日本の伝統野菜-30.和歌山県

1.地域の特性

【地理】

和歌山県は近畿地方の南で、海に突き出た紀伊半島の南西部に位置しています。面積は、4,724.68km2で、全国で30位です(国土地理院 面積調 2021年10月1日現在)。

隣接県は、地続きでは、三重県、大阪府、奈良県の1府2県と接し、海を挟んで兵庫県、徳島県に隣接しています。北は大阪府、東は奈良県と三重県に接し、南は熊野灘(くまのなだ)、西は紀伊水道(きいすいどう)を挟んで、徳島県と向かい合っています。和歌山県の南端にある串本町の潮岬(しおのみさき)は、本州の最南端に当たります。

和歌山県は、山地面積を3832km2も有しており、総面積の約81%を占めています。

紀伊山脈(きいさんみゃく)を中核とする標高1,000m前後の山岳地帯が連なり、護摩壇山(ごまだんざん)、高野山(こうやさん)、那智山(なちさん)といった古くから人々に親しまれてきた山々が多くあります。これらの山々は、樹木がよく育ち、広大な森林に覆(おお)われています。和歌山県の古い国名である「紀の国」は、「木の国」から転じたものともいわれています。

山脈から発生した河川は、熊野川、紀の川、日高川、有田川、日置川、古座川などとなり、紀伊水道や太平洋に注いでいます。和歌山県北西部の紀の川流域には和歌山平野が広がり、有田川や日高川の下流などにも小さな平野が広がっています。県内の平野部は少なく、可住面積は1,115.06㎡で全国41位です。人口は906,968人(令和4年4月1日現在)

和歌山県は、県の周囲長976.9㎞のうち、海岸線が総延長650.7㎞におよび、7割近くが海に面している。リアス式海岸で、特に潮岬を中心とした県南部の海岸は黒潮による奇岩・橋杭岩(はしぐいいわ)がそびえ立つ絶景が見られます。

【地域区分】

和歌山県は律令制の時代には、和歌山県と三重県南西部と合わせて「紀伊国(きいのくに)」と称されていました。今でもその名残で、県域は、大きく紀北、紀中、紀南の3つの地域に分かれます。

紀北は、和歌山県北部地域を指し、大阪府に近いため、大阪とのつながりが強い地域です。地域内は、さらに海草地区(和歌山市、海南市、海草郡(紀美野町))、那賀地区(紀の川市、岩出市)、伊都地区(橋本市、伊都郡(かつらぎ町、九度山町、高野町))の3つの地区に分けることができます。

紀中は、和歌山県中部地域を指します。地域内は有田地区(有田市、有田郡(湯浅町、広川町、有田川町))、日高地区(御坊市、日高郡(美浜町、日高町、由良町、日高川町、印南町、みなべ町))の2つの地区に分けることができます。

紀南は、和歌山県南部地域を指します。南紀(なんき)とも呼ばれ、地域内は西牟婁(にしむろ)地区(田辺市、西牟婁郡(白浜町、上富田町、すさみ町))、東牟婁(ひがしむろ)郡地区(新宮市、東牟婁郡(太地町、那智勝浦町、串本町、古座川町、北山村))の2つの地区に分けることができます。

 

【気候】

海に突き出した紀伊半島に位置する和歌山県の気候は、紀伊半島沖を流れる黒潮の影響を受けるため年間を通して温暖です。

しかし、山間部に限ると冬は厳しい寒さとなります。中で高野山は最も気温が低く、冬場の平均気温は、青森市や函館市といった北日本並みとなり、降雪もあります。

これに対し、沿岸部は無霜となる地帯があります。

夏から秋にかけては、台風の襲来が多く、1951年(昭和26年)以降の台風上陸数は、鹿児島県、高知県に次いで全国で3番目に多い県です。

和歌山県北部の紀北は、瀬戸内海式気候に属し、梅雨期と台風期を除けば降水量が少なく、年間日照時間が長い地域です。夏は、和歌山市など平野部では連日のように熱帯夜が続きますが、昼間はそれほど暑くなりません。しかし、紀伊山地と和泉山脈・金剛山地の間に位置する北東側は内陸性気候の傾向がみられ、夏と冬、昼と夜の気温差が大きく、猛暑になることがあります。北東側では、寒暖差を利用したブドウをはじめとする様々な果物の栽培が行われています。

