日本の伝統野菜ー29.奈良県

1.地域の特性

【地理】

奈良県は近畿地方のほぼ中央に位置し、面積は、3,691km2あり、全国で40位です。
海岸に接しない内陸県で、三重県、京都府、大阪府、和歌山県の2府2県に隣接しています。

県内の地域のほとんどを険しい山地が占めており、県北西部は大阪府との県境に生駒山、その南の和歌山県との県境に近いところには金剛山、和歌山県との県境には護摩壇山がそびえています。三重県との県境には北から高見山、池木屋山、大台ケ原山などが連なります。

地域区分は、吉野川に沿って走る中央構造線により、北部低地(中央低地)と南部山地(吉野山地)とに大別できます。北部低地帯は全般的に標高500~600mの山地が多く、奈良盆地や大和高原といったなだらかな地形が広がります。都市部は県北東部の奈良盆地に集中しています。

一方、南部は大台ケ原や近畿地方最高峰の八経ヶ岳(八剣山)といった紀伊山地の急峻な地形で占められます。

南北2区分のほかに、北和、中和、西和、宇陀(東和)、吉野(南和)の5区分で地域を分けることもありますが、境界は曖昧なものとなっています。吉野地域は、奈良県の3分の2近くの面積(神奈川県や佐賀県に匹敵)を占めており、広大な森林地帯となっています。

人口は約131万人で全国第29位です。

【気候】

奈良県は南北に長く、そのため、全国的にみても地域によって気候の差が大きい都道府県です。

全体の気候は、いわゆる内陸性気候で、平均気温は14.6°Cとほぼ平均的な気温、降水量は年間を通じて1,333mmで、全国平均の1,700mmと比較して少雨です。そのため、ため池が多く作られてきました(4,300箇所)。

より詳細な地域別の気候は、北西部の大和盆地 北東部の大和高原、南部の山岳部の3つに分けられます。
北西部の大和盆地と北東部の大和高原は内陸性気候で、おおむね温暖です。

一方、紀伊山地を中心とする南部は、山岳性気候で降水量が多く、年間降水量は2,000mmを超えます。局地的な豪雨が起こることもあり、過去に何度も水害に襲われました。中でも大台ヶ原周辺の山系は、種子島と並ぶ日本で有数の多雨地帯であることでも有名で、一年の半分は雨が降るといわれ、降水量が年間4,000mmを超えます。気温も北部よりやや低く、年間平均気温は10度前後。冬の寒さは厳しく、時には氷点下になることもあり、雪も深くなります。

【農業の特徴】

奈良県の経営耕地面積は20,000haで、内、田が14,100ha、畑が5,900ha(2020年)で全国第44位です(農林水産省「作物統計調査 令和2年」より)。

雨が少ないことから古くより多くのため池が作られ、恵まれた気象条件と高い土地生産力を活かして、米と換金作物を組み合わせた「田畑輪換農業」が営まれてきました。現在は京阪神地域へ出荷を行う都市近郊農業が盛んです。

奈良県では、農地の有効活⽤と農業の⽣産性向上を図るため、平成30年度から農業振興施策を集中的・優先的に推進する特定農業振興ゾーンの設置・拡⼤に取り組んでいます。

 

2.奈良の伝統野菜

奈良県における伝統野菜とは、県内で戦前から栽培され、地域の歴史・文化を受け継いだ独自の栽培方法で生産されており、味・香り・形態・来歴に特徴をもっていることと規定されています。

そして、地元ゆかりの野菜や、個性豊かな食材を最古の朝廷・大和朝廷の名を冠した「大和野菜(やまとやさい)」と呼んでおり、1989年から伝統野菜の選定がはじめられ、2005年に最初の認定が行われました。

当初は、伝統野菜として10品目、大和のこだわり野菜として5品目だけを認定していましたが、現在では数度の追加認証を経て20品目を数えます。

また、奈良県では大和野菜の継承に積極的な活動が行われています。

県の大和野菜研究センターでは地域で自家採種されてきた農作物の種子を集めた「ジーンバンク」で特性調査を行ったり、近鉄と奈良県立磯城野高等学校の共同企画で観光列車「つどい」で大和野菜の紹介ツアーを行ったり、大和野菜等県産農産物の認知度向上及びブランド化を図るため、首都圏に向けた大和野菜等県産農産物直送便の運行や首都圏シェフへの紹介等に取り組んでいます。

 

味間いも(あじまいも)

