日本でのカカオ栽培にチャレンジする人々 ~オール国産チョコレートを目指して~

「神の食べ物」という学名のカカオ

もうすぐバレンタインデーですね!バレンタインデーと言えばチョコレート。チョコレートと言えばカカオ。ということで、今回はカカオについて特集したいと思います。

「カカオ」が、チョコレートやココアの原料になることは知っていても、実際に見たことのある人は多くはいないと思います。カカオは、アオギリ科の常緑樹で、学名は、Theobroma cacao L.と言い、ギリシャ語で「神の食べ物」を意味します。

一般的に「カカオ」と呼んでいるものは、カカオの木の果実「カカオポッド」の中にある種子「カカオ豆」のことです。このカカオ豆から種皮などを取り除いた胚乳部が「カカオニブ」です。

カカオニブを発酵・焙煎等し、すりつぶしてペースト状にしたものを「カカオマス」、カカオマスから搾り取った油脂分を「カカオバター」と言い、これらがチョコレートの主な原料になります。

「チョコレートは媚薬」は本当か?

カカオには、カカオポリフェノールやカフェイン、テオプロミンという成分が含まれており、健康効果が期待されています。

カカオポリフェノールは、体内で増えた活性酸素を除去していく抗酸化作用に優れています。カフェインは、気分を落ち着かせるセロトニンというホルモンの働きをサポートし、運動中の疲労感を軽減や集中力を高める効果もあるとされています。テオプロミンは苦味の成分でカフェインに似た働きをします。

ただし、カカオを過剰摂取をすると興奮しすぎたり、動悸がしたり、下痢や吐き気などの中毒症状が起きます。また、犬や猫はテオプロミンを分解・排出する力が弱く、中毒症状を起こしやすいのでチョコレートの摂取はNGです。

そして、カカオは、昔から媚薬効果があるという噂があります。確かに、恋に落ちた気分にさせるという脳内の神経伝達物質「PEA(β-フェニルエチルアミン)」を含有してはいます。しかし、含有部分はカカオ豆の外皮で、残念ながら除去されてしまう部分です。チョコレート中の含有量は極少量であり、強壮効果等を促す程の生理活性は確認されていません。でも、カカオ自体は、このような成分を含有しているので「神の食べ物」と称されたのかもしれませんね。

日本でもカカオを栽培できる?

カカオは、れっきとした果樹であり農産物なので、栽培地や収穫時期によって味にも違いがあります。主な栽培地は、西アフリカ、東南アジア、中南米の国々で、いずれも赤道を挟んで南北に緯度15度以内の狭い地域に位置します。

このカカオが育つ一帯は「カカオベルト」と呼ばれ、年間平均気温27℃以上で気温変動の幅もごく狭い、高温多湿な地域です。日本は北緯20度から45度にあり、ほとんどの地域はカカオの栽培に適した気候ではありません。

では、国産のカカオは手に入らないのか? というと、そうではありません。
なんと、日本でもカカオの栽培にチャレンジしている方々がいるので、ご紹介します。

東京産カカオでの商品化

チョコレート、焼き菓子、ウェハースなどのお菓子を製造している平塚製菓株式会社(埼玉県草加市)は、「東京カカオプロジェクト」として、2010年に小笠原諸島(おがさわらしょとう)の母島(ははじま)で500本のカカオの栽培を始めました。

母島は北緯 26度に位置しており、気候は亜熱帯気候に属し、年間を通して暖かく夏と冬の気温差が小さいことが特徴です。小笠原諸島は離島で、財政的な理由から東京都が統治を引き受けているので東京都に属しています。

さまざまな苦労を経て、2019年に東京産カカオのみで作ったチョコレート「TOKYO CACAO」が誕生。以降は毎年、販売されていますが、 生産量が限られているため、購入できるのは公式オンラインショップと小笠原の父島・母島の一部店舗のみです。

東京カカオプロジェクト

平塚製菓株式会社

沖縄に移住してカカオ栽培

沖縄県大宜見市(おおぎみし)にある会社ローカルランドスケープは、カカオ栽培と研究、チョコレート製造及び6次産業化事業に取り組む会社として設立されました。代表の川合氏は、2016年に大宜見市に移住し、海外からカカオの実を仕入れ、ビニールハウスと露地(ろじ)に2000鉢分以上を播種(はしゅ)。トライ&エラーを繰り返しながら5年でカカオを実らせました。

昨年は100個を超えるカカオが実り、10kgの収穫に成功しました。今後一定量のカカオが収穫できれば、黒糖などを使用し、沖縄県産素材100%のチョコレートを販売できるようになるそうです。

OKINAWA CACAO

三重・VISONでカカオハウス運営

食用油や調味料の製造・開発などを手掛ける辻製油株式会社(三重県松阪市)は、2021年7月にグランドオープンした三重県多気郡の商業施設「VISON(ヴィソン)」で国産カカオの温室「カカオハウス」の運営を始めました。

温室の隣には、パティシエ・辻口博啓氏のショコラトリー「LE CHOCOLAT DE H(ル ショコラ ドゥ アッシュ)」があり、共にカカオの栽培研究に取り組んでいます。

苦労の甲斐あって、2022年5月時点でVISON温室内の苗木には、10個程のカカオの実がなったとのこと。国産カカオと有名パティシエのコラボ。ぜひ、味わってみたいですね。

Vison

辻製油株式会社

LE CHOCOLAT DE H

石川県は「カカオの森づくり」

山中温泉などの温泉郷のある石川県加賀市は、2021年7月に東京大学、株式会社フェリシモ、株式会社DK-Powerの3社との産学官の共同研究に合意し、「カカオの森づくり」プロジェクトに取り組んでいます。

同プロジェクトは、温泉の排熱を活用して国産カカオを生産し、チョコレートの製造・販売を行う計画ですが、それだけでなく、「カカオの森」を新たな観光資源にするなど多様な観点での価値創出や社会モデルの実現を目指しています。栽培場所には耕作地または耕作放棄地を予定しているそうです。

チョコレート消費量日本一の石川県で、原料のカカオ豆から製品まで一貫生産するチョコレート産業が誕生するのは楽しみですね。

石川県加賀市 

このように日本国内でのカカオ栽培に取り組む事業者がいくつか現れています。

カカオが収穫できるのは樹を植えてから4年目くらいからで、最盛期は12~15年目ですが、50年以上採り続けることができます。これからは日本各地で栽培されたカカオで作られたオールジャパンチョコレートを楽しめるようになるかもしれません。

でも、どんなチョコレートでも好きな人と食べるチョコレートに勝るものはないでしょうね。 Have a happy valentine’s day‼

【参考資料】

Do well by doing good 「沖縄ではムリ!」なカカオ栽培を5年で成功させた“異色の移住者”

美食発酵「国産カカオでチョコレートを!製油メーカーが挑む、究極の地産地消」

明治製菓「カカオ・チョコレートの基礎知識」

森永製菓「よむココア」

日本分析化学専門学校

特許JP2006063011A-カカオ豆外皮抽出成分

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