県中部の紀中は、太平洋側気候に属し、年間日照時間が長い地域です。年間降水量は2,000mm程度でそれほど多くありません。御坊市など沿岸部は、夏は、蒸し暑さはあるものの、海洋性気候の特徴である海風が吹くため、ほとんど猛暑にはなりません。

県南部の紀南は、太平洋側気候に属し、年間日照時間が2,200時間を超える全国1位2位を争うほど日照時間が長い地域です。一方、年間降水量はかなり多く、特に東側は4,000mmにも達する日本でも有数の多雨地帯です。夏から秋にかけて台風が頻繁に通過することから「台風銀座」と呼ばれています。また、台風本体が遠くにある場合でも、南から流れ込む暖湿流の影響で南東側を中心に大雨を降らせて、被害をもたらすことがあります。

 

【農業の特徴】

和歌山県の経営耕地面積は31,600 haで、内、田が9,260ha、畑が22,300ha(2021年4月1日現在)で全国第38位です(農林水産省「令和3年面積調査」より)。ちなみに林野面積は360,130 haで全国6位です。

和歌山県の農業の特徴は、主要農産物が果実であることです。

温暖な気候と水はけの良い傾斜地などの立地条件を活用した果樹栽培が盛んです。平成30年度農業産出額の部門別構成は、果実が65%、野菜が14%、米が7%、花きが6%、畜産が4%で、果実の産出額は全国第2位です。

品目別の上位5品目は、ミカン、ウメ、柿、米、モモの順で、他にもブドウなど、さまざまな種類の果実の生産が行われ、県の農業産出額全体の約7割が果実で占められています。このため、和歌山県は「果樹王国」とも言われています。特に紀の川市は「バナナとパイナップル以外は何でもとれる果物王国」を自称しており、年間を通じて多様な果物の生産が行われています。

ちなみに、和歌山県は、古くから「木の国」と呼ばれ、林業では、すぎ、ひのきなどの優良材の生産県として全国に知られています。白炭(紀州備長炭)の生産量は全国第2位で35%を占めています。

 

2.和歌山の伝統野菜

和歌山県における伝統野菜は、明確な定義がありません。

しかし、古代から都に最も近い海を持つ紀伊国は海産物の供給地として人の行き来があり、江戸後期には紀州徳川家の城下町として、全国第8番目の近世都市にまで発展しています。これによって、さまざまな野菜のタネが持ち込まれた可能性があります。

現存する伝統的な固有種の野菜の使い方を見ると、香辛料や保存食として加工して使う傾向がみられ、今でいう6次産業化が進んでいたといえます。

 

碓井豌豆(うすいえんどう)

【生産地】みなべ町

【特徴】皮が軟らかく、ふっくらと大きく育った実はきれいな若草色をしている。

【食味】柔らかく、ホクホクした食感と甘味がある

【料理】そのまま食すほか、豆ごはん、煮物など様々な料理に使われる。

【来歴】「紀州うすい(きしゅううすい)」とも呼ばれる。もともと明治時代にアメリカから導入され、大阪の羽曳野市碓井地区で栽培されていたエンドウ豆が和歌山へやってきて、名産の「紀州うすい」と呼ばれる豆になった。

【時期】4月~5月頃

 

新生姜(しんしょうが)

