立ちしにくい。現在、多く消費されている三池高菜(みいけたかな)より、アントシアニンが少なく、香味のあるからし菜のような風味がある。

【食味】葉は柔らかいが、食物繊維が豊富でシャキシャキした歯ごたえがある。若採りした浅漬けは、マイルドな辛味・香り・うまみが活かせ、長崎高菜の特徴が顕著に出るとされる。漬物としては、浅漬けは鮮やかな青色で、本漬けは発酵してべっ甲色になる。本漬けは、炒め物やラーメンの具にも使う。

【料理】漬物(浅漬・本漬)、炒め物など

【来歴】高菜は、野沢菜、広島菜と並ぶ日本の三大漬け菜の一つとされる西日本の代表的な漬け菜である。長崎市近郊で作られてきた在来種で、長崎高菜系の古い記録として、1800(寛政12)年に刊行された広川獬(ひろかわかい)の「長崎聞見録」には、「タカナは長崎に多く、他所の地では逢わない。長く漬けたものがよい。・・・」とあり、葉の形等は現在の長崎高菜に近い形をしていた。明治時代にも栽培されており、戦前前後にかけ、その香りの高さと独特のうま味で人気を集めたが、漬け上がりの褐変(かっぺん)化により長野産の野沢菜に押され、また、三池高菜より少収量・耐病性等の問題も加わって、消費が減少した。

【時期】普通は秋まき、春まきもできる。、春まき2月下旬~7月下旬、収穫4月下旬~9月上旬、秋まき9月上~11月下旬、収穫11月~3月(野菜の地方品種より)

長崎赤蕪(ながさきあかかぶ)

【生産地】長崎市西山木場、東長崎、片渕、茂木

【特徴】扁円形(へんえんけい)の中型の蕪。皮は濃い赤紫色で果肉は白色。性質に多少バラつきがあるものの、根部の光沢のある紫赤と根先の白味をおびた色は絶妙な色合いで美しい。耐暑性が強く、葉は小さく、枝や茎が立つように上に伸びる立ち性(たちせい)。

【食味】肉質は柔らかく、きめの細かい舌触り、甘みが強い。皮にはアントシアニンが含まれている。独特の風味と香りがある。

【料理】漬物(一夜漬け、三昧漬けなど)、なます、煮物などで食される。卓袱(しっぽく)料理でもアラやハモの付けあわせで出される。漬物や酢の物などでは、紫色を出すアントシアンが白い肉をピンクに染める。昔は、8月に種をまき、10月に収穫する“くんちなます”としても使われていた。

【来歴】来歴はいま一つ明確ではないが、18世紀のオランダ商館の医師ツンベルグの「日本紀行(1775~1776)」では、洋種と記載されており、熊澤三郎の「蔬菜園芸各論(1956)」では、平戸の「木引かぶ」を移したものとされており、また、さらに古い時代から栽培されていたとも考えられている。1899~1903(明治32~36)年の試験場業務功程で蕪(かぶ)の数種と品種比較が行われ、「聖護院かぶ」と比較して劣等であるとされたが、1926(大正15)年までの選抜により品質良好と推奨された。
かつては、別名「片渕かぶ(かたぶちかぶ)」と呼ばれており、木場町の中でも片淵地区の小さく入り組んだ地形で隔離されたごく限られた場所で栽培されていた。このことが、他の野菜と交雑することなく、「長崎赤かぶ」の美しい赤い色が残った要因とされている。今でもこの地区では川を隔てて、東側の蕪の方が西側でできた蕪よりも綺麗(きれい)な赤が出るのだそうだ。これは、戦前戦後にわたる農家の種の保存と改良によって保持されてきたことによる。

【時期】11月~1月

長崎紅大根(ながさきあかだいこん)

【生産地】長崎市中尾、現川、平野

【特徴】「だいこん」と言う名前がついているが、蕪(かぶ)の一種。果皮は、根の先まで鮮やかな紅色。果肉は白色であるが、断面の周縁部が紅く、内部にも淡く紅がにじむ。

【食味】歯ごたえがあり、すっきりした味わい。アントシアニンを含み、ビタミン類をはじめ消化を助けるジアスターゼなどの酵素が豊富。葉にもカルシウムや鉄分などのミネラルが多く含まれる。

