お盆には地域の伝統野菜を使った精進料理はいかが?

今年もあっという間に半年が過ぎ、そろそろお盆の時期が近づいて来ました。

お盆というと最近は「お盆休み=夏休み」のイメージが強くなっている気がしますが、本来は、仏教用語の「盂蘭盆会(うらぼんえ)」という祖先の霊を祀る一連の行事を行う期間です。
かつては太陰暦の7月15日を中心とした期間に行われていましたが、明治期に太陽暦(新暦)が採用されると、新暦の7月15日では農家の繁忙期に重なって、仕事に支障が出てしまうため、新暦8月15日をお盆(月遅れ盆)とする地域や宗派が多くなりました。

お盆には、家族、親族が集まったり、盆踊りや花火大会が開催されますが、なんといっても第一の目的は、祖先の魂を迎え、供養することです。供養には、お経やお墓参りなどがありますが、仏壇のある家では、「香」「花」「灯明」「浄水」「飲食」の「五供(ごく)」と呼ばれるお供えをします。この内、花・火・香の3つは「仏の三大供養」とされ、大切な供物になるそうです。

お盆提灯と供花

お盆提灯と供花

飲食(おんじき)でご接待

いくつもの供物がありますが、その中で手間がかかるのは、なんといっても「飲食」。
「飲食」は「おんじき」と読み、お盆の間は、仏教の教えの一つである「五戒」の中で生き物の殺生が禁じられていることから、肉や魚などを使わず、豆や野菜などをメインにした「精進料理」を供えます。出汁(だし)も鰹節(かつおぶし)やイリコなどが使えないため、昆布や干し椎茸などの食材を使います。

献立は、一汁三菜のご飯・味噌汁・煮物・和え物・炒め物が一般的です。もちろん、一汁五菜でも良いのですが、おかずの数が多くなると献立に悩みますよね。現在、一般的な主菜には、がんもどき・高野豆腐・野菜の煮炊き・ひじきの煮付けが定番。副菜は、こんにゃくの胡麻和え・白和え・煮豆・野菜のきんぴら等が多いようです。

ちなみに、精進料理では白飯が基本であり、ご先祖様が飢えないようにという願いを込めて、器に丸く大盛りにするのが正しい盛り方です。また、漬物は、3切れではなく2切れにします。これは、3切れが「みきれ」とも読め、「身切れ」につながると考えられるからだそうです。

霊供膳(りょうぐぜん)に盛り付けられた飲食

霊供膳(りょうぐぜん)に盛り付けられた飲食

地域性豊かなお盆の献立

お盆の精進料理の献立は、それぞれの地域の特産品や野菜を使っていることが多く、郷土色があるのが楽しいです。
例えば、北海道では「赤飯(甘納豆を使う地域もあります)」を、宮城県では「ずんだ餅」を、長野県のある地域では、お饅頭を天ぷらにした「天ぷら饅頭」を、京都では海藻の「アラメの煮物」を、鹿児島では、夏野菜や大豆などをふんだんに入れた「かいこの汁」を、沖縄では「ゴーヤーの酢の物」などをお供えしたりもします。

一般生活を営む私たちは、日頃は、なかなか精進料理を食べることはないと思いますが、お盆の期間は、ぜひ、地域色豊かな精進料理を楽しんでみてはいかがでしょうか。

長野の天ぷらまんじゅう

長野の天ぷらまんじゅう

名古屋のお盆の献立事例

お盆の二日半の献立は具体的にどのようなものなのでしょうか?
名古屋地区における昭和40年頃と平成になってからの献立事例があるので、ご紹介したいと思います。

どちらも、大豆の加工品よりも野菜が中心ですが、時代によって変化しているのがわかります。昭和の頃の献立には、大豆加工品は入っておらず、野菜の種類が豊富です。「あいちの伝統野菜」に認定されている「十六ささげ」や「かりもり」が材料としてあげられています。

御精霊様の献立(事例1)

13日 夕方 お迎え団子、お茶
ご飯、冬瓜(とうがん)汁、十六豆(ささげ)のおしたし、きゅうりの漬物
14日 ご飯、みそ汁(なす、あげ)、かりもりの漬物、かぼちゃの煮つけ、お茶
10時のおやつ すいか
おはぎ、漬物、お茶
3時のおやつ うり
ご飯、里芋の煮付け、すまし汁、なすの漬物、お茶
15日 ご飯、七色汁(椎茸、牛蒡、里芋、冬瓜、茄子、十六豆、南瓜)
10時のおやつ ぶどう
そうめん、つけ汁、きゅうりの酢もみ、お茶
3時のおやつ さつまいも(かんしょ)
ご飯、穎割菜(かいわりな)のみそ汁、なすの煮付け、お茶
送り団子

 

穎割菜(かいわりな)の「穎」の字には、ほさき/植物の穂の先などの意味があります。穎割菜(かいわりな)は、芽物(めもの)とも呼ばれ、カイワレ大根、シソ、タデなどが一般的ですが、最近では、ネギ、ソバ、エゴマ、ゴマ、エンドウ、カラシナ、ガーデンクレス、アルファルファなど種類が豊富になっています。

 

次は、平成に入ってからの献立の事例です。

平成に入った頃には、伝統的な野菜は、日常であまり食べなくなったり、手に入りにくくなったりしたせいか、野菜の品種の指定は減り、豆腐や丸あげ、高野豆腐など大豆加工品が増えました。

御精霊様の献立(事例2)

13日 夕方 お迎え団子、お茶
冷や麦またはそうめん
14日 ご飯、みそ汁(豆腐)、漬物、お茶
ご飯、吸いもの、丸あげの煮付、キュウリの酢のもの、大根・人参・椎茸の煮物、お茶
3時のおやつ おはぎ 又は さつまいも
ご飯、すまし汁、里芋の煮付け、漬物、お茶
夜食 冷や麦 又は そうめん
15日 ご飯、味噌汁(里芋)、漬物、お茶
ご飯、吸いもの、漬物、十六豆のゴマあえ、高野豆腐、茄子の煮付、お茶
3時のおやつ スイカ
ご飯、吸いもの、冬瓜のくず煮、五月豆の味噌あえ、里芋・椎茸の煮物、お茶
送り団子

 

(事例2)では、10時のおやつが無くなり、代わりに夜食が入っています。これも私たちの食生活の時間帯が変化したことの現れでしょうか。また、五月豆が入っていますが、これはその名の通り、五月に収穫される「そらまめ」のことなので、お盆の時期は旬ではありません。季節感も薄れてきているのかもしれません。

お盆の「御精霊様の献立」は精進料理ですが、この献立表を見ると私たちの食生活の変化が反映されていることがわかります。今から10年後の時代には、どのような献立になっているのでしょうか。

昔の献立に懐かしさを感じた方も目新しさを感じた方も、お盆の時には地域の野菜を使った精進料理を味わってみてはいかがでしょうか。

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