【生産地】和歌山市の河西、布引、小豆島の砂地地帯を中心に栽培

【特徴】『新しょうが』は初夏に収穫される「根しょうが」で、独特の香りと辛味を持つ。色白でぷっくりしており、茎の付け根が赤い独特な見た目。

【食味】通年出回っている「根しょうが」に比べて、繊維質が柔らかく、水分がたっぷりでみずみずしい。

【料理】しょうがご飯、天ぷら、生姜湯、しょうが焼き、魚の煮付け、ジンジャエール、紅ショウガ、寿司のガリ、味噌漬けや醤油漬け等幅広く使われる

【来歴】和歌山市の砂地での栽培は大正初期から始まったとされる。本格的に栽培されたのは昭和22年頃とされる。当初は露地による早出し栽培が主体だった。

【時期】5月~10月

「わかやまの新しょうが」

南高梅(なんこううめ)

【生産地】みなべ町

【特徴】皮が薄く、果肉が厚く、柔らかい。収穫は、樹下にネットを張り、完熟して自然に落ちてくる実を傷つけないよう受けるこの地方独特の方法で収穫する。手摘みの完熟梅は、馥郁とした香りがとても良く、フルーティで味わい深い。

【食味】より果肉の柔らかい梅干に漬けあがる。

【料理】梅干、梅酒、梅ジュース、梅ジャム、梅シロップ、梅ピクルス、しょうゆ漬け、梅エキス 他

【来歴】江戸時代に梅の栽培が始まり、400年の歳月の中で、この地に適した栽培方法が編み出され、優れた固有種を生み出してきた。その後、この地域に適した品種の母樹選抜が行われ、選定された品種「高田梅」と、その調査・選定に深く関わった南部(みなべ)高校に敬意を表し、「南高梅」と命名された。

【時期】5月下旬~6月中旬

「わかやまの南高梅」

 

実山椒(みざんしょう)

【生産地】紀美野町、海南町、和歌山市

【特徴】ピリリと舌を刺激し、痺れるような辛さが特徴。

【食味】実山椒は、香り、味に深みがあり、主に香辛料として食す。

【料理】山椒の実の佃煮、山椒餅等。山椒はあらゆる部分が香辛料等に用いられる。若葉の「木の芽」は、料理のツマ、香料。花部は「花山椒」として料理のツマ,香料。未熟果は「青山椒」として、料理のツマ,香料。熟果の「実山椒」は、漬けものや佃煮。乾燥した熟果の果皮は、砕いて七味とうがらしの香料、粉山椒。乾燥した樹皮は、「からかわ」といい、汁物の吸い口や佃煮、薬用。種子の油は、香料や薬用。木は、すりこぎに使われる。

【来歴】山椒栽培は約170年前の天保時代に遠井村(現:有田川町)に自生したものから

栽培が始まったとされ、1960年代後半から広がった。縄文時代の貝塚から種が出土した記録がある。和歌山は、全国の実ざんしょう生産の約80%を占め、中でも紀美野町が面積が最も大きい。

【時期】5月初旬~8月下旬

 

山蕗(やまふき)

【生産地】和歌山県全域

【特徴】「野ふき」とも呼ばれる野生のふき。大きいものは1m(茎の長さ)になる。

【食味】皮をむかなくても食べられるものもあるが、サッと茹で、水に5~6時間さらすと苦みが和らぐ。

【料理】煮物、佃煮、炒め物、味噌汁の具など

【来歴】和歌山県の山間部の急斜面に自生する天然の山蕗。

【時期】3月~5月

 

湯浅なす(ゆあさなす)

【生産地】有田郡湯浅町および周辺地域

【特徴】ボールのような真ん丸な形状が特徴。大きいもので直径約10cmにもなる。重さは、通常のナスの2倍~4倍あり、1個400g近くになるものある。

【食味】水分が少なく、実がしっかり詰まっている。火を入れるとトロっと柔らかくなる。

【料理】金山寺味噌、野菜炒め、グラタンなど様々な料理に使える。

【来歴】古くから金山寺味噌などを作るために湯浅で栽培され続けてきた固有種。江戸時代から栽培が始まったとされ、大正時代には和歌山県のなす生産量の約10%を占めていたが、大量生産を追及した管理農業により地元の野菜の流通販路が減少し、併せて湯浅なすを使用した金山寺味噌を生産する人も減少したため、生産農家が減少していった。