【料理】酢の物、生食など

【来歴】不詳であるが、戦前から長崎市東部地区で受け継がれ栽培されてきた。蕪の一種だが、色が紅く、形が大根のように長いため、俗称として古くから「あかだいこん」の名で親しまれている。地元では、「赤鬼の腕」に似ていることから「鬼の手大根」と呼ばれたり、縁起物として、江戸時代から節分に紅大根の酢の物をカナガシラという魚の煮つけと食べる風習があることから「節分大根」と呼ばれたりする。
栽培されているものは、戦前から長崎市田中町(中尾地区)で受け継がれてきたもので、地区の数少ない農家が種を保存してきたものである。自然交配等により大きさや色等の性質にバラつきが生じているため、2003(平成15)年から旧JA東長崎が主体となり、種の固定化、生産普及及び活用方法の検討などに取り組んでいる。さらに、2005(平成17)年9月には原種保存会を発足された。

【時期】1月~2月

長崎長なす(ながさきながなす)

【生産地】長崎市東長崎

【特徴】濃黒紫色の大長なす(35~40cm)、肉質良、焼食・煮食、早熟、抑制栽培(野菜の地方品種より)果皮の色が照りのある濃い紫色。一般的ななすより長い。

【食味】油との相性がよく、果肉は柔らかい

【料理】焼きなす、なす田楽、揚げ物など

【来歴】台湾から長崎に導入されたとの説があるが、詳しい来歴は不詳。明治~大正初期に長崎市三川町で栽培されていたものを地元種苗店で選抜したものが広まった。自家採種

【時期】6月~10月

長崎わけぎ(ながさきわけぎ)

【生産地】長崎市田手原、日吉、東長崎

【特徴】球根は淡黄色、分球性が強く、茎数多い、葉は濃緑色、耐寒性がある。秋植え、煮食用(野菜の地方品種より)長崎小玉は葉幅が8mm程度と細い。長崎大玉は葉幅が12mm程度。小玉(早生)、中玉(中生)、大玉(晩生)の3種がある。

【食味】柔らかく、香りが高尚である。カルシウム、鉄等のミネラルやビタミンA、B2、C等が含まれており、食欲不振などに効果がある。長崎県総合農林試験場

【料理】鯨の刺身や近海魚のタタキなどには生姜醤油とわけぎの薬味が必需品であった。

【来歴】詳細は不明。日本には1500年以上前に渡来したと考えられている。

【時期】7月~3月

夏ねぎ(なつねぎ)

【生産地】長崎市田手原、日吉

【特徴】夏細ねぎ(なつほそねぎ)ともいう。種からではなく株分けによって育成するのが特徴。耐暑・耐寒性が強い。株分け後 1~2か月で収穫できる。葉は濃緑色で細い。

【食味】香味が濃厚。硫化アリルなどが含まれる。

【料理】めん類、豆腐などの薬味、すき焼きなど

【来歴】地方野菜(伝統野菜)としては新しく、戦後まもなくのころ長崎市で栽培され始めた。「夏ねぎ」と称しているが一年を通して栽培できる。

【時期】4月~11月

もちとうもろこし(もちどうもろこし)

【生産地】諫早市高来町(神津倉)

【特徴】形状は通常のとうもろこしに似ているが、やや小さく、色は小豆色。ひとつの株で何本も収穫できるのが特徴。

【食味】もっちりとした食感。もちもちして美味しい

【料理】茹でとうもろこし、バター醤油炒め、炊き込みご飯などさまざまな料理の具材に使える。

【来歴】来歴は不明であるが、戦前から諫早市高来町の中山間地で栽培されている。自家採種

【時期】8月

 

 

<参考資料>

森林整備センター「九州整備局 地勢・地質・気候(長崎県)」
長崎県の水道の概況
長崎県の農業の概況
ながさきの伝統野菜
長崎市伝統野菜
地方特産食材図鑑
長崎県「今年度地域産業資源の指定を計画しているもの等について」2023/06/01
ルーラル電子図書館「長崎県(地方品種)」

 

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