【生産地】田原本町、天理市、奈良市

【特徴】外観は球状。大きな芋(芋重50g以上)を多くつける豊産種。白くきめ細かい絹肌。

【食味】コクがあり、ねっとりとしていてとろける。

【料理】煮っ転がし、田楽、蒸し芋

【来歴】昭和初期に、田原本町味間の生産者が奈良県農事試験場(現在の農業研究開発センター)から最も有望な系統を譲り受け、現在まで生産されている。

【時期】11月~1月

 

祝だいこん(いわいだいこん)

【生産地】奈良市、宇陀市、明日香村

【特徴】四十日大根として系統選抜された根径3cmくらいの細い大根。

【食味】肉質が緻密でしっかりとしており、煮崩れしにくく、コリコリした食感がある。

【料理】雑煮、煮物

【来歴】「日本書紀」に於朋禰(おほね)の記録がある。大正時代の終わりに栽培が始まったとされる。

【時期】12月

 

宇陀金ごぼう(うだきんごぼう)

【生産地】宇陀市

【特徴】長いもので1m30cmほど、太いものでビール瓶ほどになることもある。太い方がより肉質が柔らかい。

【食味】肉質がやわらかでゴボウ特有の芳香が高い。

【料理】たたきごぼう、きんぴら

【来歴】明治初期から「大和」または「宇陀」の名で京阪神市場にその名を知られていた。

【時期】11月~12月

 

黄金まくわ(おうごんまくわ)

【生産地】全域

【特徴】大きさは300~700g、形は俵型で、果皮は黄色、中の果肉は白い

【食味】果肉が柔らかく、さっぱりとした甘さで酸味はない。香りはほんのり甘い

【料理】生食

【来歴】昭和初期から品種育成に着手し、昭和11年に育成された「黄1号」はマクワの基準品種である

【時期】7月~8月

 

片平あかね(かたひらあかね)

【生産地】山添村

【特徴】葉を入れると50~60cmほど、太さ2~3cm。カブの一種だが、スリムなダイコンのような形をしている。葉の筋から、茎、根の先まで赤い

【食味】肉質は、大根に似た感じでコリコリとした食感が楽しめる。生で食べても辛味はなく、ほんのり甘味がある

【料理】漬物、サラダ

【来歴】山添村片平地区では、古くから根の先まで赤く細長い蕪が栽培されている

【時期】11月~12月

 

黒滝白きゅうり(くろたきしろきゅうり)

【生産地】黒滝村

【特徴】外観は果実全体が白色。太く短く、黒滝村でなければ生育しない

【食味】皮が薄くて、えぐみがなくコリコリ感のある食感

【料理】漬物

【来歴】江戸時代から栽培。

【時期】6月~8月

 

小しょうが(こしょうが)

【生産地】奈良市

【特徴】大しょうがに比べ小ぶりであるが辛味が強く、筋が少ない。薄いピンク色

【食味】繊細な繊維質の食感がある

【料理】甘酢漬

【来歴】奈良市や生駒郡平群町などの山麓は、砂質土壌で栽培に向いていたことから、昭和初期まで一大産地を成していた

【時期】8月~9月

 

下北春まな(しもきたはるまな)

【生産地】下北山村

【特徴】大振りの丸い葉は、切れ込みがなく肉厚。この土地でしか育たない伝統野菜

【食味】やわらかな口当たりとほのかな苦味と濃い旨味

【料理】漬物、めはり、鍋物

【来歴】古くから自家野菜として栽培。明治時代より、山仕事のご馳走として親しまれてきた

【時期】1月~2月

 

千筋みずな(せんすじみずな)

【生産地】曽爾村、御杖村、奈良市

【特徴】一つの株元から伸びる無数の細く白い葉柄と、緑色のぎざぎざした葉の色合い

【食味】シャキシャキとした歯ごたえ

【料理】鍋物、サラダ

【来歴】奈良では古くから葉が細く葉先の切れ込みの深い系統の水菜が水田の裏作に栽培されてきた

【時期】通年

 

筒井れんこん(つついれんこん)

【生産地】大和郡山市

【特徴】節が長い形と、粘りが少ない

【食味】甘みと独特のシャリシャリ感

【料理】煮物、天ぷら、きんぴら、サラダ

【来歴】江戸時代、筒井城の城跡やその周辺は地下水が豊富なため土質が軟らかいく、レンコン栽培に好適で、良質なレンコンが作られてきた

【時期】8月~4月

 

軟白ずいき(なんぱくずいき)

【生産地】奈良市

【特徴】草丈の低いうちから新聞紙等で包んで光を遮り、軟化栽培した純白のずいき

【食味】美しい白さに、軟らかい食感。えぐみやクセのない上品な味わい

【料理】煮びたし、ごま酢和え

【来歴】昭和の初め頃から狭川地区を始め、奈良県のごく一部で栽培されてきた

【時期】8月~9月

 