平成21(2009)年には、湯浅なすの生産農家が1~2軒までに激減し、絶滅の危機に陥ったが、地元有志が立ち上がり、地域復興を図るためのプロジェクトを設立した。

【時期】7月~10月

味噌:湯味会・和歌山湯浅なす推進研究会

フードアルチザンの商品「湯浅なす」

 

はたごんぼ(はたごんぼ)

【生産地】橋本市西畑地区

【特徴】直径は5~6cmに及ぶ太さが特徴。西畑地区の粘り気のある赤土で栽培することで、丸々と太く育つ。

【食味】身が柔らかく、香りが強い

【料理】はたごんぼずし、コロッケや、いなりずしの具、はたごんぼ茶など

【来歴】標高552mの国城山の中腹に位置する橋本市西畑地区で栽培される。はたごんぼは「雑事のぼり」という高野山麓の集落が高野山へ米や野菜を供える風習により、江戸時代から昭和初期まで続いたとされるが、産品が柿に移行する中、昭和初期には自家用で食す程度にしか栽培されなくなった。2013年に、栽培を復活させたいという地元の人達を大手農機メーカー、県や橋本市が支援し、約70年ぶりに栽培が復活した。

【時期】11月

橋本観光情報サイト橋本体感

 

紀州白だいこん(きしゅうしろだいこん)

【生産地】和歌山市周辺から紀ノ川流域

【特徴】白首大根。首部から尻部にかけてほとんど太さの変わらない

【食味】しゃきしゃきとした食感

【料理】紀ノ川漬け、漬物、サラダ、ピクルス、キムチなど

【来歴】江戸時代中期。参勤交代に出た際、江戸から持ち帰った大根の種を和歌山城周辺の砂地に植え、城下に広まったとされる。出荷のピークは昭和30年代で、それ以降は苦味の少ない青首大根にシェアを奪われ、栽培数が減少。平成14(2002)年度より和歌山県農業試験場において優良系統の育成に着手しており、官民一体となったブランド復活に取り組んでいる。

【時期】

 

青身大根(あおみだいこん)

【生産地】和歌山市周辺

【特徴】首の部分が鮮やかな緑色の大根。長さ約25cm太さ4cmの細身。

【食味】

【料理】主に正月の雑煮用として使われている。

【来歴】古くは『紀伊続風土記』に記載がみられる。昭和初期から、和歌山市周辺で正月の雑煮用として栽培されている。

【時期】12月下旬

 

源五兵衛西瓜(げんごべいすいか)

【生産地】和歌山市松江地区 紀ノ川流域の砂地

【特徴】

【食味】

【料理】粕漬け、奈良漬け、和え物、源五兵衛漬け(片手一握り大のスイカの幼果を収穫して、酒粕に漬け込んだもの)

【来歴】源五兵衛漬けは、和歌山の酒店で花落ち大のスイカを酒粕に漬け込んだのが始まりで、創始者の名をとって源五兵衛漬と呼ばれる。『紀州今昔』(1979)に、記載されているのは「今から300余年前に紀州藩御用商人の酒蔵で杜氏をしていた源五兵衛という人が海部郡毛見村浜の宮へ参拝の途中、布引村のすいか畑で花落ち大の実をみつけ、酒粕に漬け込んだところ「すこぶる高尚な味」がするので、それから研究を積んで紀州名産の粕漬けになった。そこで「源五兵衛漬け」と呼ばれている」とある。現在、収穫されるものはすべて出荷先が決まっている。

【時期】6月下旬~8月下旬

 

【参考】

和歌山県海草振興局「海草地方の農林水産物食材コレクション」

JA和歌山県農

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