花みょうが(はなみょうが)

【生産地】五條市、吉野郡

【特徴】鮮やかな光沢があり、ほんのりピンク色で、ふっくらした大ぶりのみょうが。硬めで形が崩れにくい

【食味】食感はシャキシャキする

【料理】薬味、漬物

【来歴】大和国町村史集に「明治六年、五條市大深のみょうが八十貫、明治十五年、同市樫辻では六十貫」と記録がある

【時期】7月~10月

 

ひもとうがらし(ひもとうがらし)

【生産地】全域

【特徴】果長10センチメートル前後、太さが鉛筆より細く5ミリメートル程度の細身で長い形状、濃緑色で皮の柔らかい甘トウガラシ

【食味】辛味はほとんどなく、甘みと独特のさわやかな香りがある。肉厚で果皮が柔らかい

【料理】油いため、てんぷら、つけ焼き 等

【来歴】伏見群に属する辛トウガラシとしし唐との雑種から選抜されたと推察されている

【時期】8月~10月

 

紫とうがらし(むらさきとうがらし)

【生産地】全域

【特徴】紫色は熱を加えると薄黄緑色に変わる。辛味がでることはほとんどなく、赤く完熟すると甘味もある

【食味】甘くてもちもちとした食感

【料理】焼き物、つくだ煮、天ぷら

【来歴】100年以上も前から奈良市北東部で農家の自家消費用として作られていた甘味種のとうがらしで非常に多収

【時期】6月~11月

 

大和いも(やまといも)

【生産地】御所市、天理市

【特徴】表皮が黒皮で、形が整って凹凸が少ない

【食味】肉質が緻密で粘りが強く食感が濃厚である

【料理】山かけ、和菓子の材料

【来歴】江戸時代に農書である成形図説に「大和宇多郡、宇智郡に産するツクネ芋」の記録がある

【時期】10月~3月

 

大和きくな(やまときくな)

【生産地】曽爾村、奈良市、天理市

【特徴】葉が大きく、切れ込みが深い。柔らかいため、軸から葉まで生で食べることができる

【食味】葉は肉厚、香気が強い

【料理】鍋物、すきやき、おひたし

【来歴】奈良県北部の農家が受け継いできた品種で、奈良県で選抜されたものが全国に広まる原形となった。「中村系春菊」と呼ばれることもある

【時期】10~2月

 

大和三尺きゅうり(やまとさんじゃくきゅうり)

【生産地】大和郡山市、奈良市

【特徴】種子が少なく、肉質が緻密でやや厚い皮が特徴。三尺(約90cm)はないが、35cm前後になる。ただ、採種用は90㎝(三尺)になる

【食味】キュウリの醍醐味であるポリポリとした歯切れのよい食感があり、食味に優れる

【料理】漬物

【来歴】明治後期に県内で交配育種された品種で、大和高原一帯で昭和中頃まで栽培されていた

【時期】5月~8月

 

大和まな(やまとまな)

【生産地】大和高田市、宇陀市

【特徴】葉は大根葉に似た切れ込みがあり、濃緑色。平成21年には、黄化しにくい新品種が開発された

【食味】肉質柔らかく、甘みに富む

【料理】煮物、漬物、おひたし

【来歴】中国から渡来したツケナ(漬け菜)は、「古事記」に「菘」と記載があるように、最も古い野菜のひとつで「大和真菜」は原始系に近い品種

【時期】12月~2月

 

大和丸なす(やまとまるなす)

【生産地】大和郡山市、奈良市

【特徴】つやのある紫黒色でヘタに太いとげがある。一般的な千両ナスに比べ育つのに時間がかかるとともに、収穫できる数は5分の1程度と少ない

【食味】肉質はよくしまり煮くずれしにい。焼いても炊いてもしっかりとした食感がある

【料理】田楽、揚げ物、焼き物、煮物

【来歴】奈良県大和郡山市や奈良市などで古くから栽培されてきた在来種

【時期】7月~9月

 

結崎ネブカ(ゆうざきねぶか)

【生産地】川西町

【特徴】緑葉部は柔らかくて、とろっとした濃厚さと粘りが強くあり、ネギ独特の辛味は少なく、むしろ甘味が引き立っている

【食味】柔らかく上品で甘みがある

【料理】煮炊き、豚汁、ぬた和え

【来歴】江戸時代にネギの産地としての記録があり、室町時代に翁の能面といっしょに天から降ってきたネギを植えたという伝説がある

【時期】9月~12月

 

<参考>大和野菜公式紹介ホームページ 

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